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6話 薬用リップクリーム
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「先輩ちょっと待ってください。順を追って説明しますから。」
3人は保健室内のベッドから離れて、イスに座って話し合いをすることになった。
大翔が1人で座り、対面にレオと淳が座った。レオは足を組んで腕も組んで殺気立っている。淳は顔を横に向け口元を拳で抑えて笑いこらえていた。
大翔は思わず淳の方をジーと見てしまう。鳩田先輩はなんで肩を震わせ笑っているのか。この、緊迫した空気の中でよくそんなことできるな。彼はお葬式で笑ってしまうタイプの人なんだろうか。
大翔はおしゃべりが得意ではない。それも3年生を前にしてかなり緊張していた。だが誤解をきちんと説明しないと、後々大変になる。
今が勝負時。大翔はテーブルに肘をついてジェスチャー多めで話し始めた。
「えーと、まず昨日セブンに行きまして、そこで、えーと暇だったので、目の前に映るものを絵にしてたんですね。それがたまたま、八王子先輩とバイクだったんです。それで…」
話の途中なのにレオは質問をした。
「俺セブンにいたの一瞬だけど。それであんな上手く絵描けんの?バイクもしっかり描き込んでたし。嘘ついてない?」
「え?僕は美術科だから…その。描くの早いんですよ。上手く見せるだけで、そんな時間かけて描いてないですよ。」
「怪しいな。俺のストーカーしてんじゃねえの?学校でも俺のバイク盗み見して、前々から描いてたんじゃね」
話は思いも寄らない方向に行った。誰がストーカーだって?今日初めてちゃんと顔見たってのに。変な事言われると調子が狂う。
「?学校にバイク持ってこれないじゃないですか?ストーカーもしてないし、あれは本当に先輩がコンビニにいたときだけで、描いた絵です」
「まぁいいや続けて。」
「えーと、そこで蛇のタトゥー入れてた人に声をかけられて、俺の絵を見て驚いて、この絵のモデルは生き別れの兄弟だって言われたんです。」
淳が吹き出す。
「生き別れの兄弟wwww」
「そんな話信じるやついる?」
「生き別れの穴兄弟ってことじゃねwww😂」
「まじでヤッてないのに…」
2人はしばらく笑い合ったあと、レオがこちらを見た。
「顔が全然似てないじゃん?特に似てないのが、俺は優しいタレ目、あっちは鋭いツリ目。」
「髪の毛の色が似てるなぁ、と」
「俺の天然の美しいベージュヘアと、金髪に脱色した痛んだパーマと同じにするわけ?!」
大翔は手を合わせてゴメンナサイのポーズをした。
「だからかわいそうだと思って色々と話して、絵は勝手に持ってかれたんですけど。グループラインで言ってた人って気づかなくて、すみませんでした。」
キマった。無知な後輩がショボショボの顔で謝っている。これ以上の謝罪はないだろう。
今の俺の立場は、怖い見た目の人に声をかけられ、絵まで盗まれたかわいそうな後輩でしかない。
グループラインに入っていないことは話すと怒られそうだから言わないでおこう。
大翔は全力を出し切った。なんとかなれ、と祈った。
「お前ってハトハチも知ってる人、インストも見てるし、印刷もするし、けっこーな俺らのファンだよな」
レオはそういって淳とレオのアイドル風の写真をスマホで見せた。
それは写真をスマホのカメラで撮影したものだったが、スキャナーで取り込んだかのように、四隅がキレイにトリミングされていた。
その写真に映るレオは落書きがされていた。ダリのようなくるんとしたヒゲを生やされ、太い眉毛を描かれ困った顔をしていた。さらに「↖アホ」と書かれていた。
「これは…?」
「あいつが俺にくれた写真。お前からもらったって。落書きムッカつくんだけど。屈辱的すぎてライン載せなかった」
レオは長い人差し指で机の上をトントンした。背後からどす黒いオーラが見える。かなりイライラしているようだ。
(写真あげたっけ?あぁ…千鶴が1人で帰ったときに忘れていったのか…。いつの間にかヘビが持って帰ったんだ…。)
「その…落書きは俺してないです。その写真も、無理やり持っていったんです。」
「ふーん。」
レオは前のめりになり大翔の顔を覗き込んでマジマジと見た。
(近……)
「…嘘は言ってなさそうだし、信じよーかな。」
意外にも許してくれた。証拠を出せと騒ぎ立てると思ったのに。
落書きをみた淳は少ししか笑わなかった。すでに何度も見て慣れてるのだろう。
しかし淳は写真について掘り下げてきた。
「この写真の印刷は君がしたんだよね?🤔普通にファンじゃん!」
