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【花言葉には頼らない】
3話【ネムノキの花言葉は『胸のときめき』】
しおりを挟むそれから、数日後。
「店長さん、ご存知? 最近、この辺りで女性を狙った変質者が出るんですって」
二人組の女性客が、田塚とそんな雑談をしている。
田塚は【パーソナルスペース】という言葉を知らないのか、その女性客二人の間に割って入っていた。実に、自然な流れで。
「そうなのかい? それは怖いね」
「えぇ、本当に……」
「そのせいで、最近夜道が怖くて……っ」
女性客二人は、とても不安そうにしている。そんな三人のやり取りを、鳥羽井はジッと眺めていた。
鳥羽井に見られているとも知らず、田塚は二人の手をとる。
「安心して、素敵なレディ。この辺りは僕の庭みたいなもの。そしてキミたちは、素敵なお花さ。いつだって、僕は駆けつけるよ」
「んんっ!」
鳥羽井が咳払いをすると、田塚がすぐに女性客二人の手を放す。
しかし、鳥羽井は決して田塚の言葉を止めたかったわけではない。
口先だけとはいえ女性客の不安を解消できるのなら、それはいいことだ。……とさえ、思っている。
それに気付いているのか、田塚は笑みを崩さない。
「もしも大声を出せなかったら、いつでもこの店を頼って? 知っての通り、この店と僕の家は繋がっているからね。僕はいつでもキミたちを守るよ」
頬を染めた女性客を見た鳥羽井は、ホッと安心する。
「さすが店長ですね。女性の心を掌握するのがお上手です」
「言い方!」
女性客のどんな話題も、口説き文句への布石として変換し、すかさず口説く。あまりの抜け目なさに、まるでその変質者と協力しているかのような疑いすら向けてしまいそうだ。
そんな視線を鳥羽井が送ると「やめてよ、その目!」と田塚が喚く。
その間に購入する花を選んだらしく、女性客二人がレジに近付いた。
「お客様。店長の言う通り、もしも変質者に襲われましたら真っ先にこの店で店長を頼ってください。いっそ、盾にしてもかまいません」
「だから言い方!」
「私も、お客様をお守りします。……店長を犠牲にしてでも」
「なんで僕を壁にする前提なの!」
田塚は吠えているが、鳥羽井は構うことなく女性客二人に話かける。
すると、女性客が笑みを浮かべた。
「アルバイトさん……。女の子なのに、カッコいいわね」
「店長さんより素敵かも……」
田塚の真似をして女性客を安心させたかった鳥羽井だが、どうやら大成功だったらしい。
お釣りを渡す時、鳥羽井は手を握られた。温かな感触に、鳥羽井は思わず『女性の手を握りたがる店長の気持ちが分かったかも』と思ってしまう。
──すると。
「──この子は、駄目」
──素早く、田塚が割って入ってきた。
「この子は、商品じゃないから」
真剣な眼差しの田塚に、鳥羽井は固まる。
「それに! どう見たって僕の方がカッコいいよ? 壁どころか矛と盾になってあげられるからね!」
「やだ、店長さんったら」
「気にしていらしたの?」
すぐに女性客を自分のペースに持っていく田塚を見上げた後、鳥羽井は俯く。
いつも女性を花扱いしている田塚が、自分を『商品じゃない』と言った。
……顔が、熱い。鳥羽井は自分の頬を、冷えた手で撫でる。
そんなことは露知らず、田塚は女性客を口説いているのだが。……鳥羽井は田塚を、すぐには止められなかった。
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