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六本の糸~地球編~

27.影引き

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「総裁。申し訳ございません。」

 テイリーはディアの前で深々と頭を下げた。

「そんなことするな。どの道にしてもこうなることは想像できた。」

 ディアは困ったように眉を顰めていた。

「貴方が下ろされるなら、一体誰がゼウス共和国と腐った地連と渡り合えるのですか?」

「私を使えばだれでもできる。次は本格的な捨て駒かそれに近いものだろう。」

 テイリーは眉を顰めて表情を歪めていた。

「誰であろうと、ネイトラルは完全中立を保てない・・・これは、ゼウス共和国が地連と戦争を始めた時点でわかっていたことなのにな・・・・」

「国民には・・・・どう告げますか・・・・?」

「安全なところへの避難が先だ。残念だが・・・・ネイトラルの所有しているドームはもう安全ではない。」

「総裁・・・・」

「私はもう総裁ではない。それに、何を言っているテイリー。ネイトラルの本来の姿に戻るだけだ・・・・・それまでの時間稼ぎだろ?」

「本来の姿・・・」

「そうだ。アスール財団の尻ぬぐいのために造られたものだ。父上にな。」

 ディアは口元を歪めて言った。

「どんな目的で作られたにしろ、今沢山の人々の受け皿となっているのです。そんな嫌悪しないでください。それに、あなたが所属している場所でしょう?」

「その言葉そのまま返す。テイリー君。」

 ディアはテイリーを見て笑いかけずに言った。

「自分は、今はネイトラルの人間です。」

 テイリーはディアを睨みつけるほど鋭い目で答えた。

 ディアは頷いて、悲しそうに遠くを見た。

「ネイトラルの最後にパフォーマンスでもするか。」

 ディアはさみしそうだがやり切った表情で呟いていた。









 徐々に見えてきたドーム「天」を見てコウヤは息を呑んだ。

「頑丈そうだな。・・・月のドームはやっぱり地球よりしっかり作られているな・・・」

 コウヤは何かを思い出しているように言った。

「少しの欠陥も大事故に繋がるからな・・・中で砲撃でもされたらひとたまりもない。一度襲撃を受けた経験からかなり頑丈にされている。」

「やっぱり詳しいな。軍関係だから調べたとか?」

 コウヤは感心してハクトを見ていた。

「俺の父がドーム建築関係の技術者だ。だからよく話を聞いていた。」

 ハクトは覚えていないのか?とコウヤに聞いた。

「・・・・え、みんなの親の職業はいまいち思い出せていない。思い出しているのはユイとディアの親ぐらいだな。」

「そうか。じゃあ、だいぶ思い出しているな。」

 ハクトは頷いて呟いた。

「しかし、この頑丈なドームの中に、どうやって入るつもりなんだ?」

 コウヤは「天」を見て首を傾げた。

「それが一番の問題だ・・・・ここのドームは地連軍が守っている・・・」

 ハクトは目の前に見える宇宙の港らしきところを睨んでいた。

「手っ取り早いのは・・・近くで戦いが起きれば・・・軍の出動に紛れて潜入できる。」

「ダメだ・・・一般市民を危険にさらすわけにはいかない。」

 コウヤの提案にハクトは即却下した。

 コウヤは気まずそうな表情をした。

「別に・・・俺等が起こそうとしているわけじゃない・・・あくまでもしもの話だ。」

「・・・・・くそ・・・何かないか・・・・」

 ハクトはぶつぶつと呟きながら考えているようであった。