「いや、俺じゃなくて…」
(千鶴って言っても良いのか?昨日、千鶴もいた事は知ってるのかな?余計なこと言わないでおこ)
「…拾ったんです。ところで千鶴はどうして保健室にいたんですか?」
レオが無表情で答えた。
「後ろから声かけたら腰抜かして歩けなくなったから。ほっとくわけにも行かないし。」
「倒れたってことですか?千鶴はスカート履いてましたよね?」
「…………。下にスパッツ履いてたよ…」
「どうやって連れてきたんですか?」
「普通にこーやって肩組むみたいに」
レオは隣にいる淳の腰に手を回し、淳は「先輩っ自分で歩けます~」と言った。
「そして保健室のベッドに千鶴を寝かせたと?その後は何を?」
「飲み物買ってきてあげるって席を外したらいなくなって…って何?俺が尋問受けてんの今?」
「あ、気になって…すみません。」
レオは大きなため息をついた。
「なんか…怒るタイミング通り過ぎた…。犯人見つけたら絶対にボコボコにしようと思ったのに。小さくて細くてシスコンの男を殴る気がしない…。」
「もーこの話題飽きたし教室戻ろ~よ」
「淳は悔しくねぇの?薬用リップのPR動画、明日撮らないと間に合わないのに。この顔じゃ化粧しても誤魔化せねぇよ」
「じゃあさ、この子に動画出てもらわない?リップで垢抜けて変身しました~!ってオチにして」
「おー。それいいな。面白そう。こ俺はあえてケガが栄える格好して…ボクサーとかどう?」
「いいね~👌科学者もよくない?この素晴らしいリップ作るためにケガするほど実験を繰り返した!って」
「いいかも。でもリップのためにケガしたって印象悪くなんねぇかな?なんか危ないリップだな~って。」
「あ~。そういう捉え方もあるか…🤔」
「じゃあ、そこんとこもうちょい後で話し合って。後輩くん、話わかったな?明日の朝8時に昨日会ったセブン集合な。そこから借りスタジオまで歩けるから。」
大翔は突然、待ち合わせを告げられキョトンとした。
「え???なんの話か全く分かんないです。」
「何でわかんねぇんだよ。動画出ろって話だろ。スポンサーから金もらってんだから真剣にやれよ。お前の出演料はもちろんないから。」
大翔は困惑した。
困っている人を助けただけなのに。
生き別れの兄弟を合わせてやりたいと思っただけなのに。
どうしてこんなことになってしまったのか。
「えええ…嘘でしょ…」
大翔は頭を抱えてテーブルに視線を落とした。
3人は保健室内のベッドから離れて、イスに座って話し合いをすることになった。
大翔が1人で座り、対面にレオと淳が座った。レオは足を組んで腕も組んで殺気立っている。淳は顔を横に向け口元を拳で抑えて笑いこらえていた。
大翔は思わず淳の方をジーと見てしまう。鳩田先輩はなんで肩を震わせ笑っているのか。この、緊迫した空気の中でよくそんなことできるな。彼はお葬式で笑ってしまうタイプの人なんだろうか。
大翔はおしゃべりが得意ではない。それも3年生を前にしてかなり緊張していた。だが誤解をきちんと説明しないと、後々大変になる。
今が勝負時。大翔はテーブルに肘をついてジェスチャー多めで話し始めた。
「えーと、まず昨日セブンに行きまして、そこで、えーと暇だったので、目の前に映るものを絵にしてたんですね。それがたまたま、八王子先輩とバイクだったんです。それで…」
話の途中なのにレオは質問をした。
「俺セブンにいたの一瞬だけど。それであんな上手く絵描けんの?バイクもしっかり描き込んでたし。嘘ついてない?」
「え?僕は美術科だから…その。描くの早いんですよ。上手く見せるだけで、そんな時間かけて描いてないですよ。」
「怪しいな。俺のストーカーしてんじゃねえの?学校でも俺のバイク盗み見して、前々から描いてたんじゃね」
話は思いも寄らない方向に行った。誰がストーカーだって?今日初めてちゃんと顔見たってのに。変な事言われると調子が狂う。
「?学校にバイク持ってこれないじゃないですか?ストーカーもしてないし、あれは本当に先輩がコンビニにいたときだけで、描いた絵です」
「まぁいいや続けて。」
「えーと、そこで蛇のタトゥー入れてた人に声をかけられて、俺の絵を見て驚いて、この絵のモデルは生き別れの兄弟だって言われたんです。」
淳が吹き出す。
「生き別れの兄弟wwww」
「そんな話信じるやついる?」
「生き別れの穴兄弟ってことじゃねwww😂」
「まじでヤッてないのに…」
2人はしばらく笑い合ったあと、レオがこちらを見た。
「顔が全然似てないじゃん?特に似てないのが、俺は優しいタレ目、あっちは鋭いツリ目。」
「髪の毛の色が似てるなぁ、と」
