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44話 チーズ
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「ママが退院しましたー!」と言って剛が祥子と一緒に、玄関に入ってきた。
祥子は2週間入院して体調が良くなったので退院することができた。
「おかえりー!」
「オカン、吐き気もうしないの?」
「千鶴、大翔、ただいま!吐き気はね…治らないのよ……おえっ」
そういいながら口元を手で押さえた
祥子の血液検査の結果は良くなったが、依然としてつわりによる吐き気は続いたまま。祥子の情報収集によると、あと数カ月はこの状態らしい。産まれるまでつわりが続く可能性があるらしい…と暗い顔をしていた。
「だから…パートはもう辞めました。スーパーで買い物するだけでも吐くし、レジ打ちできるわけがない…出産後もしばらくは働けないし…」
中光家4人は久しぶりにテーブルを囲んだ。
「お母さんのパート代は月6万で、そこからあんた達の電車代とお昼代を払ってたの。でも、それがもうできないので…電車代とお昼代は自力で補ってください」
千鶴は「バイトしろってこと?」と声を上げた。
「チャリ通にして、お昼は家の残り物を入れればいいと思うんだけど。電車通学にこだわるならバイトして、…おえ…っぷ………ね」
季節は7月。今年は例年通りの猛暑を超えた猛暑で、7月上旬にしてすでに30度超えが通常、たまに35度を超える殺人的な気温だった。
千鶴の部屋。
千鶴と大翔はローテーブルを挟んで金銭問題の解決に取り組んでいた。
「青晴まで片道16キロ…チャリで1時間半はかかるらしい…無理じゃない?電車からバス待ってる間でも死にそうなのに。冬は雪降るし」
「俺、画材代なくなったから、お小遣いもらおうと思ってたのにとてもそんな事言えない」
「うちらって生きてるだけで毎月いくら両親にお金払ってもらってるんだろ?服代に食費に授業料に…」
2人は大きなため息をついた。
「なんか…普通に反省した。お母さんのお見舞いに行った後は凛くんと遊んで帰って(家で創作BL書いて)…お金の心配全くしてなかった」
「俺、絵が初めて売れた時…ってレオ先輩が買ったんだけど、全部自分で使い切ったけど親になんか買えば良かった…」
「私だって印税、全部使い切ったよ服とかに」
「印税?」
「あ……………………」
二人の間に沈黙が流れた
「本出したことあるみたいに言うじゃん」
「…………ん~~~~……………………ん」
その時、大翔は点と点が繋がった。いつもスマホで画面を叩いて文字を打っている千鶴、ハトハチの作者の名前がチーズ…ちず…チーズ…まさか…
「千鶴ってハトハチを書いてるチーズって人なん?ハトハチの小説を本にして売ってる?」
「全く違うけど正解………!」
千鶴は観念して一冊の本を差し出した。
そこには
蛇山田 蛇乃助は飼育員をクビになったけど異世界では蛇使いとして楽しんでます!
とタイトルがあり、首にヘビを巻きつけた男子
が笑顔でこちらを見ていた。
「これを千鶴が…?すご…プロじゃん…………ん?この人の首にあるヘビの入墨って翔子の入墨と似てない?」
「…翔子が熱狂的なファンで蛇山田の真似して入墨入れたの」
「はい?」
千鶴は翔子との関係を話した。自分のサイン会に来たこと、祥子の娘とは知られてなかったこと、でも剛が暴露したこと、未だにそれがムカつくこと…。
「お兄ちゃんの言う通り…ハトハチ小説も書いてるの。でもこれは翔子にバレてないし、お兄ちゃんも言わないでね?まず私が小説書いてる事自体を誰にも言うな」
「でもハトハチも翔子がドハマリしてるよな、ブイブイブログで感想書き溜めるほどに」
大翔がペラペラと本を眺め「この蛇山田ってなんとなく八王子先輩っぽさあるね」と言うと、千鶴は驚いて「あ?!」と変な声を出した。
「実はレオ様がモデルなんだけど…良く分かったね」
「サイン会もして、もうプロじゃん」
「サイン会は半分ネタなので…印税も10万くらいだし」
「すごっ…俺も頑張らないと…」
大翔の部屋。
折り畳みマットレスを敷いて布団を首までかぶり天井を眺めた。
(とんでもないものを読んでしまった………………)
自分で検索しても見つからないチーズの書くハトハチ小説「きみが泣くから」が公開されているサイトを教えてもらった。
