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六本の糸~地球編~

5.仲

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 戦艦内は戦闘態勢に入ることを伝える放送が響き、乗っている避難民たちがざわめきながら固定された座席に移動していた。



 背景の音がどこまでも騒がしくせわしないが、コウヤの頭の中には響かなかった。



 キースに聞いたシンタロウの話があまりにも衝撃だった。

「おい・・・・コウヤ、大丈夫か?」



 コウヤは呆然としてただ天井を見つめているだけだった。

「・・・・・俺は大丈夫です。」

 コウヤは口ではそう言った。しかし、コウヤの目には不安と罪悪感でいっぱいだった。



「今はドールに乗ってこの船の人たちを守ることが先決だ。君は俺よりこのドールをうまく使っている。」

 キースはコウヤに手を差し出した。



 その手を取り「でも・・・・俺は・・・・」とコウヤは何やらもごもご言っている。



「できることがあるのにやらないのは馬鹿だぞ。シンタロウはお前がドールに乗って戦えることを羨ましがったんだ。だから、お前はドールに乗らないでいるっていうのか?」

 とキースは厳しい顔で言った。



「わからないんですよ!!いろんなことがたくさん起きている。」

 コウヤぶちまけるように大声で言った。考えると頭が一杯になり心が持たなかった。



 その言葉を聞きキースは力強く頷いた。

「当然だ。だが、わからないなら、わかっていることをやればいい。今何がわかっている?」

 キースはコウヤの心を見透かし、整理を手伝うように訊いた。



 キースの問いにコウヤはしばらく黙った。頭の中で起きていることを反芻した。



「ドールの小隊が後ろから追ってきています。戦闘態勢に入って・・・・ドールの出撃を命じられました。」

 それを聞いたキースはにっこりとして



「なら、わかるだろ。」

 コウヤは「はい・・・・」と小さくだが力強く頷いた。



 コウヤは心残りがあるのか、言い足りないことがあるようにキースを見た。



「どうした?まだ何かあるのか?」

 コウヤの様子を見てキースが訊いてきた。



「俺、シンタロウに言っていないことがあるんです。俺は・・・・彼の辛さを分かることはできないけど、かけがえのない親友です。それも含めて、この戦いが終わったら話したいと思います。」

 コウヤは返事以上にはっきりと言った。



 キースはコウヤを眩しいものを見るように目を細めて羨ましそうに目じりを下げた。



「それは俺も聞かしてもらえるのかな?」

 キースは目を細めて笑いながら訊いた。



「もちろん、キースさんも、艦長さんもです。」

 キースはそれを聞くと安心したようにうなずき、勢いよく走り出した。



「敵さんは待ってくれないぞ!!」



「はい!!」

 キースのあとをコウヤは必死で追った。



「・・・・すまん。」

 キースはコウヤに気付かれないように小さく呟いた。









 周りは騒がしい。敵に追われた戦艦には変わらず民間人が乗っているのだ。当然だ。



 シンタロウは軍艦の中でどうにか調達できた暇つぶしの本を開いて頁をめくるだけの作業をしていた。



 不安なんだ。自分と同じように家族を失った人がいるかもしれない。一人だけ辛いみたいにしてしまった。だが、それを頭でわかっていても今は言葉と行動を制御することができない。



 頭に入らない文字の羅列を目で追う。これは何回読んだだろうか。



 親友達に縋るべきなのだろう。何も言わずに攻撃するのは自分にも他人にもよくない。だが、八つ当たりのように親友にあたってしまった。



 今自分が欲しい力を振るえて、それを持つことができる彼が羨ましいのだ。今まで自分は達観した人間だと思っていた。だが、そうではなかった。人並に嫉妬もするし、心乱れる。



「・・・・あいつは話してくれたのに・・・・・」



 シンタロウはコウヤがかつて自分に記憶がない状態であることを告白してくれたことを思い出した。優しい今の母がいるから大丈夫だと言っていたが、その母とはぐれている今の事態と、彼には確固たる何かが欠けているのだ。それを自分は知っているのに何も思うことがなかった。



 アリアにしてもそうだった。彼女は家族のことよりも自分とコウヤが大事なのだ。家族を失って嘆くのは悲しいに決まっている。だが、失っても悲しまないのも悲しいのだろう。



 本の中身は頭に入らない。目の前を素通りしてそのままだった。



「・・・・・当たる相手が・・・・違うな。」

 シンタロウは自嘲的に笑った。大切な親友たちに縋るべきだ。そして支えてもらうのが自分にとって今の最善だ。



「・・・・・最善か。」

 シンタロウは最善と言う言葉が好きだ。この戦艦に入ってからよく聞く言葉だ。シンタロウはこの言葉が不思議と馴染んだ。正解や不正解でなく最善だ。綺麗に答えが出ない状態と自分の心情からだろう。



 自分の心を静める最善とは何だろう。なりたいものやこの前まで考えていた将来なんてもういらないのだ。

「・・・・俺も・・・・戦いたい。いや・・・・」



 滅ぼしたい











「砲撃用意。被害状況は全部教えろ。サブドールは船の周りに配置させろ。・・・・ドールはまだ出ないのか?」

 ハクトはすっかり艦長の顔になっていた。



「艦長、準備ができたようです。あの、艦長。コウヤ君を本当にこのまま使っていくつもりですか?」

 リリーはハクトの様子を心配するように見た。



「使えるんだ。そして、彼を使うのがこの戦艦に乗る市民を守る最善に近い。彼等を守らないと・・・・死んだ奴を無駄することになる。」

 ハクトは艦長の顔だった。だが、本音では使いたいのかわからないのであった。最善を考えた時に自分がドールに乗らずに戦艦にいることの方がいいというのをハクトは知っている。



「艦長。この前とはわけが違います。彼には乗らなくていい選択肢もあるはずです。」

 心配するようにソフィはハクトを見ていた。



「ここに市民を乗せている以上、彼には戦ってもらう。だからハンプス少佐がついているのだろう。」

 ハクトはコウヤを戦わせる意志は変えないようだ。それが彼を死線に向かわせるものだとしてもだ。



「死ぬかもしれないうえに、殺すかもしれないのですよ。」

 ソフィはハクトを責めるように見た。



「そうだ。だが、この戦艦が沈めばみんな死ぬ。これを沈めない最善を考えた。それだけだ。」



「そうですね。」

 ソフィは仕方なさそうに頷いた。





「出撃してもらいますか?」

 リリーはハクトを見て、頷いて確認した。



「急いで発進させろ。まだ敵は俺らの場所を把握していない。」

 ハクトは自分の中の迷いを振り切るように出撃を急がせた。そして、敵の戦艦の場所に検討を付けた。



「わかりました。」

 リリーはマイクを切り替えて、待機しているキースとコウヤ達の元に通信を繋げた。







 キースとコウヤは二人ドールの出撃口近くでドールに乗っていた。コウヤは一度やったら要領を掴める質のようで神経接続までの流れがスムーズになっていた。もちろんキースはコウヤよりも慣れているから早い。



 コウヤの慣れの速さにキースは感心した。

「よーし、大丈夫か?大丈夫だよな。」

 キースはドールの中から通信を繋げてコウヤに話しかけた。



『大丈夫です。あの、通信って・・・・操作するのはここでしょうか?』

 コウヤはコックピットに備え付けられているいくつかのボタン等を指してキースに質問した。



「ああ。そうだ。基本的に味方は設定してあるから簡単に繋げれる。敵に繋げるにはちょっとコツがいるけどな。」

 キースは頷いていくつかのボタンを操作した。



「お・・・っと。リリーちゃんから通信が入るぞ。」



『え?』

 キースが言った通り、直ぐに操舵室にいるリリーから通信が入った。



『こちら操舵室です。ハンプス少佐、コウヤ君。出撃お願いします。敵はまだこちらが気付いていることを把握してないです。おそらくこの戦艦を確認していません。早い段階で退けてください。できる限りの援護はします。』

