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7話【予想外】

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 馬男木先生がついているから、何か不調を起こしたらフォローしてくれるだろう。そんな甘えに似た気持ちが、俺にはあった。

 元々そこまでアルコール好きというわけではなかったけれど、病院外で馬男木先生と会えるのが何だか新鮮で……少しだけはしゃいでいたのが本音。

 だから今日の酒は今までで一番美味いんじゃないか……そんな期待を持って、俺は一口だけ飲んだ。

 ――が、予想外なことに……俺はそれ以上酒を、飲めなかった。


「あぁぁうぅ……っ」


 ――目の前に座っていた馬男木先生が、たった一口で倒れたからだ。


「ま、馬男木先生ッ!」


 突然フラフラと体を前後左右に揺らしたかと思うと、馬男木先生はよく分からない奇声をあげ……バタリと後ろへ倒れる。

 まだ、乾杯をして一口目だぞ? いったい、何が起きたんだ?
 全く現状を理解できないまま、ひとまず倒れた馬男木先生に近寄る。


「あぁ~……視界が、グルグルと回って……体が、ふわふわってします~……」
「ム……? 分かり易く、言うと?」
「酔いました~っ!」


 ――何となくそんな気はしていたが、やはりか!

 何度でも言うが、たった一口だぞ? それはもう遠慮がちに飲んだほんの少し。それなのに酔った、だと……? 馬男木先生は酒好きじゃなかったのか?

 戸惑いは隠しきれないが、放っておくわけにはいかない。立ち上がって水道水をコップに注ぎ、急いで馬男木先生の許へ戻る。


「馬男木先生、馬男木先生。まずは水を飲みましょう」


 が、馬男木先生はゆるゆると首を横に振った。


「水はぁ……飲めませんっ!」
「そ、そんなに気分が悪いのですか……ッ」
「そうでは、なくて~……ひっく。体質的にと、申しますかぁ……っ?」


 ……『体質的』に水が飲めない? どういうことだ?

 仰向けに寝転がった馬男木先生は、隣に座っている俺を見上げながら人差し指を立てた。そしてそのまま指でクルクルと円を描く。たぶん、この行為に意味は無いと思うがとりあえず眺める。


「ボクの体は雪でできていますので~、水に触れたり飲んだりすると~? なんと! 溶けちゃうんですよ~っ! しかもしかも、す~ぐアルコールを吸収しちゃうんですよね~っ、あはっ!」


 何だか、いつもとだいぶ様子が違う。酔うとちょっと饒舌になるらしい。そして、笑い上戸でもあるようだ。

 しかしなるほど、そういう意味か。だったら水は飲ませられ――ん?


「――ならどうして、飲みの誘いなんて……?」


 水が駄目なら、酒も駄目に決まっているだろう。そんなこと、馬男木先生だって分かっている筈だ。

 当然の疑問に対し、朗らかに笑った馬男木先生が答える。


「だって……一緒に、飲みたかったんですもん」


 なるほど、理解したぞ。

 つまり馬男木先生は……物凄く酒に弱い酒好き、ということか。

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