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六本の糸~地球編~

2.荒れる

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 コウヤは何か変な感覚を覚えた。
「なんか・・・・耳の後ろがムズムズする。」

「虫でも止まったの?」
 アリアはコウヤの後頭部から耳にかけてを覗き込んだ。

「いや・・・・そんなんじゃない・・・・なんか胸騒ぎもする。」
 直感的に東の方向を見つめた。

 アリアはコウヤと同じ方向を見つめるが何も見えない

「どうしたの?何もないよ」

「おーい!!もっと近くにいこーぜーー」
 戦艦に更に近づいたところからシンタロウが呼んでいた。


 戦艦「フィーネ」では、男たちが愚痴を言っていた。
「全く・・・・どうして女っていうのは外に出たがるのか・・・」
 やっと女性船員たちを追いやったハクトは疲れ顔で呟いた

「艦長が若くて男前だからですよ。うらやましい」
 機械整備班の少年がお茶を差し出しながら微笑みかけた。

「ありがとう・・・・君は機械整備のモーガンだな。」

「今日合流したばかりなのに・・・さすが軍学校でトップですぐにドールパイロットになっただけありますね。」
 モーガンと呼ばれた少年は驚いたように言った。

「お前とはこれから戦線で戦う仲間になるからな・・・・だろ?」
 渡されたお茶を飲みながら言うと

「やっぱりそうなんですかね・・・・」
 モーガンは難しそうな表情をした。

「ここのドームが破壊されることはないと思うが、一般人を守らなければならない。」
 ハクトは使命感に満ちた表情をしていた。

「いつ来るかわからないのによく外出を許しましたね。」
 そんな彼を眩しそうにモーガンは見つめた。

「彼女らに通信機を持たせている。周りの情報収集を兼ねている。」

「なるほど。納得です。」

「それに・・・・・っ!?」
 急にハクトの表情が変わった。

「ど・・・・どうしたんですか?」
 モーガンはそれに驚いた。

「呼び戻せ!!戦闘態勢だ!!」
 ハクトは大声で叫んだ。


「は・・・はいっ!!」
 モーガンはそう言うと急いで走って行った。

「このドールは・・・・追ってきたいたやつ・・・・まさか例の緑か」
 ハクトは考え込む様な表情をした。


 急いで操舵室に向かうと残っていた副艦長が出迎えた。
「艦長。戻るように連絡はしました。市民の避難も考慮して戦艦を開放することの許可をいただけますか?」

「もちろんだ。避難が優先だ。」




 巨大なドーム状の構造物が聳え立つ。
 構造物から比べたら遥かに小さいが、存在感のある戦艦が数隻ドームの前にいた。

 戦艦内のドール用の出入り口では
「私がドールで出る。サブドール部隊も続け。」
 パイロット用のスーツを身に付けたレイラがドールの元に行った。

 出動用のデッキには緑色のロボットに似たようなまさに人型巨大兵器があった。
 このドールこそが、地連軍に恐れられている「緑色のドール」である。


 通称「ドール」と呼ばれるその兵器は、搭乗者の身体と神経接続し、極限まで搭乗者の感覚を冴えさせる。兵器の性能も兵器としての威力に大きく関係するが、一番は搭乗者とドールの適合率である。

 訓練を積んだものでも高くて4.5%~5%。二桁は滅多に出ないというレベルだ。

 一般人は0.5%あれば高いほうになる。しかし、適合率が低くても動かすことができるので、ある程度訓練を積んだものはすぐ乗って前線に出る傾向がある。

 なぜ無機質なドールを生体兵器と呼んでいるかというと、ドールを形成するプログラムが人を選ぶ傾向があり、まるで生きている人間が人を判断するように意思が働いているように見えるからである。また、ドールほどの威力を持たないが低い適合率でも手軽に動かせる機械をサブドールという。