 淡々とおそらく艦長であるハクトの言ったことを伝えているのだろう。彼女の声色は普段の若い少女の面影はなく、慣れを感じさせた。



「そうだな。ニシハラ大尉は戦艦にいるならこころづよい。・・・・了解したよ。リリーちゃん。」

 キースは後ろにハクトがいることがよほど心強いのだろう。だが、淡々と伝えるリリーに対して少し悲しさがあるようだった。



『・・・・?』

 コウヤはキースの声色の変化に気付いた。



 キースはリリーからの通信を切り、出撃のために開かれた空間を見て溜息をついた。



『キースさん・・・・?なんでリリーさんに対して少し寂しそうだったんですか?』

 コウヤは疑問をそのままぶつけた。



「リリーちゃんがこの戦艦に配属される前は本当に何もわからない子だったんだ。それは艦長以外のこの戦艦の子全てに言えることだろうが・・・・慣れていた。緊急事態にな。」



『スムーズでいいですよ。』



「それだけ、あんな若い子に危険な役目を負わせているっていうことだ。」

 キースは心から嘆いているようだった。コウヤもそう言われて初めて考えた。この戦艦の平均年齢が異様に低いことだ。



「・・・・・やっぱり、変わらんのかね。」

 キースは自嘲的に笑っていた。コウヤは彼が何でそう笑うのかわからなかった。



 だが、今言えることは決まっている。

『キースさん。行きましょう。』

 コウヤは出撃口に体を向けた。



 キースははっとした。自分が足を止めているから出れないのだった。急いで避けてコウヤが先に行くように促した。コウヤは見えないが軽く礼をしてキースの脇を抜けて戦艦から出た。



「若いってのはいいね。」

 キースは眩しそうにコウヤの乗るドールを見て、後に続いた。











 フィーネより北方にいるある戦艦にも名前はあった。その名も「ルバート」。



 その「ルバート」のドール格納庫だろう。いくつものドールが並んでおり、その前にこの戦艦直属の小隊の人間が並んでいた。並ぶものは皆少年と言える外見をしており、出撃前なのか、全員がドール用のスーツを着ている。



 その真ん中にいるダルトン・マーズ隊長は、周りを見渡し、少しおどおどしていた。



「このドール使っていいんですかね?」

 パイロットスーツを身に纏ったダルトンが、並ぶドールの中でも一番性能がいいらしい赤と黒のドール、いわゆるゼウスカラーのドールの前に立って言った。

 その一体以外は皆グレーの量産型のような一律の恰好をしたドールだった。



「かっこいい!!ゼウスドールじゃん!!俺なんかグレーの一般機だぜ。」

 と彼の隊に所属するジュン・キダ少尉はグレーのドールを指差して叫んだ。



「自分一人だけこんなの使っていいの?みんなグレーだから合わせた方が・・・」

 とダルトンが言いかけると



「お前隊長なんだからいいに決まっているだろ!!なあ!!」

 とジュンは他の隊員にも同意を求めた。



 他の隊員は強く頷いた。それは決してジュンに強制された気配などなく、個々人の意志での頷きだった。



 ダルトンは隊員の特性を知っているのだろう。頷いた様子を見て嬉しそうに笑い、直ぐに口元を引き締めた。



「さあ、初陣だ。」

 ジュンは背を押すようにダルトンの背中を叩いた。



 ダルトンはひるむことなく頷き、目を閉じ、開いた。



 その顔には、兄であるマーズ研究員が指摘した優柔不断さのかけらもなく、普段の気弱さも優しさも見えない。ただ、どこまでも鋭いものだった。



 彼の表情の変化を見て隊員たちも息を呑んだ。隊員たちの中でもジュンは嬉しさを抑えきれないようで口元の笑みを押さえるので顎に力が入っていた。



「マーズ隊出動する。」

 隊長として発したダルトンの声は野太く、部屋中に響いた。











 地上を這うように飛び進む赤いドールと青いドールがいた。



「キースさん。フィーネにはサブドールもいましたけど・・・・サブドールは出ないんですか?」

 赤いドールに乗るコウヤは、格納庫にあったサブドール数体を思い出した。ドールを操作したのはつい先日が初めてであるコウヤは、二人だけで出ることに不安があった。それは当然のことだった。



『機体はあるけど・・・・出せない。何せ、この前の襲撃でパイロットは俺と艦長以外死んだ。お前は気付いていないかもしれないが、緑のドールに全部やられた。』

 キースは事実だけを述べるように淡々と言った。



「・・・・え?」

 コウヤは嘆くような気配のない戦艦を思い出した。



『お前等は一般人だ。まだな。一般人に動揺を悟られるわけにはいかない。ましてドームが一つ破壊され、俺らが嘆く余裕はない。』

 キースはコウヤを突き放すように言った。



「俺、何も知らなかった。」

 コウヤはフィーネも人を失っていることに気付かなかった。見えている人たち、知っている人の犠牲しか見ていなかった。確かに、戦艦の大きさに対して船員は少ない。キースが居なければ艦長であるハクトしか戦う者がいないのだ。



『お前は知る必要が無い。』

 キースはコウヤの思案を断ち切るように言った。



「必要って・・・・」



『わかっただろう。俺たちがお前を必要としているわけが。お前がどれだけ能力に恵まれているかだ。』

 キースはコウヤを羨ましがっているのだろうか、縋るように言った。



「俺は、死んでもおかしくないところに・・・・・」

 言いかけてコウヤは寒気がした。命のやり取りをしているのだった。自分はあの時確かに敵を退かせた。だが、いずれは、このままだと。



『悪いな。でも、手は汚させない。だけど、あの時にお前が欲した力を振るった。それに協力した分は返してもらう。この戦艦が本部に着くまでだ。』

 キースの言うことに対してコウヤは言い返せなかった。あの時ドールに乗ってシンタロウ達を助けることを望んだのは自分だ。それによってフィーネに協力したが、自分の望みに協力してもらったのだ。



『汚いって言っていいぞ。子供の特権だ。』

 キースは自嘲的に笑った。



「いえ・・・・俺は、あなたに手を引かれなかったら死んでいたかもしれない。そして、シンタロウ達もだ。」

 コウヤは自分を納得させるように呟いた。



『言っとくけど、俺たちは罵られ慣れている。何かあったらぶちまけろよ。』

 キースは声に笑みを含めて言った。その顔はコウヤに対して諭してくれるような顔だろう。



「わかりました。」

 コウヤは出会って数日のキースを信頼していた。この非常事態で自分に協力的な人物であるのもそうだが、彼はコウヤのことを分かってくれている気がした。



『さて、気になることがあるんだが・・・いいか?』

 キースは話題を切り替えた。



「はい。なんですか?」



『ドールの操作。それやりにくいか?』

 キースはコウヤのドール操作が覚束ないことが気になっていた。コウヤは前に乗ったドールと違うものに乗っていた。



 キースの言う通り、コウヤはドールの操作に手こずっていた。



「そうです。やっぱりわかりますか?キースさん、このドール性能はいいのはわかるんですけれど、操作が重いです。」



 コウヤは思うように伝達がいっていない接続を見て溜息をついた。動かすのに使う体力が違う。



『当たり前だろ、そのドールはハクトが使っているのだからな。俺もよく動かせているなと思ったぜ。』

 キースはさも当然のように言った。



「キースさん、艦長って実はすごくドール使うのうまいとか・・・」



『俺の1万倍うまいぞ。そのドールだって並みの軍人は動かすことすらできないんだ。』

 と言う言葉を聞きコウヤは自分が試されている気がして少しムキになった。



「へー・・・・だからこんなに」

 探る様にドールを細かく動かし、コツを探った。しばらく動かすとつかめたのか少し加速した。



『若いねー。』

 キースはコウヤの順応の速さを見て嬉しそうに呟いた。





 しばらく移動すると肌を粟立てるような気配がした気がした。

「キースさん、来ましたよ。」

 コウヤは急に立ち止まり、かまえた。



 その様子を見てキースは笑った。

『そうだな。・・・・結構いるな。』









 ダルトンの乗るゼウスドールを先頭にし、グレーの一般機を引き連れてマーズ隊は進んだ。

「みんな止まれ。敵が近くにいる。」

 隊長であるダルトンはドールが捉えたレーダーを見て後ろを進む隊員たちを止めた。捉えた存在は待つように動かない。



《向こうはこっちを察知している。ヘッセ少尉を退かせた戦艦なだけある。》

 ダルトンは感心した。彼を含めてゼウス軍からみるレイラ・ヘッセ少尉はゼウス共和国のトップであるヘッセ総統の娘だけではなかった。彼女はゼウス軍屈指のドール使いであり軍人だった。彼等からすると彼女を退かせた存在というのは非常に大きく間違いのない脅威と認識される。



