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26話 バラ
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「俺、スピリチュアルカウンセラーになったほうが良いのかな?」
湊が黄色の花束を持って外を歩いている。
「館長さん…目潤んでたね。素晴らしい画力に加え、発表での言葉一つ一つに感銘を受けました…て」と隣にいた千鶴が話した。
「お母さんが言ったセリフの丸暗記しただけなんやけど…」
「じゃあお母さんがスピリチュアルカウンセラーになった方が良くない?」
「確かに。伝えてみよ」
2人は肩を並べて、広い歩道を歩き続ける。
「…お兄ちゃん、レオ様にどこ連れていかれたんだろ」
先生に解散といわれるやいなや、レオは大翔を捕まえて外に飛び出した。
「ほんと仲良いよな、あの2人」
「困るんだよね…推しカプの邪魔されるとさあ…最近まじで萎えて全然推せてない」
「千鶴ちゃんは…付き合えるならどっちが良い…?淳先輩かレオ先輩…」
湊は顔を赤らめながら、道路に視線を落として尋ねた。
「ない!ない!推しカプをそういう目線で見れない!」
「そうなんだ…」と言う湊の顔は微笑んでいた。
2人の足は止まった。
「湊、ありがと。家まで送ってくれて。また最近、首に蛇の入れ墨した人がうろついてるらしいから…助かりました」
千鶴は、はっちゃんの言葉を思い出した。「バ先(どんぐり書店)に金髪で首にヘビのタトゥーした人来たんだけど、もしかして蛇乃助?でも女だったし…彼女に推しのタトゥーを強要してるとか…?すごい綺麗な人で、どっかで見たことある顔してたけど」
「千鶴ちゃん…」
湊は玄関前に立ち止まっていた。
「え?」
「これあげる」
「いいの?立派な花束なのに」
湊が両手で差し出した花束を受け取り、千鶴の顔が花で覆われた。
「俺さ、ずっと千鶴ちゃんは、淳先輩かレオ先輩のどっちかと付き合いたいんだと思ってて。ずっと聞けなかったんだけど、今日…違うって聞けてよかった…」
湊は千鶴の目を見た。
「あの…俺…ずっと…」
「そうなの?そんな気になってた?何でも聞いてよ!凛くんのことも聞いていいし全然なんでも話すから(笑)」
「うん…うん?りんくん?」
「ん、凛くん」
「誰?」
「え?言ってなかった?彼氏できたって」
「は?いつ?誰?」
「青晴中出身の凛くん。同じクラスで。2週間前に告白されて」
「え?????????????」
「湊も気を付けて帰ってね。変な人に絡まれないように。これフラグじゃないから」
「え、まって、凛くんの話もうちょい詳し…」
ブォーン
湊の小さい声は車の走行音にかき消された。
中光家の扉は閉まり、湊の後ろ姿だけが、そこに残った。
「赤いバラが満開~」
美術館から小道を挟んですぐ横にある、市が運営する小ぶりな広場を散歩するレオと大翔。
チラホラと美術館を出て歩く生徒たちが遠くに見えるが、誰もこの広場には入ろうとしていなかった。
「…先輩とバラの組み合わせって何か…」
「美しすぎるよな」
「美しいというか…白ご飯に梅干しを乗せたような安心感がありますね」
「え…?」
呆気にとられるレオを横目に、大翔はバラの花をパシャパシャと撮影した。
「花好きだね」
「何か目の前にあると撮っちゃうんですよね」
「俺も撮ってもいいよ~」
そういってレオはバラの壁を背景に両手を横に広げて目をつぶってポーズを撮った。
「………。」
パシャ、パシャ、パシャ、パシャ
(撮るんだ)と思いながら何枚も撮られた。
レオは地面に落ちたバラを拾いながら話を切り出す。
「この前は言いすぎた。でも悪いけど本心だから、今日は大翔らしい絵が見れて嬉しかった。でも、まさか皆の前で告白されるとは…未成年の主張みたい」