 レイラはこの適合率が桁外れに高い。

「・・・・行くぞ。」







 コウヤ達は目の前の大きな戦艦の写真撮影に夢中だった。
「すげー・・・・これって宇宙空間に出た戦艦だよな・・・」

 機械が好きなのかシンタロウは感激混じりに言った。
 コウヤはさっきからする胸騒ぎと変な感覚を気にしながらその様子を見ていた。

 すると

 ドゴーーー

 と何かが壊される音と地鳴りが響いた。
 その音と同時に悲鳴とわめき声がドーム中に響いた。

「な・・・・・なんだ?」
 いきなりのことに戸惑うコウヤ達は何が起こったのかわからなかった。

 地面は揺れ、上空を覆う屋根は色を無くしていく。その様子にコウヤ達は顔を見合わせた。

『避難命令避難命令!!至急一般市民はシェルターまたは避難船に退避してください。』
 と悲鳴にも似た声でドーム中に放送が響いた。

 戦艦を見に来ていた野次馬達が一斉に走りはじめた。方向が定まらず、入り乱れている。

「えっ!?俺らはどこに行けば・・・・」
 人波が濁流のようで流されながら戸惑っていると

「おい!!何やっている。そこの戦艦に乗り込め。」
 コウヤの腕を見知らぬ男性が掴み、3人を戦艦フィーネまで引っ張った。

 その先の戦艦フィーネの入り口では「市民の安全が優先だ!!乗せれるだけ乗せろ」
 と怒声を交えながらハクトは艦長の顔になって叫んだ。


「艦長・・・・敵軍です。戦闘態勢になるので、乗せるのは・・・それにもう限界です。」
 それを聞いたハクトは

「くそっ・・・仕方ない」と歯を食いしばり

「船を出す。閉めろ。できるやつは他の市民を避難船に誘導しろ。」
 と消えそうな声で言った。

 コウヤは引っ張られていた。しかし、コウヤが乗った途端船が浮き始めた。

「なっ・・・・シンタロウ!アリア!」
 二人は乗れずコウヤだけが浮いていった。コウヤは手を伸ばし二人に差し出した。

「コウヤ!!大丈夫!!私たちはシェルターに行くから!!」
 シンタロウとアリアは早い段階で見切りをつけて、引き返す人ごみに消えて行った。

 コウヤにはなぜかわかった。あの向こうには何かがいることを

「大丈夫か・・・・悪い・・・乗せきれなくて」
 引っ張ってくれた男性は申し訳なさそうに言った。

「いえ・・・俺だけでも乗せてくれてありがとうございます。貴方はどなたですか?」
 コウヤはこの状況で引っ張ってもらったことに感謝するしかなかった。男の方にひたすら頭を下げた。

「俺はキース・ハンプスだ。」
 キースと名乗った男は、20代後半から30代前半の容姿をしており、どこか浮世離れしたような型にはまらなそうな雰囲気をしていた。

「俺はコウヤ・ハヤセと言います。ありがとうございます。」
 コウヤは再び礼をして、走り出そうとしていた。

「どこに行くつもりだ?」
 慌てた様子のキースに止められた。

「シンタロウ達が向かった先は危険なんです。それをこの船に伝えて助けてもらわなきゃ・・・」
 コウヤは東の方に感じた寒気と不安を思い出して、顔を強張らせた。

 それを聞いたキースは驚いた表情をしたが、険しい顔になった。

「止めとけ。どうせ取り合ってくれない。俺等だってぎりぎりに乗ってきたんだ。俺等を乗せてくれただけでも随分な対処だ。この船だって限界だ。」
 コウヤの肩を叩き、艦内に誘導しようとしているキースの手を失礼を承知でコウヤは払った。

