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六本の糸~研究ドーム編~

60.道連れ

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「何だ・・・・?大勢で。」

 頭の機械が無効化された男は、別れた時と同じ場所で転がっていた。

「生きていたか。ジューロクだっけ?」

 コウヤは男を見て何故か安心していた。

「ああ、No.0016だ。・・・・おや?ラッシュ博士と・・・・」

 ジューロクはラッシュ博士を見つけて皮肉そうな笑みを浮かべた。

「・・・・錚々たるメンツだな。ラッシュ博士をはじめとして、ロッド中佐と・・・。俺を助けてくれた執事さん。あと、君たちか・・・・」

 コウヤとディアを見てジューロクは笑った。

「この人とコウヤ様達は会っていましたか。」

 カワカミ博士はコウヤとディアを見た。

「ああ。俺たちはここからドールの実験場の先に抜けた。」

 コウヤはそう言って方向を顎で差した。

「カプセル部屋から出れば、この施設から出れる。どうする?施設内から電車に乗るか?」

 ディアは施設内の別方向に電車が定着するところがあるのを覚えていた。

「そうね。その方が速いわ。」

 ラッシュ博士は箱を抱えたまま言った。

「・・・・・」

 ユイはラッシュ博士をあからさまに警戒していた。



「コウ。ついさっき、このドームを飛び立った船がある。おそらく、お前らが乗っていた船ではないか?」

 ハクトは眉を顰めていた。

「そうだな。これで、私たちは電車ということか。」

「お前はドールだろ。」

 ハクトはクロスに嫌味ったらしく言った。

 クロスはその言葉に笑った。

「・・・・先ほどのコウが発案した・・・接続なしでのドールプログラムへの侵入・・・・それを実践したおかげで、自分のできることが増えた。」

 クロスの不敵な笑みにコウヤは頼もしさを感じた。

 だが、ハクトは。

「・・・・クロス?」

 クロスに対して未だ警戒したままのようだ。

「ハクトは私を信頼してくれないようだ。悲しい。」

 クロスはそう言うと一人進み始めた。

「私はドールを捜して乗るさ。そっちは電車のところに行くといい。」

「待て!!単独行動は・・・・」

 ハクトとキースがクロスを追った。

「・・・・とにかくクロスを追う。ディアここ頼む!!」

 コウヤはそう言い、キース達に続いた。







 クロスは淡々と歩いている。



「中佐殿はこの先一人でドールの元まで走るのか?」

 キースはクロスを見て皮肉な笑い方をした。



「だから、言っただろ?自分のできることが増えた・・・と。」

 クロスはそう言うと研究施設の入り口であったかつて頑丈な扉であったものを飛び越えた。



「クロス。」

 ハクトとキースはクロスに続いた。



「なんならお前らも見ておくといい。コウ達はきっとできる能力がある。」

 そう言うとクロスは片手を挙げた。



「・・・・ドールはドールプログラムが内蔵された兵器だ。」

 クロスがそう言った時



 ガガガ

 ゴゴゴゴ



 地鳴りのような音が響いた。





「なんの音だ?」

 ディアはコウヤ達が戻ってくるのをカプセル室で待っていた。

「・・・・何かが動いている音・・・・地響きのような音ですね。」

 カワカミ博士も首をかしげていた。

「心配ですね。」

 イジーは不安そうな表情をしていた。

「・・・・この音、ドールが動いている音じゃないか?」

 シンタロウが思い出したように言った。

「そういえば・・・・」

 レイラは頷いた。

「・・・・見に行くぞ。あの4人に万一のことがあったら困る。」

 ディアはそう言うと走り出した。

「・・・あなた方って結局はお子様なのね。」

 ラッシュ博士は呆れていた。



 ゴゴゴ

 地鳴りが響く中、3人の軍人が立っていた。

「ドールプログラムの該当者・・・・特別とは恐ろしいな。」

 クロスは淡々と言った。

「クロス。お前、ここから単独で動くつもりか?」

 ハクトは怒鳴るようにクロスに言った。

「なぜ止める?私はドールに乗るのだから、この辺でお前らと別れるのがいいだろう。」

 クロスはハクトの声など気にしていないようだった。

「ムラサメ博士を止めるのに6人必要だ。」

「そんなことは分かっている。ただ、先にドールに乗って動くだけだ。」



「中佐殿。何急いで必死になってんだ?」

 キースはクロスに訊いた。

 キースの言葉にクロスは反応した。

「・・・・中佐・・・・いや、クソガキ。お前最初の自分の予定と大幅に違ってきていることに対して少なからず慌てているだろ。そして、その予定を実行することが不可能なことにも。」

 キースの言葉にクロスはわずかに歯を食いしばった。

「・・・・全く、お前は・・・・優秀すぎる。人の見なくていいところまで・・・」

 クロスはそう言うとため息をついた。

「予定・・・・?」

 ハクトはキースとクロスを交互に見た。



「・・・・コウヤとかはお子ちゃまだし、ハクトはあくまで軍人の域を出ていない・・・・だが、お前はそれを逸脱した行動を起こした。それを自覚している。」

「・・・・・まさか、ムラサメ博士を止める必要があるとは・・・」

 クロスは苦笑いをした。

「どういうことだ?」

 ハクトはクロスの笑い方に冷や汗をかいた。

「中佐は・・・死ぬに死ねなくなったんだろ。今の状況だとな。」

 キースの言葉にクロスは諦めたような笑いをした。

「死・・・・死ぬだと?」

 ハクトはクロスを改めて見た。



「お前と違い、私は手を汚し過ぎた。さっきお前が言った通り殺しすぎだ。若いものが私に憧れるのは偶像だからだ。そして、こんな汚い偶像はとっとと死すべきなんだ。」

 クロスはハクトに断言するように言った。

「お前・・・・親友と再会して嬉しくないのか?」

「・・・・その先を望めるほど私はおめでたくない。本当ならあの・・・・」

 言いかけてクロスは言葉を止めた。

 急いで振り向いた。

 その視線の先にはコウヤがいた。



「今の話・・・・本当?」

 コウヤは強張った表情をしていた。









 クロスはコウヤに笑いかけた。

「見ろ。コウ」

 ゴゴゴ

 地鳴りではなく、今は空気が震えていた。

 クロスは視線を逸らし、手を挙げた。

「これが私のできることだ。」

 コウヤ達の前には青と黒のハデスドールが立っていた。

「クロス・・・・今の・・・・」

 コウヤが言いかけた時



「4人とも!!何先走ってんだ!!」

 ディアとレイラの怒鳴り声が聞こえた。

「ほう。いつになっても怖いなあの二人は。」

 クロスは笑った。

「・・・・」

 ハクトはクロスを見つめていた。

「だが、愛おしい。だろ・・・・?」

「・・・・そうだな。同感だ。」

 ハクトはクロスの言葉に頷くと走ってくるディアに目を向けた。

「クロス。」

 コウヤは確かめるようにクロスを呼んだ。

「私は・・・・僕は役割を果たす。」

 クロスはコウヤにそう言うと笑った。



「これは・・・・」

 ドールを見つけたレイラとディアが驚きの声を上げていた。

「・・・ドールが・・・・」

「・・・・クロス様・・・・これを試したかったのですね。」

 カワカミ博士は納得したような顔をしてた。

 ラッシュ博士たちは驚きと好奇心を浮かべていた。



「・・・・遠隔操作・・・・これもドールプログラムで可能なことだろ?」

 クロスはそう言うと人差し指を持ち上げた。

 それにつられるようにゼウスドールは腕が下ろされ、コックピットへの道が開かれた。

「・・・・たまげた。」

 キースは目の前でクロスの意のままに動くドールを見て感嘆の声を上げた。



「おそらく、私たちはこれができる。・・・私の予想だと、コウ。お前はもうすでにやっているはずだ。」

 クロスはそう言うとコウヤを見た。



「・・・・やっているも何も・・・俺はまだプログラムを開いていない。」

 コウヤは否定しながらも何か引っかかった。

「お前・・・・どうして『希望』が破壊されたときに無事だったと?」

 クロスはコウヤを試すような言い方をした。

「・・・・クロスは何でもわかるのか・・・?俺の知らないことも・・・・あの時だって・・・」

 コウヤはかつて、クロスに、ロッド中佐にドールを与えられた時を思い出した。

 イジーはその様子を見て黙った。

 あの時、クロスが何を意図してコウヤにドールを与えたのか。



「コウ。私はこれからこの周辺を飛ぶ地連の戦艦に呼び掛ける。・・・・ディア。お前の『天』に置いたままのドール・・・・宇宙に放すように伝える。」

 クロスはディアに指示を出すようにいった。



「・・・・は・・・・私にお前がやったことをやれというのか?」

 ディアは笑った。

