マチエール

カマンベール

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5話 双子

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黒髪で二つ結びの女子高生が廊下を歩いていた。毛先は軽くパーマ、前髪は重めのパッツンの彼女は怪訝な顔つきだ。

「…千鶴ちゃん?」  


彼女の視線の先には、キョロキョロしながら廊下の端を小走りしている千鶴がいた。


千鶴はただでさえ大きい目をさらに見開いて「はっちゃん?」と情けない声をもらした。

「何してるの?授業始まってるよ。レオ様のことで傷心して異常行動してるの?」

「はっちゃんこそ…。ここから先、保健室しかないけど。何しに来たの?どっか痛いの?」

「レオ様の痛々しい顔写真みたら頭痛止まんなくなったから薬ほしくて。」  


千鶴は廊下でいきなり正座をした。

はっちゃんは思わず、えっ汚っ、と言うが、彼女は気にとめなかった。


「はっちゃんに謝りたいことがあります。」

「んんんん??なに?」

「私の実兄のせいでレオ様に被害が及びました。」   

千鶴は廊下で正座したまま深々と頭を下げた。

「???昨日セブンでレオ様のこと話したって人が大翔くんってこと?」

「はい。そしてレオ様のことを追っていたのは
…………蛇山田 蛇乃助でした。」

「待って待って、一気に話難しくなった、飛んだ。サイン会にきた蛇山田さん?」

「そうです。」

「えっ?ちょ、まって。一行目から詳しく説明…」







「千鶴ちゃんが男になってる~?!」




「…。」「…。」

「今の声ってハトジュン…よね?」
 
「私さっきハトハチに声かけられた現実にキャパオーバーして倒れちゃって、2人に保健室に連れてかれたんだけど、空間がR18すぎてヤバかったから、隙を見て逃げてきたとこで…シッ!」

「マジで後で詳しく説明して。」



女子2人は保健室に忍び足で近づいた。




鳩田に…

寝込み…襲われ…



(ハトジュンと…レオ様の会話…?)
 

受け入れ…悦び…

俺…鳩田…突きあって…

恋人…欲情…尻痛い…

  



保健室の扉の前でかがんで中の会話を拾っている2人は動揺を隠せなかった。

(おいおいおいおい 完全にヤッてるじゃん。マジで付き合ってんの?!妄想が現実に…)

(ヤバヤバ千鶴ちゃんどうしよっ涙と震え止まらなっ)       




カタカタ


(やっば扉に振動が伝わって…。)



「そんな事があったなんて、全く知りませんでした。もうその単語は口に出しません。」


(バレてない、良かった…。ん?お兄ちゃんの声?)

(大翔さんにハトハチの関係をカミングアウトしてたの?なんで?)

(私も全く分からん。てか…お兄ちゃんいるとクッソ萎えるわ……………。)

 (友人の兄…か……。ギリいける。千鶴ちゃんと全然顔似てないし余裕かも。)
 

 

「そうして!ところで、ここに女の子いなかった?🥺」    

「いや…見てないですね…」

(兄貴ってバレてないうちに逃げたほうがいいよな…?いや、でも…妹を知ってるんなら俺のことバレるよなどうしたって)

大翔はソワソワして周りを見渡した。

「…何かこいつ挙動不審じゃね?」

鳩田は凛々しい顔で自身のアゴを押さえた。

「もしかして布団の中に女の子隠してる…?妙に布団がもっこりしてるような…?」

(いや、普通にめくっただけですが)

隠れているといえばそうにも見えるかも知れない。


八王子レオは大翔の黄色のサンダルを見ながら、蔑んだ目で口角を上げて言った。


「エロ漫画でよくあるやつじゃん。1年生なのにすげえことすんな。」 

青晴高校の内履きはサンダルで、1年は黄色、2年は緑色、3年は青色と決まっている。    

大翔と千鶴は顔が似てないせいか、昔から恋人と勘違いされ続けていた。双子が恋愛をする漫画が校内で流行ったときは、とくに大翔と千鶴の関係は疑われた。

そういえば蛇も彼らを恋人と間違えていた。妹と仲良くしているだけで恋人扱いはもううんざりだ。

そして八王子レオの、この顔。ニヤッとした笑い方が無性に腹が立つ。

平行二重の幅が少し広がり、タレ目での目尻がさらに下がり、涙袋がうっすら出る。歯が。歯が白い。なんだこの白さ。白すぎるってことはないが、歯に命をかけてることが伝わる。

八王子レオも鳩田淳も芸能人の歯みたいな歯並びをしているが矯正したのだろうか。

大翔の歯は少し前歯がでていて、八重歯が目立った。これまで気にしたことはなかったが、この2人に見つめられると、自分が恥ずかしくなってくるのは何故だ。

インフルエンサーのオーラを浴びすぎてしまったのだろうか。


大翔は無性にイライラしてきた。ベッドから降りて、布団をめくって身の潔白を証明した。

「ないです!!!!!妹にそういうの本当に無理です!!!!!!」
 

保健室内がシーンとした。

遠くから小さく声が聞こえる。マジ暑い、もう走りたくない、と。外で体育をしている生徒がいるようだ。

鳩田淳は上も下も長いジャージを着ているが、1限は体育の時間だったのだろうか。それにしても5月なのにその格好は暑くないのだろうか。

八王子レオは薄い水色のシャツに、ノーネクタイ。薄いベージュのオーバーサイズのカーディガンを羽織っていた。ボタンがやたら大きい気がする。


俺も先輩も授業さぼって大丈夫なんだろうか。千鶴は今頃何食わぬ顔で授業受けてるのかな。あいつは昔からずる賢いというか、何でも器用にこなすからな。

またもや、今の状況と関係のないことを考えてしまった。現実逃避のクセがあるんだな、と自分を分析した。


しかし沈黙は一瞬で、現実は待ってくれなかった。

「妹…?千鶴ちゃんが妹なの?」

「さっき千鶴が言ってた双子の兄貴って…お前なの?」  



淳とレオは顔を見合わせた。 

レオが鋭い目線でこちらに近づいてきた。大翔は顔を上げないと彼の顔が見えなかった。背高いな。181センチって良いな。俺160センチからもう伸びないのかな…。

また別のことを考えてしまった。

レオの顔を恐る恐る見た。 

睨んでる?怒ってる?呆れてる?どういう表情なんだ。

おしゃれな雑誌の表紙を飾る芸能人が、カメラ目線でする無の表情じゃん。

ああ。これから何が起きるのか…。



保健室の扉の外にまだいた千鶴とはっちゃんは、スマホで会話をしていた。


(千鶴ちゃん…私ら逃げたほうが良いかな?)

(はっちゃんは逃げたほうが良いかも…私はどうしよう…スライディング土下座したらお兄ちゃん軽傷で済むかな?いや、なんでお兄ちゃんのためにそんなことせなあかんねん)

(せやな…。一緒に逃げようよ…。)

2人は顔を見合わせてコクンっとした。

会話はないがお互いに思っていることは同じだと感じ合っていた。今日は良い収穫があった。ハトハチは現実でも付き合ってるんだ…!と。


女子2人は意気揚々と、そそくさと、その場を去った。   



はっちゃんは、興奮したら頭痛治ったし良かった~!と思いながら去っていった。


 
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