「でも・・・・友達を放っておきたくないです。」
 コウヤは船の操舵室に向かった。

「おい!!・・・・・ここまで来たら面倒見るか・・・」
 とキースはコウヤの後を追いかけて行った。





 操舵室では

「市街地に直接的な被害が出ました。艦長砲撃許可をください。」

「市民がみんな避難してからだ。それまではサブドール隊に頑張ってもらおう。」

「1号機破壊されました。」「2号機3号機通信途絶えました。」

「艦長・・・・・砲撃を・・・」

 船員は助けを求めるようにハクトを見た。

「・・・・これじゃあ、一方的にやられているだけです。」
 それを聞きハクトは悔しそうな表情を取った。

「市民の安全優先だ。」
 と苦しそうに言い放つと歩き出した。

「俺がドールで出る。市民の避難が済んだ連絡が入り次第砲撃を許可する。・・・あとは頼む。」
 ハクトは副艦長に頼むように言うと急いで走って操舵室から出て行った。

 操舵室から出て走っていると誰かとぶつかった。
 ぶつかったのはどこから紛れ込んだのか、一般人の少年だった。

 俯いてて顔はわからなかったが自分と同い年くらいであろう。

「すまない。急いでるから何かあれば副艦長に伝えてくれ。」
 ハクトはそれだけ言うと走り去ろうとした。その袖を少年が掴んだ。

「東の方のシェルターに友達が避難しました。・・・・」
 少年は、縋るようにハクトに話しかけてきた。

「避難したのか・・・なら・・・」

「あっちの方はヤバいのがいるんです。・・・・シェルターに避難しても・・・・だめかもしれない。」
 少年は曖昧だが、必死に言葉を探しているようだった。

 少年の様子を察してハクトは頷いた。
「わかった。東の方にドールがいると聞いたんだな。すぐに行くから安心しろ。」

 掴まれた袖を外し、振り向かず、出撃口に走った。

 やけに少年のことが気になったが、今はそれどころでない。

 パイロットスーツを着、ドールに乗り込んで神経を接続し始めたときハクトは気づいた。

 東の方にドールが来た情報などない・・・・・なぜあの少年は・・・

 一瞬ガセかと思ったがあの口ぶりからして嘘ではない。と判断した。

 おかしい・・・ドールの気配は熟練のドールパイロットか特殊なやつにしかわからないはず

 そう



 特殊なやつ・・・

 ハクトは少年の言った通り東に向かった。









 ゼウス軍はドーム壁に穴をあけて中にドールとサブドール部隊を突入させていた。
 その結果、ドームの中は戦場と化していた。

「邪魔だ!雑魚め!!」
 ドールに乗ったレイラは鬼神の如く相手側のサブドールを倒していった。来る敵全て容赦せずに破壊する芸当はかなりのドール使いであることの証である。するとレイラの動きが止まった。レイラの動きが止まったのを察知しサブドール部隊も止まった。