 コウヤはハクトとの軍人としての差を感じた。

 《・・・そうだ・・・・こいつはずっと戦ってきたんだ・・・》

 コウヤは昔時間を共有した親友が自分とは全く違う世界で生きていたことを改めて実感した。

「せめて・・・中から手引きしてくれるものでもいれば・・・・」









 沢山の偉そうな軍人が並んでいた。

 その中で一人だけ違う空気をした男がいた。

 その男の表情は鋭いが、他のものに比べて年齢は20代後半ほどに見えて若かった。

 だらしなく着崩された軍服が彼の性格を物語っているようであった。

「君が我々に情報をくれるとは思わなかったよ。どういう心境の変化だ?ハンプス少佐。」

 異質な若い軍人に偉そうな軍人の1人が柔らかな口調で言った。

「別に、大したものではないですよ。お宅らが中佐と大尉を怖がっているのはよくわかりますからね。」

 異質な軍人である、キースは周りを見渡して皮肉気に笑った。

「それで我々に協力するのか。できれば、君とは距離を置いて付き合いたいと思っていたが、協力的ならそれもいいだろうが、君が協力する意味が理解できない。」

 偉そうな軍人はキースの様子を探る様に見た。

「中佐や大尉にはできないことをあなた方はできるでしょう?」

 キースは鋭い目を周りにいる軍人に向けた。

「その話は、時間がかかると言っているだろう。」

 キースの言いたいことを察したのか、偉そうな軍人は首を振った。

「別にいいですよ。俺はあなた方に恩を売りたい。いずれ、返してもらえるだけの・・・ですよ。長い目で見て付き合いましょう。」

 キースは口元に笑みを浮かべていた。

「そうか・・・・では、好意的な付き合いを前提として、君は、わざわざ計画を変更しろというのかね?」

 沢山の偉そうな軍人がキースに威圧的に言った。

 その威圧を全く感じないような口調でキースはへらへらと笑った。

「そうですよ。下手に計画を続けようとすると痛い目見ますよ。」

「では、どうしろというのだ?」

「簡単ですよ。・・・・敢えて二人を接触できる状況にするんですよ。」

 キースが断言すると周りはざわめいた。

「・・・・そんな危険なこと・・・」

「バカなことを言うではない・・・」

 ざわめく男たちは顔に恐怖の表情を浮かべていた。

「うるさいぞ・・・・彼が何も考えずにそんなことを言うわけない・・・」

 一番偉そうな軍人がざわめきを制圧するように声を響かせた。

「おや?・・・これはこれはウィンクラー総統。そこまで信頼していただいているとは・・・・光栄ですね。」

 キースはわざとらしくロッド中佐のように手を腹の前に持ってきてお辞儀をした。

 他の軍人は誰の真似だかわかり、眉を顰めた。

「ですが、どうしてこの作戦に乗ってくれるのですか?」

 キースはさっきまでのへらへらした様子から一変してまじめな口調であった。

「簡単だ。ディア・アスールが総裁を辞めた今、彼女の動きを知るためにニシハラ大尉の信頼は欠かせん。」

 ウィンクラー総統は思慮深い声で言った。

「なぜニシハラ大尉がディア・アスールの動きを知るために必要なんです?」

 キースは偉そうな男を真っすぐ見ていた。

「二人は特別な関係だ・・・・強いきずなで結ばれた・・・・切っても切れないほど強い・・・・」

 ウィンクラー総統は余裕な表情をしていた。

「・・・・」

 キースは笑っていたが顔は青かった。

「最悪の場合・・・人質としても使える・・・・ディア・アスールはニシハラ大尉のためだと命は惜しまん・・・・逆もまたそう・・・」

