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~糸から外れて~無力な鍵

双頭

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 父親はいないようなものだった。母親も精神が不安定で、いつも知らない男を連れ込んだり連れて行かれたりしていた。



 祖母がいつも手を引いてくれた。

 いつも

「おばあちゃんがいるからね。」

 と私を励ますように、あやすように、何かを誤魔化すように言っていた。



 11歳の時にそんな祖母も亡くなり、私は1人になった。

 両親の噂を聞いていた学校の者達は誰も私に関わろうとせず、距離を置いて、警戒し、そして悪口を囃し立てた。





 12歳になるころには、母親の精神状態も安定せず、幻覚剤を隠れて常用するようになり、警察にも目をつけられた。



 ある日、いつも通り隠された教科書を探していると、隣のクラスの優等生が声をかけてきた。



「どうした?」

 彼は私を知らないようだった。



 彼の隣には最近転校してきた生徒がいた。

 ただ、隣のクラスだ。



「・・・別に。」

 私はぶっきらぼうに言って、彼らを無視するように教科書を探し続けた。



「スーンは禁断症状かな?」

 教科書を探している私を見つけた同じクラスの学生が私を見て笑っていた。



 その様子を見た隣のクラスの生徒二人は顔色を変えた。



 この二人に、自分がどう扱われているか知られたのだ。しかし、いつものこと。少し悲しいだけだ。





「待て。」

 隣のクラスの優等生が私の手を止めた。



「何?」

 私は探している時間が惜しくて苛立った声をかけた。



「探し物はなんだか知らないが、それについている指紋を取ると、誰が触ったかわかる。」



「他人の物を取るのは犯罪だ。」

 次は最近転校してきた学生が言い、私を笑っていた生徒を見た。



 二人の様子を見て同じクラスの生徒は顔色を変えた。

「そいつが誰だか知っているのか?そいつの親が、どんな」



「お前がクソだということは分かった。」

 転校生は私の隣に座り、私と同じように探し物を始めた。



「お前が親で人を扱うのなら、俺は親を使ってお前を扱おう。」

 確か、優等生の親はドーム内の有力者だった。

 親に恵まれ、他人から一目置かれている彼は、私からしたら甘えた生徒だった。



「あいつのアレ、ハッタリだから。」

 隣で私と同じように探し物をしている転校生は私に笑いかけた。



「…俺、コウヤ・ハヤセ。この前この学校に引っ越してきた。」

 転校生は自己紹介をした。彼はコウヤというようだ。



「俺はシンタロウ・コウノだ。」

 優等生の名前は知っていた。だが、直接話すのも聞くのも初めてだった。



 今まで名前は知っていても、優等生と転校生としてしか認識していなかった二人が、私の中で名前を持った人間となった。



 二人が私と友達になって、私は家族が大変でも大丈夫だった。



 私にとっては、二人が家族。

 器用になんでもできるコウヤと勉強のできるシンタロウ。みんなから一目置かれる二人と仲良くなった私はもう嫌がらせも受けなくなった。



 そのうち、私はコウヤが好きになった。

 だから、コウヤとシンタロウは仲がいいのが羨ましかった。



 二人の間には入れなかった。



 三人でドームの夜空を見たこともある。

 18歳になり、それぞれ将来のことを考え始めていた時、私はわかっていた。



 二人が行くであろう大学に私は行けない。

 ドーム内でもトップの成績を修め、医者や研究者も目指せると言われるシンタロウ。

 記憶力が良く、器用で人の動向を予想するのに長けたコウヤ。



 二人とも第3ドームの大学に入れるだろうと言われている。対して私は、勉強も世渡りも人並み以下。



 まして、私は経済力がない。



 二人が進路を決めることは、私との決別を表す。



 そんなある日、最悪の形で私たちの絆は深まった。



 三人の住む第一ドームがゼウス共和国に攻撃され、破壊された。



 たぶん私の両親は死んだだろう。だが、私は二人がいればよかった。





 

