上 下
10 / 137
手を取り合う

10.馬車に乗って

しおりを挟む


 顔がボコボコの状態で騎士が帝都の警備についていたのを咎められたようで、団長であるジンは不機嫌だった。



「まあ、仕方ない気がするけど。」

 マルコムとミヤビは不機嫌丸出しのジンの被害に遭ったアランとリランを宥めていた。



「ボコボコだったのはあいつ等なのに納得できない!!」

 アランは大声で言った。



「そうだ!!俺らはきちんといつも通りで立っていたのに、あの包帯野郎!!」

 リランも叫んだ。





「いい度胸しているな。」

 丁度詰め所に入ってきたアレックスが引きつった笑みを浮かべていた。

 顔の怪我は腫れが引いてきたが、やはり未だに目立つ。



「アレックスと俺を一緒くたにするな!!」

 サンズも怒鳴りながら入ってきた。



「正直言うと、包帯野郎の方がやばい気がする。」

 苦笑いをしながらヒロキが入ってきた。



「先輩方…聞いてください。団長ひどいんですよ。」

 リランは三人を見つけると同意を求めていかに不当に怒られたかを主張した。



「言い分は分かったが、お前はさっきなんて言った?」

 アレックスは怒りを通り越して呆れた顔でリランとアランを見ていた。



「先輩たちをあいつ等呼びしただけですけど?」

 リランとアランはケロッとして言った。



「サンズ、アレックス。堪えろ。その代わり、俺が団長に包帯野郎呼ばわりしたことをきっちり伝える。」

 ヒロキは双子を見て言った。



 双子は絶望の表情を浮かべてしばらくポカンとしていた。



「でも、俺たちはどうすれと?内勤ですか?」

 腫れは引いてきたが、未だに痛む顔をさすりながらライガはヒロキを見た。



「いや、久しぶりに帝都外の任務だ。お前等三人と、団長と俺がつく。」

 ヒロキは困った顔をしながらも嬉しそうに言った。



「え?二人とも?」

 アレックスが少し不満げに言った。



「今回は近場の街道らしくて、俺も出ていいようだ。俺はお前等に比べてからが弱い。だからか、中々外に出してもらえないからな。せっかくの機会だ。」

 ヒロキは嬉しそうにしていた。



「団長とヒロキさんがいないなら誰が仕切るんですか?」

 アランは不安そうに横目でマルコムを見た。



「大丈夫だ。年齢も考慮して取り仕切ってもらうからマルコムが騎士団を取り仕切ることは無い。」

 ヒロキは安心させるように言った。



「そうもいかなくなった。」

 詰め所に団長のジンが入ってきた。





「「ギャアアアアアア」」

 リランとアランは飛び上がって叫んだ。



「そうもいかなくなったとは?」

 ヒロキがジンの方を見た。



「団長が帝都を離れるなと言われた。よって、俺とヒロキ以外全員で取りかかれ。」

 団長は直下部隊全員を見て言った。



「…俺、外に出たいな。」

 ヒロキはジンの方を見て強請るように言った。



「臨時の隊として動け。隊長はアレックス。副隊長はサンズ。近くの街道にある詰め所を見てくる任務だ。顔がボコボコでもできるだろ。」

 ジンはヒロキの言葉をガン無視して続けた。



「あの、俺は?」

 ヒロキはジンに恐る恐る訊いた。



「お前は、いつも通り帝都内で俺の補佐か、見回りだ。」

 ジンはヒロキを指差して言った。



 サンズとアレックスは気の毒そうに見ている。



 リランとアランは外に出るのが嬉しいのか、ジンから逃げられるのが嬉しいのか笑顔だった。



「ヒロキさん。お土産買いますから。」

 ミヤビは励ますように言った。



「…俺も、帝都の外に出てみたかった。」

 ヒロキは肩を落としていた。



「そう言うわけだ。お前らは急いで準備をして夕方には目的の街道の詰め所に着くように。任務は夕方からだ。移動時間の手当は出るが、断ることは許さん。」

 ジンは何やら書類を取り出し、アレックスに押し付けるように渡した。



「え?」



「よろこべ。馬車を手配した。一人荷台だが、お前等なら大丈夫だろ。」

 ジンは頷きながら笑みを浮かべた。



「馬車なんて…任務はほとんど徒歩か馬なのに。豪華ですね。」

 マルコムは嬉しそうに言った。



「本当。任務で馬車に乗れる日が来るなんて思わなかった。」

 ミヤビもうっとりしていた。



「最初は俺たちも行く予定だったからな。変更する時間ももったいない。」

 ジンはそれだけ言うとドアの外を指した。



「行け、だそうだぞ。お前等。」

 ヒロキは恨めしそうにライガたちを見ていた。







 流石王族と言っていいのか、ジンの手配した馬車は貴族階級が乗るそれだった。

「すごい。こんな馬車に…」

 リランとアランははしゃいで飛び乗った。



「ちょっと、仕事なんだからね。」

 ミヤビは二人を注意しながらも嬉しそうに馬車に乗った。



「団長が出るときは、こういうのなんだね。」

 マルコムは感心したように頷いていた。



 騎士団内にも貴族階級の出は確かにいるが、騎士団に所属する限り純粋に強さで階級が決められる。



 市民出の騎士は背負っているものが違い、騎士団内の上層階級は市民出が多い。あとは騎士の家系の者が圧倒的に多い。ライガは騎士の家系だ。

 ただ、団長が王族であるジンであるため、誰も文句が言えなかった。



 だが、精鋭部隊でも貴族出の者はいる。

 サンズとマルコムは貴族の出らしい。

 他にもいるかもしれないが、騎士団内で直接的に訊くのはタブーになる。





「荷台は嫌だ!!」

 リランとアランが全力で荷台を嫌がった。



「だが、誰か荷台じゃないと乗れないぞ。」

 アレックスは他人事のように言っている。

 自分は荷台に乗る気がさらさら無いようだ。



「俺乗りますよ。」

 ライガは仕方なく手を挙げた。



「えー悪いなー」

 サンズは口では悪そうに言いながらも、自分は決して荷台に乗る気は無いような口調だった。



「え?ライガ。そんないいのに。ほら、マルコムとかが乗るから。」

 ミヤビは嫌がるマルコムを押し出した。



「いや、俺が乗るよ。…ちょっと一人で考えたい気分だから。」

 ライガは自分が乗りたがっていると主張して、これ以上波風立てないようにした。



「大人だ。どこかの誰かさんたちとは違うな。」

 リランとアランはサンズとアレックスを見て言った。

 二人は少し双子を睨んだが、直ぐにライガを見た。



「悪いな。今度奢る。」

 アレックスはライガの頭を撫でた。



「いつも奢ってもらっています。」

 ライガは苦笑いをして、荷台に入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

処理中です...