 だが、不思議と負ける気はしなかった。

《ドールパイロットとしての素質はある》

 兄に言われた言葉を思い出し、ダルトンは舌打ちをして笑った。



『先手必勝って言うじゃん。ガンガン攻めようぜ!!!』

 とダルトンを煽るジュンの声が聞えた。



「キダ少尉、敵はどうやらこちらに気づいているようだ。そのうえでの待ち伏せだ。」

 と動きのないことを含めて伝えた。



 隊員たちは少し不安になったのだろう。こちらの動きを悟られているということは、対策をされている可能性があり、奇襲のような形をとっているが全く意味がないかもしれないのだからだ。



『なるほど、あのヘッセ少尉を退かせた敵なだけあるか。』



「囲んで攻撃することを考えるんだ。数はこっちの方が多い。作戦通りに動く。怯むな。」

 ダルトンは後ろの隊員たちを鼓舞するように叫び、飛び立った。

 それに隊員たちは続いて行った。













 コウヤとキースはレーダーが捉えたドールの数を数えて、いくつかの作戦を話していた。



「・・・は・・・はい。えっと・・・・」

 コウヤは話した作戦を反芻しようとしたが、先ほどキースから聞いた斃されたサブドールのパイロットの話や、自分たちが命のやり取りをするということを改めて実感し緊張していた。緊張というべきか、恐怖と興奮に近く震えが収まらず、頭もフル回転しているのだが、働かないという全く意味不明な状況にあった。



『ハクトの予想通り小隊だな。この前のドールと機体も違う。』

 キースはコウヤの様子を察したのか、本題から離れない話題を出した。



「そうですね。」

 コウヤはキースの心遣いに気付き、とにかく頷いた。そこで疑問が出てきた。



「・・・・キースさん。艦長は、何でわかったんですか?」

 コウヤは自分がドールを察知出来たことは棚に上げて、ハクトが離れた場所にいる戦艦の状況を想定していたことに驚いていた。



『ドールの察知能力だ。お前だってあるだろう。』

 キースは笑いながら一言で済ませた。



「た・・・確かにそうです。でも、ドール操作もできて察知能力も備わっている艦長が何で戦艦にいるんです?戦った方がいいんではないですか?艦長が外に出て行けないわけではないですよね。この前は戦ってましたし。」

 コウヤは残っているサブドールを思い出した。戦艦の人間の様子は艦長であるハクトに中に残ってほしがっているように見えた。だが、彼が外に出て戦っていることに対しても納得はしていると思っている。





『いずれは聞くだろうが、ニシハラ大尉どのはドールパイロットして地連軍二番の実力者だ。だがそれよりも、あいつは空間情報の把握能力が高い。離れた場所もそうだが、戦艦感覚で敵の方角と砲撃の位置の把握能力がずば抜けている。ずば抜けているといっても、こんな芸当できるのは地連でも二人しかいない。あいつが戦艦に乗って後方支援してくれる時の的確さはお前も寒気がするはずだ。』

 キースは興奮しているのか、語気を強めて話をした。



 コウヤはキースがハクトを認めていることは分かっていたが、それ以上に能力を高く評価し、それに対しては畏敬の念を持っていることが分かった。



 だが、それよりも具体的に出てきた数字が気になった。



「二番目・・・・一番は?」

 コウヤは一番目の実力者が気になった。だが、そんなことを気にしていられることもなく、レーダーで捉えたドール達に動きの気配があった。



『無駄話が過ぎたか・・・・』

 キースは笑いながら言ったが、コウヤの震えは落ち着いていた。



「いえ・・・・ありがとうございます。」



『あとで知りたがっていること教えてやる。』



 動きの気配は当たり、止まっていたドールが動き出した。

「来ました!!」

 はるか向こうからレーダーで捉えていたドールと思われる影が見えた。







 赤と黒のドールが一体と、グレーのドールが四体だった。

 おそらく赤と黒のドールが頭だろう。動きに自信と他の四体にない威圧感と迫力があった。



 だが、この前の緑にドールには劣る。



『時間稼ぎがメインだ。いくぞ。』



「はい。」









「情報に通りの赤いドールと青いドールだ。」

 完全に視界で捉えた敵の姿にダルトンは思わず笑った。



 兄は自分が兵士に向いていないと言っていたがそれは大間違いだ。それはダルトンだけでなく隊員たちもわかっている。



「邪魔だ・・・・俺は、早く戦艦を沈めたいんだよ。」

 ダルトンは普段の様子からは想像できないほど好戦的な性格なのだ。



「行くぞ!!」



『『は!!』』

 他の隊員たちからは普段の友として接している時とは違う声色の返事が返ってきた。









 コウヤの乗る赤いドールとキースの乗る青いドールを囲むように、ダルトンの乗る赤と黒のゼウスドールと4体のグレーのドールが隊列を組み始めた。



 だが、分けて戦うことは想定していたようで、コウヤとキースはひるまなかった。



「潰すのは・・・・手足!!」

 コウヤは囲むドールの手足を見て叫んだ。



『そうだ。』

 キースは頷いたが、彼が見ていたのは胴体のコックピットだった。



 そして、キースの乗る青のドールが近いドールに手をかけようとした。



 それを合図にするかのようにドールたちは動き出した。



 二体の一般機がキースに飛び掛かった。キースは右に左にと冷静にかわし、体勢を崩さないように足場を定めていた。ドールの体を捻るように躱すキースはかなり慣れている。素人のコウヤが横目で見てもわかる。



 キースはコウヤの視界からずれようと微かに横に足場を変えながら躱し始めた。変わらず視界に捉えているのはコックピットだ。どうやらコウヤの前で敵を殺す行為をしないようにしているようだ。



 キースの気づかいにコウヤは気付く余裕が無かった。コウヤにかかってきたドールはよりによってゼウスドールと二体の一般機だ。



 三段階に攻撃をされてコウヤは足元を安定させることができなかった。



『コウヤ君。ヤバいと思ったらすぐ逃げていい。』

 キースはコウヤの様子を見て言った。



「は・・・はい!!」

 さっきまでも恐怖心も緊張感も余裕のない状況だと関係なかった。目の前から繰り出される攻撃を避けるのが精一杯だった。



『・・・・まだ早かったか・・・』

 キースはコウヤの様子を見て呟いた。









 明らかに性能の良さそうなドールが二体。情報通りだが、敵の動きを見るために軽く反撃に対応できる攻撃を繰り出した。



 青いドールは数体のグレーのドール相手にうまくかわしながら反撃を狙っている。しかもコックピットだろう。歴戦の兵士で慣れと高い能力があるのがわかる。



 逆に赤いドールは複数の敵に戸惑っているのかうまくかわせていない。



「この赤いドール。初心者のように動く。叩くならこいつだ。」

 ダルトンは赤いドールに攻撃の的を絞った。



『了解!!隊長』

 一般機に乗ったジュンが返事をするのと同時に赤いドールに飛び掛かった。



 赤いドールは慌てるように飛び上がり避けて、よろけた。



『回り込め。青でなくてこいつからだ!!』

 ジュンは他の隊員に指示を叫んだ。



『おう!!』

 青いドールには二体そのままかからせ、一般機二体とゼウスドールでかかるように動き始めた。



 《・・・だが、何かおかしい。》

 ダルトンは赤いドールに違和感を覚えた。それがなんだかわからないが、叩くべきはこのドールだと分かっている。



 赤いドールは攻撃をよろけながら避ける。また避ける。足場はおぼつか無いが、転ばずに避ける。



 《・・・・何だ・・・・?》



 ジュンが少し苛立ったのか舌打ちが通信の向こうから聞こえた。ジュンは、いつもは飄々としているが、結構気が短い。



 攻撃が進まないことと慣れない動きのくせに全く攻撃を加えられないことに苛立ち、急いだ攻撃をした。ダルトンが感じた違和感をジュンは苛立ちと感じていた。



 赤いドールはとっさに腕でジュンの攻撃を払い飛ばした。



 それを狙っていたかのようにゼウスドールに乗ったダルトンは、腹を狙った。



「!?」

 赤いドールはとっさに腹を庇い肘で反撃した。



 《・・・・こいつ・・・・》



「この赤いドール。適合率がバカ高い。動きが素人のくせに、反応速度が並外れている。」

 ダルトンは違和感を掴んだ。彼の言った通り、赤いドールは適合率に対して動きが素人すぎるのだ。適合率の高さは動きを見ていればわかる。



「・・・だが、間違いなくこいつは素人で初心者だ。」

 狙いは赤いドールから変えないようだ。そして、何やらゼウスドールの装備があるのだろうか、背に手をかけた。



 ドールの背の部分が一部開き、収納されている鉄製のおおきな武器が出てきた。構える武器は刃が付いた殺傷能力の高そうなものだ。



「ここで殺す。」

 ダルトンが武器を取り出したのを見て、一般機たちも背から収納されている武器を取り出した。



 青いドールにかかりきっていた一般機たちも距離を置いて武器を取り出した。



「・・・・・様子見は終わりだ。」

 ダルトンは赤いドールを捉え、また同時に青いドールも視界に含めた。











 キースは完全に予想外だった。ドールには武器が搭載できないと言われているのだ。搭載するにしてもドールを動かすプログラムが邪魔をしてパイロットに多大な負荷をかけると言われている。



