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7話 蛇山田 蛇乃助は飼育員をクビになったけど異世界では蛇使いとして楽しんでます!

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学校でスマホを落としてしまった千鶴。誰かが職員室に届けたようだ。放課後になったら返すな、と担任に言われてしまったので、誰とも連絡がとれないまま6限目が終わった。


放課後。スマホを見ると大量のメッセージ。ほとんど兄からだった。
  

「お兄ちゃんが慰謝料代わりに動画に出る…???」







「お兄ちゃんがスマホ拾ったなら直接私に届けてくれたら良かったのに。」

実家のリビングでソファに寝転びスマホを触る千鶴が画面から目を離さずにお風呂上がりの大翔に言う。


「休み時間中に機械科から美術科の往復はできないし、昼休みは千鶴がどこにいるのか分からないから」


大翔は頭を薄い白タオルでゴシゴシしながら返事をした。


「はっちゃんに連絡すればなんとかなった」

はっちゃんは普通科にいて、機械科と美術科の真ん中に位置する。

「あー。思いつかんかった。」といって大翔は豆乳をコップに入れた。




「いや~~しかし…ハトハチの動画に出るってヤバすぎ。お兄ちゃんめっちゃ浮くじゃん。大丈夫なの?お前誰やねんモブあっちいけってアンチ湧きそう~」

大翔は豆乳をごくっと飲んだ。

「千鶴…。なにも知らないみたいだけど、ハトハチって単語は卑猥な意味があるから使ったらダメらしい。」

千鶴の動きがビクッ止まった。首をガガガと回してこちらを見た。

「…誰がそれを?」

「ハトハチって検索すると鳩田と八王子が恋愛している小説や漫画が出てくるって。本人が言ってた。」


千鶴の黒目が惑星の公転のようにギョロギョロ回る。

「チーズって人の小説がとくにひどいって困ってた。千鶴も推し活はいいけど、変な人と友達にならないように気を付けて。」

大翔はダイニングテーブルに座りプリンを食べ始めた。


千鶴は転びながら大翔の前にまで移動した。

「ち、ち、チーズ?????」

大翔は首にかけたタオルで口を拭いた。

「プリン。もう一個あるけど。」

「ちがくて、チーズって、アカウントを、先輩が見たの??」

「うん。めっちゃキモイって言ってた。」

千鶴は椅子から転げ落ちた。涙はでなかった。遠くから兄が心配する声が聞こえてきたが、千鶴の耳には何も届かなかったーーー。






「公式に読まれた上に全否定されたと…。保健室の前で聞いた話はイチャイチャした会話は集団幻聴だったのか…?」

学習机に座っている、はっちゃんがワイヤレスイヤホンを片耳につけ通話している。スマホには千鶴と表示されている。


千鶴は「チーズ先生、完全終了のお知らせ…。」と言ってベットの上でうつ伏せになり耳にスマホを当てていた。

「いやだ!チーズ先生!続き読みたいです!海に行ってクラゲから逃げて洞窟に隠れているハトハチはどうなるんです!!」

「ハトハチ…何で本人にバレたんや…淳レオじゃないのに…公式ブロックしたのに…ヒョロワー増えすぎたんか…?」  

「千鶴ちゃんって夢小説と商業とペンネーム一緒だよね。」   


千鶴はビックとして起きて、ベッドの上にあぐらをかいてスマホを耳に当てながら通話を続けた。

「えっでも公表してないし、投稿サイトも違うし。よくある名前だし、第一に商業はなろう系だし、そこはさすがにバレないでしょ?!」

「そんでも、ゴリゴリの夢小説と商業で、同じ名前使うのすごいなって思って」

「ずっとチーズだから何も考えてなかった。変える機会ったら変えてもいいかも…ゴルゴンゾーラとか」

「癖強い味わいやんな」

「じゃあマスカルポーネ?」

「それ可愛くて良い。チーズ縛りウケる」
 
「はっちゃんの漫画も見られたんやろねぇ…」

「私もBブロ済だけど、ぶっちゃけ公式に納本したいくらい見られたいタイプだからバレて嬉しい(笑)」

「そういう癖(へき)もあんのね…」