「こくは………??!(あぁ、恋愛の意味じゃなくて、本心を打ち明ける意味の方か)そうですね…恥ずかしかったです……」
大翔は相変わらずムスッとした表情だ。
「………勝手に俺の写真、出展しないでくださいよ。写真部の部長があんな適当な写真で良いんですか?3年生で最後の展示会なのに」
「写真部は写真を撮るよりも、動画作りに特化してるから。まぁ俺がそうしたんだけど。てか適当じゃないし。何十枚も撮ったし」
レオは拾ったバラを緑の草木に挿した。
くるっとこっちを向いて、当たり前のように、大翔を優しく包みこんだ。3回目のハグだ。
大翔の手は相変わらず、だらんと下を向いて行き場をなくしている。
ほんの一瞬のハグ。ギュッと抱きしめたレオはニヤニヤした顔で腕をすっと離した。
そして、真顔の大翔がこちらを見ていた。
「いきなり何ですか?」
「え???なんで???いつもの童貞オーバーリアクションしないの????」
「失礼な…。さっき、大勢の前で話したときが人生で一番緊張したので耐性がつきました。もう先輩に何されようと大丈夫です。今までのことは気にしないでください」
そんなバカな。いじりすぎて、感情が麻痺してしまったのか?
レオはジーっと大翔を見つめた。大翔は真顔のまま見つめ返した。
「嘘だろ…目が合うだけで、ギャーギャー言ってたのに…なにその余裕の態度…俺がどんな思いでこの数日間、連絡絶ってたと思ってんの?」
「どんな思いだったんですか?」
「お前のオドオドしたリアクションだけを楽しみに我慢してたのに…我慢した分、面白い反応すると思って………な、に…その落ち着き…………」
レオは頭を抱えてしゃがみこんだ。思わぬ彼の反応に笑いが込み上げてくる大翔だった。
広場はバラが咲き誇り、遠くからは学生の賑やかな声がする。空は青く晴れ、雲は穏やかに流れる。
これから雨が降る季節になるとは思えない、気持ちの良い6月がスタートした。
湊が黄色の花束を持って外を歩いている。
「館長さん…目潤んでたね。素晴らしい画力に加え、発表での言葉一つ一つに感銘を受けました…て」と隣にいた千鶴が話した。
「お母さんが言ったセリフの丸暗記しただけなんやけど…」
「じゃあお母さんがスピリチュアルカウンセラーになった方が良くない?」
「確かに。伝えてみよ」
2人は肩を並べて、広い歩道を歩き続ける。
「…お兄ちゃん、レオ様にどこ連れていかれたんだろ」
先生に解散といわれるやいなや、レオは大翔を捕まえて外に飛び出した。
「ほんと仲良いよな、あの2人」
「困るんだよね…推しカプの邪魔されるとさあ…最近まじで萎えて全然推せてない」
「千鶴ちゃんは…付き合えるならどっちが良い…?淳先輩かレオ先輩…」
湊は顔を赤らめながら、道路に視線を落として尋ねた。
「ない!ない!推しカプをそういう目線で見れない!」
「そうなんだ…」と言う湊の顔は微笑んでいた。
2人の足は止まった。
「湊、ありがと。家まで送ってくれて。また最近、首に蛇の入れ墨した人がうろついてるらしいから…助かりました」
千鶴は、はっちゃんの言葉を思い出した。「バ先(どんぐり書店)に金髪で首にヘビのタトゥーした人来たんだけど、もしかして蛇乃助?でも女だったし…彼女に推しのタトゥーを強要してるとか…?すごい綺麗な人で、どっかで見たことある顔してたけど」
「千鶴ちゃん…」
湊は玄関前に立ち止まっていた。
「え?」
「これあげる」
「いいの?立派な花束なのに」
湊が両手で差し出した花束を受け取り、千鶴の顔が花で覆われた。
「俺さ、ずっと千鶴ちゃんは、淳先輩かレオ先輩のどっちかと付き合いたいんだと思ってて。ずっと聞けなかったんだけど、今日…違うって聞けてよかった…」