 何をプログラムが判断しているのかわからないが、適合率は一種のストッパーだと言われている。



『・・・・ゼウス共和国の方がドール研究が進んでいるのかよ・・・・』

 キースは敵のドール達が構えた武器を見て笑った。



「キースさん。武器に対してどう対処を・・・・」



『コウヤ君。悪いな。完全に油断していた。』

 キースは判断を求めたコウヤの言葉を聞き切るまえに言った。



「え?」



『武器装備はパイロットの負荷が大きい。だが、その負荷が少ないと見た。武器装備できるドールは地連にはいない。できるやつはいるが、それとは別問題だ。』



 《向こう側には地連よりもいい人材が揃っているのか・・・・》

 キースは武器を出すために置かれた距離を利用し、そのまま距離を広げてコウヤの傍に来た。



「キースさん。どういうことですか?」



『詳しくは後で話す。』

 キースはあたりを気にしていた。



 キースが傍に来ても武器を構えたドールの標的はコウヤに絞られている。



「そんなのありかよ・・・」

 コウヤは少し距離を取るためか下がった。





 ゼウスドールは手に持った刃の付いた刀の様な武器を振り上げた。コウヤは動き始めた時に右に飛んだ。刀は赤いドールの左の空を切った。



「・・・・避けれた・・・・」

 コウヤはわけがわからなく動いていた。だが、一つ避けられても他の一般機が続いて攻撃を仕掛ける。もちろんキースにもだ。



『お前はただひたすら避けろ。』

 キースは切りかかった一般機を避けて、コウヤに斬りかかっている他の一般機に向けて突き飛ばした。



 ガタン



 機械同士が激しくぶつかる音がした。外であんな音がしているのだからパイロットに大きなダメージを与えられているだろう。



「ありが・・・・」

 お礼を言おうとしたときに他の一般機がコウヤに斬りかかった。



 鬼気迫る様子から仲間がやられて怒っているのだろう。だが、こちらも必死なのだ。キースに守ってもらわないとコウヤがやられている可能性もある。



 キースの先ほどの攻撃のお陰で、コウヤに向いていたドールの一体がキースに向いた。



 ぶつかり合ったドールは起き上がり動き始めているが、ダメージが残っているのだろう。少しぎこちない動きが気になる。



 視界に他のドールを入れて、コウヤは自分に斬りかかっているゼウスドールを見た。



「・・・・こっち・・・だ!!」

 コウヤはドール達の動きを頭の中で矢印に変え、その終着点と逆方向に飛んだ。



 斬りかかったドールや、不意を突こうとしていたドールの攻撃は空を切り、連携をするつもりだったのだろう。それも無になったようだ。



 明らかに敵が動揺し始めている。



 コウヤはとても恐怖を感じており、震えも止まらないはずだった。だが、頭は激しく脈をうっており目は冴えわたっていた。その証拠に周りがしっかりと見え、また避けた。





 一体の一般機は苛立ちを感じているのかどんどん攻撃が粗くなっていった。



 その様子をうかがうようにゼウスドールは周りを飛び回りながら攻撃の機械を窺っていた。



 コウヤが避けられ始めているのを確認してキースは安心していた。だが、数はこっちの方が少ないのは変わらない。



『・・・・数が少ない分、時間がかかるとこっち不利になる。』

 キースは一般機に反撃を試しながらも確実な攻撃を与えられずにいた。



『仕方ない、予定通り・・・・数人減らそう。』

 キースは誰かに言うように呟いた。誰に言っているのかコウヤにはわからなかった。



 それどころではなかったのだから当然だ。



 しばらくすると辺りが光り、眩しくなり思わず目を閉じた。数秒を置いて轟音が響いた。



 地面を揺らす音は、何かの衝撃を伝えた。













 動きが確実に慣れてきている赤いドールに結局一撃も与えられていない。それどころか青いドールにこちらは少ないがダメージを負わされている。



『クソッ・・・・素人動きのくせに・・・・・』

 ジュンは赤いドールに対する苛立ちを隠すことなく呟いた。



 青いドールはおそらく経験値が違う。やるにしても厄介だから素人動きの赤いドールに絞った。だが、その赤いドールに何もダメージを与えられていない。



「・・・・・早いうちに殺せばよかった。」

 ダルトンは様子を見たことを後悔した。最初から畳みかければよかった。



 ジュンの攻撃は粗くなっている。そして、赤いドールは確実に攻撃を避け、反撃態勢もとれるようになって来た。



 《適合率が高いのは予想通りだが、それだけでない・・・・・ドールに順応しているのか?元がわからないが・・・・》

 ダルトンは様子を窺うように切り込む一般機達から離れた。





 青いドールの動きが気になった。隙があるわけでない。ただ、何かを待っている気がした。



「・・・離れろ!!」

 ダルトンは報告にあったドール二体とサブドール一体が強かったということを思い出した。



 今は二体だけだ。残りは、戦艦にいる。戦艦にいるべき人材なのだろう。



 その答えを導きだしたとき、隊員に逃げるように叫び、ダルトンもその場から離れた。



 光の束が一体の一般機を巻き込んで放たれた。



『!!』



 とっさに避ける体勢を取れなかったのだろう。あっという間に影となり、消えた。



 はるか遠くからの戦艦から放たれたレーザー砲だ。



 仲間が近くにいるにもかかわらず撃ってくるのは、仲間を信頼しているか、どうでもいいと思っているか、よほど自信があるものだ。





『・・・・この・・・この野郎!!』

 ジュンが叫んだ。



「落ち着けキダ少尉!!」

 ダルトンは怒鳴った。



『隊長・・・・でも・・・』



「作戦を変える。」

 ダルトンは変わらず赤いドールを視界に捉えていた。だが、今度は青いドールを視界に含めていなかった。



『変えるって・・・・・』



「二体は青い奴にかかれ。俺とキダ少尉で赤いのをやる。」

 ダルトンは赤いドールを本格的な脅威と認めた。それは未来の脅威としてだ。



『どうする?』

 ジュンは落ち着きを取り戻した声でダルトンに訊いた。



「お前ならわかるはずだ。」

 ダルトンはそれだけ言うと単独で赤いドールに飛び掛かった。



『丸投げだろそれ!!』

 ジュンはダルトンに叫んだ。







 放たれた光と轟音にコウヤはあしがすくんだ。



 一体のドールが黒い塊から影となり消えた。



「今の・・・・・」

 あまりのあっけなさにコウヤは愕然とした。



『ハクトだ。あいつの強みはこれだ。ここまで味方に遠慮しない砲撃なのに一度も仲間を撃ったことは無い。』

 キースは誇らしげに言った。だが、コウヤに耳にはそれは入らず、影となり消えたドールのことで精いっぱいだった。



『撤退させれるまで、あともう一押しだ。』

 キースはコウヤの様子気付いたらしく、撤退という言葉を強調した。



「は・・・い。」

 コウヤは怯んでいる敵ドールをチラリと見た。



『動きを止めるな。向こうも怯んでいるが、動きは止めていない。』

 キースの言う通り、怯んだと分かっているが、敵は動きを止めずに、絶えずコウヤとキースに対して攻撃する機会を窺っているのがわかる。





 攻撃の態勢が変わった気がした。



 そう直感したときにゼウスドールが正面から斬りかかってきた。



 先ほどまで武器の攻撃を避け続けたコウヤには簡単で単純な攻撃だった。



 どこに隙ができるのかまるわかりだった。



「ここだ!!」

 コウヤはゼウスドールの振り上げた肩を掴んだ。



 ガシっと掴む感覚がコウヤの体にも伝わる。そしてゼウスドールは必死に振り払おうとしている感覚も。



 ゼウスドールの手に握られた武器を見て、コウヤは動かす元の腕を攻撃することが目的だったのを思い出した。



「俺は、手足を狙っているんだ。これさえなければ・・・・」

 思い出したように呟き、ゼウスドールの肩をドールで引きちぎりにかかった。



 神経接続を行っているためドールの神経部分に攻撃が加わればもちろん乗っている者にも痛みはくる。その様子が手に取るように分かった。ゼウスドールの中でパイロットが傷みに悶絶している。



