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【花言葉には頼らない】
5話【ホオズキの花言葉は『ごまかし』】
しおりを挟む花は、手をくわえないと枯れてしまう。
だから田塚は『綺麗だよ』と囁き、養分を与える。『また来てね』と言って、明日を与えなくちゃいけない。
そうしないと、花は枯れてしまうから。
──父に捨てられ、自ら命を絶った。……そんな、田塚の母のように。
男からの言葉がないと生きられないのかと、正直なところ田塚は女性が恐ろしくなった。だから田塚は、あんな怖い思いをしたくないがために、見かけた女性全てを口説くようになったのだ。
──だが、鳥羽井は違った。
『いつも、女性のお相手をするのは疲れませんか?』
『誰かのために、あまり自分を犠牲にしないでください』
鳥羽井は、あろうことか田塚の心配をしてくれる。
いつも真っ直ぐで、気高くて……可愛いのに凛としていて、美しい。
小さなあの子が育っていく姿を、ずっと見ていたい。そして、できればどこにも行かないで、側にいてほしい。田塚はいつからか、鳥羽井にだけ特別な感情を抱くようになっていた。
田塚は、店に並ぶ花を見るとすぐに花言葉が思い出せる。
紫のライラックは、恋の芽生え。
赤のツツジは、恋の喜び。
白のカーネーションは、純粋な愛。
おそらく鳥羽井も、花言葉に詳しいだろう。だがきっと、鳥羽井はいちいちそんなものに頼らない。
花言葉みたいに遠回しなやり方じゃなく、この店でアルバイトを始めた時から、真っ直ぐと田塚に向き合ってくれた。
──だったら田塚も、花言葉なんかに頼らず、鳥羽井に……。
* * *
店から駆け出し、田塚は鳥羽井を探した。
頭の中を埋めるのは、日中に女性客が話していた【変質者】のことだ。
──頼む。何事もなく、無事でいてくれ。
いつも飄々として、どこか軽薄そうな田塚を知る者からすると、こうして誰かのために汗を流している姿は想像もできないだろう。
「──いたっ! ……あれっ? だけど、あれは……」
見覚えのある姿を見つけると同時に、田塚は焦燥感に駆られた。
──鳥羽井が、見知らぬ男に声をかけられているのだ。
鳥羽井に駆け寄る足をさらに速め、田塚は叫んだ。
「──或兎ちゃん!」
名前を呼ばれた鳥羽井は、驚いたように振り返る。田塚が自分の名前を呼んでくれたのは、初めてだったからだ。
驚く鳥羽井には目もくれず、田塚はすぐさま距離を詰め、鳥羽井に話かける男に掴みかかった。
「お前……ッ! この子になにをしたッ!」
「えっ、店長っ? 待ってください、違います! この人は──」
「──この子に手を出してみろッ! 僕は絶対にお前を許さないぞッ!」
困惑する男に、田塚は殴りかかろうとする。
今の田塚は、鳥羽井を守れるならなんだってよかった。
──しかし、鳥羽井の言葉に田塚は肝を冷やす。
「──店長っ! この人は、私のお父さんですっ!」
ピタリ、と。男を殴ろうと振り上げた拳が、寸でのところで止まる。
「……え、っ? お、とう……さま?」
「はい、お父さんです……っ」
「……本当に?」
鳥羽井を振り返り、その後。胸倉を掴まれている男を、田塚は見つめた。
「──こ、こんばんは。或兎の……ち、父です……っ」
見ると、確かに鳥羽井とこの男性は、似ている。
田塚は……ゆっくりと、手を放す。
好きな子を守ろうとし、勢い良く助け出そうとした、その矢先。田塚は深く、心の中で叫んだ。
──やっちゃったぁああッ! ……と。
田塚は危うく、好きな子の【父親】を殴り飛ばそうとしてしまったのだから。
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