 月に建造されたドーム、その名も「天」。

 そこの港から地球に向けて出ている定期便に乗れたユイとアリアは並んで座ってため息をついた。



「全く、何で連絡が取れないの?」

 アリアの横にいるユイは口を尖らせて自身の持っている端末を眺めていた。



「ユイは自分で連絡取ることできるでしょ?」

 アリアは少し羨ましそうにユイを見た。



「あれすごく疲れるんだよ。それに、宇宙飛んで直ぐにこれに飛び乗ったから全然集中できないんだよ。」

 ユイは疲れを表現しているのか、顔を顰めた。



「地球に降りたらどうするの?」

 アリアはユイに尋ねた。



「まずコウに会う。それから大学に戻って、大人しく勉強する。」

 ユイは少しむくれたように言った。



「そうか。私もコウヤに会いたい。・・・ユイを盗っちゃうよって脅しに行く。」

 アリアはユイの頬をつつきながら笑った。



「シャレにならないよ。」

 ユイは吹き出すように笑っていた。



 シャトル内が騒がしくなってきた。

「なんだこれ。」

「これ機密だろ?」

「こんなにいたのか。」



 口々に発せられる言葉に二人は首を傾げた。



 全員が端末を見ているか、特に騒がしいロビー部分で情報番組を流しているモニターを見ているかだ。



「戦士が公表されるなんてな…」

 その呟きを聞いて二人は飛び上がった。



 急いで二人はモニターのあるロビーに向かった。



 画面に映し出される文字を見て二人は蒼白になった。



「…ユイ。地球に降りたらすぐに飛び出すわよ。」

 アリアは呆然とするユイの肩を叩いた。



 ユイは顔が青いまま頷いた。

 だが、二人が向き合っている中、シャトルの乗組員と思われる人物が何やら端末を見ながら歩いてきた。



「…この船にユイ・カワカミ様はいらっしゃいますか?」









 ドームが揺れている。



 だがそれよりも高らかに笑う兄の顔が、自分の知らない者になっている。



「兄さん!!どうして…」

 リコウは知らない顔の兄に叫んだ。



「…作戦実行。ここに三人いる。」

 兄は無線を持ち、何やら話しかけている。



「何の作戦だよ!兄さん。」



「お前も来いリコウ。」

 アズマは叫ぶように問いかけたリコウの言葉を無視し、彼の腕を掴み歩き出した。



「穏便になんて、やってられないな。」

 リコウを引っ張りながらアズマは講堂に飛び込んだ。





「あ⁉ヤクシジのお兄さん!急に揺れて…」

 講堂に集まっていた生徒たちはアズマの姿を確認すると駆け寄ってきた。



 アズマは腰に手をかけたが、直ぐに舌打ちをした。



 リコウはその行動で彼が銃を取り出そうとしていたのが分かった。

 その行動を確認したことでリコウは無意識にアズマの手を払った。



「リコウ…?」

 アズマは驚いた表情をした。



「何で?兄さん。何が目的で…」

 リコウはアズマと距離を取り、向き合った。



「目的…?俺は言っただろ?いつか最強の軍人を更新したい…そして、俺は尊敬という概念を忘れた人間が大嫌いだ。」

 アズマはリコウの顔を見て、淀むことなくすらすらと言った。



 リコウは首を振り、必死に否定しようとした。



 周りの生徒たちが二人の様子を不思議そうに見ている。



「そこまでだ。」

 冷たい声が響いた。



 講堂には冷めた目をしたウィンクラー少佐が入ってきた。

 彼は周りの生徒たちを制するようにしながら歩いてきた。そんなことをしなくてもこの男の歩く先に立とうとするものはいないのだが。





「何をするつもりだ?」

 ウィンクラー少佐はゆっくりと銃口をアズマに向けた。



 周りの生徒たちは何が起きているのかわからないようだが、彼の出す空気に固まっていた。



「…外の戦艦には、尊敬すべき戦士の一人が乗っていますよね?」

 アズマはウィンクラー少佐を見て、にっこりと笑った。



 その言葉を聞いた瞬間ウィンクラー少佐の表情が変わった。



「我々は、戦士に危害は加えるつもりはない。」

 アズマは、やはり尊敬するようなまなざしを少佐に向けていた。





「戦士には・・・ですけどね。」



 アズマはチラリと天井を見上げた。



 ゴシャン