 だが、赤いドールを振り払うことはできない。振り払おうとしていない。



『コウヤ!!そこまでだ!!』

 制止するキースの声がかかったと同じとき、周りをひたすら飛んでいた一般機がコウヤの視界の裏側に一般機が潜り込んだ。



 そして、コウヤに飛び掛かってきた。もちろん武器が握られていた。



 コウヤはドールの存在に気付くはずのない方角を向いていた。



 一般機は躊躇うことなくドールはコックピットを狙って斬りかかった。



 コウヤは先ほど目の前で見た光のせいか、何かが頭に引っかかった。



 《光と轟音。》



 それがきっかけなのか、コウヤはゼウスドールの肩を引きちぎる中、幻を見ていた。













 その幻は自分が小さいころのものだろうか



 一人の少年が草の陰で一人の少女を見つめていた。



 自分はその少年に話しかけたのだろう。



「何しているんだ?ハクト。秘密基地作ろうぜ。」

 自分は確かにそう言ったのだった。



 その声にハクトと呼ばれた少年は顔を真っ赤にして。



 人差し指を口にあてて

「しー!!静かにコウ。」

 と必死に言った。



 その時ハクトが見ていた少女が草の陰にいる自分たちの方に寄ってきて

「君達か・・・・・相変わらず元気そうだな。」

 少女は自分の顔をはみ出るほどの大きなメガネをかけて長い髪をなびかせている。



「よう!!お前も行かねえ?秘密基地作りに」

 自分はその少女に向かって言った。



 少女はクスっと笑い

「ハクトが行くなら行こうか。君は行くのかい?ハクト。」

 少女はハクトに詰め寄り問いかけた。



 ハクトはこれ以上とないほど顔を真っ赤にして

「い・・・・・行く!!」

 となぜかわからないけれど大声で言った。



「決まりだな。コウヤ君はどこに秘密基地を作る予定なんだ?」

 少女はメガネの位置を整えながら訊いた。



 その時自分は

「わからない、けど他にも仲のいい奴を呼んでみんなで探すつもりだぜ。ディア。」

 ディアと呼ばれた少女はにっこりと笑った。



「そうか、他のみんなを誘いに行かないか?」

 と提案した。



「ディア頭いいな!!そうしようぜ。なあハクト」

 自分は感心したのかそう言いハクトの方を見た。



 ハクトは固まっていた。



「どうした?おかしいぞお前。」

 自分はハクトのほっぺをひねった。



「痛い!!離せよコウ!!」

 ハクトは自分を突き飛ばした。



「ほら、いつものハクトになった」

 自分はそういって笑った。





 それからだいぶ時間が経ったことなのか





 自分の周りには5人の少年少女がいた。



「コウこれ何?」

 一人の少女が訊いた。



「これは皆ずっと友達だっていう証だ!!これをディアのお父さんがくれたんだ。」

 と自分はそういって一つの虹色の石のついたネックレスを見せた。



 ハクトはそれを見て

「それってこの前言っていた虹色の石か?お前だけがつけるものではないよな。」

 首を傾げてディアを見た。



「そうだな。私たちもつけるべきだと思う。コウには早めに渡したようだが、みんなのもある。」

 とディアはどこからかコウヤが持っているものと同じものが入った箱を取り出し、広げた。



「僕もそれつけるよ。」

 と少女のような顔をした少年が言った。



「あたしもー。将来コウのお嫁さんになるまでずっとつけている。」

 と一人の赤いショートヘアの少女は大声で言った。



 それに横にいた綺麗に髪を結った金髪の少女は

「じゃあ、お嫁さんになったらどうするの?」

 と試すように意地悪く訊いた。



「結婚指輪をつけるのよ!!」

 と少女は自信たっぷりに言った。



 それを聞いた金髪の少女は

「そうなの・・・・私はお嫁さんになってもつけているけどねー」

 と意地悪そう笑いながら言った。



 それを聞いた赤毛の少女は

「それがあったか・・・・レイラは誰のお嫁さんになるの?」

 と金髪の少女に訊いた。



 レイラと呼ばれた金髪の少女は自信満々に

「クロスのお嫁さんになるの。もう決めたもん。」

 と笑顔で言った。



 それを聞いていた自分は一人のくせ毛の少女みたいな顔をした少年に

「なあ・・・・俺らの将来勝手に決められているぞ。クロス。」

 と言った。



 クロスと呼ばれたくせ毛の少女みたいな顔をした少年は優しく笑って

「いいんじゃない?女の子は計画的だし、僕はレイラのこと好きだし。今はそれでいいんだよ。」

 と現実的なことを付けたしながらも夢見るように優しく笑った。



「それより、コウだけでなくて私たちもその石を着けようという話だったな。」

 とディアは話を戻した。



「そうだな。別れてもまた会う時まで絶対にはずさないという約束でな。」

 とハクトは笑って言った。



 それを聞いたショートヘアの少女は

「お風呂入るときとか寝るときは外すけどいい?」

 と真剣に質問した。



「いいに決まっているだろ。」

 ハクトは呆れ気味に言った。



「これで、約束ができたな。」

 とディアは自分に向かって笑って言った。



「約束?」

 自分は何を言われたのかわからなくて訊いた。



「何があっても友達でいることだよ。これが無くても私は君たちと親友でいるつもりだ。だが、やはり確固たるものがあるとあやふやにならない気がする。」

 ディアは不安そうに笑った。



「何言っているの?」



「・・・・わかんない。ディア。もう少しわかりやすくお願い。」

 レイラとユイが首を傾げて唸った。



「いいよ。わからなくて。とにかく僕たちは、このネックレスが無くても親友であることは変わらないけど、これがあるともっと強く絆を感じるということだよ。」

 と後ろからクロスが言った。



「わかりやすく言ってよ。ディアはいつも小難しく物事を言うんだから。」

 レイラは口を尖らせて言った。





「みんな元気でいてね。」

 とショートヘアの少女は涙声で言った。



 その様子をみて

「何泣いているんだよユイ。別に死ぬわけじゃないし、まだお別れじゃないよ。」

 と自分はショートヘアの少女に笑って言った。



「そうだな。コウ。見送りにきてくれるんだろ?そして、今度は迎えに来てくれるとうれしいな。」

 ハクトは願望なのだろうが、期待するように自分を見た。



「迎えにか・・・・俺がどこに行くかもわからないから、お前が来いよ。」

 自分はハクトのおでこをつついて笑った。ハクトは困ったような顔をしたが笑っていた。



「では、未来に同窓会でも開く約束しようか。開催地はどうする?」

 ディアは全員に尋ねるように指を差した。



「開催地も何もないって。僕たちの知っている場所はここしかないんだから。僕たちと言ったらね。」

 クロスはディアに呆れたように笑った。



 6人は今いる場所を見渡した。そこは自分の父親の研究所だったはずだ。



 コードが散らばり、無機質で雑多な空間だが、不思議とぬくもりを感じる場所だ。



 ここにいるのを見つかると昔は父親に怒られていた。



 寂しい気持ちになってコウヤは皆に輪になるように促した。



 コウヤ、ユイ、レイラ、クロス、ハクト、ディアと並んだ。



「コウ、君が私たちのリーダーだ。君が取り仕切ってくれ。」

 ディアはコウヤにまとめるように求めた。



 それを聞いた自分はちょっと照れくさそうに

「えー・・・・それでは俺たちの同窓会の開催地は・・・・」

 と改まっていうと



「いつもの調子でいいよ。あんたに堅苦しいのは似合わない。」

 とレイラがツッコんできた。



「そうだね。いつもの遊ぶ約束みたいに」

 とクロスも同意してきた。



「わかった。俺等はずっと友達。このネックレスは失くさないこと。そして、バラバラになっても集合するんだ。場所はここだ。」

 と全員の手を合わせ自分は大声で言った。





「離れても、ここにいつか集まるんだ。」















 “ここ”という言葉がひどく悲しく感じた。



 《・・・どこだ、そこは?》

 コウヤは何かが頭の中ではじけた気がした。



 今まで開かなかった記憶の扉が開きつつあった。









 一般機がコウヤに斬りかかっているのに気づき、キースは急いでコウヤの元に向かった。



『少し東側に逸れろ!!コックピットだけでもまも・・・』

 とキースが言いかけた時



 コウヤは身を翻し、かかってきたドールの腕をつかんだ。



 その反応にはキースも言葉を呑むほどだった。



『は・・・・?』



 一般機のドールは武器で攻撃することができなく、身動きもとることができなくなった。



「俺は簡単に死んだらいけない約束をしていたみたいだ。」



 コウヤの目にはドールは映っていなかった。



「そう・・・・だよな・・・」



 コウヤの頭は真っ白になった。



 何かがはじけた気がした。そして、それは記憶であるかのように感じた。









『フィーネ。コウヤ君やばい。体は無事だが・・・・・』

 通信の向こうからキースが叫んでいるのがわかった。



 コウヤのコックピットは無事であった。だが、敵にやられたわけではないだろうが、驚くべき回避と反撃を見せた途端糸が切れたように動かなくなってしまった。















 ダルトンは、腕を引きちぎられかけた痛みもあるが、冷や汗が止まらなかった。赤いドールが見せた先ほどの反応と反撃は異次元だった。



 こんな動きを出来る人物をダルトンは一人しか知らない。世間では他にもいると聞くが、彼が見たことあるのは一人だけだ。



「・・・・ヘッセ少尉並みの・・・・」

 ゼウス共和国のエース、レイラ・ヘッセ少尉と並ぶ反応を目の前の素人動きのドールは見せた。





『・・・・は・・・はあ?』

 どうにか腕から離れたジュンは息を切らしていた。発した声にはかすかに怯えが見えた。



『隊長!!大丈夫ですか?』

 外の隊員たちは腕を引きちぎられかけたダルトンを案じていた。なにせ神経接続をしているのだ。痛みは全て降りかかる。



「大丈夫だ・・・・だが」

 驚きと恐怖を飲み込み、ダルトンは赤いドールを見た。先ほどの動きから糸が切れたように動かなくなっている。



 今を逃したら、絶対に危険だ。



「今だ!!今のうちに奴を叩け!!」





 一般機が数体、コウヤが動かないのを見るとすぐさまかかってきた。



「させるかよ!!」

 キースは一般機の前に立ちはだかり、数体の攻撃を受け止めた。



 振り下げた刃をドールの手で握り込む。ドールの性能差が大きく、一般機の持つ武器はすぐさまキースの操作する青いドールによって握り潰された。



 武器の刃を潰しても振り回されては困る。キースは無理やり武器引っ張り、一般機と武器を一緒に突き飛ばした。



 動けるドールがキースの乗る青いドールだけと判断したのだろう。攻撃の対象をキースに絞り、一般機は飛びかかり続けた。だが、ゼウスドールだけは変わらずコウヤを狙っていた。



 だが、キースはコウヤの前から動かなかった。



「俺の判断ミスだが・・・・・お前にも責任があるからな。」

 キースはため息をついて悔やむように呟いた。



 ゼウスドールはもがれかけた腕のことなどなかったようにコウヤの前に立つキースに飛び掛かった。その後ろには一般機が数体続いている。おそらく連携で攻撃するつもりだろう。



 その時、旋風のようにキースとゼウスドールの間に割り込む物体があった。



 それにより、ゼウスドールが突き飛ばされ、それに続いていた一般機も弾かれるように突き飛ばされた。



 ゼウスドールや一般機は予想外のことだったのだろう。その存在を確認するように、その方向を見た。



「やっぱり、二番目は伊達じゃないな。」

 キースは嬉しそうに一体のサブドールを見て言った。













 青いドールもこのメンツならやれる。ましてやかかりきっていた赤いドールは動けない様子だ。青いドールを倒してから赤いドールを倒そうとダルトンは判断した。



 ダルトンの攻撃が受け止められても後ろに続く隊員たちの攻撃が当たればいい。後ろに続くように攻撃を仕掛けた。



 勝てる算段だったが、今、ダルトンも他の隊員たちも地に足を付けて、体勢を整えるので精一杯だった。



 青いドールに飛びかかった時に旋風のように割り込み、ダルトンの乗るゼウスドールを弾くように突き飛ばし、その勢いのまま後ろに続いた一般機に乗った隊員たちも突き飛ばした。



 明らかな性能差のあるはずのサブドールだ。



 さっきの赤いドールに感じた恐怖は勿論ある。



『こいつ・・・・サブドールの分際で・・・』

 ジュンが歯を食いしばる音が聞こえた。



 他の隊員がサブドールに飛び掛かって行った。



 サブドールはドールを正面から受け止めず横に軽く流し、一般機の持つ刃のつぶれた武器を握った。武器を握られていることに気づき、力ずくで引き離そうと動いているところを見逃すことなく武器を離し、ドールの関節部分を狙い攻撃した。



 一瞬のことだ。



『ははは・・・・なんだよ・・・・こいつ』

 その一瞬の攻撃を目の当たりにしたジュンは笑い始めていた。



 サブドールとドールの差は決定的なもののはず。それを感じさせない。それなりの兵士の操作ならいい戦いをすると聞いている。だが、自分たちのように適合率二桁のドールがこの有様になるとは。