「お兄ちゃんにはまだ早い世界だと思うけど…まぁ読んでいいよ。レオ様と頑張ってほしいから勉強しなされ」と言葉を添えて。
蜂屋(八王子レオ)と葉土林(鳩田淳)が仲良しの友達から恋人になる物語。未完全101話
第一話(5万文字)途中で読むのを諦めた。
(男同士でキスして、服を脱がせ始めた…もうこれ以上読めない…何するんや今から…いらない知識増やしたくない……なんでこの小説が人気なんだ…)
彼は目を閉じて八王子家に泊まった時を思い出した。
(布団に入ると毎日思い出しちゃうな…あの日のこと)
1週間前の夜9時。八王子家、レオの部屋。
「大翔こっちむいてよ」
レオに背中を向けて横になっていた大翔は声をかけられたが動かなった。正確には動けなかった。
(ダブルベッドだから男2人余裕って言ってたのに…)
今動いたら体が当たってしまう。大翔は端っこで棒のようになった。
「俺、誰かと同じベッドで寝るの初めて~」
レオは大翔が棒状になっていることに気づかず、仰向けで両手を頭の後ろに置き伸び伸びと寝ている
「そんなことないでしょう。誰だって親と一緒のベッドで寝ていたはずです」
「いや、ベビーベッドで寝るじゃん?それに、赤ちゃんの時から1人部屋になって、そこからずっと1人で寝るだろ。あ、日本の文化は家族全員が同じ布団でずっと一緒に寝るんだっけ」
「赤ちゃんの時から一人部屋?嘘だ!そんなのありえるんですか?危なくないですか?」
大翔は思わず顔だけ振り向いて反論した
「見守りカメラつけて寝るらしい。ミオと同じ部屋で寝たこともあるけど、ケンカになるしすぐ別部屋になった」
「俺…小2まで家族4人で寝てたんだけど…」
「すげえ。でも日本なら普通じゃない?俺の家が特殊なんじゃなくてイギリスの文化らしいよ。アメリカとか、他の国もそうだったはず」
大翔は保育園時代、祥子に腕枕してもらい寝ていた記憶が蘇って、急にさみしくなった。
「この前、お母さんのお見舞いに行ったんですけど…すごく痩せててかわいそうでした。俺を妊娠してるときも大変だったのかなぁ、あ、翔子なんだよな…翔子は俺の事…。って思ったらなんか…あれ何の話してんだろ俺…」
レオ話を聞いていたが、あえてそのことに返事はしなかった。
「目合わせて普通に話せるようになったね」
言われてみればいつの間にか普通に目を合わせて話せるようになった。
「基本的に俺、誰とも目を合わせれなくて。家族でも。そういえば先輩の目はずっと見れるようになりました。慣れたのかな」
「最初のころは目を見ただけでオドオドして…見ないでって言ってたのに…」
それを言われると大翔は急に恥ずかしくなり、目を伏せて「やめて…」とつぶやいた。
「あ、先輩、彼女と同じベッドで寝たことありますよね?初めてじゃないですよ、やっぱり」
再びレオの目を見た。
「寝た………………………っていうか……」
レオは目を閉じた。
「まぁ………動いて…終わったら即解散だし……寝てはないかな…………」
「もしかして今すごくひどいこと言ってますか?」
「ねえ顔だけじゃなくて、体もこっち向けてよ大翔くん」
レオは大翔に覆いかぶさるようにし、肩を持ってくるっと回転させた。
大翔は「びっっっっくりした…………」と目を見開いた。
レオの力強い手に驚いたし、いきなり目の前にレオの首があったことにも驚いた。
レオは眠たいのか目をつぶりながら話した。
「俺さダメなんだよね、経子の血を引いてる。最初は普通に恋愛できるのに、いつのまにか彼女をコーチして師匠と弟子みたいになって…。それで結果がでるようになったら、お礼言われて、振られて、の繰り返しだった俺の人生…」
「だからUFOキャッチャーを出禁になるくらい彼女を鍛えたんですか…」
大翔はレオの顔をじっと見た。
「それは……お前のせいで別れた元カノ…毎日ゲーセン通ったなぁ~~~」
「俺のせい…。もっと付き合いたかったんですね」
「うーん、告白されたら付き合って振られて…全部受け身だからなぁ。もっと~とか思わないなぁ~…」
大翔はなんだか胸がムカムカしてきて、話を聞きたくなくなってきた。再び背中を向けようと
すると、レオはその気配に気がついて目を閉じたまま大翔を引き寄せた。
「行くなって~はい、こーそく」
レオの右肩に大翔の頭が乗り、右胸に頬が当たる。右手で肩を抱き、左手は大翔の細い右手首を掴んだ。
「せんぱっ…い…力強っっマジで動けない」
「母の温もりを思い出して眠りにつきなさい」
(こんな硬くてガチガチの体のどこに母性を感じろと?)
