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六本の糸~地球編~

3.黒いもの

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 ドーム破壊の知らせから、怯える者もいれば家族と連絡を取ろうと試みるものも。そして

「ちょっと外に出しなさいよ!!」



「外は危険です。状況が安定するまで待機してください。」



「そんな待てるか!!家族がどうなってるか知りたいんだ!!」

 と戦艦が動いているにも関わらずたくさんの人が入り口付近に集まっていた。



「コウヤ・・・・みんな無事かな・・・?」

 とそれを見たアリアが訊いてきた。



「わからないけど・・・・シェルターに入ってるなら大丈夫!!それに、他にも避難船はあったんだ・・・・今は信じることしかできない・・・」

 と母親のことを考えながら話した。きっと大丈夫なはずと自分に何度も言い聞かせた。



「コウヤ君外が気になるかい?」

 とキースが影からにゅっと出てきた。



「キースさん!!」



「外の情報は入ってないんですか?」

 とシンタロウ、アリアが詰めかけた。



「まあ、避難船とシェルターのいくつかとは連絡はとれたけど・・・・まだ安全じゃないことは確かだと・・・いかんせん、穴が開いただけではない。がっつり破壊されたからな。」

 それを聞いて



「よかった・・・・・この船に乗っている人以外にも生きている人いたんだ・・・」

 と二人は安心していた。



「その代り、誰が乗っているか知らないけどな。」

 と付け足した。



「それより、何の用です?」

 とコウヤはさらに問いかけた。



「俺と艦長どのの許可が入ったから、君はちょっとの間、この船のドールに乗ってもいい身分なんだよねー・・・・」

 とニコニコしながら耳元に囁きかけた。



「それって・・・・」

 とコウヤが顔を輝かせると



「いくつかの応援のサブドールは外に出ているけど、君に外を見る覚悟はある?」

 と訊いてきた。







 ドーム地連本部

 ある部屋で二人の若い男が話している。



「そうか・・・・やっぱり、ゼウス軍は強硬手段に出たか・・・。知っていて上に知らせなかった私は何と言われるかな?」

 ロッド中佐は楽しそうに目の前の作業着に身を包んだ少年に尋ねた。



「はい・・・中佐は悪くありません。だいたい知っていたというのも予測の範囲ですから。でも、これでゼウス軍はしばらく国際会議で責められます。ヘッセ総統も派手に動けなくなる。」

