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六本の糸~「天」編~
37.みかた
しおりを挟む「ねえ。マーズ博士。」
ラッシュ博士は数字を紙に書いてまとめているマックスを呼んだ。
「はい。なんですか?」
マックスは手を止めてラッシュ博士を見た。
「ねえ、あなたネイトラルのドール見てみない?」
「え?」
「あの例の白いドールが入った戦艦がおそらく「天」の港にあるわ。魅力的でしょ?」
ラッシュ博士は口角を上げてマックスを見ていた。
「みたいですけど・・・・それで研究が・・・」
「直接鍵とお話したくないの?」
ラッシュ博士はマックスを探る様に見ていた。
マックスは好奇心で目が一瞬輝いた。
「話したいですけど・・・自分はレイラ・ヘッセとも話したことがありますし、ユイ・カワカミともコンタクトを取ったことがあります。」
「まともな人よ。あの二人は少し感情的過ぎるわ。だいたい、あなた退屈でしょ?ここの研究員バカばっかりで。」
ラッシュ博士は愉快そうにマックスを見ていた。
「確かに・・・脳筋よりたちの悪いバカばっかりです。」
マックスは少し寂しそうに呟いた。
「仲良くなって研究所に連れて来られたら研究をメインでやらせてあげるわ。」
ラッシュ博士はマックスに何やら紙袋を渡した。
「・・・これは?」
「地連軍に混じっていたらいいわ。どさくさに紛れてドールを見たりできるし、運が良ければ鍵とも話せちゃうわよ。」
ラッシュ博士が渡したのは軍服のようだ。
「それに、あなたの弟が殺し損ねたディア・アスールと因縁のあるフィーネの艦長って・・・気にならない?」
「・・・自分は・・弟のことは割り切って・・・」
マックスは紙袋を強く握っていた。
「コウヤ様。大変な事態になりました。」
執事がコウヤの元に走ってきた。
「執事さん・・・どうしたのですか?」
コウヤはちょうどスクワットをしていたところだった。
「運動中すみません。こちらに来てください。」
執事の後を追っていくと、以前港の乗客名簿にアクセスした部屋に着いた。
執事は急いで部屋に入ると一つのパソコンをコウヤに見るように向けた。
「これを見てください。これは軍の監視カメラに不法でアクセスしているものですが・・・」
「あなた何やっているんですか?」
コウヤは執事の告白に驚いた。そんなコウヤを無視して執事は話をつづけた。
「以前、ニシハラ大尉が自ら犠牲にすることでお友達を助けようとしているとお話していましたね。もっと最悪の事態です。」
「これは・・・」
「今日はネイトラル、地連、ゼウス共和国の会談があるようですが・・・」
「ディア?」
「はい。総裁代理ということで出てますが、ネイトラルはこれから袋叩きにされるのです。そんな中彼女が出てくるといことは」
「袋叩き?」
「これは、ディア様がニシハラ大尉と同じ考えということです。」
「その前に袋叩きとは?」
コウヤは話について行けず、執事が話し続けるのを止めた。
「これから地連とゼウス共和国は何かテキトーなこと言ってネイトラルを敵にするはずです。会談で袋叩きにされるということです。」
執事はいつもよりも乱暴な口調でまくしたてるように説明した。
「はあ。で、これは、同じ考えとは?・・・どういうことですか?」
「ニシハラ大尉とディア様はお互いがコウヤ様と共に逃げるように思っていたということです。」
「・・・・は?」
「おそらく港にはネイトラルの船がコウヤ様とニシハラ大尉が乗り込むことを想定して待っています。」
「執事さん。あの二人は馬鹿ですか?」
コウヤは、分かるはずもない質問を執事に思わずしてしまった。
「私の口からは言いにくいですが、お二人とも平常の時はおバカでは無かった気がします。」
「馬鹿ですよ!!」
コウヤは思わず声を上げた。
「あの二人、お互いが絡むと冷静に判断できなくなるんです。それは自分たちだってわかっているはずです。」
コウヤは走り出した。
「どこへ行かれますか?」
「決まっています。もう二人を連れて来ます。」
「それは無理です。」
執事は断言した。
「どうしてですか?」
「片方のみなら可能です。最も現実的なのは、ディア様です。彼女を連れてネイトラルの船に乗ってください。」
「ハクトは?」
「彼の決意を無駄にしないでください。」
執事は車のカギをコウヤに投げた。
「これは・・・」
「運転はできますね。改造しているので相当飛ばせます。あと頑丈です。」
「執事さん。」
「記憶を戻してまた、お会いしましょう。その時は、ほかのお友達も一緒に来てください。」
執事はそう言うと笑った。
「ありがとうございます。」
コウヤは走り出して屋敷を出た。
屋敷の前にはどうやら渡された鍵の車が停まっていた。
「ありがとう。」
コウヤはロッド家の屋敷に言うと車に飛び乗り、走り出した。
「軍の施設・・・・やば、場所が・・・・」
いや、ハクトとディアの気配を探るんだ。
コウヤは自分が何かを察知できることを思い出した。
「そうだ。俺はあの二人がわかる。」
コウヤは勘と気配を働かしかつて、ドールに乗ったときのように気配を探った。
「待ってろ」
コウヤは車を飛ばし、気配の元に向かった。
《どうやら、軍の人間は私のことをそこまで脅威に感じてないようだ。ドール以外では》
ディアは周りの警備を見て確信していた。
「都合がいい」
そういうと彼女は窓に寄りかかった。
「アスールさん。体調でも悪いのですか?」
「いえ。ですが、この会談は意味が無いようなので。」
ディアは彼女を心配するそぶりを見せている者たちを見て笑っていた。
「意味とは・・・?」
「外の警備は警備でなくて見張りですよね。私を捕虜か人質にとるため・・・サンプルとでも言ったらいいですかね。」
「ほう。」
今日の会談の出席者の一人、ゼウス共和国の元准将が感心したように言った。
「ニシハラ大尉をちらつかせれば私が引っかかると思ってらっしゃる。」
《その通り。》
ディアは自身で勝手に頷いていた。
「ここからどう逃げます?」
「あなた方はネイトラルを潰すつもりですね。」
ディアはもう一人の会談の出席者を見た。
見た目は強そうにしているが、気の弱そうな軍人だ。確か現総統のライアン・ウィンクラーと言ったはずだが、元准将との様子を見ると、地連はもはや、ゼウス共和国の元准将の言いなりのようだ。
《なるほど。これがトップだったのか。だからロッド中佐が邪魔だったのか。》
「それを考えたところでどうされるつもりですか?」
《この男たちはまだそこまで知らないのか》
ディアは安心していた。
「この部屋は5階ですか。」
窓を眺めてディアは言った。
「元総裁どの。あなたには何の力もないのですよ。」
元准将は余裕そうに言っていた。
「そうですね。私は無力で愚かでした。」
《強化ガラスか・・・警戒はしているということか》
ディアは笑った。
「その辺の軍人と私を一緒にしないでいただきたい。」
「してない。君はレイラ・ヘッセと同等の者だと思っている。」
元准将は笑っていた。
「そうか。だから強化ガラスか。だが」
ディアは胸に差していた、万年筆を握り窓を殴った。
窓は鈍い音を立ててヒビを入れた。
元准将は驚いた顔をしていたが
「警備!!」
と外の警備を呼んだ。
「無駄だ。」
ディアはヒビの入った窓に体当たりをし、窓を割り、そのまま飛び降りた。
元准将はディアが飛び降りた窓に駆け寄った。
「くそ!!化け物め!!早く探せ!!殺す気で行かないと捕まえられない。女だからと言って油断するな。」
そう叫ぶと急いで部屋を出て行った。
しばらくすると割れた窓からディアが入ってきた。
どうやら飛び降りたふりをして窓の上に張り付いていたようだ。
「本性を出したか。」
ディアはそう言うと目を閉じて勘を働かせた。
《コウ・・・?》
ディアは近づいてくる気配を感じた。
「さて、警備は下の階に集中しているな。」
ディアは余裕そうに笑うと廊下に出た。
廊下は驚くほど静かだった。
ディアが廊下を走る音しか聞こえないほどである。
「ここの軍人は仕事熱心だな。」
皮肉気に呟き彼女はコウヤの気配を探った。
とある部屋の前で立ち止まった。
「コスプレもいいか。」
ディアはそう言うと男子トイレと書かれた部屋に入った。
中からうめき声と鈍い打撃音が響いた。
しばらくすると軍服を着た、華奢な軍人が出てきた。
「悪く思うなよ。」
そういうとディアは堂々と廊下を歩き始めた。
「ハンプス少佐。」
キースは後ろから呼ばれて振り向いた。
「よお。ハクトじゃねーか。どうした?」
キースは声の主を確認すると安心したように笑った。
「実はハンプス少佐に頼みがあるのですが。」
「おう!!なんだ?なんでも言えよ」
キースが笑いハクトの肩を叩いた時
『緊急放送。アスール元総裁が傷害沙汰を起こし逃亡した。ただちに身柄を確保せよ。』
と軍施設内に放送が響いた。
「ディアが?」
「おい。俺に頼みどころじゃないな。」
キースは真面目な表情をして走りだした。
ハクトも走り出した。
「ディアが・・・何か行動を起こしたのか・・・」
《どっちにいる・・・・?コウか。コウがディアの元に向かっている。》
ハクトは立ち止まり方向を変えて走り出した。
「ハクト!!」
キースはハクトを追いかけた。
「ハンプス少佐。走りながらで申し訳ないですが、頼まれごと聞いてください。」
ハクトは後ろにいるキースに言った。
「なんだ?」
「リリーとモーガンどうしました?」
ハクトは前を見ていた。
後ろのキースの表情は見えていなかった。
とりあえずコウヤは無免許ではなかったが、今免許証は持っていなかった。
ハラハラしながら運転していると、車の収納部分に何やらパスケースが入っているのに気付いた。開けてみると偽名でのコウヤの免許証が入っていた。
「・・・準備良すぎる。というか、あの人何者だ?」
執事のことを考えてコウヤは思わず苦笑いした。
だが、それによって安心して車を運転した。
港までの道を確認しながら目的の軍本部に向かった。
「騒がしいな。どうしたんだ?」
コウヤは向かう軍本部が騒がしいことに気付いた。
「帽子、帽子っと」
コウヤは後部座席にある帽子をかぶった。
後部座席には変装グッズと思われるものがあり、ここでも準備の良さに感心してしまった。
「そうだ。俺がディアとハクトを察知できるなら」
二人もまた、コウヤの存在を分かるはず。
ドールプログラムに適した体というのはすごいものだな、とコウヤは感心していた。
《しかも、かなり集中するとどこに人混みがあるのかも分かる。まるでテレパシーみたいだ。》
コウヤは察知できたことが楽しくなってきた。
これが冷静にできれば、自分は地球にいた時に違う選択を出来たのではないかとコウヤは後悔した。
《たぶん、ハクトも同じようなことができるんだろう。》
コウヤは人混みや喧噪から外れた場所に車を停めた。
《ディアはゆっくり歩いているな。かなり堂々と行動している。》
《ハクトは・・・誰かと一緒に走っている。》
コウヤはじっとしていられず車から降りて近くに者に話しかけた。
「すみません。ちょっといいですか?」
「は・・・はい。」
振り向いた者は軍人のようであった。
「あの、さっきから中が騒がしいのですが、どうかしましたか?」
軍人は少し考えて
「なにやら、会談中に傷害事件が起きたらしいですよ。」
と答えた。
「傷害事件?」
「はい。詳しくは、たぶん後ほどニュースになると思いますよ。」
「ありがとうございます。」
コウヤはそう言い車の方に戻った。
《ハクトは・・・今は一人か。しかし、どこに行くつもりだ?》
ディアはそろそろ建物を出ようと思っていたが、ハクトの動きが気になり留まっていた。
《せめて、ハクトを逃がそう。》
ディアはそう言うと軍人の集団の中に紛れハクトの方に向かっていった。
すると誰かがディアの腕をつかんだ。
「!?」
驚いたが騒ぐわけにはいかない。
落ち着くところに出るまでその腕をいつでも振り払えるような体勢を取った。
腕をつかんだものはディアを軍人の集団から外れさせ、ハクトの気配とは全く違う方向に向かわせた。
「待て!!誰だお前。」
ディアは腕を振り払い、腕を掴んでいた者を見た。
男の軍人であるようであった。
見たことはないが、知っている気がする。
男はディアの方を見ると笑った。
「直接会うのは初めてだな。」
男の声に聞き覚えがあった。
「お前は、フィーネの」
そう、フィーネとの通信で聞いた
「俺はキース・ハンプス。アスールさんを連れ去りに来た。」
キースはそう答えると再びディアの腕を掴み走り出した。
「待て!!私は」
叫ぼうとしたが、キースがわざわざ人混みの近くを通るため下手に叫べなかった。
《この男、私が下手に動けない道を通っている。》
ディアは警戒した。このキース・ハンプスと名乗った男が何のために自分を引っ張っているか。
「この先に待っている車に乗るぞ。」
キースは確認するようにディアに言った。
「・・・・この先」
ディアは驚いた。この先にコウヤの気配がある。
「お前は。」
「いいから行くぞ。」
キースはディアの腕を引っ張り走り続けた。
「なんだ?」
コウヤはディアが近づいてくるのを感じていた。
ただ、誰かに連れられている。
「この方向を分かるのは察知できるディアとハクトだけ。」
コウヤは警戒した。
万一の時はぶん殴って・・・
ディアが来たようだった。
「!?」
ディアの腕を引いていたのはキースだった。
「キースさん!!」
コウヤは驚いた。
キースはコウヤを確認すると笑顔になった。
「お前。」
感激したようだったがすぐに硬い表情に戻った。
「コウヤ。アスール様頼んだぜ。」
「待て!!私はハクトを」
キースの腕を払いディアは走り出そうとしていた。
「ディア!!」
コウヤはディアの腕を掴み車に引っ張った。
「コウ!!あいつがしようとしていることわかっているのか?」
ディアは必死に訴えかけた。
「知っている。だから、ディアを行かせるわけにはいかない。」
ディアはコウヤを睨んだ。
「早く乗れよ。アスール様もコウヤも。」
キースは二人を押した。
「キースさん。」
「悪いけど、二人行かねーとどうしようもないんだ。」
キースはそう言うとコウヤとディアを後部座席に乗るようにドアを開いた。
「俺が運転する。まだ、俺が逃がしたってバレてないから顔パスで港まで行くぞ。」
ディアは嫌がったがコウヤが無理やり乗せた。
「ハクトはどうする!早く助けないと。」
「ディアは行かないでほしい。お前まで行ったらハクトは帰ってこなくなる。」
「ハクトがどうなると思っている!!」
「ハクトの覚悟を無駄にすんな!!お前が行ったら無駄になるだろ!!」
コウヤはディアに怒鳴った。
「でも、私は、私は・・・・」
ディアは普段の冷静さが嘘のように取り乱していた。
「行くぞ。」
キースは二人の喧嘩をバックミラーで見ながら車を発車させた。
「ディア。お前がいる限りハクトはこっちに帰ってくる。」
ディアは泣きそうな顔をしていた。
キースは二人の様子をうかがいながら
「アスール様よ。ハクトから伝言があるけど、これはハクトから言わなきゃなんの効力もない言葉だから、戻ってきたらあいつの口から聞いてくれ。」
「ハクトから・・・」
「キースさん。もしかしてハクトから頼まれたんですか?」
キースは無言だった。
「港で俺は輸送船に乗る。二人はネイトラルの船に乗って宙に逃げろ。」
「・・・・わかりました。」
コウヤは頷いた。
「・・・・・」
ディアは黙ったままだった。
「どこを探してもいません!!」
兵の知らせに元准将は苦い表情をした。
「どこに・・・」
「大変です!!」
一人の軍人が走ってきた。
「どうした?」
「トイレでみぐるみを剥がされている者が・・・」
「・・・・あのくそガキ」
腕を震わせ元准将は唸った。
「すべての軍関係者を洗え!!監視カメラも確認しろ。」
港に着くと、軍が警戒態勢を取っていた。
「どうやらアスール様を待ち伏せしているようだな。」
キースはそう言うと車から降りた。
「キースさん!!」
キースは笑っていた。
「俺は輸送船を乗っ取る。たぶん俺が手引きしたってバレるのも時間の問題だ。その騒動に乗じてお前ら二人はネイトラルの船に乗れ。万一の時はすぐに車で逃げろ。」
キースはコウヤに運転席に乗るように言った。
「キースさん。どうして、そこまで・・・・」
「勘違いするなよ。コウヤ。俺はもう戻れないところまで来ていた。この行動を起こす前からだ。・・・そうだ。バトリーの妹の墓前だ。万一の時はな。」
そういうとキースは走り出し警戒態勢にあたっている軍人に声をかけ始めた。
ディアはむくれるように車の座席に座っていた。
「・・・・」
「ディア。また6人で会おう。って約束したのは覚えてるだろ?」
「・・・忘れるはずない。」
「ハクトは約束を守る。それは俺も、お前もだろ。」
ディアは無言で頷いた。
《・・・・必ず帰って来いよ。ハクト。》
「そうだな。」
ディアは自分に言い聞かせるように言った。
いつもの彼女の表情に戻っていた。
「ディア。」
「コウ。車を乗りかえるぞ。この車はおそらくバレる。」
コウヤはディアに促されるまま車を放置した。
「そうだな・・・」
ディアとコウヤは港を遠目で見ていた。
するとキースが輸送船に入っていくのが見えた。二人ほど人をつれていた。
「キースさん・・・・」
「・・・あの男が味方かどうかはまだわからないが、今はこの状況をしっかり観察しておく必要がある。」
ディアはいつもの様子に完全に戻ったようだった。
「そうだな。」
すると急に輸送船が動き出した。
輸送船から沢山の人が追い出された。
「動き出したな。」
「キースさんは一体」
「あの輸送船に私たち二人が乗った体を取っている。あの二人もカモフラージュだ。」
ディアはそう言うと周りを見渡し、ネイトラルの船が見える位置に着いた。
「わかることは、あの船にどう乗るか・・・・」
コウヤとディアはお互いの顔を見て頷いた。
すると港に軍の車らしき車両が何台も来た。
「ハンプス少佐を逃がすな!!」
そう叫ぶと軍人たちは輸送船を止めるよう近くの戦艦に乗った。
「戦艦か・・・」
ディアは厳しそうな表情をした。
「・・・ディア。輸送船はどこに行くつもりなんだ?」
「戦艦フィーネだろう。」
「フィーネ?・・・だから宇宙に放置したのか。」
コウヤの顔が青くなっていた。
「ディア。もし、軍の戦艦やほかのドールに追われたらどうなる。」
「・・・保険はかけてある。それに、私が乗っている可能性がある限り攻撃はしないだろう。」
ディアは険しい表情のままだった。
軍人たちはネイトラルの船にも入って行った。
「やばいな・・・動けない。」
「あの船の中には私のドールがある。地連の連中は操作することもできないだろうな。」
「あの真っ白のやつか。」
「そうだ。あれが使われることはないのが一つの救いだ。」
「破壊されることは・・・」
「ない。あれには地連とゼウス共和国の欲しがっているプログラムのうちの一つが搭載されている。」
ディアは断言した。
「じゃあ、安心だな。」
コウヤは安心したが、この先どうしようかと考えた。
「コウ。とにかく今はユッタちゃんの墓前に行くことが先決だ。」
ディアはきっぱりと言った。
「でも、船にうまく」
「だめだ。早いうちに動かないとここにいるのもバレる。軍を甘く見るな。」
ディアはそう言うと、その辺にあった一台のスクーターに乗った。
「あれ?車じゃ。」
「先入観が命取りだ。お前は顔がバレていないから一人で公共の交通機関を使え。」
「待って!!バトリーの妹の墓前って」
「ユッタちゃんの墓だ。ロッド家の近くにある。」
そういうとディアはヘルメットをかぶり走り出した。
「・・・早いうちに行動って、お前が言うなよな。」
コウヤはさっきまで駄々をこねていたディアを思い出していた。
港口からものすごい音が聞こえた。
「・・・キースさん」
どうやら輸送船は力ずくで宙に出たようだった。
「今はむりでも・・助けます。」
コウヤはそういうと港から慎重に走り去った。
「・・・・無事でいろ・・・」
ハクトは祈るように言った。
「ニシハラ大尉。」
後ろから知らない声が聞こえた。
振り向くとゼウス共和国の軍服を着た初老の男がいた。
「・・・あなたは?」
ハクトは警戒したが、直ぐに会談があったことを思い出した。
「我々はてっきりあなたが彼女を逃がしたのかと思っていました。」
「失礼、私は地連の軍人であるのであなたにどう答えていいのかわからないのです。」
ハクトは男の方を向いた。
「その心配はない。ニシハラ大尉。」
ゼウス共和国の男の後ろから聞き覚えのある声がした。
たしか、今のトップか。