 ドゴゴゴゴゴ

 講堂内に衝撃音と地響きと砂埃が満ちた。



「キャー」「ギャー誰か…」

 そして悲鳴と断末魔のような叫びも満ち始めた。



 リコウやアズマたちがいた入り口側とは逆の講堂の入り口部分に大きな鉄の塊がある。



 それは意志を持っているようで、見覚えのあるカメラ機能を備えた顔を模した一部分。



 無機質な生体兵器、ドールだ。



「ドールだ!!」

「どうして…」

 必死逃げ惑う学生たちと、もうドールの下敷きになってしまった学生たち。



「…ははは、これが現実だよ。お前らが犠牲にしていた、見ていないかった現実だ。」

 アズマは学生たちを見て笑っていた。



 ウィンクラー少佐は顔を顰めてアズマを見ていた。



「撃たないでください‼」

 リコウはウィンクラー少佐に駆け寄った。



 アズマはその様子に気付いて首を振った。

「リコウ。その人はお前が気軽に近寄っていい人じゃない。わきまえなさい。」

 いつものことのように注意をするアズマだが、その顔はもうリコウの知っているアズマではなかった。



「わきまえるのはお前だ。何の権利があって、こんな…」

 ウィンクラー少佐は悔しそうに歯を食いしばっていた。



「リコウ。安心しろ。少佐は俺を撃てない。状況を分かっていない奴なら撃ってしまうが、この人は状況を分かっている。」

 アズマは安心させるように微笑んでいた。



「…どうやって、ネットワークを回復させた?」

 ウィンクラー少佐はリコウを手招きして呼びながら言った。



 リコウはウィンクラー少佐の指示通り、彼の後ろに付いた。



「かつて、ドールプログラムで作られたネットワーク、それと同じようなものが作られつつある…と言ってしまえばいいですかね。」

 アズマは銃を向けられているのにも関わらず余裕そうな表情だった。



「誰が、そんな真似を?…カワカミ博士か?」

 ウィンクラー少佐は辺りを見渡しながら訊いた。



「さあ?私は自分のやるべきことのためにこれを利用させていただいているだけです。」

 アズマは後ろにいるドールに視線を向けた。



 どうやらドールには人が乗っているようだ。



「リコウ・ヤクシジ…いや、リコウ。」

 ウィンクラー少佐は後ろで悲しそうな顔をしているリコウに声をかけた。



「は…はい!」



「生き残っている生徒をまとめろ。」

 ウィンクラー少佐が言い放つと同時に講堂を破壊したドールは逃げ惑う生徒めがけて動き始めた。



「チッ…やっぱり下がれ。」

 ウィンクラー少佐は地面を蹴り、動き出したドールの元に走って行った。



「こっちに来い!俺の近くは安全だ!」

 ウィンクラー少佐の叫びを聞いて生徒たちが彼の元に集まってきた。



 その様子を見ていたアズマが舌打ちをしたが、仕方なさそうにして、彼もまた動き出したドールの元に歩き出した。



「待て!!兄さん!」

「駄目!」

 リコウが走り出そうとしたとき、彼の腕をルリが掴んだ。



「ルリ・・・?」



「危険だから…」

 ルリは泣きそうな顔をしていた。彼女の体には誰かの血がたくさんついており、どうやら破壊された講堂の入り口付近にいたようだ。



「…大丈夫?」



「…リコウ君。あの…教授が…」

 ルリは破壊された方向を指差して悲しそうに顔を歪めた。



「え?」



「…下敷きになって…、もう…」



 ルリは自分についている血はリコウとコウヤの通っている研究室の教授のものだと言った。



「え?」

 リコウは先ほどのドールの被害が現実のもので、人が死んでいることを認識した。

 今までの現実が消え去った気がした。

 そして、それをしたのは…



「…なんでだよ。」

 リコウはルリの手を振りほどき、走り出した。





「待ってよ!兄さん。止めて。もうこんなことをするのは…協力するのは止めろよ‼」

 歩みを止めないアズマをリコウは追いかけた。



「危険だ!止めろ」

 ウィンクラー少佐の制止する声が聞こえる。



 だが、そんなのはリコウには効かなかった。彼が強くてとても怖い存在だとは知っている。だが、それよりもアズマが完全に遠くに行ってしまうこと、そして彼がこれ以上の殺戮に共謀するのがなによりも怖かった。



