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【星巡り】

【××のある星】

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 風が吹き、揺れる草花が私を撫でた。
 体中が痛くて、目を開けそうにない。

 ……なのに、私は目を開いた。
 だって──。

 ──どうして、ここに?

 私の問いに、貴方は答える。


「貴女を、愛しているから」


 金のある星から、様々な星を巡って……私はこの星に、落ちてきたらしい。

 ここは、なにがある星なのだろう。目覚めたばかりの私には、分からない。
 それでも私は、私の顔を覗き込む貴方を、知っている。

 ──私が貴方を、愛せなくても。……貴方の愛は、変わらないの?


「ぼくが貴女を愛している。だから、なにも変わらないよ」


 ──私が喋れなくなっても?


「もちろん。その時は、ぼくが貴女の分も言葉を話そう。貴女の分も、貴女の音を奏でるよ」


 ──私の鼻や四肢がひしゃげて、四季を感じられなくなっても?


「それなら、貴女に伝わるように四季を表現してみせるよ。一緒に四季を慈しんで、楽しもう」


 ──あの空が落ちてきて、私たちを吞み込んでしまったら?


「貴女が一緒なら、空に呑まれたってかまわない。貴女と共に空の一部になれることを、ぼくは嬉しく思うよ」


 貴方の笑顔に、私は言葉を失いかける。

 だけど。……だからこそ。
 私は私にとって、最も重要なことを訊ねた。

 ──私からお金がなくなって、王女という立場を失脚してしまっても?

 貴方は……やはり、笑みを崩さなかった。


「──えぇ、もちろん。ぼくは変わらず、貴女を愛しているよ」


 優しく微笑みながら、貴方は手を伸ばす。


「そうじゃなきゃ、こんなところまで追いかけない。──だから……」


 貴方の手が、私の頬を撫でた。


「──だからもう、泣かないで」


 どこかの星から落下していく度。その星で出会った住人は、私になにかを言いかけていたのを、薄らぼんやりと憶えている。

 それは、私にはうまく聞きとれなかった言葉。
 でも、不思議と今はハッキリと思い出せる。


『あぁ、そうそう。そう言えば、貴女……どうして──』
『あぁ、そうだ。そう言えば、君……どうして──』
『あぁっ、ねぇねぇ! そう言えば、お姉ちゃん……どうして──』
『あぁ、そうだ。そう言えば、お姉さん……どうして──』


 続く言葉は、同じだった。


『……どうして──【泣いているの】?』


 そうか。
 私は、泣いていたんだ。

 ゆっくりと目を閉じ。……そして、開く。

 私の視界には、大きな空が映った。草花は依然として私の体を包み、貴方の優しい声は私の心を包んでくれている。
 貴方からの愛を受け止めて、私は、笑みを浮かべて見せた。

 ──ごめんなさい。

 ──嬉しくて、泣いているの。

 愛も、音も、四季も、空も。……今ここにある全てが、私の喜びに結びついている。
 そこに、お金なんてない。地位もなにも、関係ないんだ。

 あぁ、そうね。きっと、そう。
 この気持ちを、あの星々の住人は抱いていたに違いない。
 それは……身に余る、多幸感。

 ──私が私であることに、私は今、なによりも喜んでいるの。

 そう言うと、貴方はヤッパリ……笑うのね。


「──ぼくも、貴女が貴女だから愛しているよ」


 優しい月明りに照らされながら、柔らかな草花に身を寄せて。
 優しい音を聴いた私たちは、愛に、笑ってしまう。

 そこにはヤッパリ、お金なんてなかった。




【星巡り】 了




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