「あのドールか・・・月にいた奴だ」
 と鋭い眼光を放ちながら前を見据えた。


 レイラは通信を他のサブドール隊に繋げた。

「追っていた戦艦のドールだ。地連二番目の赤い奴だ。」
 レイラの言葉に他の隊員たちの息を呑む音が聞こえた。

「向こうは二番。だが、私はゼウス軍トップだ。」
 レイラは気配を感じたであろう方向を見た。

「私を補助しろ!!」
 叫び動き出した。周りにいたサブドール部隊はその声に応えるようにレイラの後に続いた。



 ドーム内を素早く移動するもう一つのドールがあった。
 そのドールはパイロットの技量が高いことがわかるほど無駄のなく町を傷つけずに飛んでいた。

 町で破壊を続けるドールの色は緑だが、そのドールの色は赤であった。
「この感覚・・・・あの追撃船にあったドールの気配と同じ・・・。やっぱり例の緑か。」

 赤のドールを操るのはハクトであった。


 彼は東に向かうと確かにドールの気配があることに驚いたが
「今は驚いている場合じゃないな」

 と呟き、破壊を続ける緑のドールの元に向かった。



 赤いドールを出迎えるように緑のドールは両手を広げた。

「・・・・挑発しているのか?」
 明らかに自分を意識した動きにハクトは口元を歪めて笑った。


「俺に勝てるのは、中佐だけだ。」
 ハクトは目の前に緑のドールに標的を絞った。







 コウヤは操舵室の入り口で止められていた。
「一般人は来ちゃいけませんよ!!」
 副艦長は操舵室に入ろうとするコウヤを止めていた。

「でも・・・友達が・・・・」
 コウヤは必死に操舵室に入ろうとしていた。

「いいから今は安全な待機室にいてください」
 相手が女性であったのもあり、強く押すこともできず、コウヤは操舵室に訴えに行ったが返されてしまった。

「さっきの走って行った人は聞いてくれた!!友達は東のシェルターに行ったけどあそこは危険だって・・・・」
 と訴えると

「何言ってるの!!今はどこも・・・・・」
 副艦長が呆れたように言った。

 すると急にオペレーターの役割にあたっているリリーが
「通信入りました・・・・艦長からです。」と副艦長に言った。

「えっ!?艦長から?何かあったのかしら・・・・」
 副艦長が何か手元のボタンを押すと操舵室に音声が流れた。


『現在東の方に緑のドールを発見した。これから戦う。サブドールで船の周りを守って砲撃は東に向けろ。俺を気にせず撃て。』


「はい。・・・・ってあなた!!ちょっと・・」コウヤは副艦長からマイクを奪い艦長に訴えた。


「東の方のシェルターに友達がいるんだ。助けてくれ。その・・・・ヤバい奴は多分そこにいる奴だけだと思うから・・・・そいつ倒してくれよ・・・・」と大声で言った。

『お前は・・・・さっきの少年か・・・・わかった。』
 力強く頷き、とそこで通信は切れた。

「返してください。・・・・・全く・・・・・いいから待機室にいてください。ちょっとリリー案内してあげて。」
 と副艦長はコウヤからマイクを取り返すとリリーに命じた。

「わかりました。さあ、行きますよ。」
 リリーがコウヤを操舵室から引っ張り出すと

「おおっと・・・リリーちゃん・・・その少年こっちに貸してくれない?」
 と一人の男が走ってきた。

「あなたは・・・・」とリリーが驚いていると。


「こっち来いよ。友達助けるんだろ。」とコウヤの手を引っ張った。

「貴方は・・・・キースさん・・・・」
 コウヤの手を引っ張った男は、コウヤをこの戦艦に引き上げたキースだった。

 彼はコウヤの手を引いて走った。

「ああー!!もう知りませんよ!!」と二人の背中にリリーは叫びながら追いかけた。









 対峙した二つのドールは激しい戦いを始めた。
 まるで人間同士の組手を見るように精密な動き

「「こいつ・・・やっぱり、適合率高い奴だ」」とお互いに思っていた。

 《この赤い奴・・・中は男だな・・・・》とレイラは直感的に感じた。

 一方「この緑の奴は女だな」とハクトも直感的に感じていた。

 それと同時に何か嫌な予感がした。
「・・・・こいつ、まさか・・・・」
 だが、嫌な予感も吹き飛ばすことに気付いた。

 緑のドールの下にシェルターがあることに気付いた。緑のドールは踏み込むたびに地面を抉るほどの力を込めるハクトは緑のドールを蹴り飛ばした。

「なっ・・・・」と緑のドールに乗ったレイラはドールごと飛ばされた。

「この・・・」とレイラは踏み込み飛び掛かった。

 その着地点がシェルターの上であることに気付いたハクトは、自分も飛び掛かり緑のドールをはじいた。

「こいつ・・・なんでこんな不利になることを・・・・」
 呟きながらレイラは周りを見渡した。

 するとレイラは気づいた。



 《あのシェルターを庇っているんだな・・・・》とすぐに気付いた。

 《あの赤の中の奴・・・・軍人には珍しくいい奴だな・・・》と感心したが

「だけど・・・・パパの邪魔をする奴は許さない。・・・・もう私にはそれしかない。」
 レイラは頭に父親の姿を思い浮かべた。軽い頭痛がして、拒否反応のように父親の姿は消えた。一瞬の思案の些細なことだが、彼女はとてつもなく恐怖を感じた。