「あの美人の相手がわが軍の大尉とは、羨ましい限りですね。」

 キースは冷やかすように笑っていた。

 ウィンクラー総統は余裕を持った表情でキースを見ていた。

「気づかれてないふりをして、接触させる・・・・向こうが自分たちの計画通りに動けていると錯覚させる・・・・安心させることが一番だ。」

「・・・・というと?」

「ニシハラ大尉の部下に敢えて軍内部から手引きさせてこのドームに来てもらうのだよ。」

「なるほど・・・・」

「彼らの行動は下手に抑えようとするのは得策ではない・・・・動かして・・・・誘導すればいい」

「幸いニシハラ大尉は我らの目があるところで下手なことはできない。」

 偉そうな軍人たちは口々にウィンクラー総統に対して賛成の意見を上げていった。

 キースはその様子を見て変わらず笑っていたが、余裕な表情はもう見せなかった。







 地球から飛び立った一つの大きな輸送船には沢山の人が乗っていた。

 その中に紛れるようにレイラとシンタロウは軍服でない恰好でいた。

 窓側の席でシンタロウは地球を見ていた。

「レイラ見ろよ・・・・すげーぞ地球が綺麗だ。」

「はしゃぐな・・・・私は何度も見ている。」

 レイラは呆れ気味に子供のように無邪気にはしゃぐシンタロウを見ていた。

「そっか・・・・俺は初めてだからな。地球を離れるのは。」

 シンタロウはそう言うと再び窓に目を戻し顔を輝かせた。

「ずっと離れたかったのに、こんな形では、皮肉だ。」

 シンタロウは地球を懐かしむように見て悲しそうに呟いた。

 レイラはシンタロウを心配するような視線を向けたが、それを振り切るようにシンタロウはレイラに笑顔を向けた。

「・・・私たちが向かっているドームは、私にとって忘れられない場所だ・・・」

「・・・・例の大切な人と別れてしまった場所か?」

「ああ。おそらく、そこで私の運命は変わった。違う選択肢もあっただろうにな。」

 レイラは自嘲的に笑った。

「・・・・・まあ・・・今はこれからのことを考えよう。」

 シンタロウは重くなった空気を振り払うように言った。

「過去に浸るのはすべてが終わってからだ。それからでも遅くない。」

 シンタロウはレイラの前に顔を出しニコリと笑った。だいぶ営業的な笑い方だったが、それにつられるようにレイラも笑った。

「お前は前向きだな。」

「俺だって、悔やみたい過去はある・・・でも、それ以上にどうにかしたい未来があるんだ。」

「・・・・そうだな・・・過去より未来だな・・・教訓と縛られていることは違う・・・」

 二人は穏やかな表情をしていた。

「問題はどうやって「天」の中に入るかだな・・・・」

 シンタロウは窓から地連の軍によって警備されているドームを眺めていた。

「なんだ?「天」には我が軍のスパイが大量にいる。心配は無用だ。」

 レイラはシンタロウを少し馬鹿にして言った。

 シンタロウはムッとした表情をした。

「基本お前って高飛車だとか言われないか?」

「わがままであるのは自覚している。」

「自覚してんかよ!!」

「性格というのはなかなか直せるものではないからな・・・・」

 レイラは苦笑した。

「・・・・まあ、無事に「天」に行けるならいいけどな。」

 シンタロウは別れた親友のことを考えた。

「お前はこれからどうするつもりなんだ?ずっと私の傍でこうやっているわけにはいかないだろう?」

「・・・・そうだな・・・」

「お前の友人に会えればそのまま別れてもかまわないぞ。自由にしろ。」

 レイラは笑った。

 シンタロウはその言葉を聞いた途端寂しそうな顔をした。

「助けろって言っておいてそれはないだろ。それに、俺はお前に言わなければならないことがある・・・・」

 シンタロウは周りの人眼を気にした。たくさん人がいるが、関係ない人のように思える。だが、そうでない気もしている。

「そう言えば・・・・何か会った時からそのようなこと言っていたな・・・・何だ?」

「・・・いや。時が来たら言う。」

 シンタロウはレイラから顔をそむけた。

「そうか・・・わかった。」

 レイラは納得した表情ではなかったが、仕方なさそうにしていた。







 自室の椅子に座り、指を組んでロッド中佐は首をわざとらしく傾げていた。

「不思議だな・・・急に出撃を待てとの知らせだ・・・・」

 ロッド中佐は声には余裕があるが、口元には笑みが無かった。

「本当ですね・・・・どうしたんでしょうかね・・・」

 イジーは客用のソファに堂々と座って書類を見ていた。だが、彼女の口元には笑みがあった。

「よかったですよ。これで中佐に少しだけ安全な時間が増えました。」

 イジーは書類から目を上げてロッド中佐を見た。

「・・・だが、その分、私の命の残りは少なくなっているな。」

 ロッド中佐は自分のことを言っているようのだが、他人事のように余裕であった。

「・・・・なんで、そう自分のことを簡単に言えるのですか?」

 イジーは不安そうな目をロッド中佐に向けた。

 ロッドは軽く笑った。

「・・・・地連軍の上層部には決してレスリー・ディ・ロッドの命は奪われない・・・」

「では・・・・なんで命の残りが少ないなんて・・・・」

「どうやら、軍の上層部に賢い奴がいるようだ。・・・私が殺される予定が早まるかもしれないということだ。」

 ロッド中佐はため息をついた。

「予定・・・・中佐・・・・まさか」

 イジーは声を震わせていた。

「私は殺されることを望んでいる。そのことは君も気づいているだろう・・・・」

「クロスさんにですか?あなたは彼に殺される予定を早めるという・・・」

「いずれ君は全てを知るだろう・・・・・いつになるかわからないがな。」

 ロッド中佐はイジーを見て笑った。イジーは彼を直視できず、目を逸らした。



「ルーカス君。知っているか?人が神になる方法を・・・」

「え?」

 予想外の問いかけにイジーは混乱した。

「寿命は関係ない。人は死ぬと神になる。いや、神格化される。」

 ロッド中佐は人差し指を帽子の鍔にあててわざとらしい仕草で顔を覗かせた。

「死んで神になるということですか?馬鹿ですよ。」

「知らん。神にするのは本人ではない。周りの人間だ。逆に生きているうちに神に並ぼうとすると引きずり降ろされる。大昔の歴史にこんな話があったのを覚えているが、現実でもそうだろう。」

「はあ・・・?」

 ロッド中佐は足を組み、わざとらしく首を傾けた。

「レスリー・ディ・ロッドは消そうとするほど生き続ける。もはや私を殺せるのは、私を凌ぐものだけだ。」

「命が無くなってもいいということですか?あなたは先ほど殺されたがっていたはずです。」

「人の感情は別だ。私は軍で働いている間、沢山の種をまいた。私への恐怖というものだ。憧れは消える場合があるが、恐怖はなかなか消えない。面白いことに恐怖と崇拝は似ているように思えるのだよ。そのすべての芽を摘み取ることは不可能だ。」

「上層部にも無理だと?」

「むしろ私は上層部に恐怖を撒いた。奴らは私を消したとしても、心にある恐怖に怯える。記憶の中にある亡霊に悩まされる。幸いなことに私を尊敬する素晴らしい若者も多い。」

「若者があなたを神にするのですか?」

「・・・ルーカス君。復活祭というのは知っているか?神の子が蘇ったことを祝うものだ。復活を経て、人々の心に刻まれたのだ。」

「教科書で読みました。今も行われているものですね。」

「だが、幸いに私は神の子ではない。私はクズの子だ。」

 ロッド中佐は口元歪めて片頬を吊り上げた。

「中佐!!親のことを・・・そんな。素晴らしい方のはずです。」

 イジーは上官ということを関係なしに怒った。

「・・・ああ、そうだな。悪かった。今のは忘れてくれ。」

 ロッド中佐は何かに気付き、慌てた様子を見せた。

「亡くなったお父上の事ですか?それとも・・・地球にいる母親のことですか?」

「今のは違う。忘れろ。」

 ロッド中佐は何かを払うように手を払った。

 明らかに余裕が無いのだ。何か危惧していることがあるのは目に見えてわかる。何か彼の心を乱すことがあったのだろうか。

 イジーは表情の見えないサングラスの奥を覗くようにロッド中佐を見た。







「どうでしたか?」

 重々しい空気の漂う建物の廊下で作業着の少年は不思議と背景となじんでいた。

「お前か・・・」

 キースは少年を見つけると厳しい表情をした。

「簡単ですよね・・・・」

「・・・・言うとおりにしたぜ。全く・・・たいした奴だな。お前は。」

「でも、実は当てずっぽうだったんですよ・・・・あなたが、軍上層部のスパイなんて・・・ニシハラ大尉もおそらく中佐も知らないでしょうね・・・」

「・・・・俺はただ、軍のお偉いさん方と話せるだけだ・・・・少佐という地位を持っているからであって、それ以外のなんでもない。」

 キースは少年を睨んだ。

「はいそうでした。・・・あなたは違う。こっちもわかっています。あの地獄の生き残りですから・・・・」

「・・・・お前。やっぱり、まさか・・・」

 キースは少年を見て目の色を変えた。

「先の話をしましょう。ハンプス少佐。」

 少年は口元に笑みを浮かべてキースを見た。

 キースはそれを見て苦笑いした。

「じゃあ、ニシハラ大尉は何を握られている?」

 キースは少年を睨んだ。

「・・・・さあ」

 少年はそう言うと違和感無く、いなくなった。

 少年がいなくなった後キースは拳を握った。

「先の話、してねーじゃん。・・・・クソガキだな・・・・」

 キースは目を見開いていた。

 彼の頭の中には色んな人の顔が浮かんでいた。









 完全に「天」の港付近の飛行に代わり、つかず離れずの位置をフィーネは飛んでいた。

「何か・・・手は・・・・」

 ハクトは相変わらず通信機の前で考え込んでいた。

 コウヤはそれを眺めながら今までのことを考えていた。

 《ユイ、ディアの生存は確認できた・・・・残るレイラとクロスは一体どこにいるんだ・・・》

 まだ会うことのできていない親友のことを思っていた。

「コウ・・・・繋がった!!」

 その声でコウヤは我に返った。

「繋がったって・・・・大丈夫なのか?」

 心配そうに通信機を覗き込んだ。

 すると

『大尉!!無事でしたか!!・・・・よかったです。』

 と聞き覚えのある声がしていた。

「・・・この声は・・・・リリーだ!!」

 コウヤは懐かしそうに言った。

 するとその声に対して

『大尉・・・誰かそばにいるのですか・・・・その人物は信頼できる人ですか?』

 怪しむ声が返ってきた。警戒を示したリリーの顔が目に浮かんでコウヤは笑った。

「心配いらない・・・・おい、お前から話してやれ。」

 ハクトは持っていた通信機のマイクをコウヤに手渡した。

「あ・・・ああ」

 コウヤは久しぶりに話す戦友たちに緊張していた。

「・・・・そこにいるのは、リリーだな・・・・みんな元気か?」

 しばらく返事が返ってこなかった。

「・・・・あれ?俺嫌われてるのかな・・・・」

 コウヤは不安そうにハクトを見ると、ハクトは肩をすくめて曖昧に笑った。

『コウヤ!!!!!』

 暫くの沈黙から船内に響き渡るほどの大声が聞えた。

「・・・・うるさいな・・・」

 ハクトが耳を塞いでいた。

「う・・・うるさい!!鼓膜はじけるぞ!!」

 コウヤも片耳を塞ぎながら通信機に怒鳴った。

『・・・・ごめん。コウヤ・・・・俺等お前が死んだと思っていたから・・・』

 何かをこらえているのがわかる声だった。

「モーガンか。久しぶりだな。募る話はあるけど、今はそれどころじゃないだろ・・・」

 コウヤは自分自身を引き締めるように言った。

『・・・・そうだな・・・・こっちから大尉達をドームに入れれるように手引きする。あと、ハンプス少佐からいくつか指示があるから、それも伝えようと思って。』

「そうか。じゃあ、あとの連絡はハクトに任せるわ・・・・俺にはさっぱりのことばかりだからな・・・・」

 とコウヤはハクトにマイクを渡した。

「いいのか?お前が作戦を取り仕切ってもいいんだぞ?」

「悔しいが、俺よりお前の方が適任だ。・・・・経験の差が大きすぎる。」

 ハクトはそれを聞くと勝ち誇ったように笑いマイクを受け取った。

「・・・・ちっ・・・・かっこいいな。」

 コウヤは悔しそうにだが、嬉しそうに言った。

『大尉!!じゃあ俺たち』

 モーガンがそう言いかけたとき

「モーガン、リリー・・・今は二人か?他は?」

 ハクトは声を潜めた。

『大勢だと目立つので、私たち二人ですよ。・・・もしかしてハンプス少佐に御用ですか?』

「いや・・・でもどうしてハンプス少佐だと?」

『え・・・っとロッド中佐の件で上層部に働きかけるようですから大尉も何かあるのかと・・・』

 リリーの回答にハクトは眉を顰めた。

「ハクト・・・?どうした?」

 コウヤは急に不安になった。

「いや・・・モーガン、リリー・・・コウヤが生きていることを他言しないでくれ」

『そりゃもちろんですよ!!切り札ですよね。』

 リリーの声はキラキラしていた。

『大尉が軍をひっくり返すときに切るんですよね。もちろんフィーネのメンバーも』

「お前ら二人だけだ」

 ハクトはモーガンの言葉を切った。

『え?』通信機の向こうから急に不安な表情が見えた。

「今から、コウヤの存在は俺とモーガンとリリーだけしか知らない。」

『え・・・は・・はい!!ですがどうして・・・』

 リリーは何か考えてるのか言葉がゆっくりになった。

「ハクト・・・キースさんを疑っているのか?」

『おい、どういうことだ!!コウヤ』

「落ち着いてくれ。ハンプス少佐だけじゃない。ただ、慎重になるに越したことはない。」

『大尉・・・どういうことですか?』

 リリーは何か合点がいったようで怯えていた。

 コウヤはこの状況に死地を共にしたフィーネのメンバーを思い浮かべた。









 機械的な部屋で、沢山の研究者に囲まれユイは頭に何やら機械をつけていた。

 ぐったりと顔色が悪いが、体調が悪いというよりも生気が無かった。

 だが、呼吸している様子から生きているようだ。

「どうやら、あなたの作ったこの即席洗脳システムは完全に彼女を支配したようね・・・・」

 煙を吐きながらラッシュ博士は言った。

 マックス何やら数値を示したモニターを見て頷いた。

「はい。脳波も安定しています。・・・・彼女を介してプログラムに侵入できるようになるのも時間の問題ですよ。」

「ふふ。あの人達が作ったドール内に隠されたプログラム。これさえ解明できれば・・・」

 ラッシュ博士は何かを企むように怪しげに笑っていた。

「・・・・ラッシュ博士、しかし、彼女一人で全てのプログラムに介入を試みるのは不可能です。負荷が大きすぎます。」

「あら?・・・あとどのくらい持つの?」

「それは、命を考慮してですか?」

「何言っているの?」

「・・・・あと最大三回の介入ができます。・・・しかし、これ以上このアレスプログラムにこだわる必要は無いと思います。開かれたのを見ましたが、できるなら他の鍵で別のものを開いた方が・・・・」