記憶の奥底にある、母と過ごしたふんわりした夜の時間。それとはあまりにも対照的すぎて比べるのもアホらしい。
レオの体はどこを触ってもスベスベ、薄い皮膚の下に分厚い筋肉の塊を感じる。それでも優しく包みこんでくれる。力強さが心地よい。
自分の体がすっぽりと入る、この硬い胸が好きだ。
(この体に何人の女が乗ったんだろうなぁ……いや……俺は何を………)
レオは仰向けで目をつぶったまま大翔を離さない。そして話し始めた。
「個展、成功させよーな。DM追加で1万枚印刷したしもっと配り歩かなきゃ」
「10000枚?正気ですか?」
どき、どき、どき……
レオの心臓の音が聞こえる。
「うわぁ…先輩生きてる…」
レオから返事はなかった。
「生きてますか?」
すー…すー…
大翔が首を上げると、ぐっすり寝ているレオの顔があった。
「1秒前まで話していたのに…」
レオの力は抜けた。でも腕を離そうとするとぎゅっと掴まれる。
(死後硬直…?)と思いながら体を少し上げてレオの顔を見た。
大翔はしばらく固まったあと「…………。いてっ」と言った。
彼は自分の唇を前歯で思いっきり噛み、再びレオの胸の上に頭を乗せた。
どき…どき…どき…
(生きてた)
そう思いながら深い眠りについた。
時は進んで現在。大翔は1週間前のことを思い出し布団をすっぽりかぶり、頭を抱えてもだえていた。
(俺はまた先輩の寝顔を見て良からぬことをしようと………千鶴の小説を非難する資格が一つもない………)
祥子は2週間入院して体調が良くなったので退院することができた。
「おかえりー!」
「オカン、吐き気もうしないの?」
「千鶴、大翔、ただいま!吐き気はね…治らないのよ……おえっ」
そういいながら口元を手で押さえた
祥子の血液検査の結果は良くなったが、依然としてつわりによる吐き気は続いたまま。祥子の情報収集によると、あと数カ月はこの状態らしい。産まれるまでつわりが続く可能性があるらしい…と暗い顔をしていた。
「だから…パートはもう辞めました。スーパーで買い物するだけでも吐くし、レジ打ちできるわけがない…出産後もしばらくは働けないし…」
中光家4人は久しぶりにテーブルを囲んだ。
「お母さんのパート代は月6万で、そこからあんた達の電車代とお昼代を払ってたの。でも、それがもうできないので…電車代とお昼代は自力で補ってください」
千鶴は「バイトしろってこと?」と声を上げた。
「チャリ通にして、お昼は家の残り物を入れればいいと思うんだけど。電車通学にこだわるならバイトして、…おえ…っぷ………ね」
季節は7月。今年は例年通りの猛暑を超えた猛暑で、7月上旬にしてすでに30度超えが通常、たまに35度を超える殺人的な気温だった。
千鶴の部屋。
千鶴と大翔はローテーブルを挟んで金銭問題の解決に取り組んでいた。
「青晴まで片道16キロ…チャリで1時間半はかかるらしい…無理じゃない?電車からバス待ってる間でも死にそうなのに。冬は雪降るし」
「俺、画材代なくなったから、お小遣いもらおうと思ってたのにとてもそんな事言えない」
「うちらって生きてるだけで毎月いくら両親にお金払ってもらってるんだろ?服代に食費に授業料に…」
2人は大きなため息をついた。
「なんか…普通に反省した。お母さんのお見舞いに行った後は凛くんと遊んで帰って(家で創作BL書いて)…お金の心配全くしてなかった」
「俺、絵が初めて売れた時…ってレオ先輩が買ったんだけど、全部自分で使い切ったけど親になんか買えば良かった…」
「私だって印税、全部使い切ったよ服とかに」
「印税?」
「あ……………………」
二人の間に沈黙が流れた
「本出したことあるみたいに言うじゃん」
「…………ん~~~~……………………ん」
その時、大翔は点と点が繋がった。いつもスマホで画面を叩いて文字を打っている千鶴、ハトハチの作者の名前がチーズ…ちず…チーズ…まさか…
「千鶴ってハトハチを書いてるチーズって人なん?ハトハチの小説を本にして売ってる?」
「全く違うけど正解………!」
千鶴は観念して一冊の本を差し出した。
そこには
蛇山田 蛇乃助は飼育員をクビになったけど異世界では蛇使いとして楽しんでます!