湊は千鶴の目を見た。
「あの…俺…ずっと…」
「そうなの?そんな気になってた?何でも聞いてよ!凛くんのことも聞いていいし全然なんでも話すから(笑)」
「うん…うん?りんくん?」
「ん、凛くん」
「誰?」
「え?言ってなかった?彼氏できたって」
「は?いつ?誰?」
「青晴中出身の凛くん。同じクラスで。2週間前に告白されて」
「え?????????????」
「湊も気を付けて帰ってね。変な人に絡まれないように。これフラグじゃないから」
「え、まって、凛くんの話もうちょい詳し…」
ブォーン
湊の小さい声は車の走行音にかき消された。
中光家の扉は閉まり、湊の後ろ姿だけが、そこに残った。
「赤いバラが満開~」
美術館から小道を挟んですぐ横にある、市が運営する小ぶりな広場を散歩するレオと大翔。
チラホラと美術館を出て歩く生徒たちが遠くに見えるが、誰もこの広場には入ろうとしていなかった。
「…先輩とバラの組み合わせって何か…」
「美しすぎるよな」
「美しいというか…白ご飯に梅干しを乗せたような安心感がありますね」
「え…?」
呆気にとられるレオを横目に、大翔はバラの花をパシャパシャと撮影した。
「花好きだね」
「何か目の前にあると撮っちゃうんですよね」
「俺も撮ってもいいよ~」
そういってレオはバラの壁を背景に両手を横に広げて目をつぶってポーズを撮った。
「………。」
パシャ、パシャ、パシャ、パシャ
(撮るんだ)と思いながら何枚も撮られた。
レオは地面に落ちたバラを拾いながら話を切り出す。
「この前は言いすぎた。でも悪いけど本心だから、今日は大翔らしい絵が見れて嬉しかった。でも、まさか皆の前で告白されるとは…未成年の主張みたい」
「こくは………??!(あぁ、恋愛の意味じゃなくて、本心を打ち明ける意味の方か)そうですね…恥ずかしかったです……」
大翔は相変わらずムスッとした表情だ。
「………勝手に俺の写真、出展しないでくださいよ。写真部の部長があんな適当な写真で良いんですか?3年生で最後の展示会なのに」
「写真部は写真を撮るよりも、動画作りに特化してるから。まぁ俺がそうしたんだけど。てか適当じゃないし。何十枚も撮ったし」
レオは拾ったバラを緑の草木に挿した。
くるっとこっちを向いて、当たり前のように、大翔を優しく包みこんだ。3回目のハグだ。
大翔の手は相変わらず、だらんと下を向いて行き場をなくしている。
ほんの一瞬のハグ。ギュッと抱きしめたレオはニヤニヤした顔で腕をすっと離した。
そして、真顔の大翔がこちらを見ていた。
「いきなり何ですか?」
「え???なんで???いつもの童貞オーバーリアクションしないの????」
「失礼な…。さっき、大勢の前で話したときが人生で一番緊張したので耐性がつきました。もう先輩に何されようと大丈夫です。今までのことは気にしないでください」
そんなバカな。いじりすぎて、感情が麻痺してしまったのか?
レオはジーっと大翔を見つめた。大翔は真顔のまま見つめ返した。
「嘘だろ…目が合うだけで、ギャーギャー言ってたのに…なにその余裕の態度…俺がどんな思いでこの数日間、連絡絶ってたと思ってんの?」
「どんな思いだったんですか?」
「お前のオドオドしたリアクションだけを楽しみに我慢してたのに…我慢した分、面白い反応すると思って………な、に…その落ち着き…………」
レオは頭を抱えてしゃがみこんだ。思わぬ彼の反応に笑いが込み上げてくる大翔だった。
広場はバラが咲き誇り、遠くからは学生の賑やかな声がする。空は青く晴れ、雲は穏やかに流れる。
これから雨が降る季節になるとは思えない、気持ちの良い6月がスタートした。
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