マチエール

カマンベール

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2話 首にヘビのタトゥー

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ピンク、青、オレンジ。

空が闇になるまでの間、束の間のカラフルな空。

5月の夕焼け色に染まるコンビニの中に、大翔と千鶴はいた。


「用事ってそれ…?」

「だから来ないでって言ったのに」


千鶴は大きな印刷機の前にいた。

印刷した写真には赤髪の男と茶髪の男が2人。お互いの頬がぴったりくっつくほど近づき笑ってこちらを向いていた。

服装は網戸みたいな布で、背景は、このカラフルな空よりカラフルなミラーボールの光を浴びて、地上に星でも降ってきたのかってくらい、やたらとキラキラしていた。


「なんだろこれ…アイドルの真似…?」

「お?!お兄ちゃん分かってるじゃん。そうこれはアイドルごっこしたハトハチのネップリ画像。インストに上がってたの番号♫」

単語の半分しか理解できなかったが、なんかキモいことしてんな、と大翔は感じた。


「集中できないからあっち行ってて。お兄ちゃんお金持ってきてないんだよね?普通に妹にお菓子おごる場面でしょここは。まじ何しにきた?ほら、そこ座ってて。」

普段は妹呼びすると反抗するくせに都合の良い妹である。

大翔は言われた通り、イートインスペースの硬いイスに座って駐車場を眺めた。


コンビニの光で照らされた、やたらでかい駐車場。

休憩しているであろう大型トラック、会社の制服を着た女性が乗るツーカラーの軽自動車、外でタバコを吸っている複数の男達。

様々な人々が行き来する駐車場で、気になるバイクを見つけた。

そのバイクは真っ黒で、どちらかというと小さめ。レトロというのかクラシックというのか、おもちゃみたいなバイクだな、が第一印象。

バイクには興味がないが、なんだか惹かれるものがある。絵を描く対象物として魅力的だ。

手持ち無沙汰の大翔はポケットからシワのついたA4紙と鉛筆を取り出しドローイングを始めた。

バイクというより、ライオンのステッカーに興味があったのかもしれない。シンプルな白線のみで描かれたライオンの絵はバイクの前方に貼られており、おもちゃっぽさを加速させていた。



すると、そのバイクに大柄な男が跨った。

長い脚で軽々とバイクに乗る。黒いバイクがさらに小さく見えた。



薄い茶髪に、瞳もうすい茶色の男。


(どっかで見たことある…誰だっけ?)


うーん、と思いながらも手は止まらず、その男もついでにドローイングする。


「れ、レオ様?!?!」

いつの間にか大翔の後ろに立っていた千鶴がボリューム抑えつつも大声をあげる。

「レオSummer…?」

「なっなんでここに?!青晴からも遠いし、レオ様の実家からも遠い、このコンビニを利用され?!えっバイク乗るんだ?!バイクでここまで来た?!えっ、良!!!」


目がバチバチに決まっている千鶴。


彼女がテーブルの上に置いたアイドルみたいな男2人の写真を見て、彼が誰か思い出した。

(あぁ…千鶴が推してる、八王子レオって人や…)


千鶴が御経のようにブツブツ言っている間に、レオはエンジン音とともに去っていった。



「っっっっ…いいもん見れたね…!!!!!!!!!」

「千鶴、ちょ、声でか…、えっ」

大翔が千鶴に引いていると、彼女の横に金髪でパーマをかけた人がヌッとでてきた

「元気いいね~😁」

丸いサングラスの向こうの目は見えないが、やたらとニコっと笑う口元が怖いと思った。

千鶴よりも大翔よりも背が高く、170センチはありそうだ。


大翔は椅子から立ち上がり、そっと千鶴を自分の後ろにした。


「あっ、すいません、気を付けます…」

黒タートルネックのノースリーブを着たその人は、首元の布がブカブカだった。隙間から少し絵が見えた。


(この男、首に…蛇のタトゥー彫ってる…?)


あっ。と大翔は思い出した。


首にヘビのタトゥー入った金髪の男が声かけてくる事案がある、と先生が話していたことを。

ちらっと視線を後ろにすると千鶴は黄色のフードをすっぽり被って顔を背けていた。

顔は見えないが、怯えていることがわかる。大翔は焦った。


(やばいかも)


すぐにその場を離れようと、テーブルに置いていた絵と鉛筆を持った。

「では失礼し…」

「その絵って君が描いたの?」

ヘビは当たり前のように大翔の手から紙を奪った。

「あ~!これ!これ!このバイクだ!!!そう、こんなステッカー貼ってあった。そーいえばこんな顔だった!確かに。ちょっとタレ目だよね、この男。背高くて茶髪でしょ?知り合い?」

「いや、さっき駐車場にいた人を何となく描いただけで…」

「え?今?嘘?いたの、この絵の人が?え~~~!!!悔しい~よ~!!!私、この人に会いたくてさ~。すんごい探してるのよ。え~~!!いたんだ~~😱」

この熱量。すぐ身近な人を思い出すな、と大翔は思った。


「あ…八王子レオのファンなんですか?」


千鶴が帰りたそうに大翔に話しかける。

「ちょ、おにい…、まじで帰ろって…」



千鶴の小声は大きな声にかき消された。


「ヒャ、ファン?wwwwwではないわwwwwwはちおーじれお?って名前なの、こいつ?www」


ヘビはお腹を片手で押さえてのけぞりゲラゲラ笑った。



「ちょっとね、穴きょうだ…ん~。若い子には説明が…。あ~!生き別れの兄弟なの。うん」


(この人…20代から50代だよな…?言われてみれば、八王子レオに似てなくもない気がする。髪の色が明るいの一緒だし)

大翔は納得した。


「なるほど。それは大変でしたね…あれ?千鶴いない?」

千鶴はいつの間にかその場にいなかった。

「あれ?すみません、ちょっと、はぐれたみたいなんでもう行きます。あ、その紙よかったらあげます。」


「あ、まじ?ありがと!」

ヘビは歩き出した大翔の腕をグッと掴んだ。

「急いでるとこごめん、ちょっとでいいから、ハチオージレーオのこと教えてくれない?」

眼光の鋭い笑顔で、お願いを装った命令をした。



(話していいのかな?八王子レオって検索したら出てくる情報だし良い…よな?)


「え~と。青晴高校3年の機械科で、ここらでは有名なYouTuberです。1番人気の動画が、メントスコーラ20本作ってみたってやつです。好きな色は黒。身長は181センチ。」

「え?なに?思ったより情報多い!ちょっとさっきの紙に書いてよ」

大翔はしぶしぶ書き出した。そして無事にその場を離れることができた。



「もしもし千鶴?今どこ?信号んとこ?俺もそこまで行くからちょっとまっててよ。一人で夜道は危ないって。」


空は夕焼けから夜空に変わっていた。

 
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