短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【滴り注げ、双翼の愛】

2話【おはよう、愛しき兄妹】

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 厚手の、大きなカーテン。
 寝室に備えつけられた、日の光一筋すらも許さない漆黒の壁に似たそれを、その屋敷に住む者は誰も開かない。


左翼さよく。起きる時間だよ、ほら」


 同じ寝室。
 同じベッド。
 そこにいるのは、顔が瓜二つの男女。


「ん、っ。……右翼うよく、おにい……さ、ま?」
「そう、右翼お兄様だよ。どう? 目は覚めた?」
「まだ……少し、ねむいです……」


 長い銀髪が乱れることも気にせず『左翼』と呼ばれた女は『右翼』と呼ばれた男に、寝転がりながらすり寄る。既に上体を起こしていた右翼は、そんな左翼の頭を撫でた。

 右翼の漆黒の髪は、左翼と同じく長く伸ばされている。右翼が動く度に、黒色の長髪は穏やかに揺れていた。


「左翼はいつもお寝坊さんだね」
「寝起きに弱い吸血鬼は、いけませんか?」


 澄みきった空のように青い左翼の瞳が、右翼を見上げている。どこか申し訳なさそうで、どこか甘えるように。
 眠たげに自身を見上げる左翼の瞳に、右翼は深紅の瞳で応える。


「駄目ではない、かな。ぼくは左翼が好きだから、寝起きの良し悪しに限らずなんだって全て許すよ」


 左翼の顔にかかる銀髪を、右翼が指で払う。
 そうすることで、左翼の顔がよく見えてしまった。


「……っ。右翼お兄様の、意地悪……っ」
「『意地悪』か。……ははっ! それはなんともいじらしい返答だね? やっぱり左翼は、寝起きも可愛い」
「い、意地悪です……っ」


 耳まで赤くなった左翼が、右翼から顔を背ける。
 依然として赤い顔の左翼を眺めながら、右翼は空いた手でもう一度、左翼の髪に触れた。


「左翼、ごめんね。怒らないで?」
「別にそのようなっ。……怒ってなど、おりません」
「そう? それなら良かった。……でも、おかげで目は覚めたんじゃない?」
「えぇ、そうですね。……おかげ、さまで」


 穏やかで、優しい時間。見つめ合う左翼と右翼は、互いに微笑みを向け合った。
 だが不意に、寝室に二匹以外の声が響く。


「──右翼様っ! 母上様がお呼びですっ!」


 屋敷に仕える使用人の声だ。
 右翼はわざとらしいほど大袈裟なため息を吐き、左翼のうなじを撫でる。


「ごめんね、左翼。呼ばれたから、行かなくちゃ」
「右翼お兄様は最近、頻繁にお母様からお呼び出しを受けますね。……いったい、お母様とどのようなお話をしていらっしゃるのですか?」
「大した話じゃないよ。だから、話がひと段落したらまとめて教える。……それよりも──」


 右翼の指が、左翼の首筋に触れた。


「ねぇ、左翼」


 その指使いに、左翼は瞳を右翼へと向ける。


「──左翼のこと、食べてもいい?」


 身を屈めた右翼はそう言い、左翼の首筋に舌を這わせた。
 生温かい感触に、左翼はふるりと、身を震わせる。……しかしそれは、嫌悪からではない。


「──私も、右翼お兄様がほしい……です」


 顔を寄せる右翼に向けて、左翼は両腕を広げる。そのまま愛おしそうに、左翼は寄せられた右翼の頭を抱き締めた。
 お互いの首筋に顔を寄せ、慈しむかのように口付けを落とす。

 そして、二匹は……。


「「──いただきます」」


 ──互いの首筋に、牙を立てた。



 右翼と、左翼。二匹の吸血鬼が過ごす寝室。
 その部屋はいつも、漆黒のカーテンに閉ざされていた。

 ──まるで【自分たち以外の全て】を、拒絶するかのように。 




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