 少年はロッド中佐を庇うように言い、ヘッセ総統に対して嫌悪を露わにした。



「ドームが一つ消えたのは大きい・・・・戦力不足であったのも事実だが、地連軍が私以外想定していなかったのも事実だ。学習はサルでもできる。」



「あなたが直接働きかけることできる立場にいられれば、違うのですけどね。現場に行かせてもらえないのですか?」



「上に立つのは悪いことではないが・・・・自分の手足を自由に動かせないのは難点だ。」



「俺を使ってください。俺があんたの手足の一部になります。」

 少年は自分の胸を強く叩いた。



「君をそんな安く使いたくない・・・今の働きにも十分すぎるほどなのだからな」

 ロッド中佐は優しく窘める様に少年に言った。



「しかし・・・・・ゼウス軍を自由にさせたくないです。上の奴に中佐の、あんたの悪口を言われるのも・・・・」



「私が動くのはまだ先だ・・・・強者はゆっくりと腰を据えるものだ。」

 ロッド中佐は指を組み、笑った。



「強者か・・・・。」

 少年も彼につられるように笑った。







 イジーは知らせを聞いて驚いていた。

 まさか地球上のドームを一つ消されてしまうなんて夢にも思っていなかった。

 そこまでやるなんて



「月の二の舞じゃない・・・・」

 と憎々しげに呟き一つの部屋の前に止まった。



 機械的な動きでノックをし

「イジー・ルーカスです。中佐、入ります。」

 と言い中の返事を聞かず扉を開けた。



 部屋の中には作業員風の若い男と、軍帽を被ったこの部屋の主らしきサングラスの男がいた。二人とも帽子を目深に被っている。



「ルーカス中尉か・・・どうだ?軍の様子は」

 と中にいたこの部屋の主、ロッド中佐は訊いてきた。



「はい・・・その前に・・・・この男はなんですか?」

 とイジーは部屋にいた作業員らしき少年を見つめて訊いてきた。どうやら知らない男のようだ。



「この少年は私の学生時代の友人でな・・・・第一ドームから来たばかりなんだ。」

 とロッド中佐は丁寧に男に掌をかざした。



「そうですか・・・・今回のことはお気の毒です・・・」

 イジーは第一ドームという言葉に過剰に反応した。たった今破壊されたと知らせが入ったドームだからだ。



「いえ・・・・ではロッド中佐。また。」

 男は早く切り上げたい様子で、軽く礼をイジーにして、慣れた様子でロッド中佐を見た。



「ああ・・・またな。」

 ロッド中佐も慣れたように手を振ると、男は早々と部屋から出て行った。



 出て行く男の様子をイジーが観察するように見つめた。



 男が出て行ってからしばらくして

「すまないが、詮索はしないでくれ。あの男は素性がばれると少々厄介でな・・・」

 男を観察するようなイジーの様子を見てロッド中佐は忠告するように言った。



「わかりました。では中佐、今回のことに関する上の決定です。」

 と機械的に資料を差し出した。



「ああ、わざわざありがとうな。」

 とロッド中佐は丁寧に資料を受け取った。



「ほう・・・これは・・・ハンプス少佐が付くのか・・・・」

 と興味ありげにロッド中佐は口元に笑みを浮かべた。



「ええ、ハンプス少佐は、あなたと関りが深い人物でもありますよね。」

 イジーの言葉にロッド中佐しばらく沈黙した。



「・・・・そうだな。確かに」

 考え込む様子だった。イジーはその間が気になったが、聞いても教えてくれないと思い別の話を考えてた。



「中佐はまだ戦線には出させてもらえないようです。」



「そうだろうな・・・・私は軍本部の守りみたいなものだ。そうやすやすと離れさせてもらえるとは思っていない。」

 と苦笑いをしながら話す男を見ながら、イジーは機械的な表情のままお辞儀をし



「では失礼しました。」

 と出て行った。



 部屋を出てしばらく歩くと



「ドーム一つやられたのに顔色一つ変えないのね・・・・・相変わらず・・・・・何を考えているのよ・・・・」

 イジーは吐き捨てるようだが、どこか寂しそうに言った。









 月のドーム「翼」付近の宇宙空間では

 地球を見下ろす形でネイトラルの若き総裁ディア・アスールは窓に張り付いていた。



「降りるのはいいが、上がるのに時間がかかるのは不便だな。」

 ディアは予定を気にしていた様だ。



「何か時間がかかって困ることでも?」

 補佐らしき男がディアの様子を窺った。



「いや、時は金なりというからな。時間が惜しいだけだ。」

 ディアは手を払い、話題を切り上げた。



 そこでちょうど補佐らしき男の電話が鳴った。

「失礼。ちょっと出ますね。」

 男は廊下に出て行った。



 電話に出たのだろう。やけに大げさな話し声が聞こえる。



 ディアは廊下の男の話声を聞きながら窓に映る地球を見ていた。



「あの男は、私に何を悟られないようにしていたんだ・・・・?」

 ディアは地球で対談した、ある軍人のことを思い出していた。そして、廊下であった少女のことも思い出した。



「クロスを探しているのは君だけではない。」

 ディアは皮肉そうに笑った。



 廊下に出ていた補佐らしき男が部屋に駆けこんできた。

 ノックもなしに入ってきたことにディアは驚いたが、特に態度に出すことではなかったから目線だけ男に向けた。



「総裁・・・・これからのゼウス総統との会談・・・・どうします?」

 補佐らしき男は息を切らせながら深刻そうに訊いた。



「出ないわけにはいかないだろ。何かあったのか?」

 長距離を走ったわけでもないのに息を切らせている男を不審そうにディアは見た。



 補佐らしき男はディアを見て一瞬たじろいだが真剣な表情で



「ゼウス軍が地球の第一ドームを破壊したという連絡が入りました。」

 と伝えた。



「なら、なおさら会談を出ないわけにはいかないな。」

 と口元にのみ笑みを浮かべて言った。

 手にじっとり汗が滲んだ。

 

 そんなことを知らない補佐らしき男はディアの様子を見て不思議そうに首を傾げた。



「総裁は・・・・こうなることを予想していたのですか?」

 と補佐らしき男は恐る恐る訊いてきた。



 それを聞いたディアは少し腹が立った。



「そんなはずないだろう。予想してて我が国も損害を受けることをみすみす見逃す私ではない。」

 とディアは地球に目線を戻しながら言った。



 そうだ。予想出来ていたなら止める。ドームの破壊など、自分が許すはずない。内心歯を食いしばった。



「ですよね・・・・総裁がそんなことを・・・・」

 と安心したように補佐らしき男が言うと



「だが・・・・、あの男は予想していただろうな・・・。」

 とディアはある人物のことを思い出しながら呟いた。



「あの男って・・・・一体・・・」

 その呟きに補佐らしき男は突っ掛かってきた



 その様子を察知しディアは微笑みかけた

「・・・・・地連の軍人さんだよ」

 内心その軍人に対する苛立ちと得体の知れない何かを感じて恐怖を覚えていた。







 壊れたドームとはドームの外と変わらない環境に陥るため非常に危険である。

 外に見える人は大体が死体ばかりであり、昨日までの草木や川の鮮やかな色が嘘のように生命力を感じない廃墟と化していた。



「これは・・・・」

 と目に映る光景にコウヤは衝撃を受けた。



『これが現実だ・・・・避難船の方は軍本部のドームに向かってもらったが、シェルターに入った奴らは全滅だ・・・・。長時間汚染された空気を吸って、処置も受けれなかった。』