「もう失くしたくない。」
 それが動き始める引き金のように飛び上がり、レイラはシェルターを狙って攻撃を始めた。

「くそっ・・・気づいたか」
 ハクトは必死にシェルターを庇っていた。

 戦況は緑色のドールに有利になってきた。





 戦艦「フィーネ」のたぶん関係者しか入らない所だろう。
 明らかに他人を拒絶するようにロックがかかった扉の前にキースはコウヤを連れてきた。

「コウヤ君に友達を助けに行ってもらおうか。」
 とキースはロックのかかったドアをカードキーで開けた。

「貴方はいったい・・・・」
 コウヤは何が起こるのかわからず訊いた

「それは、この戦いが終わってから教えるね。」
 やけに優しくキースはニコニコと笑って部屋の中にコウヤを招き入れた。

 コウヤはキースに招かれるまま部屋に入った。
「ここは・・・」

 コウヤが入ったのは出撃口に通じている格納庫を見渡せる部屋であり、ドールやサブドールを置いている格納庫に通じている場所であった。

 写真で見たことはあっても実物は見たことのなかった兵器にコウヤは少しビビった。
「このサブドールを使うんですか?」
 コウヤは驚いたように言った。

「いや、これは俺が使う。君は・・・・・」
 とキースは目線を一つだけ置いてある青いドールに移した。

「このドールに乗ってもらう。」

「は?」
 コウヤはキースを見た。

 キースは期待に満ち溢れた目をコウヤに向けていた。







「何やっているんですか!?」怒鳴り声と共にリリーが入ってきた。
 おそらくキースが入った時にロックをかけたのだろう。

 リリーは文句でも言いそうな顔でカードキーを持っていた。

「おっそいよー。もう乗り込んじゃったから残念だったな。」
 いたずらっぽくキースは言った。

「もう・・・ハンプス少佐!!何しているんですか?」
 リリーは頭を抱えながら困ったように怒った。

 それを聞きキースは二カっと笑い
「まーまー・・・・見てなって」と手元のマイクのボタンを押した。

「聞こえている?コウヤ君。今から説明するね。」
 マイクに向かって話しており、どうやらドールに乗ったコウヤと通信ができるようだ。

『キースさんですか?はい・・・・あの、どうやったら動くんですか?』
 ドール内からコウヤの声が通信で入ってきた。

「まずは・・・、同調しなきゃいけないからパイロットスーツをコードに接続して。」

『わかりました。』
 とドールの中のコウヤが操縦席の周りにあるコードを繋げていく音が聞こえた。

 手慣れない作業なのか、たまにうわっと言ったり、呻いたりしていた。

『繋がりました。』

「よし。じゃあ、目の前の赤いボタンを押してリラックスしといて。」
 目の前の赤いボタンを見つけ言われた通りコウヤは押した。

『はい』と息をゆっくり吸い次の指示を待った。

 キースはコウヤの様子を見て頷き、手元に置いてるモニターに目を移した。

「ちょっと神経接続させていいんですか?一般人ですよ。」
 リリーが心配そうモニターを覗き込んだ。

 キースは「まあ見てなって・・・・」と手元のモニターに映っている数字を指差した。

 すると画面の数値が徐々に上がっていく。どうやら神経接続のパーセンテージ通称「適合率」が映し出されているようであった。0から1、2、3、4、5と変わっていくのを見て


「嘘・・・・こんな数字は一般人が出せるはず・・・・」リリーは驚きの声を上げた。

「やっぱりか・・・彼はドールの気配を感じることができる。適合率が低いはずない。一般的に言う勘の鋭い奴はたいてい適合率が高いからな。」

 キースは確信を持って言った。どうやらコウヤの適合率が高いと睨んで連れてきてようだ。
 数値の変化を続ける画面を見てキースは目を疑った。

「おいおい・・・ここまでいくのかよ・・・・」
 キースは驚きの声を上げたが、その目は輝いていた。

『キースさん・・・・なんかありましたか?』心配そうなコウヤの声が聞こえた。

「いや・・・・あとは俺が先導する。あとは思うようにうごく。」キースは一息ついて動き出した。

『はい。わかりました。』

「ハンプス少佐・・・・このことは・・・」リリーは心配そうにキースを見ていた。

「大丈夫!!責任は俺がとるって。・・・・それに、友達を助けたいっていう若者の助けになりたいからな。」
 キースは手を振りながら格納庫に入り、コウヤの乗った青いドールの近くにあるサブドールに乗り込んでいった。









「なんか・・・・外がうるさくない?」とアリアがシンタロウに訊くと
「当然だろ。外は今戦場なんだから。」と答えた。
 二人が入ったシェルターは、小型のボックス型のもので、十数人が収容されている。