とタイトルがあり、首にヘビを巻きつけた男子
が笑顔でこちらを見ていた。
「これを千鶴が…?すご…プロじゃん…………ん?この人の首にあるヘビの入墨って翔子の入墨と似てない?」
「…翔子が熱狂的なファンで蛇山田の真似して入墨入れたの」
「はい?」
千鶴は翔子との関係を話した。自分のサイン会に来たこと、祥子の娘とは知られてなかったこと、でも剛が暴露したこと、未だにそれがムカつくこと…。
「お兄ちゃんの言う通り…ハトハチ小説も書いてるの。でもこれは翔子にバレてないし、お兄ちゃんも言わないでね?まず私が小説書いてる事自体を誰にも言うな」
「でもハトハチも翔子がドハマリしてるよな、ブイブイブログで感想書き溜めるほどに」
大翔がペラペラと本を眺め「この蛇山田ってなんとなく八王子先輩っぽさあるね」と言うと、千鶴は驚いて「あ?!」と変な声を出した。
「実はレオ様がモデルなんだけど…良く分かったね」
「サイン会もして、もうプロじゃん」
「サイン会は半分ネタなので…印税も10万くらいだし」
「すごっ…俺も頑張らないと…」
大翔の部屋。
折り畳みマットレスを敷いて布団を首までかぶり天井を眺めた。
(とんでもないものを読んでしまった………………)
自分で検索しても見つからないチーズの書くハトハチ小説「きみが泣くから」が公開されているサイトを教えてもらった。
「お兄ちゃんにはまだ早い世界だと思うけど…まぁ読んでいいよ。レオ様と頑張ってほしいから勉強しなされ」と言葉を添えて。
蜂屋(八王子レオ)と葉土林(鳩田淳)が仲良しの友達から恋人になる物語。未完全101話
第一話(5万文字)途中で読むのを諦めた。
(男同士でキスして、服を脱がせ始めた…もうこれ以上読めない…何するんや今から…いらない知識増やしたくない……なんでこの小説が人気なんだ…)
彼は目を閉じて八王子家に泊まった時を思い出した。
(布団に入ると毎日思い出しちゃうな…あの日のこと)
1週間前の夜9時。八王子家、レオの部屋。
「大翔こっちむいてよ」
レオに背中を向けて横になっていた大翔は声をかけられたが動かなった。正確には動けなかった。
(ダブルベッドだから男2人余裕って言ってたのに…)
今動いたら体が当たってしまう。大翔は端っこで棒のようになった。
「俺、誰かと同じベッドで寝るの初めて~」
レオは大翔が棒状になっていることに気づかず、仰向けで両手を頭の後ろに置き伸び伸びと寝ている
「そんなことないでしょう。誰だって親と一緒のベッドで寝ていたはずです」
「いや、ベビーベッドで寝るじゃん?それに、赤ちゃんの時から1人部屋になって、そこからずっと1人で寝るだろ。あ、日本の文化は家族全員が同じ布団でずっと一緒に寝るんだっけ」
「赤ちゃんの時から一人部屋?嘘だ!そんなのありえるんですか?危なくないですか?」
大翔は思わず顔だけ振り向いて反論した
「見守りカメラつけて寝るらしい。ミオと同じ部屋で寝たこともあるけど、ケンカになるしすぐ別部屋になった」
「俺…小2まで家族4人で寝てたんだけど…」
「すげえ。でも日本なら普通じゃない?俺の家が特殊なんじゃなくてイギリスの文化らしいよ。アメリカとか、他の国もそうだったはず」
大翔は保育園時代、祥子に腕枕してもらい寝ていた記憶が蘇って、急にさみしくなった。
「この前、お母さんのお見舞いに行ったんですけど…すごく痩せててかわいそうでした。俺を妊娠してるときも大変だったのかなぁ、あ、翔子なんだよな…翔子は俺の事…。って思ったらなんか…あれ何の話してんだろ俺…」
レオ話を聞いていたが、あえてそのことに返事はしなかった。
「目合わせて普通に話せるようになったね」
言われてみればいつの間にか普通に目を合わせて話せるようになった。