 とサブドールからキースがしゃべりかけてきた。



「・・・・母さんは・・・・・」

 と急に母親の顔がよぎり、かつて自分の家であった場所まで移動し始めた。



 それを見て

「おいおい・・・・急ぐなよ・・・・って聞いてないな」

 とキースはため息をつきながら後を追って行った。



 だが、サブドールよりドールの方が性能もよくどんどん離されていく

「全く・・・・ヤバい奴をひろってしまったな・・・」

 愚痴のように呟くキースだが、嬉しそうにも見えた。





 《母さん・・・・いないか》

 とかつての自分の家を見つけたが母親がいないことに安堵したコウヤは



 そのままそこに座り込んでしまった。



 すると座り込んだドールを見つけたキースはコウヤの乗ったドールに近づき

 通信を繋げて言った。



「この辺だったら避難船に乗ったんだろう・・・軍本部で会える可能性がある。」と

 それを聞いたコウヤは



『ありがとうございます・・・・ちょっと家に忘れ物を取りに行きたいんですけど・・・』

 と通信でも涙声だとわかるこえで訊いてきた。



「生身のままで出ると体がもたないぞ。前のポケットに入ったスーツを着てから出ろ。」

 とキースは指示した。



 その指示通りコウヤは前のポケットからスーツを取り出し

「わかりました。」

 と言い着替え始めた。

 手元のボタンを押し通信を切ったキースは呟いた。



「やっぱりまだ子供だな。」

 しばらくすると目の前のドールからスーツに着替えたコウヤが出てきて民家の中に入って行った。

 その様子を眺めキースは自分の軍からの命令を思い出していた。



 それと同時にコウヤと変わらない年齢で艦長を務めるハクトやフィーネの船員のこと思い出した。

「一体、いつから軍は若い奴らを捨て駒のように扱うようになったんだか・・・」

 キースは悲しそうに呟いた。







 最初集まったのは二人だけだった



 俺とあいつは親友だった

 それからどんどん親友は増えた



 あいつには一人前に彼女がいた。というより自称彼女がいた。

 なにせ当時のあいつ等はませていた



 みんながみんな好きな人がいたというより、みんながみんな好きだった。

 子どもながらませた想いが成就したのに俺だけ伝えられなかった。



 今考えるとみんなバラバラになったけれど、それだけが後悔だった。



 だけど彼女の言葉を忘れない。

 別れ際に言ってくれた言葉は



「これからも君と同じことを思っているよ。私はね。」

 あれから何年も会っていない。



 あいつが死んだからバラバラのままになってしまったのだろう

 中心がいなくなると簡単にばらけるものなのか。



 いや、それだけではなかった。俺たちは複雑だった。無力な子供であると同時にただの子供でいられなかった。

 でも、やっぱりあいつが居たら違ったと思う。



 なんで死んだんだ・・・・コウ





「艦長、ドールが帰ってきました。」

 リリーの声でハクトは我に返った。



「そうか・・・現実を見てきたか・・・」

 とハクトは哀しげに言った。



 できれば見ないまま安全なところに避難させたかったが、彼に見て欲しいとも思っていた。



 《俺は、期待しているのか・・・・?》

 ハクトは自問した。









「おかえりーどうだった?誰かいた?」

 といういつもどおり笑顔で言うアリアにコウヤは



「うん・・・・まあね・・・。」

 と曖昧な返事しかできなかった。



 自分の見た現実は、自分以外のドームの人間に話すのは気が引けたからである。

 そもそも自分が見ていいものであったのかもわからない。



 その様子を見かねたキースは

「それより、お前は何を取りに行ったんだ?」

 とコウヤから荷物を奪い取った。



「あっ・・・ちょっとキースさん!!」

 とコウヤはすかさず追う。



 素早くキースは手をとらえられてしまい

「おいおい・・・見せてくれてもいいだろ?」

 と参ったような笑顔で言った。



「いいですけど・・・なくさないでくださいね。」

 と言いコウヤは荷物を見せた。



 それを見たアリアは

「これ・・・いつもコウヤがつけていたネックレスでしょ・・・」

 と七色に光る古びたアクセサリーを指さした。



「そう。よく見ているね。いつも服の下に付けるのに・・・」

 というセリフを聞きアリアは顔を真っ赤にし



「べ・・・・別にいいじゃない!!」

 とそっぽを向いた。



 その様子を見ていたキースは

「若いねー」

 とにやけながら呟いた。



「でも、なんで今日はつけて出かけなかったんだ?」

 とシンタロウが割り込んできた。



「ああ・・・なんか間違って洗濯しちゃっててな~」

 とコウヤはバツが悪そうに笑った。



「あらら~・・・・仮にも大切なものでしょーが。丁寧に扱いなさいな。」

 とキースは軽いいたずらを責めるように笑いながら言った。



「はーい。」

 といいもう一つのものを取り出した。

 それは一枚のふるい写真であった。



「これなに?」

 とアリアが興味津々に寄ってきた。



「まあ・・・・秘密」

 コウヤは軽く笑った。コウヤはキースから取り戻そうと手を伸ばしたが、キースの方が身長が高く手足も長い。



「へー・・・・これってコウヤの小さいころの写真ね・・・・コウヤの仲の良かった友達?」

 とコウヤの周りに写っている5人の子供を指さした。



「さあ・・・・わからないさ」

 と苦笑いをし、コウヤは再び写真に手を伸ばした。



「それって私たちに言えないような仲だったってこと?・・・・わからないはずないじゃん。自分のことなのにね。」

 とアリアは笑いながら写真を見ると何かに気づいて動きを止めた。



「この人さ・・・・似てない?」

 とコウヤの隣で仲よさげに笑っている少年を指さした。



 それを見たキースは目を丸くし

「こりゃあ・・・・たまげたな・・・」

 と感嘆の声を上げた。



「なにが?見せて見せて」

 とシンタロウが身を乗り出してきた。



「全く・・・・他人の写真で何してるんだか・・・・」

 とコウヤは呆れ気味で言い、とうとう写真に群がる3人から写真を奪った。



「あー!!まだ見ていたのにー」

 とアリアが口を尖らせていうと



「もういいだろ。仕舞ってくる。」

 とコウヤは割り当てられた部屋に向かった。



「けちー」

 と歩いて行くコウヤの背中にアリアは叫んだ。



 コウヤがいなくなってから

 キースは何かを思い立ったように

「そういえば、コウヤ君の運動能力には驚いたなー。俺こう見えても訓練積んでいるのに、あっさりと荷物奪い返されちゃったぞ。」

 と笑いながら言うと



「コウヤはすごいのよ!!頭はいいしスポーツだってなんでもほぼ1番なんだから。」

 と興奮気味でアリアが語り始めた。



「へー・・・二人はコウヤ君と長い付き合いなのかい?」

 と感心したようにキースが訊くと



「いや。コウヤは6年前に転校してきたんだよ。」

 アリアは力強く言った。



「6年の付き合いよ!!」

 そして付け食わるように強く言った。



 そこに「ハンプス少佐。ちょっとお話しいいですか。」

 と艦長ことハクトが来た。



「なんだ?艦長ならやらねーぞ。お前がそのままやれ。」

 と手を払いながら言った。



「はあ・・・」

 と残念そうにため息をついていると



「やっほーハクト君!!」

 とアリアが話しかけてきた。



 それに驚いたハクトは

「ああ・・・どうも・・・」いきなりのことにどもってしまった。



「ハクト君って私たちと同い年らしいね。・・・・ってキースさんが言っていた。」

 とアリアがハクトに詰め寄りながら言った。



「そうなのか?・・・・ハンプス少佐」



「おたく18歳だろ?コウヤ君含めて3人とも18歳らしいぞ。」

 それを聞きハクトは顔を顰めた。



 《コウヤ君か・・・・・似すぎる上にあの適合率は・・・・決して訓練だけで手に入るものではない・・・・》

 ハクトはコウヤの姿と、誰かの姿を頭の中で比べていた。



 《・・・・期待したとしても今の俺にどうすることもできないのだがな。》

 ハクトは内心自分を嘲った。







 コウヤは写真を眺めていた。

 ボーっと見つめていると、あることに気付いた。



 自分だと思われる少年と手を繋いでいる少女の髪形は違えどユイいう少女にそっくりであることに・・・



「そういえば・・・・さっきはなにを3人は見ていたのだろう。」

 写真の一番前の真ん中に自分らしき少年が笑っておりその右手側に彼と手を繋いでいるユイに似た少女。

 