「俺の天然の美しいベージュヘアと、金髪に脱色した痛んだパーマと同じにするわけ?!」
大翔は手を合わせてゴメンナサイのポーズをした。
「だからかわいそうだと思って色々と話して、絵は勝手に持ってかれたんですけど。グループラインで言ってた人って気づかなくて、すみませんでした。」
キマった。無知な後輩がショボショボの顔で謝っている。これ以上の謝罪はないだろう。
今の俺の立場は、怖い見た目の人に声をかけられ、絵まで盗まれたかわいそうな後輩でしかない。
グループラインに入っていないことは話すと怒られそうだから言わないでおこう。
大翔は全力を出し切った。なんとかなれ、と祈った。
「お前ってハトハチも知ってる人、インストも見てるし、印刷もするし、けっこーな俺らのファンだよな」
レオはそういって淳とレオのアイドル風の写真をスマホで見せた。
それは写真をスマホのカメラで撮影したものだったが、スキャナーで取り込んだかのように、四隅がキレイにトリミングされていた。
その写真に映るレオは落書きがされていた。ダリのようなくるんとしたヒゲを生やされ、太い眉毛を描かれ困った顔をしていた。さらに「↖アホ」と書かれていた。
「これは…?」
「あいつが俺にくれた写真。お前からもらったって。落書きムッカつくんだけど。屈辱的すぎてライン載せなかった」
レオは長い人差し指で机の上をトントンした。背後からどす黒いオーラが見える。かなりイライラしているようだ。
(写真あげたっけ?あぁ…千鶴が1人で帰ったときに忘れていったのか…。いつの間にかヘビが持って帰ったんだ…。)
「その…落書きは俺してないです。その写真も、無理やり持っていったんです。」
「ふーん。」
レオは前のめりになり大翔の顔を覗き込んでマジマジと見た。
(近……)
「…嘘は言ってなさそうだし、信じよーかな。」
意外にも許してくれた。証拠を出せと騒ぎ立てると思ったのに。
落書きをみた淳は少ししか笑わなかった。すでに何度も見て慣れてるのだろう。
しかし淳は写真について掘り下げてきた。
「この写真の印刷は君がしたんだよね?🤔普通にファンじゃん!」
「いや、俺じゃなくて…」
(千鶴って言っても良いのか?昨日、千鶴もいた事は知ってるのかな?余計なこと言わないでおこ)
「…拾ったんです。ところで千鶴はどうして保健室にいたんですか?」
レオが無表情で答えた。
「後ろから声かけたら腰抜かして歩けなくなったから。ほっとくわけにも行かないし。」
「倒れたってことですか?千鶴はスカート履いてましたよね?」
「…………。下にスパッツ履いてたよ…」
「どうやって連れてきたんですか?」
「普通にこーやって肩組むみたいに」
レオは隣にいる淳の腰に手を回し、淳は「先輩っ自分で歩けます~」と言った。
「そして保健室のベッドに千鶴を寝かせたと?その後は何を?」
「飲み物買ってきてあげるって席を外したらいなくなって…って何?俺が尋問受けてんの今?」
「あ、気になって…すみません。」
レオは大きなため息をついた。
「なんか…怒るタイミング通り過ぎた…。犯人見つけたら絶対にボコボコにしようと思ったのに。小さくて細くてシスコンの男を殴る気がしない…。」
「もーこの話題飽きたし教室戻ろ~よ」
「淳は悔しくねぇの?薬用リップのPR動画、明日撮らないと間に合わないのに。この顔じゃ化粧しても誤魔化せねぇよ」
「じゃあさ、この子に動画出てもらわない?リップで垢抜けて変身しました~!ってオチにして」
「おー。それいいな。面白そう。こ俺はあえてケガが栄える格好して…ボクサーとかどう?」
「いいね~👌科学者もよくない?この素晴らしいリップ作るためにケガするほど実験を繰り返した!って」
「いいかも。でもリップのためにケガしたって印象悪くなんねぇかな?なんか危ないリップだな~って。」
「あ~。そういう捉え方もあるか…🤔」
「じゃあ、そこんとこもうちょい後で話し合って。後輩くん、話わかったな?明日の朝8時に昨日会ったセブン集合な。そこから借りスタジオまで歩けるから。」
大翔は突然、待ち合わせを告げられキョトンとした。
「え???なんの話か全く分かんないです。」
「何でわかんねぇんだよ。動画出ろって話だろ。スポンサーから金もらってんだから真剣にやれよ。お前の出演料はもちろんないから。」
大翔は困惑した。
困っている人を助けただけなのに。
生き別れの兄弟を合わせてやりたいと思っただけなのに。
どうしてこんなことになってしまったのか。
「えええ…嘘でしょ…」
大翔は頭を抱えてテーブルに視線を落とした。
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