ライアン・ウィンクラー総統は元々そんなに大きな功績は残していなかった。そして、気が弱く臆病なこの男がトップになったのは何故か知らないが、ゼウス共和国には都合のいいやつなのは分かっている。
「それは、どういうことです?」
「ゼウス共和国と地上主義主権連合国は一時休戦となった。」
「・・・・休戦?」
「そうだ。今はお互い共通の敵を排除することになった。」
ウィンクラー総統は誇る様に言った。何を誇っているのか知らないが、いいことではないのは確かだ。
「・・・・ネイトラルですか?」
「察しがよくていいね。そうだ。研究ドームにいくのだね。君もそこで大いに役立ってくれ。」
この男、ロッド中佐がいたときはびくびくしていたくせに、今はかなり気分がよさそうだな。ハクトは目の前の気の弱そうな軍人を冷たく見た。
「・・・ゼウス共和国と・・・」
「そんな顔をするな。ネイトラルが軍事力を破棄するまで叩くだけだ。」
ハクトはあとに続くであろう戦争を思うと吐き気がした。
「君と同じ船に乗っていた・・・ハンプス少佐のことだがね・・・まさか彼があんなことをするとは思っていなかった。」
ウィンクラー総統は悲しそうに言ったが、その目には自信が満ちていた。
「ハンプス少佐が・・・逃亡に手を貸したのですね。」
「君も気を落とさないでくれ。フィーネに乗っていた者たちのほとんどはいなくなってしまったが過去は過去。これからのことに気を向けたまえ。」
ウィンクラー総統のその口調にハクトは安心した。どうやらキースは無事宙に出たようだ。
彼にすべてを任せる決心をしたのは、彼を信頼したからだ。
ハクトはキースとのやり取りを思い出した。
「リリーとモーガン・・・・か」
キースはどうやら笑っているようだった。
「どうして俺がと思った?」
ハクトは立ち止まってキースの方を向いた。
「あなたが味方だからです。」
ハクトの言葉にキースは驚いていた。
「味方?・・・・どうして」
「誰と協力しているのかわかりませんが、リリーとモーガンを安全なところに連れて行きましたよね。」
キースはハクトの顔を見ていた。
「どうしてそう思う?何で俺はハクトに相談しなかった?」
キースはいつもの調子でへらへらしていた。
「俺に見張りが付いていたからです。そして、あなたはそれが誰かわかっていた。」
キースは降参のポーズを取った。
「へいへい。じゃあ、それが俺だとは思わなかったのか?俺がハクトを見張っているって。」
「最初はそう思いました。ですが、ある事実から違うと思ったのです。」
キースは興味深そうにハクトを見た。
「ある事実?」
「俺とディアの関係のことです。上層部はかなり重視してました。」
「おかしいと思わないのか?俺だってお前とアスール様の関係は知っていた。」
「重要さが違った。あなたは大切といっても、友人の一人程度に思うだろうけど、でも、上層部は恋人同士のように扱った。ゴシップを楽しむ程度の噂だと人質として利用はかなりの賭けだと思う。」
「・・・・」
キースは残念そうな顔をしていた。
「ハンプス少佐。その人物がわかっていたけど信じたくなかったんですね。」
「・・・・俺と同じだ。」
キースは残念そうに言った。
「ハクトがそう思うなら、そいつで間違いないんだな。」
「・・・・俺も信じたくなかったです。」
輸送船では悲鳴が響いてた。
「後ろから軍艦が!!どうしようどうしよう!!」
騒ぐのはモーガンであった。
「私に聞かないでよ!!どうします!!ハンプス少佐!!」
モーガンに怒鳴りながらリリーは操舵するキースに縋るように言った。
「安心しろ。撃墜はされない。この船にはアスール様が乗っている風に行った。フィーネとの合流までは誤魔化せる。」
「やっぱりネイトラルの元総裁は殺せないから?」
モーガンは安心したのかその場に座った。
「違う。彼女もハクトと同じサンプルだからだ。」
「サンプル・・・」
リリーは悲しそうな表情をした。
「さあ早くフィーネに合流するぞ!!」
キースは二人を鼓舞するように言った。
「はい!!」
二人は声を合わせてしっかりと返事をした。
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