 そして、左側に仲好さそうに肩を組んでいる少年。・・・・・



「こいつ・・・・」

 コウヤは飛び上がりそうになった。だが、必死に記憶を手繰り寄せようとしても出てこなかった。必死になるほど何も出てこなくて、少し苛立った。



 ドールに乗ったせいで頭が働かないと結論を出して写真を仕舞おうとした。

 ふとドームで見た景色のことが蘇った。



 どこかに置いたら失くしてしまいそうな気がして、コウヤは持ち歩くことにした。







 ハクトは艦長を交代するつもりでいた。

「ただの兵士がどれだけ楽だったか・・・」

 と呟き考え事にふけった。



 コウヤと言う少年は昔の友人にそっくりであった。

 ハクトはここ最近のことを考えていた。



 不意に胸に手を当てていた。

 その動作をしたことに思わず笑ってしまった。



 服の下から幼いころのかけがえのない親友たちとの思い出の品を取り出した。

 暗くてどんな色かはわからないが、古びたネックレスであった。



「みんな、どこに行ったんだか・・・・」

 と行方を知れない別れた親友たちの安否を心配した。









 きらびやかな装飾を施された部屋には一人の貫録のある初老の男と彼のボディーガードらしき集団が並んで待っていた。



「どうも・・・ヘッセ総統。ネイトラルのディア・アスールです。」

 とディアは初老の男に手を差し出した。



 それを見た初老の男は柔和な笑みを浮かべ

「初めましてアスール総裁。ゼウス共和国のロバート・ヘッセです。」

 と差し出された手を握った。



「どうぞおすわりください。私も齢なもので、早く座りたいのだよ。」

 と気さくにヘッセ総統は話しかけてきた。



 それを聞きディアは

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

 と椅子に座った。



「いやあ・・・・こんな若い子と首脳会談する日が来るとは思っていなかったので緊張していますよ。」

 と変わらず気さくに話した。



「私も、ヘッセ総統のような偉大な方と会談できる日が来るなんて思っていませんでした。」

 と笑顔で返した。



 それを見たヘッセ総統は

「しかもこんな美人さんとは・・・・ついていますなーはははは」

 と言い終えたところで



「さあ、なんでも話しますよ。アスール総裁」

 と何かを見据えたように表情を変えた。



 それを読み取ったディアは不敵に微笑み

「では・・・・ヘッセ総統、貴方の国は我が国の活動は知っていますよね。」



「ああ・・・平和主義のためならなんでもすることはよくわかっている。」

 とヘッセ総統はさっきまでの気さくさが嘘のような突き放した表情で言った。



「ええ、完全に貴国と地球勢の中立の立場をとっています。」



「平和主義なら、なぜ武器を持つ必要がある?」

 とヘッセ総統は訊いた。



 それを聞いたディアは一呼吸を置いて

「先日・・・地球の第一ドームが破壊されました。そんな世の中ですから武力を持たないといつ侵略されるかわからないのですよ。」

 と皮肉を交えて言った。ディアはヘッセ総統を測るように見つめた。



 その言葉に

「それは・・・物騒ですね。・・・そんなことがあったんですね。」

 とヘッセ総統は言った。



 その言葉にディアは耳を疑った。

「・・・・ヘッセ総統・・・・私は、破壊は貴国の軍が行ったと聞いておりますが・・・」

 と声を震わせていうと。



「私は避けられない事故のせいでドームが壊れたとは聞きましたが、破壊されたとは・・・・一体なんのことですか?」

 とヘッセ総統は続けた。無駄に演技がかった仕草がどこぞの軍人に似ていたが、上に立つ力をもつ者は胡散臭くなるものだなと思った。



 そして、ディアは確信した。

『この男・・・・しらばっくれている。』

 ゼウス共和国の性質もよく理解した。何をやっても認めないのだ。この国は。



 そして「希望」を破壊したときもこのようなことを言ったに違いない。



 彼が死んだ事故のことも。いや、事故なはずない。

 血管が逆流しそうな怒りを覚えたが、内部で静めてディアは表情を元に戻した。



「そうですか。失礼いたしました。」

 と話の流れを元に戻し貿易の話に話題を移していった。



 が、ディアはさっきとは違う目でゼウス共和国の総統を見つめていた。

 そして、その一瞬の表情の揺らぎでヘッセ総統もディアを見つめる目を変えていた。

 まるで、何かを思い出したようであった。



「本日はありがとうございました。これからもお互い協力し合っていきましょう。」

 とヘッセ総統は手を差し出した。



 ディアはその手を即座に握った。

「こちらこそ・・・・ヘッセ総統・・・・」

 と笑いかけた。



 ディアはそのまま足早に退出していった。

 ドアの外で待っていた補佐らしき男はすぐディアの後を追った。

「総裁!!どうかしましたか?」



「すぐ地球に戻る。船を出せ。」

 と急いだ様子で命じた。





 ディアが出て行った部屋では・・・

「あれがディア・アスールか・・・・・」

 と呟くヘッセ総統に



「どうかなさいましたか?」

 とボディーガードの一人が尋ねた。



 その言葉にヘッセ総統は冷たい目で

「あの小娘。今に恐ろしい存在になる。敵になる可能性がある以上、地球に帰すな。」

 と吐き捨てた。



「了解しました。」

 ボディーガードの男は迷いなく答えた。







「総裁どうかしたんですか?もう少しゆっくりしても・・・・」



「君はいいだろうけど・・・・おそらく私はヘッセ総統に敵認定されたようだ。」

 と出港する船の中で二人は話していた。



「それは・・・どういうことですか?」



「あれ以上ゆっくりしていたら、不慮の事故で私は死んでいたかもしれない。そして、地球までは何が起こってもおかしくない。」

 と少し自虐的に笑った。



「なんで笑っているんですか?」

 と補佐らしき男が訊くと



「ヘッセ総統は、実は幼いころの私を知っているはずなんだよ。いや、向こうが何かで見たことがあってもおかしくないということだ。」

 と過去を思い返していた。



「そうだったんですか・・・・・向こうは気づいていましたか?」

 と訊くと



「気づかれたから敵認定をされたのだよ。」

 ディアは断定するように言った。



「・・・だが、おかしいな。」

 そこで何か違和感を覚えたようだが、急いで戻ることが優先されるため、思案を止めた。









 あの悪夢のような一日から夜が明けた

 避難民は専用の部屋で夜を過ごし、特別に戦士となったコウヤは自分の部屋らしきものを用意されていた。

「コウヤおはよう!!」

 と部屋にアリアが飛び込んできた。



 部屋で寝っころがっていたコウヤは体勢を変えず



「・・・・・おはよう。」

 とだるそうな声で答えた。



「体調悪いの?・・・・だるそうだよ・・・」

 アリアはコウヤに寄って行った。



「頭が痛い・・・・・なんか体もだるいし。」

 とコウヤは目線だけをアリアに向けて言った。



 すると後ろから

「当然だろ。ドールと神経接続したのだからな。」

 とハクトが入ってきた。



「ハクト君。おはよう。」

 とアリアは仲よさげにあいさつした。



「おはよう。・・・・コウヤ君今日は無茶をするなよ。」

 とハクトは飲み物を枕元に置いた。



 それを受け取ったコウヤは

「ありがとう・・・艦長さん・・・・・あなたはドールに乗ったのに辛くないのですか?」

 とコウヤが訊くと



「平気だな・・・・俺はこの1年間ずっとドールに乗って過ごしていたといっても過言ではないからな。」

 と答えると後ろから



「違うよコウヤ君。この艦長さんは特殊だからドールにどれだけ乗っても平気なんだよ。俺はサブドールでも頭痛するし・・・・」

 と笑いながら頭を押さえてキースが入ってきた。



「慣れですよ・・・・ハンプス少佐。だいたいあなただってそんなに辛くないくせに・・・・」



「一般人は慣れないんだよ。化け物野郎め・・・」

 と羨むようにキースは座り込んだ。



「艦長さんと知り合いだったんですか?キースさん。というかずっと気になっていたんですけど、キースさんってキースじゃないんですか?ショウさんって名前はミドルネームですか?」

 と驚いたようにコウヤはキースを見た。



 それを聞いたキースとハクトはきょとんとし

「聞いてないのか・・・・この方はキース・ハンプス少佐。“ショウさん”じゃなくて“少佐”だ。軍本部からわざわざおこしになってくれた方だ。」

 とハクトはキースを指し示して言った。



「つっても・・・邪魔者扱いされて飛ばされてきたんだけどね。」

 笑いながらキースは言った。



 それを聞いたコウヤとアリアは

「ええーー!!少佐って・・・艦長より偉いんですか?」

 と訊くと



「そうだな・・・・でも、俺くらいの年齢になると位なんて上がるんだぞ。」

 とキースはハクトの方を見た。



「そうですね。俺もドールに乗ってからあっという間に大尉まで上がりました。」

 と答えた。



「へー・・・でも何でそんなに早く・・?」

 とアリアが訊くと



「戦艦に乗るときに位は貰うけど、何よりも空いたから上がるんだよアリアちゃん。」

 キースは表情を変えずに言った。







 地連本部

『緊急事態。敵軍らしき船を発見。』

 と指令室に響いた。



 指令室には大げさなほど大きなモニターと壁一面に広がる通信機器と十数人すべてに割り当てられた端末があった。



 規模の大きい機械まみれの部屋は、軍本部の指令室に相応しかった。



 その中心ともいうべきところに座るのは軍帽を深く被ったサングラスをした長身の軍人だった。



 中心に座る軍人、ロッド中佐はオペレーターに訊いた。

「敵軍か・・・・何隻だ?」



 急に声をかけられたオペレーターはたじろいだが

「はい・・・・・5隻ですがどうしますか?」と答えた。



「私が出よう。万一のことを考え、何人か出れるようにはしろ。」

 とロッド中佐は出て行った。

 その後ろ姿を見ながらオペレーターたちは



「その出れる準備をした人が出た覚えはないのですけどね。」

 とロッド中佐に聞えないように言った。







 その敵軍らしき船の中では

「ここね・・・・・パパの邪魔をする奴がいるところは・・・・」

 大きな要塞のようなドームの外に緑色のドールとそのほかにグレーのドールが何体かいた。



『ヘッセ隊長・・・・自分はこのような機会に初陣を飾れて嬉しいです。』

 と新人らしき兵士が通信で言ってきた。



「お前等の力を見込んだのだ。自分は選ばれたと思って力を奮え。そして勝利を本国に持ち帰れ。」

 レイラは通信を全部のドールに繋げて言った。



『隊長。ですが、本部には黒い奴が出ると聞いていますが・・・・』

 一人の隊員が不安そうな声を上げた。



「奴は一人だ。父上は勝てる可能性があるからこそ私を送った。お前らもそうだ。」

 レイラは噂に聞いていた軍本部にいる最強の軍人のことを思い出した。



『・・・・ですよね。隊長がいるんだ。』

 不安を訴えた兵士は自分に言い聞かせるように言った。



「強敵で苦戦するかもしれない。しかし、ここで勝利を収めれば間違いなくこちらが有利になる。苦しくても、士気を落とすような姿を晒すな。」

 と叫び隊員たちを鼓舞させた。



『はい!!』

 と各ドールから返答が聞こえた。



 レイラは戦術を何度か頭の中で思い返し息をゆっくりと吸ってから



「いくぞ!!」

 大きな要塞のようなドームに向かって飛び立って行った。







「中佐・・・・・何やらドールの小隊らしきものも向かってきてる様子です。」

 とスーツに着替えたロッド中佐を追ってイジーが報告した。



「君は、私があんな国の兵隊に負けるとでも?」

 ロッド中佐はサングラスと軍帽は外さずにしていた。そして、片頬を吊り上げて笑っいドールに飛び乗って行った。



 素早く乗り込み、慣れた手つきでコードを繋いでいく。

 5秒もかからないうちに動き始め飛びったって行った。





「・・・・・思っているわけないですよ。」

 イジーは出撃するドールを見送りながら言った。



「でも・・・・絶対帰ってきてくださいよ。」

 ロッド中佐の姿が見えなくなってから何か思いを込めたように呟いた。







 何かの気配を感じたレイラは動きを止めた

「止まれ!!・・・・何か感じないか?」

 と通信越しに他の隊員に問いかけた



『これは・・・・他のドールの気配ですか?』



『隊長でも、俺は一体しか感じません。』

 と隊員は次々とドールの気配を訴えた。



「地連軍はアホなのか・・・・ドール10体に1体のドールしか出さないとは・・・・いくら黒いのがあっても。」

 とレイラは呆れ気味に言った。



『すみません!!・・・・でもほんとに1体しか・・・』



「違う。皮肉ではない。私も1体しか感じない。」

 すると遠くからゆっくりと近づいてくる1体の黒いドールが見えた。



 そのドールを見たレイラは感心した。

「ほお・・・黒いドールだな。武器の装備までしていても、十体を相手にする気か?」



『隊長、武器を持ったドールは戦ったことありません』



『バカ!!シュミレーションと同じの実戦があるか!!』

 という会話が繰り広げられているのを聞き



「その通りだ。こっちは数で勝っている。しかも、私が選んだ精鋭たちだ。・・・・・行くぞ」

 と言う言葉で10体のドールはゆっくりと近づくドールに向かって行った。



 5体のグレーのドールが黒いドールを取り囲んだ。

『もらったぜ』

 と一斉にそれぞれ違う方向から攻撃をした。



 ドゴン



 という音が響き砂埃が舞った。



「油断するな。これで壊れるほどのもろいドールではない。」

 とレイラは引き続き士気を保とうとしていた。



 すると

『壊れていますよ!!ほら・・・手足がバラバ・・・・』

 という通信が来たと思うと途中で途切れた。



「どうした!!」

 レイラは慌てて返答を求めた。



『そ・・・そんな・・・・』

 通信の声は震えていた。



「だからどうした!?」

 と怒声を交えて訊くと



『壊れたのは・・・・グレー3号機です・・・・』



「なっ・・・・」