 ラッシュ博士は考えるような素振りを見せた。

「・・・・そうね。他の鍵が欲しいわ。」

 ラッシュ博士は頭指で支え、考える素振りを見せた。

「連続でなければ、彼女に休息を与えれば、もっと介入は可能になるかもしれませんが、これ以上は進みませんよ。」

 マックスは断定するように言った。

「ラッシュ博士。ドールプログラムとは・・・洗脳を主とするものですか?」

 マックスはラッシュ博士を問い詰めるように訊いた。

「近いけど、日常生活で活用しているのは違うでしょう?」

「博士。自分たちはとんでもないものを活用しているのではないですか?」

 マックスの言葉にラッシュ博士は何かを含めるように笑った。

「日常生活や兵器利用は表面の形で、本来の、裏の形は洗脳なら・・・生活を支え始めているこのプログラムから人間は逃げれますか?」

 マックスは淡々と問いかけた。ラッシュ博士は口元に笑みだけ浮かべていた。

「いやねー。天才って・・・。」

 ラッシュ博士は笑いながら立ち去った。







 宇宙の港らしきところから何やら小さな輸送船が出てきた。

 その輸送船はしばらく進むとすぐ止まった。

「モーガン行ける?」

 輸送船の中で宇宙服を着たリリーとモーガンがハッチに集まっていた。

「行ける行ける!!・・・・・あとは向こうの船から・・・・」

 輸送船はあまり目立たない空域を飛んだ。

 輸送船が行く先には一つの戦艦があった。

 戦艦からの1体のドールが出てきた。赤いドール。そしてそれが輸送船に入りまた戦艦に戻る。

 今度は赤いドールとサブドールが一緒に出てきた。

「・・・・・共に戦った船を見捨てるというのは苦しいな・・・・」

『・・・・そうなのかもな・・・・俺もなんかさみしい・・・・』

 2体のドールは輸送船に向かって飛んできた。

「ドール2体確認!!・・・・ハッチ開きます。」

 ハッチが開きそこから2体のドールが輸送船の中に入った。

「なんでこんなめんどくさい手順で・・・」

 コウヤの呟きにモーガンが食いついてきた。

「仕方ないって。だって、大尉だけを手引きする予定だから、ドール2体飛んで来たら『誰!?』になるじゃん。」

「だから、俺のドールも置いてきたわけか。本来の装備だけ取って・・・って」

 コウヤはフィーネに置いたままのハデスドールを思い浮かべていた。

 《俺のじゃないか・・・》

「設定ではモーガンがドールを取りに一緒に来たというのだ。」

 ハクトはモーガンを指さした。

 モーガンはよく見るとドール用のスーツを着て目をキラキラさせている。

「でも、モーガンってドール乗れるのか?」

「乗れる。ただ、動かせるだけだ。そうだよな。」

 ハクトはモーガンに目線を移した。

「もちろん!だって俺ドールを整備してたんだよ。車だって整備するひとはたいてい動かせるだろ?」

 得意げなモーガンに

「それとは違う気が・・・」コウヤが言うと

「だから、俺が少しへたくそに飛んだのわかったか?」

 ハクトがにやにやしていた。

「大尉マジないです。」

 モーガンはすねた。

「そう言えば・・・・戦艦の方は放置で大丈夫なの?コウヤ君のドールも・・・・」

 リリーは思いついたように訊いた。

「そうだな。そういえば、ハンプス少佐の指示は一体どういう意味だ?」

 ハクトは納得していない顔をしていた。

「指示?」

 コウヤは自分が聞いていなかったことだから興味津々だった。

「ああ、フィーネのカメラをオンにして記録状態にしろとか、入るためのコードを変更して教えろとか・・・」

 ハクトは首をひねっていた。

「誰かに拾ってもらうんでしょうかね。」

 リリーも詳しく聞いていないようだが、特に気にしていなかった。

「わからないけど・・・・今は行くぞ。」

 モーガンは仕方なさそうに言い、すぐに「天」に入る準備を始めた。

 徐々に「天」が近づいてくると

「・・・・うう・・・・」

 急にリリーが泣き出した。

「ちょっと!!どうした?」

 モーガンはいきなりのことに慌てふためいた。

「だっで・・・だっで・・・大尉が無事で・・・・コウヤ君も生きていで・・・・」

 とボロボロに泣いていた。「天」に近付いたことにより、安心したのか、緊張の糸が切れてようであった。

「そんな心配してくれて・・・・・」

 コウヤは感激していた。

「よかったですよーー!!大尉。」

「俺は!!?」

 そんなコウヤを外目に

「・・・・そうだな。俺等、すごい人たちと戦っていたんだな・・・」

 としみじみといいモーガンはリリーの頭を撫でた。

「・・・・よがっだよーーー!!!」

 リリーは安心したのか泣き止めなかった。

 その二人を見てコウヤとハクトは笑った。







「これでよかったのか?」

 ライアン・ウィンクラー総統が壁に寄りかかり独り言を呟いていた。

 壁の向こうからノック音が聞こえた。そして、ウィンクラー総統が持つ通信用の端末に連絡が入った。