「できないはずない。本来ならレイラやハクトにも試してほしいが・・・そうもいかないだろ?」

 クロスは笑ってドールに向かって歩いた。



「ニシハラ大尉。ハンプス少佐の手を借りてここの者たちを全員無事に『天』まで護送しろ。」

 クロスは命じるように言った。

 ハクトは舌打ちをしたが、直ぐに姿勢を正して、敬礼をした。

「承知しました。ロッド中佐。」



「ルーカス中尉。」

 クロスはイジーを見た。

「は!!」

 イジーはハクトと同様に姿勢を正した。

「そこの彼をしっかり支えろ。」

 クロスはシンタロウを見て言った。

「はい!!」

 イジーは凛と響く声で返事をした。



 クロスはレイラを見た。

「また、『天』で会おう」

 そう言うとクロスはドールに乗り込んだ。





 彼の後ろ姿を見て

「やっぱり・・・・かっこいいな。」

 シンタロウは呟いた。

「若い軍人が憧れるのもわかるな。」

 ディアも納得したように言った。

「素敵ね。」

 ソフィはミーハー的な目を向けていた。

「ずっと・・・・あのカリスマ性とパフィーマンスがロバートそっくりだと思っていた。」

 タナ・リードは皮肉そうに笑った。

 カワカミ博士はそれを聞いて否定せずに黙った。

 彼らが話すクロスのことを聞き、コウヤとハクトとキースは黙った。




 ドールに乗り込んだクロスはコックピットからその様子を見ていた。

「わからない。いつだって私は。与えられた手札で戦ってきた。」

 クロスはそう言うとサングラスを外した。

「君たちにまた会えて嬉しい。できることなら、このままでいたい。」



「けど、止まることは赦されない・・・でしょう?父上?」

 クロスは口元に歪んだ笑みを浮かべていた。







「フィーネはいつまでこうしていればいいのですかね・・・・」

 テイリーは推理に熱中するレスリーとマックスに問いかけるように言った。

 何故二人に訊くかというと、この中で圧倒的にこの状況を理解しているからだ。

「・・・・俺は、ゼウス軍に紛れてきた。そのゼウス軍はどこだ?」

 レスリーは地連と共同戦線を張っていた戦艦たちが見えないことに不審な表情を浮かべていた。

「・・・・レスリーさん。どのくらいいましたか?」

 モーガンは何かに気付いたようにレスリーに質問した。



「戦艦は10~20くらいだ。ドールの小隊はだいたい中佐に戦闘不能にされた。実質ドールは使い物にならないだろう。」

「・・・・たぶんなんとなく無視していたけど、ゼウス共和国を撃ったレーザー砲って・・・どこのです?その戦艦たちじゃないですか?」

 モーガンの言葉にマックスは頷いた。

「そうだな・・・・レーザーが本物だとして、大きさと規模と威力を見ると戦艦に搭載されているものと考えていい。お前の言う通りだ。」

 マックスはそう言うとモーガンにぎこちなくガッツポーズした。

 モーガンはそれにこたえるようにガッツポーズした。

「じゃあ、ゼウス軍は・・・・・」

 テイリーは視線を先ほど攻撃された惑星に向けた。



「・・・・ああ。ゼウス共和国周辺を漂ってるはずだ。」

 マックスはそう言うとその場に座り込んだ。

「大丈夫か?」

 レスリーはマックスに駆け寄った。

「大丈夫です・・・・おそらく、ムラサメ博士でしたっけ?・・・・ゼウス共和国に向かっています。」

 マックスはそう言うと先ほど、衝撃的な映像を流したモニターを指差した。

「すみません・・・さっきの映像って履歴とか取っていますか?」

「え・・・?データが残せるような奴かわからないけど、ロッド中佐の件があったから、基本的に自動録画にしているはずだけど・・・・」

 リリーはそう言うと慣れた手つきでモニターのデータを探し始めた。



「どうしたんです?マックスさん」

 カカはマックスと同じ視線まで屈みこんで話しかけた。

「・・・・ゼウス共和国は全滅していない。大都市部はやられた。だけど、火星の裏面にまだいくつかドームがある。」

「・・・・そのドームはどんなドームだ?」

「研究所・・・・と、発電所と各ドームに電波を送る・・・要は電波の中継所だ。」

 マックスはそう言うとテイリーを見た。