『コックピットを潰されています。即死で・・・・ザーー』

 ともう1体からの通信も途絶えた。



 攻撃に参加した5体全部に通信が繋がらなくなった。



「気を付けろ!!・・・敵はただ者ではない!!」

 と叫んだと同時に後ろにいた仲間のドールが潰されたのに気付いた。



「こ・・・こいつは・・・・」

 後ろにいるドールと距離を取り相対すると・・・



『隊長・・・・この黒いドールはやはり・・・・』

 という通信が入った。



「馬鹿者!!今はそれどころでは・・・」



『黒のロッ・・・・・ザーー―』

 途中で途切れた。



「こいつ・・・・強い。ドールの性能じゃない。このパイロットが化け物だ。」

 とレイラは目の前の敵を見据え覚悟を決めた。本能的に恐怖を感じた。



 しかし、何としてもこのドールに勝たなくてはならない



『隊長!!どうしますか!?』

 生き残っている隊員からの通信が入ったがそれすら耳に入らず突進していった。



 黒いドールはレイラの突進を正面で受けまるで子供を相手にするかのようにたくみ受け流し潰しにかかった。

 レイラは寸前のところで避け地面に転がった。



「こいつは・・・・」

 もはやレイラには他の部下のことなど頭になかった。



 黒いドールはレイラの最高速を上回る速度で残りの隊員のところに飛び立った。

 その時初めて他の隊員のことと自分が隊長であることを思い出したレイラは



「逃げろ!!撤退だ!!」

 と叫んだ。



 しかし、叫んだ時には遅く

 レイラを入れてのこり3体にまで減ったドールのうち

 2体が同時にコックピットを潰された。



「くそ!!」

 レイラは体勢を立て直し退却の準備にかかった。



 それに気づいたのか黒いドールはレイラに向かってきた。

 急いで逃げるが速度は向こうの方がはるかに上である。



「速い・・・そんな。」

 近づいてきたところにすかさず攻撃を入れたが



「・・・・・う・・・そ」

 レイラは絶句した。



 レイラにはコントロールできない速度を超えて動くのだが、レイラが放った攻撃は最低限の動きで素早く避け、即座に反撃に変わるドールの動きに・・・





 決して勝てないそう悟ったときレイラは死を覚悟した。

 黒いドールがレイラのドールのコックピットに攻撃を入れようとした時

 レイラの頭に昔の想い人がよぎった

 その想い人は優しく、自分のことを大切におもってくれて・・・・・・



 その時

『死ねない』

 と強く思ったレイラは、全力のスピードで避けた。



 ゴシャン

 機械がつぶれる音が響き渡った。







 優しく微笑む少年にレイラはいつもくっついていた。

 変わらず優しく微笑む少年をレイラは縋りつくように追いかけた。



 《私はね、優しいクロスが大好き。クロスは私のことを大切に思ってくれているし、私もクロスが大切だもん。》



 少年は優しく笑いかけるだけだった。



 《クロスは一人だった私のそばにずっといてくれて一人じゃなくしてくれた。最初は大好きな友達だったけど今はそれだけじゃない。》



 世界で一番クロスが好き

 これからもずっとクロスが一番



 ふと父親の姿が浮かんだ。だが、あっけなく消えた。

 父親が消えると同時に、目の前で微笑む少年と、彼の後ろで笑っている親友たちがはっきりと浮かんだ。



 《だから、今どこにいるか教えてよ。あれからずっとさがしているのに。生きているなら私のそばにいて》

 レイラの目の前に炎が広がった。その炎に揺られながら目の前の少年は微笑んだまま消えた。







「お疲れ様です中佐。外の様子はモニターで見ていました。」

 とイジーは帰ってきたロッド中佐に言った。



「外に転がっているドールの残骸は放っておいたが・・・・持ってきた方がよかったか?」

 とロッド中佐は軍服の袖を腕に通しながら訊いてきた。



「技術者たちは欲しがると思いますが、今は回収しなくてよかったです。」

 とイジーは一瞬彼がどのようにドールを倒したか思い出して不快な顔をした。



「まあ・・・そうだろうな・・・・」



「中佐もやはり死体を持ってくるのは嫌ですか」

 と訊くとロッド中佐はさも当たり前のことを言うように



「全部ガラクタにしかならないからに決まっているだろ。」

 と吐き捨てるように言った。



 それを聞いたイジーは

 《この人には人の心はないのだろうか・・・・》と悲しそうに考えていた。



「もっとも・・・欲しかったドールには逃げられたからな・・・・・」

 とロッド中佐は笑いながら言い歩き始めた。









「大丈夫ですか・・・・」

 と救護班の言葉に



「ふん・・・・笑いたければ笑えばいいさ」

 とレイラはふてくされていた。



「笑いませんよ・・・・・相手があの黒いドールだったのですから。」

 とレイラの傷の血を拭きはじめた。



「あいつは何者だ?黒い奴で最強というのは嫌というほど聞いた。あれは次元が違う。」

 とレイラは興味津々に救護班の言葉に食いついた。



「彼は、レスリー・ディ・ロッド。地球側の名家ロッド家のものであり、軍の最後の砦と言われるほどの実力者です。」



「・・・・ロッドだと・・・・たしか、没落した貴族でないか。ふた昔前までは政治に関わるほどの権力を持っていたが・・・・最近は貴族であるのも苦しいのではないか?」



「ロッド家の救世主とも呼ばれています。」

 と熱を込めて言う救護班の男を見ながら



「お前・・・・・憧れているのか?」

 と卑しいものを見るようにレイラは言った。



「力あるものを羨ましがっているだけです。あの力が自分にあれば、この国にも大きく貢献できます。」

 とすっぱりと否定した。

 それを聞いてレイラは安心したような表情をした。



「私より強い者と戦ったのは初めてだ。・・・・・ゴホッゴホッ」

 とレイラは咳き込んだ。



「無茶しないでください・・・・生身で外気に触れてしまったのですから。」

 と薬を取り出しレイラに差し出した。



 それを横目でみて

「要らん・・・・・・」

 といい立ち上がりどこかへ行ってしまった。



 救護班の者たちはレイラのけがの状況とドールの破損具合の確認をしながら



「ヘッセ少尉でも敵わないなんて・・・・・」



「ゼウス共和国は地球にあのロッド中佐がいる限り勝つことは難しいな・・・・」

 とレイラが聞いたら激怒しそうな会話をしていた。



「ヘッセ少尉に勝てるドール使いがいないからな・・・」





 レイラは内心怒りが込み上げていた。

 あの黒いドール・・・・・

 レイラは戦いを思い返していた。





 ・・・・・ゴシャン

 機械がつぶれる音がした



 レイラはギリギリのところで避けていた。

 ただし、コックピットの表面が剥げパイロットスーツの一部までも剥げ半分生身を外気にさらしている状態にまで追い詰められていた。

 かろうじて動くドールで逃げ切れるとは考えられないほど実力の差は歴然であった。



 スーツの剥げた右肩から右手まで血の粘性を感じるほど血だらけであったが渾身の力を振り絞った。



 その時黒いドールの動きが止まった気がした。



 自分が何をしたのかわからなかったが気が付いたら黒いドールは目の前から消えていた。



 正確に言うならば、黒いドールからかけ離れた場所まで移動していたのだ。

 自分の中の何かが覚醒したのはわかった



 しかし



 それでも黒いドールが自分を殺せなかったわけはないと考えていた。

「・・・・・なるほどな。あの黒いドールはこうやって評判を広めているのだな。」

 と怒りを込めながらも笑った。







「ロッド中佐・・・・なぜあのドールを取り逃がしたんですか?」

 とイジーは訊いた。



 それを聞いたロッドは笑いながら

「私も人間だ。ドール使用の影響で頭痛がしたのだ。」

 と言った。



「貴方がそんな症状が出ないことくらい私は知っていますよ。」

 とイジーはさらに問い詰めた。



 それを聞いたロッドは苦笑し、しばらく考え込んだ

「こうした方が・・・・・ゼウス共和国の兵士は怯えるだろ?」

 と片頬を吊り上げて笑っていた。



「・・・・・モニターで見ていました。私以外にはさっきのいいわけで通じますのでそのことは周りに言わないでください。」

 イジーは呆れきったように言った。



「君は呆れているな。」

 ロッドは不敵に笑い廊下の奥に消えていった。



 その後ろ姿を見送りイジーは内心安心していた。

 だが、心の中ではモヤモヤしたなにかが燻っていた。



 あのゼウス軍のパイロットは見覚えがあったのだからである。

 あの金髪の少女は知っている。



「・・・・でも・・・・なんであんたが向こうにいるのよ?」

 イジーは歯を食いしばりながら呟いた。







「総裁!!大変です。後ろから攻撃してくる船が・・・・」

 ドーン

 と砲撃を受けたのか船が大きく揺れた。



「くっ・・・・地球に帰すつもりないな・・・・」

 とディアは呟き走り出した。



「総裁!!何をするつもりですか?」

 と補佐らしき男が訊くと



「私がドールで出る。戦艦の一つや二つ・・・・・倒してくる。」

 と言い廊下の奥に消えていった。



 出撃口には白いドールが置いてあった。



 そこにスーツを着たディアが走り乗り込んでいった。

 慣れた手つきでパイロットスーツとコードを繋いでいった。



 今まで見てきたドールと違い武器の装備がしてあるのかしきりに手元のレバーの動きを気にしていた。



「よし・・・・いけるか・・・」

 と出撃しようとすると通信が入り



『総裁!!無事に帰ってきてください。』

 とあの補佐らしき男がガラス越しに手を振ってきた。



 それを見たディアは微笑み宇宙空間に手慣れているように出て行った。



「あの補佐らしき男・・・・帰ったら名前を憶えてやろうか・・・・」

 と呟き後ろに迫る戦艦の元に飛んで行った。







 迫ってくる部隊はサブドールの部隊といくつかの戦艦だった。

「サブドールか・・・ドールは使わないのか?」

 とディアはかかってくるサブドールを次々と破壊していった。



 鬼神とまで荒々しくなく美しさすら感じる動きで巧みに砲撃を避けていく。



 その様子を月のドームから見ていたヘッセ総統は

「ディア・アスール・・・・この戦力がわが軍にあればな・・・・」

 と呟いた。





 ディアに近づくサブドールの数が減ってきたところでディアは通信を使った。



「聞こえるか?私にめがけて主砲を撃て。」

 と自分の船に言った。



 すぐさま通信を切りディアは引き返していった。



 すかさずサブドールたちが追ってくるが



 そこでディアは持っていた武器に手をかけた。

 ドールの手には大きな銃のようなものが握られておりそれを素早く動かしながら引き金を引いていった。引き金を引く度にディアは顔を顰めた。



 ビービーと何かを警告する音が鳴った。



「・・・やはり数は撃てないか・・・・」

 どうやら装備していた銃を多用できない様子だ。

 だが、銃から放った攻撃は器用にサブドールの手足に当たった。



「ついでに脅しでもしとくか。」

 と呟き月のあるところをめがけて撃ち込んだ。



「殺しはしない・・・・今はな・・・」

 といい再び前に進んでいった。



 しかしまだサブドールは追ってくる



 するとディアは急に飛ぶ軌道を変えた



 その方向転換について行けなかったサブドールたちは

 どこからか放たれた砲撃に沈んでいった。



「ゼウス軍はこんな戦力で私を殺せると思っていたのか」

 と不敵に微笑みディアは地球に降下を始める直前の自分の船に戻って行った。





「・・・・・ディア・アスール。やっぱりあの中の一人であったか。なら、あの怪物と同レベルでもおかしくない・・・・」

 とヘッセ総統は望遠鏡から地球に向かっていく船を見ながら言った。



「ヘッセ総統・・・・大変です。帰りに用意した船が・・・・破壊されました。ただいま原因を・・・」

 とゼウス軍の男が入ってきたが



「原因は究明しなくていよい。どうせ公表できないものだ。」

 とヘッセ総統は再び望遠鏡に目を向けた。









 アリアはコウヤのいる部屋をあさっていた。

「あんまりあさるなよ・・・・・元から置いていた物もあるんだから。」

 と寝転がりながらコウヤは言った。



「そうなの?・・・・誰か使っていた部屋なのかな?・・・・・すっごい本の量だし・・・・日記も・・・・」

 と途中まで言ったところで



 部屋の中にハクトが入ってきた

「それは俺のだ・・・・」

 と恥ずかしそうにいい日記を取った。



「艦長の部屋だったんですか・・・・」

 コウヤはだるそうに目だけハクトに向けて言うと



「正確に言うならば今も俺の部屋だが・・・・お前と共同の部屋になっただけだ。」

 とハクトは呆れ気味で言った。



 それを聞いたコウヤは

「艦長は昨日どこで休んだんですか・・・?」

 ベッドは今自分が寝ているところしかない。敷き布団か?それとも知らないうちに横で寝ていたのか?



「休んでるわけないだろ。」

 とあっさり答えた。



 それを聞いたコウヤは

「昨日ドールに乗りましたよね・・・・よく休まずにいられますね・・・」

 と頭痛とだるさで動くのが億劫な自分と見比べて驚いた。



「休む暇などない・・・・とりあえず、軍本部に行く前に休むがな・・・・」

 とハクトは日記のページを確認しながら言った。



「へー・・・・もう俺はドールにのらないですよね・・・・」

 とコウヤが訊くと



「それはわからない。とりあえず、本部に行く前にいくつかドームに寄る。直進ではないからかかる時間が増えるだけ確率は高いな。だが、向こうも暇でないだろう。この戦艦だけを追い回すとは、あまり思えない。」

 ハクトは曖昧に言った。



「あまりって・・・どうしてです?」



「ドームに寄る理由は、お前以外の避難民の受け入れ先として、確率が高くなる理由は、ゼウス軍が地球にいるからだ。」

 と淡々と答えた。



「ゼウス軍は何で地球に来たんです?」



「地球がほしいからでないか?・・・・今のヘッセ総統の政治体制は正直略奪国家を形成しているとしか思えない。」



「そうなんですか。」



「ああ、国民の士気を高めるために情報操作もするし嘘も言う。無理な政治体制は全部地球の奴らが自分たちを追いだしたせいだと言い出しているからな。」



「そうなのか?」



「事実違うと俺は聞いている。ゼウス共和国の祖先は地球の国だっただろ・・・・まあ兵器の実験やらいろいろやって地球を汚染させたのもあるが、自分たちのドームが使えなくなってしまったから外に出て行ったんだ。まあ、何が正しいのか他人から聞いた情報の時点で分からないのと同然なのだが、これに関してはこっちが正しいだろうな。」

 とハクトは憎々しげに言った。



「そんなことしていたのか?使えなくなったドームってどうなったんです?」



「それが第一ドームだ。歴史上第一ドームは現在の地球側に浄化作業委託と同時に受け渡しているはずなのにな・・・」



「最悪ね。」

 アリアは虫の話をするように嫌な顔をした。



「だから、ゼウス軍とは正直戦いづらい。嘘で騙されて動かされているようなものだからな。誘導に必要なのが情報操作なのはよくわかるが・・・・見ている世界の常識が違うのだろうな。」

 とハクトは辛そうな表情をした。



「へー・・・・でもそんな国家すぐ滅びませんか?」

 コウヤが難しそうな顔でハクトに訊くと



「国内の不満を全て地球のせいにしているんだ。不満が高まればここにとばっちりがくる。」

 とハクトは嫌そうな顔をした。



「ほんと嫌な国ですね。」

 アリアは悲痛な顔をした。



「ああ・・・でも、国民みんなを憎むことはできない。憎むべきは体制だ。向こうがこっちを知れば変わるのかもしれないが、何せ本国は離れている。」

 とハクトは表情を和らげた。



「なんかすっごく政治的な話をした気がします。」



「そうだろ。あとはこの戦艦は二回ゼウス軍を退けた。もしこの戦艦だけ追い回す可能性があるのなら、血気盛んな奴が敵にいた場合だ。他に理由があるなら知らんがな。」

 ハクトはふと対峙した緑のドールを思い出し、目の前のコウヤを見た。



 《これは、運命というべきなのか。それとも偶然か・・・・》



 ドールに乗った後遺症に文句を言い、難しい話についていけないと騒ぐコウヤを見て思わずハクトは微笑んで、部屋から出て行った。



「ハクトさんって絶対モテるよね・・・・・絶対女性船員狙っている子いるって!!」

 とキャーキャーいうアリアを横目にコウヤ不思議そうな顔をした。



「アリアは、家族と連絡取れた?」

 いつもと変わらずはしゃぐアリアにコウヤは心配になった。



「ああ、大丈夫。私は二人がいればいいから。」

 アリアは満面の笑みでコウヤに言った。



 その顔を見て、コウヤは昔同じようなことがあった気がした。

 特に思い出せるものではなく、感覚的なものであったから曖昧に微笑み、深く追求せずにコウヤは眠った。











 薄暗い船室で

「間違いないのか・・・・」

 と深刻さを滲ませた声が聞えた。



「はい・・・・父と母です。」

 嗚咽を交えた声がその声に答えた。



「次のドームで降りるか?」



「いえ・・・・・本部に行きます!!軍に入れてください。」



「だが、今の状況だとすぐ前線で捨て駒として扱われる可能性があるぞ」



「かまいません。俺はゼウス共和国を滅ぼします。」



「だが、君はいったん次のドームで降ろす。」



「なぜですか?俺は・・・」



「次のドームは訓練施設が整っている。手続きはしてやるからそこで訓練を積んで生き残れるようにしろ。」



「はい・・・・ありがとうございます。ハンプス少佐。」



「君が簡単に死んだらあの二人が悲しむだろう。他人のことも考えるんだぞ。・・・・シンタロウ君」
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