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崩壊へ

60.波乱の朝

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 夜が明け、朝が来た。

 疲れているはずなのに全く眠れなかった。



 疲れている日は、来て欲しくない朝なのに、今日は待ち遠しかった。



 朝には動ける。



 アランは明るくなったと思ったら飛び起きた。

 リランはまだ目をこすっている。彼の目は真っ赤だった。





「リラン。俺達も行くぞ。」

 アランはリランを軽く叩いて、身支度を始めた。



 いつもは叩き起こされる側なのだが、そんな場合じゃなかった。



 廊下に出ると、サンズとアレックスがいた。二人の目が腫れていることにアランは気付いたが、気付かないふりをした。



 そうだ。

 二人の方がアラン達よりもヒロキとの付き合いは長いのだ。



 気を遣わせてしまったなと反省したが、今はそれよりも動くことだ。



「アラン。まだ出るな。」

 サンズは念を押すためにアランを待ったようだ。



「そんな!!だって…早く皇国のやつを倒すためにライガたちを…」

 アランは縋るようにアレックスを見た。



「まずは情報整理だ。ミヤビは他の騎士が追っている。」

 アレックスは廊下の一角を指した。

 そこには険しい顔をしたマルコムがいた。

 アランは思わず顔を顰めたが、昨日マルコムが言ったことは事実だと思っている。

 だからアランもリランもこんなにマルコムに対して苦い感情を覚えているのだ。



「昨日のことは謝らないよ。」

 マルコムはアランを見て言った。



「…俺もだ。」

 アランは思った以上に小さい声になってしまったがマルコムに言った。



「ならいい。」

 マルコムはそれ以上アランに興味が無いようにアレックスとサンズを見た。



「リランはまだか?」

 サンズはアランに訊いた。



「もうすぐで来ると思います…リランは状況が掴めないままこんなことになったと思っているので…昨日はずっと混乱していました。」

 アランはヒロキの死に対してリランがただ茫然として実感できていないことを思い出した。

 彼はただ、漠然とした喪失感を覚えているのだ。



「そうか…団長は、まだヒロキさんの傍にいる。」

 アレックスは悲痛そうな顔をした。



「…なるべく団長に伝えないで欲しいですので、そのままでいいです。」

 マルコムはヒロキとジンがいる部屋を見て言った。



 アレックスとサンズは眉を顰めてマルコムを見た。



 ガチャ



「あ…」

 部屋からリランが出てきた。

 全員が集合しているのに気付いて少し気まずそうな顔をした。

 昨日の今日だからマルコムと気まずいのだろう。



「早くしな。」

 マルコムはリランを顎で呼んだ。



 リランは不満そうにしながらマルコムたちの元に来た。



「じゃあ、情報整理としよう。」

 アレックスはアランとリランを見た。



「君たちが一番情報を持っている。」

 マルコムもアランとリランを見た。



 アランは少し不満そうにマルコムを見たが、彼の目が冷たいだけというのに気付いて表情を変えた。



「俺は…ライガに会った。ヒロキさんはライガと闘うって…」

 アランは二人の間のことや、ヒロキがお宝様と話したことを言った。



 アレックスとマルコムとサンズは険しい顔をしていた。



「団長に…マルコムたちには言うなって言われていた。」

 アランは最後に付け足すように言った。



「…わかった。リランは…?昨日はライガの父親と言っていたけど」

 マルコムはリランを見た。



 リランも不満そうにマルコムを見たが、アランが話した手前自分が話さないということはせず、アランと同じように真面目な表情になった。



「…マルコムにも言った通り、追跡の途中で皇国のやつに襲われたのをブロック伯爵に助けられた。」

 リランは助けられたことや皇国の状況、ブロック伯爵から聞いたライガの父の話と帝国上層部がダメだと言っていた話をした。



「アレックスさん、サンズさん。ヒロキさんの死は…皇国の連中にとっても予想外だと思います。」

 マルコムは二人を見た。



 サンズもマルコムに頷いていた。

「ああ。団長に聞いたら、ヒロキさんは皇国で利用できる存在だったらしい。その証拠に皇国のやつらはヒロキさんを運び出そうとしていたし、手当ても最低限されていた。」

 サンズはジンから聞いた話をした。



「ただし、彼に関してはずさんだ。もし利用する気なら…捕まえるタイミングがあったはずだ。」

 アレックスはマルコムに問いかけるように言った。



「そう。ヒロキさんは現場の人間が気付いた。ということは、雇い主はヒロキさんを察知していない。」

 マルコムは頷いてアレックスを見た。



「お前、雇い主は帝国内にいると思っているんだな?それは間違いないと…」

 サンズはマルコムに確認するように訊いた。



「はい。…そして、皇国にも詳しい…一族のことも知っている人物だと」



 アレックスは困ったように首を傾げた。

「…今それに該当するのは、団長だ。だが、団長はターゲットだ。」



「団長のはずがありませんが、正直ヒロキさんのことが無ければ団長と考えていたかもしれないですが。」

 マルコムは首を振って険しい顔をした。



「…あの、ライガのお父さんって、今はどこにいるんですか?」

 リランは何かに気付いたように顔を上げた。



 アレックスとサンズは苦い顔をした。

 マルコムは興味深そうに二人を見た。



「…確かに、前団長は…該当する…けど…。」

 サンズは何か腑に落ちないようだ。



「絶対にありえない」

 アレックスは首を振って断言した。



「…」

 マルコムは二人の様子を見ながら険しい顔をしていた。







 




 ライガは向き合う騎士を見て苦い顔をした。

 ミヤビとは手合わせをしたことは無いのだ。

 それに、彼女はマルコムと同様ライガの同期にあたる。



 ミヤビは変わらず笑顔だった。



「ミラ…ポチと下がってて、木の影に…」

 ライガはミラをなるべきミヤビと顔を合わせさせないようにしようと直感的に思った。



「わ…わかった。」

 ミラはミヤビの方を一瞬見て頷いて、木の方にポチと向かった。



「やっぱり、ここの洞窟に来たんだね。」

 ミヤビはライガが向かおうとしていた洞窟の方を顎で指して言った。



「ミヤビ…逃がしてくれないか?」

 ライガはなるべく争いは避けたかった。



「ここの仕事、意外にチョロかったもんね。ライガが最後に盗賊を捕まえたんだよね。」

 ミヤビは懐かしむように言った。



「ミヤビ…頼む。」

 ライガは懇願するように言った。



「私が、ライガのサポートをして…ね。」

 ミヤビはライガを見て微笑んだ。



「!?」

 ライガは本能的に剣を構えた。



「なのに、なんで?命を預け合った間なのに、なんでこいつ選んだの?」

 ミヤビはミラを指して言った。



「こいつ…?ミラか?」

 ライガはミラのことを「こいつ」と言われたことに怒りを感じた。



「何でって…聞いても教えてくれないか…」

 ミヤビは腰の剣を抜いた。



「でも、私たちはこれで会話ができるよね…そいつにはできないけどね。」

 ミヤビは剣を構えた。



 彼女の構えはアレックスに似ていた。



「ミラ。なるべく出てこないで。」

 ライガはミヤビを睨んだ。



「あはははは」

 ミヤビはライガたちを見て笑った。



 そして、ミラの方を見て不敵に微笑んだ。



「あんたは出てこれないから。安心して。」

 ミヤビはミラに吐き捨てるように言うとライガに向かった。



 キイイイン

 ライガは、剣を横にしてミヤビの攻撃を受け止めた。



「ねえ。ライガ。」

 ミヤビはライガに微笑みかけた。
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