「・・・・・さっきのお二人の話を聞いていると・・・・ドールプログラムを使っての洗脳に必要なものがそろっていませんか?」

 テイリーは引きつった表情をしていた。



「そうだ。ムラサメ博士はゼウス共和国に向かってるとするとゼウス軍の戦艦は向こうの手札になっていると考えた方がいい。」

 マックスの言葉にレスリーは頷いた。

「・・・・ゼウス共和国のドームについて、向こうは知っているのか?」

「それは問題ないと思う。レイラ・ヘッセはゼウス共和国の地理は熟知している。ラッシュ博士にしても自分が作った研究施設だ。俺も最初はそこで働いていた。」

 マックスは少し懐かしくなったのか、かすかに笑顔を浮かべた。

「レスリーさん!!ドームからドールが出てきました!!」

 リリーが上ずった声を上げた。



 その声にレスリーは素早く反応した。

「何色だ!?」

「青と黒です!!・・・・ロッド中佐です!!」

 モーガンは声に興奮を浮かべていた。



「・・・・レスリーさん!!『天』から、ドールが出てきました!!」

 次は別方向を見ていたカカが興奮した声を上げた。



「何色だ!?」

 レスリーの言葉にカカは一瞬息を呑んだ。

「白・・・・純白です。ディア様のドールだ!!」

 それに反応したのはテイリーとリオだ。

「ディア様の?」



 窓から見える純白のドールは引き寄せられるように研究用ドームに向かう。

 ハデスドールは途中エスコートするように純白のドールの手を取り、離した。

 研究用ドームの中に入っていく純白のドールを見守る青と黒のドールは優雅だった。



「ロッド中佐・・・・いや、クロスだ・・・・」

 その様子をみたレスリーが笑顔になった。

 レスリーの言葉に反応するようにハデスドールはフィーネに向かってきた。



 無駄がなく飛ぶさまは、ただ宙を飛んでいるだけなのに洗練されていた。



『フィーネの諸君。』

 通信が繋がれた。

「中佐!!」

 モーガンがいの一番に応えた。

「黙れモーガン。どうした?・・・・クロス。」

『・・・・レスリー。コウ達は電車で『天』に向かう。ディアと私はドールに乗り移動する。あのドールはディアが呼び寄せたものだから敵ではない。』

 クロスは一瞬戸惑ったようだが、堂々とレスリーと呼んだ。



「呼ぶ・・・か。恐ろしいなドールプログラムは・・・・」

 レスリーは皮肉気に言った。

『ああ。それより、諸君には地球に降りてもらう。』

「すぐにか?」

『すぐにだ。私たちは『天』に寄ってから降りる。』

「・・・・向かうドームは・・・・・」

『レイモンドさんのところだ。』

 クロスはそう言うと一方的に通信を切った。



「・・・・というわけだ。いいか?」

 レスリーは数少ない船員に訊いた。

「・・・・・」

 マックスは少し複雑な顔をしていた。

「どうした?マックス。」

 レスリーはそれに気づいたがマックスは問いに首を振った。

「わかりました。地球に降りるんですよね。」

 マックスは了承したと答えた。

「はい。私も。」

 リリーは敬礼をした。

「俺も!!」

 モーガンもリリーと同様に敬礼をした。

「俺も!!」

「俺も!!」

 カカとリオも敬礼をしたが

「カカとリオの上官は俺!!俺に一言言ってからにして!!」

 テイリーは困った顔をしていた。そして、複雑そうな顔をした。

「行くのは・・・レイモンド・ウィンクラーの元か?」

 テイリーは探る様にレスリーを見た。



「ああ。そこしかない。」

 レスリーは即答した。

「・・・わかった。」

 テイリーは慣れたようにすぐさま敬礼した。



「ねえ、この船・・・・地球への降下できる人いる?」

 モーガンの問いにテイリーは顔を青ざめさせた。

「・・・・・俺は軍人時代は操舵していたから俺がやる。」

 レスリーが呆れたように言った。

「いつ入れ替わったんですか?クロスさんとレスリーさん・・・」

 モーガンは不思議そうな顔をしていた。

「そうだな・・・地球に着いたら教えてやる。」

 レスリーはそう言うと凍結させていた操舵機能を回復させる操作を始めた。

 