「基本的に俺、誰とも目を合わせれなくて。家族でも。そういえば先輩の目はずっと見れるようになりました。慣れたのかな」
「最初のころは目を見ただけでオドオドして…見ないでって言ってたのに…」
それを言われると大翔は急に恥ずかしくなり、目を伏せて「やめて…」とつぶやいた。
「あ、先輩、彼女と同じベッドで寝たことありますよね?初めてじゃないですよ、やっぱり」
再びレオの目を見た。
「寝た………………………っていうか……」
レオは目を閉じた。
「まぁ………動いて…終わったら即解散だし……寝てはないかな…………」
「もしかして今すごくひどいこと言ってますか?」
「ねえ顔だけじゃなくて、体もこっち向けてよ大翔くん」
レオは大翔に覆いかぶさるようにし、肩を持ってくるっと回転させた。
大翔は「びっっっっくりした…………」と目を見開いた。
レオの力強い手に驚いたし、いきなり目の前にレオの首があったことにも驚いた。
レオは眠たいのか目をつぶりながら話した。
「俺さダメなんだよね、経子の血を引いてる。最初は普通に恋愛できるのに、いつのまにか彼女をコーチして師匠と弟子みたいになって…。それで結果がでるようになったら、お礼言われて、振られて、の繰り返しだった俺の人生…」
「だからUFOキャッチャーを出禁になるくらい彼女を鍛えたんですか…」
大翔はレオの顔をじっと見た。
「それは……お前のせいで別れた元カノ…毎日ゲーセン通ったなぁ~~~」
「俺のせい…。もっと付き合いたかったんですね」
「うーん、告白されたら付き合って振られて…全部受け身だからなぁ。もっと~とか思わないなぁ~…」
大翔はなんだか胸がムカムカしてきて、話を聞きたくなくなってきた。再び背中を向けようと
すると、レオはその気配に気がついて目を閉じたまま大翔を引き寄せた。
「行くなって~はい、こーそく」
レオの右肩に大翔の頭が乗り、右胸に頬が当たる。右手で肩を抱き、左手は大翔の細い右手首を掴んだ。
「せんぱっ…い…力強っっマジで動けない」
「母の温もりを思い出して眠りにつきなさい」
(こんな硬くてガチガチの体のどこに母性を感じろと?)
記憶の奥底にある、母と過ごしたふんわりした夜の時間。それとはあまりにも対照的すぎて比べるのもアホらしい。
レオの体はどこを触ってもスベスベ、薄い皮膚の下に分厚い筋肉の塊を感じる。それでも優しく包みこんでくれる。力強さが心地よい。
自分の体がすっぽりと入る、この硬い胸が好きだ。
(この体に何人の女が乗ったんだろうなぁ……いや……俺は何を………)
レオは仰向けで目をつぶったまま大翔を離さない。そして話し始めた。
「個展、成功させよーな。DM追加で1万枚印刷したしもっと配り歩かなきゃ」
「10000枚?正気ですか?」
どき、どき、どき……
レオの心臓の音が聞こえる。
「うわぁ…先輩生きてる…」
レオから返事はなかった。
「生きてますか?」
すー…すー…
大翔が首を上げると、ぐっすり寝ているレオの顔があった。
「1秒前まで話していたのに…」
レオの力は抜けた。でも腕を離そうとするとぎゅっと掴まれる。
(死後硬直…?)と思いながら体を少し上げてレオの顔を見た。
大翔はしばらく固まったあと「…………。いてっ」と言った。
彼は自分の唇を前歯で思いっきり噛み、再びレオの胸の上に頭を乗せた。
どき…どき…どき…
(生きてた)
そう思いながら深い眠りについた。
時は進んで現在。大翔は1週間前のことを思い出し布団をすっぽりかぶり、頭を抱えてもだえていた。
(俺はまた先輩の寝顔を見て良からぬことをしようと………千鶴の小説を非難する資格が一つもない………)
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