「・・・・化け物・・・・」

 得体の知れなさにダルトンは思ったことを呟いてしまった。



 そして、呆然と長い間、していたのだろう。一般機が数体サブドールの方に向って行った。ダルトンは命令をするのを忘れていた。



「だめだ!!そいつは格が違う!!」

 叫んだときは遅く、向かった一般機の腕は折れていた。



「退散だ!!下手したら全滅する!!」

 赤いドールは動けないから別として、青いドールも充分厄介だった。まして、こっちは仲間を一人失っている。



『でも!!この先の戦艦に・・・・』

 仲間を殺した戦艦がこの先にあると言いたいのだろう。仲間の死が撤退を選択肢から失くしている。



「撤退だ!!全員死にたいのか!!」

 ダルトンは柄になく怒鳴った。隊の通信にダルトンの怒声が響いた。



『・・・・隊長の命令に従う。』

 ジュンは腕を折られた痛みに呻きながらも、サブドールから急いで距離を取った。



『・・・・わかりました。』

 彼に続いて他の隊員たちもサブドールから距離を取ってくれた。



 サブドールや青いドールの様子を見ると、離れる分には攻撃の気配を見せない。



 どうやら撤退を望んでいるようだ。殲滅を目的としていない。



「行くぞ。」

 隊員たちに悟られないようにダルトンは安堵の息をついた。













 あっさりと撤退したゼウス軍を見てキースはため息をついた。



「ありがとうな。わざわざ・・・・」

 キースは駆け付けたサブドールに礼を言った。



『俺の判断ミスです。コウヤ君を残して俺が出ればよかった。』

 サブドールに乗ったハクトは悔やんでいた。



「そうでもないさ。お前の砲撃が無いとあれは退かないから。」



『いえ、自分ならドールで無力化することも可能でした。』



 キースはハクトの言葉を聞き、鼻で笑った。

「下した判断と真逆だぞ。艦長殿・・・・・」



『自分は、自分が戦艦に残った方がいいと』



「知っている。確かに安全策だ。お前が万一やられたらフィーネは終わりだ。」



『恐縮です。』



「ニシハラ大尉。お前もコウヤ君に何か期待しているのか?」

 キースはハクトにモニターを繋げて表情を窺うように目を向けた。



『・・・・戻りましょう。ハンプス少佐。彼をお願いします。自分はサブドールなので、ドールを運ぶほどの馬力はありません。』

 ハクトはキースに答えず、淡々と言った。













 《・・・・“ここ”って決まっているじゃないか。俺たちのいた場所だ・・・・》

 コウヤは乗っていた赤いドールから降ろされて、担架に乗せられていた。



「コウヤ!!大丈夫!!」

 アリアはぐったりとしているコウヤに向かって話しかけていた。



「急いで運ぶから離れてください。」

 モーガンはアリアに距離を置くように言った、格納庫にちょうどいたモーガンは担架に乗ったコウヤを運ぶのに駆り出されていた。





「・・・・・希望の・・・・」

 コウヤは薄く目を開け苦しそうに言った。



 担架に乗せられたコウヤは医務室に連れて行かれた。



 コウヤの後を追おうとアリアは医務室に走って行こうとした時



「アリアちゃん落ち着け。」

 とキースが立ちはだかった。



「でも・・・・コウヤが」とアリアは涙声で言うと



「命には別条ない。今はコウヤ君が目を覚ますのを待とう。」

 キースは落ち着かせるように、アリアに目線を合わせて言った。



「だったら、近くで」

 とアリアは医務室に向おうとする。



「コウヤ君はシンタロウ君に話したいことがあるらしい。だからシンタロウ君を呼んで一緒に行こう。」

 とシンタロウを呼ぶことを薦めた。



「でも・・・シンタロウは・・・・」

 アリアは悲しそうに俯いた。



「いいから。言えることは言えるうちに言った方がいいんだよ。」

 少し叱るようにキースはアリアに言った。



「言えるうちって・・・・・」

 アリアは顔が引きつった。



「これは事実だ。シンタロウ君のところに呼びに行こう。」

 キースはアリアの腕を退いて、シンタロウを呼びに行こうとした。



 そこにちょうどサブドールから降りたハクトが通りかかった。



「コウヤ君はハクトにも話があるようだった。お前も来いよ。」

 キースはハクトに有無を言わせない真剣な表情で言った。



 それを聞いたハクトは少し驚いた顔をしたが

「艦内の混乱が収まってから行く。」

 と真面目な顔で答えた。













 渡された報告書に目を通し、データを確認し、考え込む。どんなに科学が発展しようとも、マーズ研究員は一度紙に仮説をまとめる癖がある。自分の手で文字を書かないと頭に浮かべられないと他人には説明しているが、書いている充実感が満足感に繋がるだけだった。

 だが、成果が得られないことに焦らずにいられるという点では非常に有効であり、冷静でいられる。また、データでやり取りする中、彼に渡す報告書は紙媒体なのはこの研究所では暗黙のルールだった。



「・・・・安全装置か・・・・」

 マーズ研究員は今、とても行き詰っていた。何せ、ドールに下手に武器を搭載できるようにしたせいで、更なる成果を求められた。



 更に彼には思案が進まない理由もあった。



 コンコン



 と扉が叩かれる音がした。彼の自室の扉を叩ける人物はこの研究所の人間ではただ一人だった。



「・・・・どうぞ。」

 マーズ研究員は報告書を机に置いて、扉に向き直った。



 扉が開かれ、入ってきたのは白衣の女だった。



「マーズ研究員。どうせ仮説は進んでいないんでしょ?」

 決めつけるように彼を見て、彼女は微笑んだ。



「進んでいないのは事実です。どうしました?自分が付けた機能で不具合でも?」



「そんなことないわ。あなたのお陰でこっちは一足早くドールに武器を持たせられたのだから。」



「あくまで打撃用のものだけです。銃火器は未だ拒否されます。パイロットに対してとてつもない負荷がかかって、二桁以下では武器と認定されるものを持つことすらできません。」

 マーズ研究員は困ったような顔をした。



「上は更なる成果を求めるけど、あまり焦らないでね。」



「それでは博士。適合率の高いモルモットを増やすべきですよ。」

 マーズ研究員は女を見て懇願するように言った。弟のダルトンに対しては厳しい表情をしていたが、彼は本来他人に甘える性質があるようだ。



「量産しているじゃないの。あなたと私で開発した機械をつけて適合率を上げているでしょ?」



「あれは人工的にあげています。もっと天然がいいですよ。だいたい、このドールプログラム自体に謎が多いんですよ。活用すると便利だからみんな使っていますが・・・・解明されていないものをここまで利用する人類も人類です。」

 マーズ研究員は呆れたようにため息をついた。



「これを開発した人たちは天才だったから仕方ないわ。」



「さしずめ、自分たちは天才の作ったモノの解明をしている凡才ですか。」



「私はそう。あなたは彼らと同じ人種よ。天才君。」

 女はマーズ研究員を頼もしそうに見ていた。



「同じ人種がここまでのものを作るんですね。博士はこれを作った人物を知っているんですか?」



「ええ・・・・とっても知っているわ。」

 女は口元に優しい笑みを浮かべた。



「へえ、どんな人物だったんですか?ムラサメ博士とカワカミ博士は?」

 マーズ研究員は女のことを興味深そうに見ていた。













 戦闘態勢が解除されたことが放送され、艦内の混乱は収まりつつあった。



「でも、艦長ってホントすごいわよね。」

 女性船員の話し声が操舵室に響いた。



「そうね、急に立ち上がって何するのかと思ったらサブドールに乗ってドール退けちゃうんだもん。」



「ほんと、結構かっこいいし仕事もできるし私達いい人の下で仕事ができているわよね。」



 そこにモーガンが現れた。

「あれ?艦長は」

 どうやらハクトを探しているようだった。



「艦長なら例のコウヤ君のところに行ったわよ。」



「彼もすごいわよね。一般人なのに・・・・・」

 と女性船員の話は続いて行った。



「どうしたの?モーガン」

 リリーがモーガンの元に行き訊いた。



「いや・・・コウヤ君が使ったドールがちょっとね・・・」

 と言葉を濁し操舵室から出て行った。









 息をするのが苦しい。これは吸う空気が汚いからだろうか。



 目を開くと涙がすぐに出るほど空気が染みる。



 涙が流れる中、空に飛ぶ物体が見えた。それは鳥のように翼を広げて大空に消えていく。太陽による逆光でよく見えなかった。



 ここはどこだろう。



「・・・・・ここは・・・・」

 目を開くと、コウヤは涙など流していなかった。空気が染みることもなく、息も苦しくない。



 目を開けるとそこにはアリアとシンタロウとキースそしてハクトの姿があった。



「よかった。コウヤ・・・」

 アリアは涙声で言った。



「コウヤ・・・・無事でよかったと思っている。」

 とシンタロウも申し訳なさそうに言った。



「シンタロウ、アリア・・・・俺、なにもわかってなくて」

 とコウヤが言いかけたところシンタロウは



「わかってなかったのは俺の方だ、コウヤが第1ドームで何を見たのか聞いた。」

 と悔しそうに言った。



「それに、俺はドールに乗るの事の意味も深く考えずに・・・・」

 シンタロウは本当に悔やんでいるようだった。歯を食いしばり後悔している。



「そんな大げさだ。俺は生きているし、キースさんにおんぶにだっこだ。艦長にも頼りっぱなしだ。」

 コウヤはキースを見て、少し視線でハクトを探した。



「艦長殿ならもう少ししたら来るぞ。」

 キースは出口の方を指差して言った。



「そうですか。」

 コウヤは少しハクトに会うのを緊張していた。





「よかった。仲直り。」

 アリアはコウヤとシンタロウが気まずい空気でなくなっていることに対して嬉しそうに言った。



「これは仲直りというのか?」

 シンタロウは首を傾げていた。



「仲が悪くなっているわけではないけど、気まずかったからいいんじゃない?」

 キースは三人の様子を見て少し申し訳なさそうに目を逸らした。



 そこに、



「すみませんハンプス少佐。艦内が落ち着かせるまで時間がかかりました。」

 ハクトが小走りで医務室に入ってきた。ノックをしていないことから急いで余裕が無かったようだ。



「おー。よかったな。いいか?コウヤ君。」

 キースはコウヤの様子を窺った。



 コウヤはハクトの顔をしっかりと見てから頷いた。



「そうだ。お前、俺に話しがあるって聞いたけど・・・・何を話すんだ?」

 シンタロウはアリアとキースとハクトを横目で見た。



「うん。シンタロウには話していることもあるけど・・・ここにいる人に知ってほしいって思って・・・・」



「そうか。」

 コウヤとシンタロウは頷き合った。



「え?何々?ちょっと二人だけの世界ってやめてよ。」

 アリアは二人が通じ合っている様子を見て慌てた。



「それは俺たちが知っていいことなのか?」

 ハクトはアリアが聞いていないこととシンタロウが何やら心配しているように見えたのだろう。自分が知るべきことでないのではと思っているようだ。キースはハクトとは逆で、知りたがっているようだった。