「なるほど・・・・これは素晴らしい・・・・」

 ディアは眩しそうに白銀のドールを見ていた。



「本当に来た・・・・・」

 ユイもレイラも目を輝かせていた。

 それも当然だ。ディアができたとこは二人もできるということなのだ。



 ハクトは黙ってその様子を見ていた。

「クロスとディアが先に『天』で待つ・・・・ということで私たちは・・・この人質を連れて電車・・・ね。」

 レイラはディアの肩から腕を外し、よろけながら歩いた。

「心配するな。我々は・・・・逃げようとは思わない。むしろ・・・・この状況が一番の安全だと思っている。」

 タナ・リードは両手を広げ降参のポーズを取った。

「そうですね。ゼウス軍と地連の共闘が無くなった今、それのトップにいた者は迫害されますから。」

 カワカミ博士はそう言うとタナ・リードを見て意地の悪い笑い方をした。

「お父さん。そんな悪い顔もするんだ。」

 ユイは父の初めて見る表情に純粋に感動していた。

「『天』に戻ったら・・・・邪魔になるかもしれないけど、これからも一緒に戦うことを許してほしい。」

 シンタロウはコウヤとカワカミ博士に言った。

「わ・・・・私も!!」

 イジーもそれに続いた。



「まだ怪我をしていて・・・・戦力になるかどうかはわからない。でも、俺は役に立てることがあれば・・・・」

「シンタロウ。」

 シンタロウの言葉の途中でコウヤが言った。

「お前は戦力だ。母さんともまた会ってほしい」

 コウヤはそう言うと頼もしそうにシンタロウを見た。

「確実な味方だ。二人は私たちに・・・・必要だ。」

 レイラはそう言うとイジーとシンタロウを真っすぐ見つめた。

 その様子を見てコウヤは一瞬嬉しくなった。しかし、急に別の不安が襲ってきた。

「・・・だが、もし逃げたいときは言ってくれ。」

 コウヤは思わず漏れた言葉に言った後に動揺した。

 そのコウヤの様子を見てシンタロウとイジーは首を振った。



「今更だ。逃げないし逃げられない。俺は決めた。」

「私も。」





 ガガガ

 ディアがドームを遠隔操作し、腕を下げさせ、コックピットへの道を作った。

「すごい。これ私も自分のドールでできるのよね。」

 ユイは目を輝かせていた。

「そうだな。」

 レイラも目を輝かせていた。

 ディアはドールに向き直り

「クロスが変なことしていないか、見ててやるか。」

 そう言うとキースの方を見た。

「なんだい?ディアさん。」

 キースは何を言われるのか分かっているのか冷やかすように言った。



「ハンプス少佐。ハクトを頼む。」

 ディアはそう言うとハクトを見た。

 ハクトはそれに答えず無言でディアを見ていた。



「・・・・では私はこれに・・・・」

 乗り込もうと歩き始めたディアの腕をハクトは引いた。

「!?」

「俺がいく。」

 ディアを丁寧に抱き留め、そっと自分の体と場所を入れ替えた。



「は・・・ハクト!?」

 ディアは一瞬照れた表情をしたが、直ぐに真顔になった。

「なにやって・・・」

 コックピットに向かうハクトを止めようとした。

 だが、ハクトはドールの腕を上りきっていた。

「ハンプス少佐。頼みます。」

 ハクトはそう言うと、ドールに飛び込むように乗り込んだ。



「ハクト!!」

 ディアが叫んだ。

「悪い・・・・少し借りる。」

 ハクトはディアにそう言うとコックピットの扉を閉じ、ドールを後退させた。



 ガガガ・・・

「ちょっと!!ハクト!!」

 レイラが信じられないと呟いていた。

「ニシハラ大尉!!」

「ハクト!!」

 皆が口々にハクトを止めようと叫んでいた。



 コウヤは周りを巻き込まないように距離を取り、飛び立とうとしているハクトが乗り込んだ純白のドールを見ていた。



 《ハクト・・・・お前》

 コウヤはドールの中のハクトが何を考えているか、なんとなくわかった気がした。



「ディア。あんたが操っていたドールなんだから遠隔操作は・・・・」

 レイラが言うと

「ハクト様の方が、権限が上です・・・・止められません。」

 カワカミ博士は首を振った。