「シェルターの中でも怖いものは怖いわね・・・」
 アリアは肩を抱くように身を縮めた。

「これが終わればコウヤとも合流できるさ・・・・」
 シンタロウは心配事があるように、祈った。

「みんな無事かな・・・・」
 二人が話すそのはるか頭上では



「くそ・・・・このドール相手にシェルターを守りながら戦うのは・・・・」
 と防戦一方の戦いがハクトには続いていた。

「相当なドール使いだけど・・・・この戦い方だと私には勝てないぞ。」
 レイラは装甲がぼろぼろになった赤いドールを突き飛ばした。

 体力も消耗しきったハクトは反撃する余力もなく飛ばされ高層ビルに激突した。

「くそ・・・まだ俺にはやることが・・・・」
 と歯を食いしばりハクトは周りを見渡し手を伸ばした。

「??」レイラは急に手を伸ばした赤いドールに戸惑った。
 かかってくるわけではなくただ手を伸ばすだけ・・・・そのドールの手には光の束が集まる。

 レイラは感づいた。


「こいつ・・・・シェルター一つのために・・・」と呟くと急いで突進した。

「そんなことさせるか!!」

「吹き飛べ!!」とハクトが何かをしようとした時


『やめろ』
 ハクトのドールに通信が入った。その声にハクトは手を下げた。

 その動きにレイラは「何?・・・」と突進中にも関わらず気を途切れさせると横から何かが来るのがわかった。予想外の事態にレイラは対処することができなかった。


 ガン


「きゃあ!!」横からの何かに緑のドールは吹き飛ばされた。

 《この感覚はドール・・・・》

 レイラは横から来た何かを見た。それは、青いドールだった。

「まだいたのか・・・・くそ、赤いのに気を取られて・・・・」とドールを睨みつけた。


「このドールは・・・・ハンプスさんですか?」ハクトは期待を込めた声で言った。

『生憎俺じゃねえんだよハクト。』
 と後ろからついてきたサブドールの通信が入った。

「じゃあ・・・一体誰が・・・・・」
 ハクトは驚愕と少しの怯えを浮かべた。把握していない強力な助っ人は少し厄介だと思った。


『それは後で言うわ。今はあいつを追い払うことが先決だろ。』
 キースはハクトが好意的に助っ人を捉えてないと感じたのか、話の方向を変えた。

「・・・・・・はい」
 ハクト返事をすると装甲が剥がれた状態だが、そのまま緑のドールに向かった。


 緑のドールが避けるとそこにサブドールがいる。シェルターを利用しようとしたが、そこには青いドールがいる。
 何よりサブドールと赤いドールの連携が緑のドールの反撃を防いでいた。

