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手を取り合う

1.父の思い出

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 父から毎日言われていた。

「お宝様をお守りするのだぞ。」



 お宝様と呼ばれる少女は、自分と同い年くらいで長くて黒い髪を綺麗に結い上げていた。

 目は真っ黒で、どこまでも淀むことのない色だった。



「我々騎士は、王家をお守りするのだ。」

 父は厳格な人だった。



「我々騎士は、お宝様と王子様が結ばれるいつかその日までお守りし、そしてそれからもお守りするのだ。」

 父は厳格な人だった。



 ただ、父がお宝様と言うとき、とても寂しそうだった。





 母が教えてくれた。



 代々お宝様の一族は、生まれた二人目の女の子を王家の者に嫁がなければならない。



 父は、お守りしていたお宝様に幼い、淡い想いを抱いていた。



 二人目の女の子だったらしい。



 母と出会う前のお話だ。



「その子はどうなったの?」

 自分の問いに母は少し悲しそうな顔をしたが答えてくれた。



「男の子を生んで、亡くなったのよ」

 母はそれだけ言った。



 ただ、それも母と出会う前の話だったそうだ。



 父はお宝様を守れという。

 そして、父は王家を守れとも言う。



 自分は、父の言葉に強く頷いた。

「はい、父上。自分はお宝様を守ります。」



 15歳になった日、いつも通り父に剣の訓練をしてもらっていた。



「強くなったな。」

 父は剣の達人だった。

 国一番の使い手と言われ、王室直属の騎士団の団長だった。



 そんな父に褒められて嬉しく思った。



「いいか、お宝様を守るのだぞ。」

 父はそれだけ言った。



 その翌日、国一番の剣の使い手だった父は決闘を申し込まれた。



 相手は王族の18歳の騎士だった。



 いつも通り家から出て行く父を見送った。



 それが父を見た最後の姿だった。



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