「兄さん。俺を…置いて行かないで。」

 リコウの叫びにアズマは立ち止まった。



「お前も来いと言っているだろ?」

 アズマは微笑んで言った。



「もちろん、あなた方もですよ。」

 アズマはリコウの後ろにいるウィンクラー少佐に言った。



「断る。」



「今の状況を見てください。ここは制圧される。あなたも、他の三人も、おっと、俺を撃つとネットワークを止めることは出来なくなりますよ。」

 アズマは自分を指差して言った。



「何だと?」

 そう言ったのは廊下から走ってきたマックスだった。



「マーズ博士。あなたならこの状況わかるはずですよね。勝ち目がないこと。」

 アズマはマックスを見つけると微笑んで言った。



「…新しいネットワークの鍵なのか?」

 マックスの問いにアズマは笑った。



「そうであって、そうでない。ネットワークは不完全だ。だけど、あなた方に察知されずに通信機器を使うことも復活させることもできる。」

 アズマが手を挙げると構内の明かりが点滅し始めた。



「このドームの権限は、あなた方のネットワークにはない。」

 アズマは不敵に笑った。



「だからと言って…リコウを巻き込むのか?お前は…勝てない戦いに弟を巻き込むのか!?」

 マックスは急いでリコウに駆け寄り、アズマとの間に入った。



「…マックス?」



「お前は引きずられる必要は無いんだ。リコウ。」

 マックスはリコウの肩を叩き、アズマを睨んだ。



「勝てない?戦わずして勝とうと思うのはおこがましいと思わないですか?そもそも、私たちは敵ではない。」

 アズマは驚いた顔をしていた。



「敵は共通のはず。何で世界を支配できる力を持てるのに、こんな愚かな人々のために命を削るんですか?」



「お前の思想のために弟を巻き込むな!」

 マックスはアズマを睨み続けていた。





「リコウ。お前がアズマについて行くのなら俺は止めない。だが…アズマを抜きにしてお前はどう動きたいか考えてくれ。」

 マックスはリコウの肩を掴み諭すように言った。



「いや、止めろよ。」

 ウィンクラー少佐は呆れたように呟いた。



「俺は…兄さんに人殺しをして欲しくない。」

 リコウはアズマを見た。



 リコウは正義や自分の思想や美学を持っているわけではない。

 ただ、自分の世界の一部であるアズマが、殺戮を行うのを、自分が知らない残酷な人間になるのが嫌だった。

 たとえ、彼が望んでもリコウは止めたいと思った。





「俺たちは、たった二人の家族でたった二人の兄弟だろ?リコウ。」

 アズマは少し悲しそうな顔をしていた。



 ずっと自分を偽っていたのか。兄の知ない一面を見て、そんなことを考えたが、ともに過ごした時間はリコウを作り上げたものだ。



「俺は、兄さんを止めたい。」

 泣き出しそうな顔でリコウは叫んだ。



 リコウは、アズマの手に光の束を見た。

 それは、リコウの手にも持てそうだった。いや、リコウの元に移すことが出来そうだった。





 《君もそうだよ。》

 声が聞こえた。幻聴ではない。



 鍵とか意味は分からないが、これだけはわかった。





「俺は、兄さんを止めるために選ばれたんだ。」

 幻覚で片付けた男を思い出した。



 あの男の正体は気になるが、リコウは自分に与えられたものを無意識に分かり、アズマを睨んだ。



「止めて兄さん。」

 リコウは無意識に手繰り寄せるようにアズマの光の束を寄せた。



 アズマは目を見開いていた。

「な…?お前どうして」



 二人の様子が分からないのかマックスは首を傾げていた。

「ありがとう。マックス。俺は、兄さんを止める。」

 リコウの言葉を聞いてアズマは彼を睨んだ。



「リコウ…お前。」



「寄越せヤクシジ。」

 リコウの後ろにはいつの間にかコウヤが立っていた。



「先輩…」

「いや、手を貸せ。」

 コウヤはリコウの手を取った。





 リコウの手にあった光が全てコウヤに移るような、主導権が握られるような感覚がした。

 その通りだったのだろう。