はっちゃんは学習机に足を上げ、手で後頭部を支えながらあることを思い出した。

「あ!!!蛇山田 蛇乃助について教えてよ!!!!」

「あ~それそれ!!昨日、最初、話しかけられたときは気づかなかったけど。金髪パーマ、黒のノースリーブ、深緑のカーゴパンツ、黄色のサンダル履いてた!すごくない?」

「奴は日常でもコスプレしてるってこと?!チーズ先生だって気づかれなかったの?」

「フード被ってたし、話してないから大丈夫そ」

「大丈夫かな?家からすぐ近くのコンビニに熱狂的なファンが…住所バレてないよね…?千鶴に会うためにコスプレしてきたとか…?」

「怖いこと言わないでよ…えっ…大丈夫だよね…?」


表の顔は女子高生の中光 千鶴、裏の顔は商業デビューしたばかりのチーズ先生、さらに裏の顔は夢小説をかくチーズ。  

彼女がなろう系を書くチーズであることは両親とはっちゃんしか知らない秘密だ。

夢小説を書くのチーズは、はっちゃんしか知らないトップシークレット。




千鶴、中3の秋  

彼女のデビュー作初単行本記念でサイン会が行なわれた。中学生が描く、純度100%のなろう系作品は、中二病の成功例として界隈で少し話題になった。 

動物園で飼育員をしていた蛇好きの男性が蛇に首を巻かれ死にそうになる。蛇から逃れようと格闘しているところだけをお客さんに見られ、蛇に虐待している男がいるとSNSで話題に。

あっけなくクビになった男は街をさまよい、飲めないお酒をひたすら飲んだ。気持ち悪くなり目を閉じたら、異世界で蛇使いになっていた、という始まりだ。


「チーズ先生!会えて嬉しい!こんなに小説にハマったのは初めてでっす😳」  

サイン会に来た人は金髪パーマ、黒のニット、深緑のカーゴパンツ、黄色のショートブーツ履いてた。

「ありがとうございます!すごい!実写版の蛇山田だ!!!コスプレしてもらえてすっごく嬉しいです!」

「蛇山田が好きすぎて、首に彼と同じタトゥーも入れちゃいました❣️」

そういってニットの首元を下げて、首を一周している蛇のタトゥーを見せた。

千鶴は笑顔のまま一瞬固まったが、すぐに、チーズ先生モードに切り替えた。

「っっっっびっくりした!本物かと思いました!」

「本物ですよ😁彫ってもらいました♫」


目は光を帯びずに真っ直ぐとこちらを見ていた。


(彫って…?)




確かに線の周りがほんのり赤い。


(タトゥーシールではなく、彫った…と?このキャラになるために?首を?)




この世には好きなキャラの絵を掘ったり、好きなキャラになるために整形したり、色んな人がいるのはよくわかっている。

でも『蛇山田 蛇乃助は飼育員をクビになったけど異世界では蛇使いとして楽しんでます!』は、本になったとは言え、かなりマイナー作品。


そこまで情熱をそそがれる資格があるのだろうか?


中学生がケータイ小説を書き、界隈のごく一部で人気が出ただけ。


千鶴は嬉しい気持ちよりも、プレッシャー、疑問、痛そう、タトゥー高そう、タトゥーしてたら就職できなさそう、結婚もできなさそう、目が蛇みたいなど様々な気持ちで溢れかえった。

その気持は全て合わせて「この人怖い」という気持ちに変わってしまった。
   



現在。

千鶴がサイン会のことを思い出して頭を抱えていると、はっちゃんが話した。

「レオ様と蛇山田の関係わかんないけど、接点があったの驚きだよね。」

「ほんとそれ。どんな関係なんだろ?」

「蛇山田ならチーズが夢小説も書いてるの知ってそう。レオ様に嫉妬して逆恨みして探してたりして(笑)」

「なんで嫉妬すんの(笑)ここ半年でハトハチにドハマりして『蛇使い~』の更新してないから?(笑)」



千鶴とはっちゃんはケタケタと笑った。


笑ったあと、口角をあげたまま「…。」と真顔になった。



「……そんなわけないよね???蛇山田 蛇乃助のモデルがレオ様って普通に分かんないよね…?髪型とか違うし…」と千鶴は、はっちゃんに質問したのだった。
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