 キースは無言でその様子を見ていた。

「ハクト!!」

 ディアが聞こえるはずがないが叫んだ。



 それを合図にするように純白のドールは飛び立った。

「バカ!!」

 ディアは大人げなく怒鳴った。



「・・・・仕方ないです・・・・行きましょう」

 カワカミ博士は仕方なさそうに言うと、電車に向かった。

「ラッシュ博士。電車の操作は簡単?」

 イジーがラッシュ博士に訊いた。

「ええ。私に操作させるより、特別ちゃんにやってもらった方がいいわよ。」

 ラッシュ博士は顎でディア、レイラ、ユイを差して言った。







 駅に着くと電車とその先に大きな扉があった。

「ディア・・・・・閉じられているな。」

 コウヤはそこの扉をマックスに開けさせ、レスリーとディアと入ってきた時のことを思い出した。

「ああ。だが、ここからの操作で開けれるだろう・・・」

 ディアはそう言うと電車の操作盤はどこだと探し始めた。

 態度にはあまり現れていないが、とても不機嫌だ。

 それを手伝うようにイジーとラッシュ博士、カワカミ博士が動いていた。

 意外だが、シンタロウとリード氏がなにやら話をしていた。

 そんな様子を見ながらもコウヤの頭には別のことがあった。



「どうしたの?コウ?」

 ユイが目の前にいた。

「!!」

 いきなりのことで驚き、思わず飛び上がった。



「そんなにハクトが気になるの?」

 ユイは頬を膨らませていた。

「そんなに・・・ってまあ、親友だし・・・・」

「気になっているのはハクトだけじゃないでしょ。」

 レイラがコウヤを睨みながら会話に入ってきた。



「レイラ・・・・?」

 コウヤはどきりとした。



「男同士で何話していたのか・・・・聞いても教えてくれそうにないけどね。」

 どうやらレイラは先ほど、クロスとハクトの間で何かがあったことに気付いているようだ。

 キースはその様子を見ていた。



「コウ!!この操作盤で電車とあのドアの開閉を操作できる。」

 ディアはそう叫ぶと、コウヤ達を呼んだ。



「・・・・ディアも気付いているわよ。」

 レイラはコウヤに耳打ちした。



 レイラは動揺するコウヤを置いてディアの元に走って行った。

 ディアとカワカミ博士を中心として電車の操作とどのように乗るかなどの話をしていた。



「・・・・コウはいかないの?」

 隣に立っていたユイがコウヤの様子を気にしていた。

「ああ。行くよ・・・」

 コウヤはぼんやりと言うと

「コウは別のことで一杯だよね。・・・・・例えば・・・・・」

 ユイは電車の進路を阻む扉を見た。

「あの扉の向こうにあるドールのことを考えていた。」

 ユイの言葉にコウヤはドキリとした。

 そうだ。あの扉の向こうには、レスリーが乗り、ディアとコウヤで操作したゼウス共和国のドールがあるのだ。



「ここのメンツを気にしているのなら大丈夫だよ。私とディアとレイラは強いよ。」

 ユイはそう言うと笑った。

「だから、コウも行っちゃえば?」

 ユイの言葉にコウヤは驚いた。





 そして

「ありがとう。ユイ。」

 頷くとディアたちの方を見た。





「なにやっている二人とも。早くこっちに来い。電車を動かす。」

「そうよ。この辺はいいけど、宇宙空間を走るんだから、厳重に閉めるのよ。」

 ディアとラッシュ博士が電車の外で立っているコウヤとユイを呼んだ。



 ユイは電車に走り出した。コウヤも後を追うように走り出した。

 ユイは電車に飛び乗った。コウヤは電車の前で立ち止まった。



「どうした?コウ。」

「コウヤ?」

「コウヤ君?」



 コウヤを不審に思い呼ぶ声が聞こえる。

 声が音になり、コウヤは別のところに意識を向けていた。



 接続なしでプログラム内に入ったときのように、見えない糸を探すように。糸の先の人形を引っ張り出すように。



 ガガガ・・・



「!?」

 地響きのような音が響いた。



「なんだ?」

 キースはあたりを見渡した。

「あれ!!」

 イジーは前方を指差した。



 電車の進路を阻む扉が開いていく

 その様子をみてディアとカワカミ博士はコウヤを見た。



