37 / 68
【星巡り】
【××のある星】
しおりを挟む風が吹き、揺れる草花が私を撫でた。
体中が痛くて、目を開けそうにない。
……なのに、私は目を開いた。
だって──。
──どうして、ここに?
私の問いに、貴方は答える。
「貴女を、愛しているから」
金のある星から、様々な星を巡って……私はこの星に、落ちてきたらしい。
ここは、なにがある星なのだろう。目覚めたばかりの私には、分からない。
それでも私は、私の顔を覗き込む貴方を、知っている。
──私が貴方を、愛せなくても。……貴方の愛は、変わらないの?
「ぼくが貴女を愛している。だから、なにも変わらないよ」
──私が喋れなくなっても?
「もちろん。その時は、ぼくが貴女の分も言葉を話そう。貴女の分も、貴女の音を奏でるよ」
──私の鼻や四肢がひしゃげて、四季を感じられなくなっても?
「それなら、貴女に伝わるように四季を表現してみせるよ。一緒に四季を慈しんで、楽しもう」
──あの空が落ちてきて、私たちを吞み込んでしまったら?
「貴女が一緒なら、空に呑まれたってかまわない。貴女と共に空の一部になれることを、ぼくは嬉しく思うよ」
貴方の笑顔に、私は言葉を失いかける。
だけど。……だからこそ。
私は私にとって、最も重要なことを訊ねた。
──私からお金がなくなって、王女という立場を失脚してしまっても?
貴方は……やはり、笑みを崩さなかった。
「──えぇ、もちろん。ぼくは変わらず、貴女を愛しているよ」
優しく微笑みながら、貴方は手を伸ばす。
「そうじゃなきゃ、こんなところまで追いかけない。──だから……」
貴方の手が、私の頬を撫でた。
「──だからもう、泣かないで」
どこかの星から落下していく度。その星で出会った住人は、私になにかを言いかけていたのを、薄らぼんやりと憶えている。
それは、私にはうまく聞きとれなかった言葉。
でも、不思議と今はハッキリと思い出せる。
『あぁ、そうそう。そう言えば、貴女……どうして──』
『あぁ、そうだ。そう言えば、君……どうして──』
『あぁっ、ねぇねぇ! そう言えば、お姉ちゃん……どうして──』
『あぁ、そうだ。そう言えば、お姉さん……どうして──』
続く言葉は、同じだった。
『……どうして──【泣いているの】?』
そうか。
私は、泣いていたんだ。
ゆっくりと目を閉じ。……そして、開く。
私の視界には、大きな空が映った。草花は依然として私の体を包み、貴方の優しい声は私の心を包んでくれている。
貴方からの愛を受け止めて、私は、笑みを浮かべて見せた。
──ごめんなさい。
──嬉しくて、泣いているの。
愛も、音も、四季も、空も。……今ここにある全てが、私の喜びに結びついている。
そこに、お金なんてない。地位もなにも、関係ないんだ。
あぁ、そうね。きっと、そう。
この気持ちを、あの星々の住人は抱いていたに違いない。
それは……身に余る、多幸感。
──私が私であることに、私は今、なによりも喜んでいるの。
そう言うと、貴方はヤッパリ……笑うのね。
「──ぼくも、貴女が貴女だから愛しているよ」
優しい月明りに照らされながら、柔らかな草花に身を寄せて。
優しい音を聴いた私たちは、愛に、笑ってしまう。
そこにはヤッパリ、お金なんてなかった。
【星巡り】 了
20
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
赤髪騎士と同僚侍女のほのぼの婚約話(番外編あり)
しろねこ。
恋愛
赤髪の騎士ルドは久々の休日に母孝行として実家を訪れていた。
良い年頃なのに浮いた話だし一つ持ってこない息子に母は心配が止まらない。
人当たりも良く、ルックスも良く、給料も悪くないはずなのに、えっ?何で彼女出来ないわけ?
時として母心は息子を追い詰めるものなのは、どの世でも変わらない。
ルドの想い人は主君の屋敷で一緒に働いているお喋り侍女。
気が強く、お話大好き、時には乱暴な一面すら好ましく思う程惚れている。
一緒にいる時間が長いと好意も生まれやすいよね、というところからの職場内恋愛のお話です。
他作品で出ているサブキャラのお話。
こんな関係性があったのね、くらいのゆるい気持ちでお読み下さい。
このお話だけでも読めますが、他の作品も読むともっと楽しいかも(*´ω`*)?
完全自己満、ハピエン、ご都合主義の作者による作品です。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます!
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イラストアーカイヴ
花閂
キャラ文芸
小説内で使用したイラストだったり未使用イラストだったり。
オリジナルイラストのアーカイバ。
連載中の小説『ベスティエン』『マインハール』『ゾルダーテン』のイラストをアーカイブしていきます。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる