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14話 ペイン霧
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よく晴れた5月の昼下がり。
そんな季節とは真逆の空気が流れる千鶴の部屋で、大翔は話をまとめていた。
「なるほど…。鳩田先輩と八王子先輩の接触が少なすぎてハトハチ界隈からは不満が出ていたと。少ない燃料をちょびちょび使って創作活動をしていた、と」
千鶴とはっちゃんはうなずいた。
「でもさ、この前、千鶴が印刷してたアイドル風の写真は顔も体も、ペタッとくっついてたじゃん。」
千鶴は目を見開いた。
「そう!!!あんなことするの初めてで!!!めちゃくちゃ盛り上がったんだから!!」
「なのに、俺が出た動画でハトハチ界隈のボルテージがめちゃくちゃ下がりに下がって、俺に捌け口がきてると…」
「私は3年推してるから分かるけど、レオ様はワザとやってるね。お兄ちゃんとイチャついて炎上させて、恨み晴らしてるんだよ。蛇乃助の恨みを。」
「炎上って、ほんと一部の過激派だけだよ?私とか穏やかな人はそんなことないよ??」
「でも…千鶴の考えが本当だったら…ひどくない?一般人の俺をよくわからんことに巻き込んで…。」
大翔は膝に顔を埋めた。
千鶴の言ってることは納得できる。さすが双子だ。
八王子レオ自身も、わざと間接キスした、と言っていた。それが不思議だとは思っていたが深追いはしなかった。
大翔は誰の食べ残しでも普通に食べれるし、間接キスにそんな深い意味があるとは思っていない。
しかし、昨日、抱きしめられて、何かがおかしいと感じた。これは野生の勘だ。
八王子レオはハトハチ界隈の作品をチェックするくらいだから、その時時のファン達の空気感も把握しているだろう。
それを利用して、自分の手を汚さずに、俺の評判を下げようとしているんだ。
「ショーコのブイブイブログも聞こえたから、さっき見たんだけど」
「あっっ、そこも聞こえてた感じ?!」
はっちゃんは笑いながら焦っていた。
「あれ、ほんとに俺とレオ先輩。で、俺もおかしいと思った。わざわざ…ハグしなくたっていいじゃん、て。」
「うーん、でもハグのことは、よく分からん。ハトハチ界隈には知られようがないし。普通に車危ないからじゃない?」
千鶴はいつになく冷静でまともなことを言った。
続けて、はっちゃんが質問する。
「ショーコさんの車ってどんなんやった?」
「灰色で、すごいでかい。ポルシェらしい」
「ポポポポルシェ????」
「NY住みで、日本でポルシェを運転?しかも、この田舎でポルシェ???」
「何者なんだショーコ???」
千鶴とはっちゃんはショーコの話題でキャーキャー盛り上がった。
キャーキャー言いすぎて涙が出た千鶴がスマホを見ながら大翔に話しかけた。
「ショーコのブログは誰も知らないし、あの動画見ても顔分かんないし、さすがにこれは炎上の仕様がないから…ってあれ」
「千鶴ちゃん?」
「炎上してる…」
「え」
(???)この動画って、レオ様と間接キスしたセントくんに見えませんか?
(???)ハトジュンじゃない人と抱き合ってる…ショック…
(???)レオ様は動画内で確認済みのTシャツ、パンツ、シューズだから確定。
(???)黒髪の人は、耳の後ろの傷がセントくんと一致するため、セントくんの可能性が高いです
(???)セントくん何者なの?????
(???)レオ様ってセントくんのこと好きなの???
(???)やだやだやだ!ハトハチが良い!
(???)セントのせいでチーズの更新もなくなったしガチで生きがい奪われた
(???)セント許さん
セント…セント……セント……
「ちょ、吐き気する」
「だからお兄ちゃんは見るなった言ったのに…」
大翔は深呼吸をした。
「ショーコと八王子先輩がグルで俺を炎上させてる…?」
「いやいや、それはさすがに…あるのか?」
千鶴も半信半疑だ。
「ないない!それは…ない?かな?」
はっちゃんも何を信じて良いのか分からなくなっている。
(…い)
「ま!!!八王子レオ様は性格の悪さが売りなとこあるからね!!!!!!!!!潔癖症なのに女好きってとことか!!!」
千鶴がでかい声で話を強引にまとめた。
(ーい…)
ガチャ
「おーいってば!ちーちゃん!!!ホットドッグできたよ!あれ、たーくんもいんの?たーくん、ソファーの隙間にスマホ入ってたけど、忘れんと片付けなさいよ」
一階から声をかけてもかけても無視され、しびれを切らした母が二階の部屋まで入ってきた。
「いま八王子レオって聞こえたけど、この前家に来てた人のことだよね?あの人ほんまかっこよかったなぁ~…昔のお父さんもあんくらいかっこよくて…ふふふ…」
母は千鶴に向かって話した。
「はい????」
千鶴は眉をひそめて、混沌でカオスを表現した顔になった。
「ほら、お父さんが朝から側溝にハマったとき。助けてもらったじゃない。土曜日。あれ?千鶴いなかったけ?あ、秘密だったけ?千鶴が騒ぎ立てるから黙ってろってお兄ちゃん言ってたっけ?」
「オカン…嘘やろ…?全部話てもてるやん…」
「え?ちょ!!え???レオ様がウチに来たってこ、ろえ、…、?」
少し間を開けて、中光家には絶叫が響き渡った。
大翔は目を覚ました。制服姿にエプロンをしている。いつの間にか美術室の机の上で寝ていた。
外は真っ暗になりそうだ。もうすぐで7時。さすがに家に帰らないと。大翔はイーゼル、キャンバス、絵の具、パレット、筆など画材の後片付けを始めた。
俺は何に悩んで絵が描けなくなっているんだろうか。
見知らぬ人に悪口言われているから?
確かにショックだった。顔も名前も知らない人がネット上で自分のことで盛り上がってるのは辛いものがある。
でも俺はこれから画家として名前を売っていく。この程度の批判でくじけていたら、とても絵を売って生活なんてできない。アンチのことは割り切って考えられるはずだ。
そうすると、俺が一番ショックだったことは…八王子レオの計画にまんまと騙されたこと。
あいつはショーコと手を組んでいるのは間違いないだろう。だからバス停まで送るといったんだ。
俺はまんまと2人の罠にハマってしまった。あのとき、やめろって抵抗すべきだった。固まって全てを受け入れてしまった。
でも千鶴だって後ろから声をかけられて腰抜かすくらいだし、俺がそうなるのも仕方ないのではないだろうか。
あの色香は抗えるものなのか?
千鶴がこの3年、推し推し言い続けるから、俺も知らぬ間に洗脳されてしまったみたいだ。
八王子レオがあまりにもかっこよくて美しくて尊い存在に思うなんて。
大翔は色が画材カバンに、残ったパレットと、絵の具をバラバラに突っ込み、クラゲみたいな形になった脱いだエプロンを詰め込んだ。
自宅。
絵の具がところどころついた黒のリュックをソファーに投げた。
ブーブー
スマホが鳴ってる音がする。そういえば、この数日、自分のスマホ見かけてない。もしかして俺のスマホが鳴ってる?
“ソファーの隙間にスマホ入ってたけど…”
母の言葉を思い出しソファーに手を突っ込むと硬い板があった。
画面には“アザミ マスター”と表情されている。
「…もしもし?エッ?本当ですか?昨日、3枚とも売れたんですか?すごっ。えっ!」
大翔の後ろ姿から驚きが伝わってくる。
電話の向こうにはヒゲの生えた男性がいた。
「僕もびっくりしたよ。大翔くんにすぐラインしたけど、いつまで経っても既読にならないから電話しちゃった。」
「すいません、スマホ全然見てなくて」
「購入してくれた人が有名な家族でね…」
「え?誰です?」
「ペイン霧、って知ってるかな?」
「知ってるもなにも…国際絵本展で大活躍してる…この町が生んだ人気絵本作家じゃないですか…!え、ペイン霧が買ったんですか???」
「息子さんが買ったんだけど、家族そろって気に入ってたよ~」
「わあ…嬉しいです」
大翔は素直に嬉しかった。
彼が抽象画を描くようになってから、これまでたくさん言われてきた「上手」を言われなくなった。
そして価値がないと言わんばかりに、小さい賞も取れなくなった。
それでも彼は独創的でカラフルで気持ちの晴れやかになる、写実では表現できない抽象画を描き続けた。
心の内と向き合い続け、自分だけが描ける、見る人をちょっといい気持ちにさせる絵。その絵を気に入るだけでなく、1枚2万円の作品を、3枚も。6万円もの大金を払う人がいるなんて。
「息子さんが大翔くんとラインしたいって言うから教えていたよ」
「ありがとうございます。ペイン霧に子供がいるの知りませんでした。なんて名前ですか?」
「名前きくの忘れたけど名字はーーーーー」
プープー
「あ…れ?充電切れた」
大翔はスマホを耳から離して真っ暗な画面を見た。
充電する癖のない彼のスマホはいつもいきなり電源が切れる。
「充電しなきゃ」
大翔は自部屋に行き、布団や紙をひっくりかえして、充電器のコードを探した。
そんな季節とは真逆の空気が流れる千鶴の部屋で、大翔は話をまとめていた。
「なるほど…。鳩田先輩と八王子先輩の接触が少なすぎてハトハチ界隈からは不満が出ていたと。少ない燃料をちょびちょび使って創作活動をしていた、と」
千鶴とはっちゃんはうなずいた。
「でもさ、この前、千鶴が印刷してたアイドル風の写真は顔も体も、ペタッとくっついてたじゃん。」
千鶴は目を見開いた。
「そう!!!あんなことするの初めてで!!!めちゃくちゃ盛り上がったんだから!!」
「なのに、俺が出た動画でハトハチ界隈のボルテージがめちゃくちゃ下がりに下がって、俺に捌け口がきてると…」
「私は3年推してるから分かるけど、レオ様はワザとやってるね。お兄ちゃんとイチャついて炎上させて、恨み晴らしてるんだよ。蛇乃助の恨みを。」
「炎上って、ほんと一部の過激派だけだよ?私とか穏やかな人はそんなことないよ??」
「でも…千鶴の考えが本当だったら…ひどくない?一般人の俺をよくわからんことに巻き込んで…。」
大翔は膝に顔を埋めた。
千鶴の言ってることは納得できる。さすが双子だ。
八王子レオ自身も、わざと間接キスした、と言っていた。それが不思議だとは思っていたが深追いはしなかった。
大翔は誰の食べ残しでも普通に食べれるし、間接キスにそんな深い意味があるとは思っていない。
しかし、昨日、抱きしめられて、何かがおかしいと感じた。これは野生の勘だ。
八王子レオはハトハチ界隈の作品をチェックするくらいだから、その時時のファン達の空気感も把握しているだろう。
それを利用して、自分の手を汚さずに、俺の評判を下げようとしているんだ。
「ショーコのブイブイブログも聞こえたから、さっき見たんだけど」
「あっっ、そこも聞こえてた感じ?!」
はっちゃんは笑いながら焦っていた。
「あれ、ほんとに俺とレオ先輩。で、俺もおかしいと思った。わざわざ…ハグしなくたっていいじゃん、て。」
「うーん、でもハグのことは、よく分からん。ハトハチ界隈には知られようがないし。普通に車危ないからじゃない?」
千鶴はいつになく冷静でまともなことを言った。
続けて、はっちゃんが質問する。
「ショーコさんの車ってどんなんやった?」
「灰色で、すごいでかい。ポルシェらしい」
「ポポポポルシェ????」
「NY住みで、日本でポルシェを運転?しかも、この田舎でポルシェ???」
「何者なんだショーコ???」
千鶴とはっちゃんはショーコの話題でキャーキャー盛り上がった。
キャーキャー言いすぎて涙が出た千鶴がスマホを見ながら大翔に話しかけた。
「ショーコのブログは誰も知らないし、あの動画見ても顔分かんないし、さすがにこれは炎上の仕様がないから…ってあれ」
「千鶴ちゃん?」
「炎上してる…」
「え」
(???)この動画って、レオ様と間接キスしたセントくんに見えませんか?
(???)ハトジュンじゃない人と抱き合ってる…ショック…
(???)レオ様は動画内で確認済みのTシャツ、パンツ、シューズだから確定。
(???)黒髪の人は、耳の後ろの傷がセントくんと一致するため、セントくんの可能性が高いです
(???)セントくん何者なの?????
(???)レオ様ってセントくんのこと好きなの???
(???)やだやだやだ!ハトハチが良い!