 コウヤは殺戮を行ったドールを睨んだ。



 ガタンガタン



 ドールは音を立てて倒れた。



「な!?」

 アズマは驚きドールの方を見た。



「今のうちに逃げろ!!」

 後ろからウィンクラー少佐の声が聞こえた。

 どうやらリコウ達がやり取りをしているうちに学生を全て逃がしたようだ。



 リコウはマックスを引っ張ってウィンクラー少佐の指示に従った。

 コウヤはドールの方を睨んでいたが、少し首を傾げて直ぐにリコウ達の後に続いた。





「…次は殺す。」

 ウィンクラー少佐はリコウを見て言った。



「え?」

 リコウは何を言われたのかわからなかったがすぐにアズマのことだと分かった。



「あいつの言ったネットワークが解明できない限り、殺すことはできないが、すぐにマックスがどうにかする。」

 ウィンクラー少佐はそれだけを言うとすぐに後ろを走っているコウヤの元に向かった。



「…あいつなりに気を遣っているんだ。」

 リコウ達の様子を見ていたマックスがフォローするように言った。



「そうなのか。」

「わかってやれとは言わないけど、あいつの言動を責めたりはするな。」

 マックスは心配そうにウィンクラー少佐を見ていた。



「…マックスって、偏屈で嫌な研究者という印象を論文から受けていたけど、今のフォローとか、さっきのこととか…そんなことないってわかった。」



「…いや、そう言えば俺の論文を読んだって言っていたな。」



「ああ。」

 リコウはふと先ほどの兄の顔を思い出した。





「アズマを、兄を止めるの…協力する。シンタロウが何を言おうともな。」

 マックスはリコウの様子を見ていた。



「ありがとう。マックス。」

 リコウはマックスが息切れをしているのに気付いて、ペースを落とした。





 大学の構内から出ると、そこは地獄絵図だった。

 立ちすくむ学生たちがいた。



 だいぶ昔に見た、昔の映画に流れていた焼け野原や、エイリアンが襲来した後の町のようだった。



 シェルターは壊され、生存者は絶望的に思える。



「そんな・・・いや・・」

 みんながみんな、現実を見れていなかった。



 いや、現実を見たくなかった。



「全員戦艦に行くぞ。」

 後ろにいたウィンクラー少佐が言った。







 

 彼女のことは、最初は好きでなかったはずだ。いや、大嫌いだった。



 彼女は自分の好きなコウヤの特別だった。そして、彼女を守るために彼は命を懸けた。

 私は彼女を殺そうとした。けど、私はわかった。

 彼女ほど私を分かる人間はいない。

 生まれて初めてできた女の友達。

 仲間という言葉でない。友達だ。



 彼女と過ごした日々は楽しかった。

 お互いくらい過去を持っているが、それを表に出して慰め合うことはしない。

 けど、とても安心できた。



 彼女は何も知らなった。世間のことも。

 純粋で天真爛漫な彼女は妹がいたらこんなのだろう、と思える存在だった。



 他人の言葉を真に受けたり、少し空気が読めない所が短所だが長所でもあった。

 ただ、悪意には敏感だった。



 だから、今怯えている。





「大丈夫だよ。ユイ。」

 アリアは縮こまって震えるユイの肩を抱いた。



「アリアは、私と別行動した方がいいよ。」

 ユイはアリアを見て首を振った。



「何言っているの?あんたどうするつもりなの?」



「わからないけど、とにかく地球に降りたら、港行く前にシャトルから抜け出す。」

 ユイは周りを見て声を潜めて言った。



「じゃあ、付いてく。」



「そんな、巻き込めないよ。」



「あんたがコウヤに会うまでだから。それに、こうなったらシンタロウも出てくる。私も関係者。」

 アリアは巻き込めないと言いながらも縋るような目を向けるユイに笑って言った。



「ありがとう。アリア。」

 ユイはアリアの肩に、やっと安心したような表情をして寄りかかった。





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