 コウヤはハクトを見た。今まで開かれなかった記憶の扉が開いたことにより、コウヤはハクトを見る目が変わっていた。



「艦長・・・・・」

 コウヤは感じた。自分が見た幻のハクトと、今目の前にいる艦長であるハクトが重なるのを。そしてそれは、自分が持っていた写真に写っている人物とも重なるということを



「いいことだから呼んだんだろ?」

 キースはコウヤに急かすように先を言うよう促した。



 コウヤ頷いて、決心をするように息を深く吸った。



「シンタロウは知っているけどアリアには俺がずっと隠してきたこと、そして、艦長には・・・・・お願いしたいことがあります。」

 と三人を順に見て言った。



 それに対してキースは寂しそうな顔をして「俺には?」と食いついてきた。



「キースさんにも知ってほしいことなので呼んでおきました。お世話になりっぱなしですけど、この戦艦にいる間は甘えることにしました。」



「いい根性しているな。」

 キースはコウヤを好意的に見た。





「それよりも、隠していたって・・・何を?」

 アリアは興味を隠し切れない様子だった。

「俺は実は軍の人間だって言うなら驚かないから!!」

 と覚悟を決めたように言った。



 それを聞いたコウヤは安心したように笑った。

「いや、俺は軍の人間じゃない。」



「それならなんだ?」

 ハクトは多少苛立ちがあるのか、眉を寄せていた。たしかにこれから話すことは、忙しい艦長を捕まえて話すことではないと思うが、コウヤはハクトに言わずにいられなかった。



 コウヤはハクトを真っすぐ見た。



「俺、12歳の時転校してきただろ。・・・・・実は、それ以前どこにいたのか記憶がなかったんだ。」

 コウヤのその言葉にアリアは絶句した。



「だから、あの写真も・・・・」

 アリアは写真のことをコウヤが知らないって言ったことを思い出した。



「そう、俺は12歳の時ドームの外に倒れているのを奇跡的に今の俺の母さんに助けられたんだ。」

 と淡々と語った。



 ハクトもアリアと同様に驚いていた。



「でも、最近ドールに乗ってから思い出したことがあるんだ。今まで思い出すこともできなかったのに、不思議だな。」

 コウヤは続けて言った。



 その時にキースはハクトの異変に気付いた。顔色が悪かったのだ。貧血のような血の気が引いたような色だった。



「ハクト、大丈夫か?顔色が悪いぞ。」



「大丈夫です。」

 ハクトはコウヤの方を改めてみた。コウヤはハクトの方を心配そうに見ていた。

「悪い、続けてくれ。」

 ハクトはコウヤに頭を軽く下げた。コウヤはそれを聞き



「俺、昔月の「希望」というドームにいたみたいなんだ。なんで地球に来たのかは知らないけれど、それは確かだ。」

 コウヤはハクトの方を見て

「俺は・・・・自分の記憶を探したいんだ。」

 ここにいるみんなに言っているのに、コウヤはハクトにだけ言っているようであった。



 自分の記憶が正しいのであれば、彼は自分のことを知っている。彼の顔色が変わったことも思い当たりがあるからだとコウヤは思った。













『あの事故も12歳の時だ・・・・』

 ハクトは友を亡くした事故を思い出していた。



 ハクトは震えた。コウヤが自分のかつての親友と重なったからであった。

 ハクトは確信が持てるまでコウヤには明かさないことにした。いや、事実は明かせないだった。



 《なんで、こんな時に。それよりも・・・》

 ハクトには、どうしても引っかかることがあった。



 《コウヤは・・・・コウかもしれない。》

 正確に言うならば、自分の親友だった、コウヤ・ムラサメであるかもしれない。と考えていた。キースが言っていたことは正しかった。ハクトはコウヤに対して期待を持ってドールに乗せていた。必要な戦力であるのは事実だが、それはとても身勝手な判断だった。



「そうか・・・・ではできる限り協力しよう。俺もかつては「希望」にいたことがある。」

 罪悪感からだろうか、優しい声色で言うと、精一杯のポーカーフェイスでハクトは部屋から出て行った。



 ハクトは横目でコウヤの顔を見た。彼はハクトを見送り寂しそうな表情をした。



 自分に対して思うところがあるのは一目瞭然だった。廊下に出て歩く足取りも平静でいるのが精一杯だった。



 ハクトは第6ドームに着いたら何をするか決めていた。



「ディア・・・・」

 ハクトは特別なものを思うように呟いた。













 戦艦ルバートに戻ったマーズ隊はまず、仲間の死を嘆いていた。



「くそ・・・・あのレーザー砲さえなければ・・・・」

 ジュンは歯を食いしばっていた。



「いや、今回対峙した敵は皆強力だった。・・・・」

 ダルトンは腕をさすりながら呟いた。神経接続をした腕を引きちぎられるのは生身をちぎられるのと同等の痛みらしい。そしてその痛みはまだ引いていないようだ。他の隊員たちも腕をさすることが多かった。



「あのサブドールクソ強いな・・・・あんなのがいるのかよ。」

 ジュンは思い出すように言うと、顔を青くした。



「あのサブドールは性能差を感じさせないほどの適合率だ。まるで、このドールのプログラムのためにいるみたいでした。そう、あの赤いのもそうだ。ドールの動きが良くなっていくのも早かった。わざとでないと考えると乗り手が成長しているということだけど、それにしては異常だ。訓練をしたものならわかるはずだけど、あんなに早く上達するのはあり得ない。」

 ダルトンは悔しそうに言った。



「もしかしたら、サブドールは噂の黒い奴かもしれないな。」

 とジュンが笑いながら言うと



「それはない。奴だったら逃げれていない。俺たちは生きていない。」

 とダルトンは即答した。



「ヘッセ少尉ってすごかったんだな。生きて帰ってきたんだもんな。」

 とジュンは感心したように言った。



 ダルトンはそれを横目で見て

「もしかしたら、これが奴のやり口かもしれないですよ・・・・評判を広げるためにあえて生かす・・・・という。」



「ヘッセ少尉のプライドずたずただな。あの人うちのトップなのにそんな手加減されて生かされて・・・・」

 ジュンは笑って言った。



「まあ・・・あの戦艦に仲間がやられて憎いのは沢山だけど、これから第6ドームで別の仕事があるのを忘れるな。」

 とダルトンは起き上がった。



「隊長無理すんなって、いくら生身が無事でも神経接続したドールの腕をもがれたんだから。」

 とジュンはダルトンを寝かした。



「それはここにいる全員に言えることだ。それに、薬のおかげでだいぶ直りは早い。心配することはない。」

 とジュンの手を押しのけて起き上がった。



「はいはい・・・・では次の仕事の話でもするか。・・・・隊長。」



「とりあえず、入港手続きだ。ゼウス軍だと入れないから偽装してもらっている。このパスポートで自分とキダ少尉が潜入する。他の皆はアランの遺品をまとめて欲しい。」

 ダルトンはパスポートを取り出しジュンにそのうちの一つを投げた。そして亡くなった一般機のパイロットはアランと言うようだ。ダルトンの指示を他の隊員たちは静かに頷いて聞いていた。



「嗅ぎまわっても怪しまれずに済むようにとりあえず、記者関係の使いっぱしりということでいく。マスコミ関係で偽造しているから変な軍隊感覚出さないように。」

 ダルトンはジュンを心配そうに見た。



「当然だろ。」

 ジュンは興味津々で渡されたパスポートを見ていた。



「隊長どのの偽名はなんですか?」



「ああ・・・・えっと俺の偽名は・・・・」

 ダルトンは自分のパスポートを見た。

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 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

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