(???)セントのせいでチーズの更新もなくなったしガチで生きがい奪われた
(???)セント許さん
セント…セント……セント……
「ちょ、吐き気する」
「だからお兄ちゃんは見るなった言ったのに…」
大翔は深呼吸をした。
「ショーコと八王子先輩がグルで俺を炎上させてる…?」
「いやいや、それはさすがに…あるのか?」
千鶴も半信半疑だ。
「ないない!それは…ない?かな?」
はっちゃんも何を信じて良いのか分からなくなっている。
(…い)
「ま!!!八王子レオ様は性格の悪さが売りなとこあるからね!!!!!!!!!潔癖症なのに女好きってとことか!!!」
千鶴がでかい声で話を強引にまとめた。
(ーい…)
ガチャ
「おーいってば!ちーちゃん!!!ホットドッグできたよ!あれ、たーくんもいんの?たーくん、ソファーの隙間にスマホ入ってたけど、忘れんと片付けなさいよ」
一階から声をかけてもかけても無視され、しびれを切らした母が二階の部屋まで入ってきた。
「いま八王子レオって聞こえたけど、この前家に来てた人のことだよね?あの人ほんまかっこよかったなぁ~…昔のお父さんもあんくらいかっこよくて…ふふふ…」
母は千鶴に向かって話した。
「はい????」
千鶴は眉をひそめて、混沌でカオスを表現した顔になった。
「ほら、お父さんが朝から側溝にハマったとき。助けてもらったじゃない。土曜日。あれ?千鶴いなかったけ?あ、秘密だったけ?千鶴が騒ぎ立てるから黙ってろってお兄ちゃん言ってたっけ?」
「オカン…嘘やろ…?全部話てもてるやん…」
「え?ちょ!!え???レオ様がウチに来たってこ、ろえ、…、?」
少し間を開けて、中光家には絶叫が響き渡った。
大翔は目を覚ました。制服姿にエプロンをしている。いつの間にか美術室の机の上で寝ていた。
外は真っ暗になりそうだ。もうすぐで7時。さすがに家に帰らないと。大翔はイーゼル、キャンバス、絵の具、パレット、筆など画材の後片付けを始めた。
俺は何に悩んで絵が描けなくなっているんだろうか。
見知らぬ人に悪口言われているから?
確かにショックだった。顔も名前も知らない人がネット上で自分のことで盛り上がってるのは辛いものがある。
でも俺はこれから画家として名前を売っていく。この程度の批判でくじけていたら、とても絵を売って生活なんてできない。アンチのことは割り切って考えられるはずだ。
そうすると、俺が一番ショックだったことは…八王子レオの計画にまんまと騙されたこと。
あいつはショーコと手を組んでいるのは間違いないだろう。だからバス停まで送るといったんだ。
俺はまんまと2人の罠にハマってしまった。あのとき、やめろって抵抗すべきだった。固まって全てを受け入れてしまった。
でも千鶴だって後ろから声をかけられて腰抜かすくらいだし、俺がそうなるのも仕方ないのではないだろうか。
あの色香は抗えるものなのか?
千鶴がこの3年、推し推し言い続けるから、俺も知らぬ間に洗脳されてしまったみたいだ。
八王子レオがあまりにもかっこよくて美しくて尊い存在に思うなんて。
大翔は色が画材カバンに、残ったパレットと、絵の具をバラバラに突っ込み、クラゲみたいな形になった脱いだエプロンを詰め込んだ。
自宅。
絵の具がところどころついた黒のリュックをソファーに投げた。
ブーブー
スマホが鳴ってる音がする。そういえば、この数日、自分のスマホ見かけてない。もしかして俺のスマホが鳴ってる?
“ソファーの隙間にスマホ入ってたけど…”
母の言葉を思い出しソファーに手を突っ込むと硬い板があった。
画面には“アザミ マスター”と表情されている。
「…もしもし?エッ?本当ですか?昨日、3枚とも売れたんですか?すごっ。えっ!」
大翔の後ろ姿から驚きが伝わってくる。
電話の向こうにはヒゲの生えた男性がいた。
「僕もびっくりしたよ。大翔くんにすぐラインしたけど、いつまで経っても既読にならないから電話しちゃった。」
「すいません、スマホ全然見てなくて」
「購入してくれた人が有名な家族でね…」
「え?誰です?」
「ペイン霧、って知ってるかな?」
「知ってるもなにも…国際絵本展で大活躍してる…この町が生んだ人気絵本作家じゃないですか…!え、ペイン霧が買ったんですか???」
「息子さんが買ったんだけど、家族そろって気に入ってたよ~」
「わあ…嬉しいです」
大翔は素直に嬉しかった。
彼が抽象画を描くようになってから、これまでたくさん言われてきた「上手」を言われなくなった。
そして価値がないと言わんばかりに、小さい賞も取れなくなった。
それでも彼は独創的でカラフルで気持ちの晴れやかになる、写実では表現できない抽象画を描き続けた。
心の内と向き合い続け、自分だけが描ける、見る人をちょっといい気持ちにさせる絵。その絵を気に入るだけでなく、1枚2万円の作品を、3枚も。6万円もの大金を払う人がいるなんて。
「息子さんが大翔くんとラインしたいって言うから教えていたよ」
「ありがとうございます。ペイン霧に子供がいるの知りませんでした。なんて名前ですか?」
「名前きくの忘れたけど名字はーーーーー」
プープー
「あ…れ?充電切れた」
大翔はスマホを耳から離して真っ暗な画面を見た。
充電する癖のない彼のスマホはいつもいきなり電源が切れる。
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