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逃避へ
29.定まる矛先
しおりを挟む王城前の広場が見れる建物の屋上では、イシュが弓を構えていた。
「しかし、邪魔くさい騎士たちだな。精鋭は戦っているのに…」
イシュは狙いをジンに定めようとしていたが、周りに騎士が多すぎで狙えずにいた。
「作戦は次の段階か。」
イシュは諦めたように言うと弓を別方向に向けた。
ヒュン
なじみ深い風切り音が響いた。
ザッ
「ぐあ!!」
どこからか飛んできた矢がイシュの肩に刺さった。
「どこだ。…あの女か。」
イシュは王城前の広場にいる弓を構えた女の騎士を見つけて舌打ちをした。
場所をずらし、アシとシューラの周りを弓で狙い、放った。
どうやら二人の撤退を助けるようだ。
ガッ
イシュの後ろから物音が聞こえた。
慌てて振り返ると、屈強そうな騎士とまだ少年といえる年齢の騎士がいた。
ゴン
屈強そうな騎士がイシュに斬りかかった。
いや、斬ると言うよりかは殴りかかるような剣筋だった。
イシュはどうにか避けたが、衝撃で建物にひびが入った。
「よく避けたな。」
屈強そうな騎士はイシュの動きを見て不敵に笑った。
「存在感がありすぎるからな。帝国騎士さんよ。」
イシュは体勢を立て直すと、どう撤退するか考えた。
二人は帝国騎士でも精鋭だろう。身に着ける鎧が式典用だ。
ヒュン
また風切り音が響いた。
イシュは今度は避けれた。
先ほど食らった矢の傷と二人の精鋭、そして矢を考えると選ぶことは一つだ。
「またな。精鋭たち。」
イシュは二人の騎士を見ると、建物から飛び降りた。
サンズは慌てて飛び降りた男を追おうとした。
だが、下を見ると、別の建物に飛び移って逃げたようだ。
「…くそ!!」
サンズは思わず建物を殴りつけた。
「…行きましょう。」
サンズの様子を見ていたアランが彼の肩を叩いて言った。
「…ライガを逃がした上に…襲撃犯も逃がすなんてな。」
サンズは顔を歪めて言った。
「ライガは、何であんなことを…」
アランはまだライガの行動に対して混乱しているようだ。
「…知るかよ。」
サンズはアランの頭を軽く叩いた。
飛んでいた矢をさばいているうちにシューラとアシは帝都に飛び込んだ。
「待て!!」
マルコムも続いて飛び込もうとした。
「止めろ!!市民を巻き添えにする気か!?」
アレックスが彼の前に立ちはだかった。
アレックスは近くにいたリランに何やら視線を送った。
リランを頷いて帝都に飛び込んだ。
「何で俺を止めるのですか?…追わないと。あいつ等捕まえて吐かせて…ぶっ殺して」
マルコムはアレックスを睨みつけた。
バチン
「今のお前は追うな!!冷静になれ!!」
アレックスはマルコムの頬を叩いた。
「冷静…?見てませんでしたか?さっきのこと」
マルコムは叩かれても顔をアレックスに向けて叫んだ。
「見たならわかるはずでしょ?どう見てもあれは協力してますよ!!わかってんのか?お前!!」
マルコムは唾を飛ばしながらアレックスに叫び続けた。
「だから、今のお前は追うなと言っている。」
マルコムの後ろにはジンが立っていた。
「仲間が裏切った。その状況で協力者を追うなと?」
マルコムは後ろにいたジンを睨みつけた。
「…鏡を見ろ。」
ジンはマルコムの様子を見て溜息をついた。
「…見ても俺は変わりませんよ。…ぶっ殺すまでは…」
マルコムは吐き捨てるように言うと、近くの騎士に当たり散らすように槍を押し付けた。
マルコムの様子を見てアレックスは苦い顔をした。
「お前だって、あいつと同じように腸煮えくりかえっているだろうに。よく冷静でいてくれるな。」
ジンはアレックスの肩を叩いた。
アレックスは周りを見渡してジンの傍に寄った。
「…団長は、ライガがお宝様を連れて逃げようとしていること知っていましたよね。」
アレックスは周りに聞かれないように囁いた。
「…悲劇を見たからだ。」
ジンはそれだけ言うとアレックスから離れた。
「団長…」
「…お前は帝都に残れ。必要な人材だ。」
ジンはそう言うと王城に入って行った。
ザッザッザ
王都の外の草原を馬が駆ける。
アシには、ライガに馬を差し向けてもらうだけでなく、追って来られないように、馬を全て放してもらった。
「これが…そとの世界?」
ミラは一面に広がる草原を見て目を輝かせた。
「そうだ。ミラは小さい時しか帝都の外にいなかったから覚えていないかもしれないけど、木が沢山あるところも地面が高くなっている山もある。」
ライガは自分にしがみ付いて周りを見るミラに優しく微笑んだ。
「私、ライガとなら山に籠って手を泥だらけにする生活でも構わない。冷たいお水で指が痛くなっても大丈夫。」
ミラはライガに笑った。
それはとても幸せそうで、それと同時に悲しそうだった。
「どうした?ミラ。」
彼女の表情の中にある曇りに気付いてライガは馬の速度を落としてミラにゆっくりと訊いた。
ミラはライガに気を遣うように上目遣いで見た。
「ミラ。俺は嘘をつかないでいるのに、君は隠すのか?」
ライガは少し意地の悪いいい方と分かっていてもミラを問い詰めずにはいられなかった。
「…ライガ、仲間にお別れ言っていたよね。…私、自分のことしか考えていなくて、ライガに手を引かれたら幸せだって…でも、それでライガはあんなに悲しそうにお別れを言った。」
ミラは俯いていた。
「…そんなこと。」
ライガは確かに仲間との別れは悲しく苦しかった。
それは考えている。
それを全て考えてミラと逃げることを選んだ。
「もうそんなこと言うな。」
ライガは思ったよりも強い口調になって驚いたが、仕方ない。
ミラは驚いてライガを見た。
「考えて、全て考えてミラを選んだ。だから、ミラも俺のことだけ考えてくれよ。」
ライガはミラの目を見て言った。
馬は走り続けている。
ライガは自分の恰好が偉く目立つことを考えて、鎧を脱ぎ捨てながら馬を走らせた。
国からの支給品だが気にすることは無い。
あんな豪勢で無駄な祭典を開く国だ。
ただ、下だけは馬に乗りながらでは脱げない。
「ライガ。不格好。」
ミラはライガの恰好を見て笑った。
「かっこいい騎士の姿じゃなくて悪いね。」
ライガは口を尖らせて拗ねるように言った。
「そんなことない。ライガはどんな格好でもいい。ライガだから。」
ミラは目を細めてライガを見た。
「…幸せだ。」
ミラの目を見たせいか、思ったことを言ってしまった。
「私も、幸せ。」
ミラは笑顔で言った。
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