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手を取り合う
10.馬車に乗って
しおりを挟む顔がボコボコの状態で騎士が帝都の警備についていたのを咎められたようで、団長であるジンは不機嫌だった。
「まあ、仕方ない気がするけど。」
マルコムとミヤビは不機嫌丸出しのジンの被害に遭ったアランとリランを宥めていた。
「ボコボコだったのはあいつ等なのに納得できない!!」
アランは大声で言った。
「そうだ!!俺らはきちんといつも通りで立っていたのに、あの包帯野郎!!」
リランも叫んだ。
「いい度胸しているな。」
丁度詰め所に入ってきたアレックスが引きつった笑みを浮かべていた。
顔の怪我は腫れが引いてきたが、やはり未だに目立つ。
「アレックスと俺を一緒くたにするな!!」
サンズも怒鳴りながら入ってきた。
「正直言うと、包帯野郎の方がやばい気がする。」
苦笑いをしながらヒロキが入ってきた。
「先輩方…聞いてください。団長ひどいんですよ。」
リランは三人を見つけると同意を求めていかに不当に怒られたかを主張した。
「言い分は分かったが、お前はさっきなんて言った?」
アレックスは怒りを通り越して呆れた顔でリランとアランを見ていた。
「先輩たちをあいつ等呼びしただけですけど?」
リランとアランはケロッとして言った。
「サンズ、アレックス。堪えろ。その代わり、俺が団長に包帯野郎呼ばわりしたことをきっちり伝える。」
ヒロキは双子を見て言った。
双子は絶望の表情を浮かべてしばらくポカンとしていた。
「でも、俺たちはどうすれと?内勤ですか?」
腫れは引いてきたが、未だに痛む顔をさすりながらライガはヒロキを見た。
「いや、久しぶりに帝都外の任務だ。お前等三人と、団長と俺がつく。」
ヒロキは困った顔をしながらも嬉しそうに言った。
「え?二人とも?」
アレックスが少し不満げに言った。
「今回は近場の街道らしくて、俺も出ていいようだ。俺はお前等に比べてからが弱い。だからか、中々外に出してもらえないからな。せっかくの機会だ。」
ヒロキは嬉しそうにしていた。
「団長とヒロキさんがいないなら誰が仕切るんですか?」
アランは不安そうに横目でマルコムを見た。
「大丈夫だ。年齢も考慮して取り仕切ってもらうからマルコムが騎士団を取り仕切ることは無い。」
ヒロキは安心させるように言った。
「そうもいかなくなった。」
詰め所に団長のジンが入ってきた。
「「ギャアアアアアア」」
リランとアランは飛び上がって叫んだ。
「そうもいかなくなったとは?」
ヒロキがジンの方を見た。
「団長が帝都を離れるなと言われた。よって、俺とヒロキ以外全員で取りかかれ。」
団長は直下部隊全員を見て言った。
「…俺、外に出たいな。」
ヒロキはジンの方を見て強請るように言った。
「臨時の隊として動け。隊長はアレックス。副隊長はサンズ。近くの街道にある詰め所を見てくる任務だ。顔がボコボコでもできるだろ。」
ジンはヒロキの言葉をガン無視して続けた。
「あの、俺は?」
ヒロキはジンに恐る恐る訊いた。
「お前は、いつも通り帝都内で俺の補佐か、見回りだ。」
ジンはヒロキを指差して言った。
サンズとアレックスは気の毒そうに見ている。
リランとアランは外に出るのが嬉しいのか、ジンから逃げられるのが嬉しいのか笑顔だった。
「ヒロキさん。お土産買いますから。」
ミヤビは励ますように言った。
「…俺も、帝都の外に出てみたかった。」
ヒロキは肩を落としていた。
「そう言うわけだ。お前らは急いで準備をして夕方には目的の街道の詰め所に着くように。任務は夕方からだ。移動時間の手当は出るが、断ることは許さん。」
ジンは何やら書類を取り出し、アレックスに押し付けるように渡した。
「え?」
「よろこべ。馬車を手配した。一人荷台だが、お前等なら大丈夫だろ。」
ジンは頷きながら笑みを浮かべた。
「馬車なんて…任務はほとんど徒歩か馬なのに。豪華ですね。」
マルコムは嬉しそうに言った。
「本当。任務で馬車に乗れる日が来るなんて思わなかった。」
ミヤビもうっとりしていた。
「最初は俺たちも行く予定だったからな。変更する時間ももったいない。」
ジンはそれだけ言うとドアの外を指した。
「行け、だそうだぞ。お前等。」
ヒロキは恨めしそうにライガたちを見ていた。
流石王族と言っていいのか、ジンの手配した馬車は貴族階級が乗るそれだった。
「すごい。こんな馬車に…」
リランとアランははしゃいで飛び乗った。
「ちょっと、仕事なんだからね。」
ミヤビは二人を注意しながらも嬉しそうに馬車に乗った。
「団長が出るときは、こういうのなんだね。」
マルコムは感心したように頷いていた。
騎士団内にも貴族階級の出は確かにいるが、騎士団に所属する限り純粋に強さで階級が決められる。
市民出の騎士は背負っているものが違い、騎士団内の上層階級は市民出が多い。あとは騎士の家系の者が圧倒的に多い。ライガは騎士の家系だ。
ただ、団長が王族であるジンであるため、誰も文句が言えなかった。
だが、精鋭部隊でも貴族出の者はいる。
サンズとマルコムは貴族の出らしい。
他にもいるかもしれないが、騎士団内で直接的に訊くのはタブーになる。
「荷台は嫌だ!!」
リランとアランが全力で荷台を嫌がった。
「だが、誰か荷台じゃないと乗れないぞ。」
アレックスは他人事のように言っている。
自分は荷台に乗る気がさらさら無いようだ。
「俺乗りますよ。」
ライガは仕方なく手を挙げた。
「えー悪いなー」
サンズは口では悪そうに言いながらも、自分は決して荷台に乗る気は無いような口調だった。
「え?ライガ。そんないいのに。ほら、マルコムとかが乗るから。」
ミヤビは嫌がるマルコムを押し出した。
「いや、俺が乗るよ。…ちょっと一人で考えたい気分だから。」
ライガは自分が乗りたがっていると主張して、これ以上波風立てないようにした。
「大人だ。どこかの誰かさんたちとは違うな。」
リランとアランはサンズとアレックスを見て言った。
二人は少し双子を睨んだが、直ぐにライガを見た。
「悪いな。今度奢る。」
アレックスはライガの頭を撫でた。
「いつも奢ってもらっています。」
ライガは苦笑いをして、荷台に入った。
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