「私だ。これでいいのだろう?」

 通信に出てウィンクラー総統は声を潜めた。

『よかったんですよ・・・・だって、ニシハラ大尉が本気でドールに乗って攻撃してきたら・・・・止められるのなんかロッド中佐しかいないですから。』

 声の主は変声機を使っているのか性別と年齢がわからなかった。

「・・・・だが、万が一の場合はどうする?」

『二人が会う前にニシハラ大尉の身柄を常に拘束できるような状態にすればいいんですよ。』

「・・・・・そうか」

『むしろ、もうロッド中佐の暗殺、いえ、抹消計画に入った方がいいかもしれないですよ。・・・・ニシハラ大尉の身柄さえ押さえれれば・・・・』

 通信機の向こうで笑い声が聞こえた。

「・・・・だが、それでは・・・・」

『ただのゼウス軍との小競り合いの任務を与えるんですよね・・・・でも、そのただの任務を先延ばしにしていることに不審さを感じない男なわけないですよ。』

 通信機の向こうの人物は、地連総統に対し圧倒的に有利な立場にいるかのような話し方をした。

「・・・・・なぜ、最初のうちに提案しなかった・・・・」

 ウィンクラー総統は拳を握り、壁を殴った。

『目障りな影を燻りだしたいからですよ・・・・影がいる限り中佐は死にませんよ。』

 声の主は冷たい口調だった。その口調にウィンクラー総統は凍りついた。

『あの影と中佐は一心同体・・・・・そう考えて間違いない・・・・』

 声の主は頭の中の何かを確認するかのように呟いていた。

『そして・・・あの影に似合うのはモルモット・・・』

 その声の対象に、ウィンクラー総統はなかった。









「テイリー・・・・破壊された「希望」に一番近いドームはどこだ?」

 ディアは外の遠ざかる地球の景色を見ていた。

 どうやら大気圏を離脱することに慣れているようであった。テイリーは顔色を少し悪くしながら壁に手をついて立っていた。

「・・・・ええ「天」ですね・・・でも許可が入りますよ。地連軍の配下ですから。」

「「天」か、面白い・・・・」

 ディアはまだ会えていない親友のことを思った。

 《・・・ユイ、レイラ、クロス・・・・》

「そういえば、テイリー。準備はできたか?」

「え・・・っと総裁のドールは」

「違う。君の仕事のだ。」

「じ・・・自分のですか!!?」

 ディアはその様子をみて微笑んだ。

「君にフィーネを拾ってもらおう。」

 テイリーの顔は真っ青になった。







 地連軍専用の宇宙船の中で、複数の軍人が面談のようなものを受けていた。

 教官のような軍人が書類に目を通して目の前に立つ軍人に聞いていた。

 複数の机が並んでおり、それぞれの机でも行われていた。

「お前は何故ドールパイロットを希望するのだ?・・・・」

 その中の1人の教官らしきものが鋭い目つきをした少女に聞いていた。

「ゼウス軍を皆殺しにするためですよ。それ以外に理由が必要で?」

 少女は幼さを残した顔には似つかない大人びた声で言った。

 研究者は少し圧倒されたようであったがすぐに表情を戻した。

「わかった。どうやら確固たる意志があるようだな・・・・」

「はい。」

「では・・・・アリア・スーン。お前をドールパイロット養成所に送ろう。」

 その言葉を聞いた少女は瞳にさらに強い意志を灯して

「ありがとうございます。」

 と力強く言い、拳を握った。

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日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

pandemic〜細菌感染〜

HARU
SF
近未来超能力アクション。 突如飛来した隕石に付着していた細菌が人間以外の生物のほとんどを異形化・凶暴化させてしまった。それに対抗する為、世界政府は15歳以下の子供たちに超能力手術を施し人間兵器として軍用化した。世界を救うために命を投げ打つ少年少女の物語

アラロワ おぼろ世界の学園譚

水本茱萸
SF
——目覚めたら、すべてが「おぼろげ」な世界—— ある日を境に、生徒たちは気づく。自分たちの記憶が「二重」に重なり合っていることに。前の世界の記憶と、今の世界の記憶。しかし、その記憶は完全なものではなく、断片的で曖昧で「おぼろげ」なものだった。 謎の存在「管理者」により、失われた世界から転生した彼らを待っていたのは、不安定な現実。そこでは街並みが変わり、人々の繋がりが揺らぎ、時には大切な人の存在さえも「おぼろげ」になっていく。 「前の世界」での記憶に苦しむ者、現実から目を背ける者、真実を追い求める者——。様々な想いを抱えながら、彼らの高校生活が始まる。これは、世界の片隅で紡がれる、いつか明晰となる青春の群像劇。 ◎他サイトにも同時掲載中です。

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