上 下
31 / 49
9話【夢】

2

しおりを挟む
 俺本人を置いて、話がどんどん飛躍していく。二人の中では、俺と雪豹先生が両想い……というところまで進んでいるらしい。

 黙って聞いていると、俺の視線に気付いた片方の同僚が笑みを浮かべたまま……予想外のことを口にした。


「――まぁ、他種族同士……いいんじゃないか? お似合いだろ?」


 瞬間、もう片方の同僚が口を挟む。


「オ、オイ!」
「あ? …………あっ! わ、悪い!」


 『他種族同士』……? ……あぁ、そうか。

 ――俺は今、他種族だ。

 同僚二人は人間で、同期だ。同じ日に入社して、そこそこの苦楽を共にしてきた……正真正銘の同期。

 だからつい、失念していた。


「今のは、他意があったワケじゃなくてな? ホラ、人間の時よりは可能性あるんじゃなかって言うか……あぁ、コレも良くないか! えっと――」
「いや、気にするな」


 必死にフォローしようとしている同僚の言葉を遮って、頷く。

 リビングデッドは他種族だ。間違いじゃない。そして、謝られるようなことでもない筈だ。


「それよりも……俺が先生を好きだとか、先生が俺を好きだという前提の方が気になる。先生に失礼だ」
「お、おう。悪かった」


 重くなりかけた空気を何とか変えたかったのか、片方の同僚が別の話題を振る。すると、同僚が素早く乗りかかった。

 雪豹先生にも、夢の話をしてみよう。ちょっとした雑談になるだろうか。
 その時の俺は……このやり取りをあまり気にしていなかった。

 ――筈だ。



 それから数日後……診察の日。年内でこの病院に来るのもあと一回かという年末シーズン。

 せっかくなので俺は、あの日見た夢の話を雪豹先生にしてみた。

 すると、同僚とは違う角度で……それはそれは予想外な言葉が返ってきたのだ。


「なるほど。懐かしい過去の夢を見たのか……懐かしい過去を思い出している自分の夢を見たのか……ですか」


 ……いや、まるで俺がそんなテーマで話を振ったかのような反応だが、俺はそんな意図は全く込めていないぞ。

 そういう性格なのか、はたまた医者だからなのか……雪豹先生の返答は、随分と難しい。

 同僚には『他種族をどう思うか』というテーマで訊いた。だったら雪豹先生にはどういう意図で訊いたのかと言うと……『こんなこともありましたよね』と言った、フランクな内容のつもりだ。


「いえ、そういうつもりではなく――」
「スミマセン。ボク、そういった精神面での勉強は、まだ……あ、あのっ。もっと、頑張ります……スミマセン」


 挙句の果てには落ち込ませてしまったらしい。

 それならいっそ、同僚のように『ボクのこと好きなんですか』くらい言ってほし――いや、キャラに合わないな。

 結論。どうやら俺は、雑談というものが苦手らしい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

孤独な戦い(6)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

ハッピーエンド

藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。 レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。 ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。 それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。 ※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【完結】キミの記憶が戻るまで

ゆあ
BL
付き合って2年、新店オープンの準備が終われば一緒に住もうって約束していた彼が、階段から転落したと連絡を受けた 慌てて戻って来て、病院に駆け付けたものの、彼から言われたのは「あの、どなた様ですか?」という他人行儀な言葉で… しかも、彼の恋人は自分ではない知らない可愛い人だと言われてしまい… ※side-朝陽とside-琥太郎はどちらから読んで頂いても大丈夫です。 朝陽-1→琥太郎-1→朝陽-2 朝陽-1→2→3 など、お好きに読んでください。 おすすめは相互に読む方です

手作りが食べられない男の子の話

こじらせた処女
BL
昔料理に媚薬を仕込まれ犯された経験から、コンビニ弁当などの封のしてあるご飯しか食べられなくなった高校生の話

母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。 しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。

処理中です...