 だが、コウヤはその二人の様子より、見えない糸を引っ張る方に意識を集中させていた。



 ガガガ・・・

 空気を震わせる音が聞こえた。

 何かが動き出す音。



「ごめん・・・・みんな。」

 コウヤはそう言うと電車から離れた。



「俺も・・・・行くよ。」

 コウヤがそう言い終わるのとほぼ同時にコウヤの後ろに一体のドールが降り立った。



「コウヤ様!!」

 カワカミ博士が叫んだ。



「みんな・・・・『天』で会おう!!」

 コウヤはそう言うとハクト、クロスと同様にドールに乗り込んだ。



「閉めようぜ・・・・・」

 そう言いだしたのはシンタロウだった。

「・・・・・何で男子って・・・・」

 レイラがため息をついた。

「・・・・・」

 ディアは何も言わなかったが、ちらりとキースを睨んだ。



 閉まる電車の窓からシンタロウと目が合った。

 記憶が無くなってから出会った親友。

 6人以外の親友。

 彼はコウヤに笑い、呆れた顔をして見せた。



「・・・・サンキュー」

 自然と顔がほころぶ。









『・・・・というわけだ。詳しい説明よりも、動く必要がある。』

 月周辺に漂う戦艦はある人物の声を聴くために静まり返っていた。

『君たちには・・・・宇宙の人間を守る義務がある。・・・・私にもだ。』

 その戦艦に乗る軍人たちはその声を聞き洩らさぬように息を殺し聞いていた。

 小さい声なわけではない。彼らが勝手にそうしているだけだ。

『君たちは・・・・兵士だ。不運にも、この事態にそうなってしまった。だが、君たちはこの事態と戦う戦士だ。』

 彼の言葉に皆、息を呑んだ。

『誰が戦士になるのかではない。これは強制的だ。我々は戦士にならなければならない。』

 そこで音声だけでなく映像が戦艦に流れた。

「!?」

 画面に一人のサングラスをした軍人が映った。

『私は戦士になる。戦う術を持つからだ。守る術をもつからだ。』

 皆、画面に映る軍人に魅入っている。

 軍人の形のいい口元が横に引きしばった。彼は何かをこらえるようにし、そっとサングラスを外した。

「!?」

 サングラスの下には、美しい赤い瞳があった。

 その瞳に目が奪われているその瞬間

『今すぐ『天』に撤退し、次の戦いに備えろ!!』

 その軍人に合わない大声だった。

 響いた大声に反し、しばらく戦艦の軍人は無言だった。



 だが、堪えきれなくなったのか、熱を吐き出すように戦艦の軍人たちは叫び始めた。

「うおおおおお!!」

「わあああああ!!」

 と歓声が上がることもあれば

「は!!ロッド中佐!!」

「喜んで!!」

「中佐についていきます!!」

 などと言葉も上がる。

 ただ、どれも熱狂するような、何とも言えない喜びが満ちていた。
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幼い頃から米軍で人型機動兵器【アーマード・ユニット】のパイロットとして活躍していた 主人公・城坂織姫は、とある作戦の最中にフレンドリーファイアで味方を殺めてしまう。 その恐怖が身を蝕み、引き金を引けなくなってしまった織姫は、 自身の姉・城坂聖奈が理事長を務める日本のAD総合学園へと編入する。 AD総合学園のパイロット科に所属する生徒会長・秋沢楠。 整備士の卵であるパートナー・明宮哨。 学園の治安を守る部隊の隊長を務める神崎紗彩子。 皆との触れ合いで心の傷を癒していた織姫。 後に彼は、これからの【戦争】という物を作り変え、 彼が【幸せに戦う事の出来る兵器】――最弱の試作機と出会う事となる。 ※この作品は現在「ノベルアップ+」様、「小説家になろう!」様にも  同様の内容で掲載しており、現在は完結しております。  こちらのアルファポリス様掲載分は、一日五話更新しておりますので  続きが気になる場合はそちらでお読み頂けます。 ※感想などももしお時間があれば、よろしくお願いします。  一つ一つ噛み締めて読ませて頂いております。

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