「あのサブもなかなかの奴だ・・・・視野が広い。」
 緑のドールに乗るレイラは反撃の機会が掴めないと判断するとすぐさま退いた。

「勝ち目はない。退くぞ」
 辺りにいるサブドール部隊に連絡を入れた。

『隊長。でも、俺たちも・・・・』

「あのサブドールはお前等で敵う相手じゃない。青いのもだ。」
 レイラは異を唱える隊員に強く言った。

「・・・・私は、お前らを死なせるわけにはいかない。」
 レイラは諭すように隊員に言った。

『わかりました。』
 隊員はしぶしぶ了解したようだ。

 緑のドールはサブドール部隊を引き連れて引き返して行った。







 それを見てハクトは一安心した。
 すると『ありがとうございます。』と青いドールから通信が入ってきた。

 それを聞きハクトは軍で聞いたことのない声に戸惑った。
「誰だ?軍の応援か?所属は?」と訊くと

『シェルターを庇って戦っていてくれたのを見てました。』と返ってきた。

「お前・・・・あの少年か・・・・」
 ハクトは声が操舵室の前であった少年であると気付いた。

 ハクトが何か言おうと考えていると、青いドールは地面を掘り始めた。
「お前!?なにやっているんだ?」

『確かここの気がする。』
 少年は地下に埋められたシェルターを探していた様だ。

 青いドールは器用にシェルターを掘り起しシェルターを持ち上げ始めた。

「何をするつもりだ?」
 ボックス型のシェルターはドールに持ち上げられる大きさだった。

『ここは危険なんで・・・・悪いですがあの船に運ばせていただきます。』
 少年はと言い船に戻って行った。

「・・・・・・なんて奴だ・・・・」と呆れていると

『俺等も戻って戦況の把握をするぞ』と声がかかり

「わかりました。」
 とハクト達も戻って行った。




 そのころ
「なんかすっごく揺れて気持ち悪くなってきたんだけど・・・・」
 とてつもない浮遊感と揺れにシェルターの中では吐き気を訴える人物が続出していた。

「さっきすっごい音がしてたけど・・・・なにがあったんだ?」
 とシェルターの中のアリアとシンタロウは自分たちが今どうなっているのか知らずに話していた。







「攻撃が止んだ・・・・?」とフィーネの中ではざわめいていた。
「艦長たちの方、戦闘が終わったみたいです。」
 リリーがモニターを見て、安心したように叫んだ。

 それを確信させるように

『敵のドールは後退した。様子を見るため戻る。まだ一般人を船から出すなよ。』
 とハクトから通信が入った。

「はい!!」と船内はその返事と共に歓声と安堵の声が響いた。

『あ・・・・あと・・・・。ボックス型シェルターを収納する。十数人戦艦に乗る。』
 ハクトが気まずそうに付け足した。







 地連軍本部の一室では、二人の男が向かい合っている。
 この部屋の主であるレスリー・ディ・ロッドは珍しく端末を開いていた。

「うまくいきましたか?」
 彼に話しかける作業服に身を包んだ小柄な少年はロッド中佐の様子を窺うように尋ねた。

「対談の方は思った通りの収穫だ。こちらのことを掴まれないように気を遣う以外は話しやすい奴だ。」
 ロッド中佐は端末のモニターに映った情報を見て口元を歪めた。

「ディア・アスールですか?話しやすい人物には思えないですけどね。・・・・何かありましたか?」
 少年はロッド中佐が何を見ているのか気になるようだ。

「・・・・いや、ヘッセ総統は強硬策に出るだろうな。」

「強硬策・・・・あの男が?」

「ああ、地球は荒れるな。ここも安全ではなくなる。困ったな。」
 ロッド中佐は両手を広げて困ったようなジェスチャーをした。

「本当に困りました。・・・・困ったな。」
 少年はロッド中佐の様子を見ておかしそうに笑った。

「はははは。ゼウス共和国が血眼になって追っていた荷物も気になるが、地連側が引き取った後とはいえ、何故それを追おうとしないのかも気になるな。」
 ロッド中佐はおそらくイジーからもらったであろう報告書を持ちながら笑った。

「追う必要が無くなったとかですか?」

「さあな。分かるときになれば分かるだろう。」
 ロッド中佐は報告書を机に置いて再び端末のモニターに目を移した。

「では、あんたはヘッセ総統がどんな強硬策に出ると考えている?」
 小柄な少年は目深にかぶった帽子からロッド中佐を試すように見た。

 ロッド中佐はその様子を見て肩を揺らしながら笑った。
「おいおい・・・・どこで誰に聞かれてるかもわからん。」

「そうでしたね。・・・・この会話している時点で大丈夫では?」

「そうだな。・・・・まあ、簡単だ。あの男のやることはオリジナリティが無く、ワンパターンだ。」
 ロッド中佐は人差し指をたてて言った。

「でも、それの対策を取らない我が軍もなかなかですね。」

「皮肉だな。対策を取りたければ、私とニシハラ大尉とハンプス少佐を組ませろ。ゼウス共和国など潰せる。」
 ロッド中佐は乱暴に端末のモニターを畳んだ。

「どこで誰に聞かれているかもわからん・・・・では?」
 少年はロッド中佐を面白そうに見た。

「これぐらい平気だろ。上層部もそれを分かっているから私をここに縛り付けている。」
 ロッド中佐は忌々しそうに口元を歪めた。

「これからどう荒れますかね・・・・」
 少年はロッド中佐の机に腰かけた。

「取り合いだろうな。適合率の高い奴の争奪戦だ。」
 ロッド中佐は人差し指を立てて自分を指差した。

「そして、私を引きずり下ろしたいのだろう。」
 ロッド中佐の言葉に少年は被っていた帽子に手をかけた。

「非現実的だな。あんたを引きずり下ろしたいより利用した方が有効だ。」
 少年はぞんざいな言葉づかいで呆れたように呟いた。

「今がそれだ。だが、今の均衡が崩れればわからない。何せ、ドールプログラムは未知だ。新たな発見や、適合率の高い新たな者が出てくれば簡単に事態は変わる。」
 ロッド中佐は指を組み思案するように言った。

「・・・・では、俺らはどうすればいいのですか?」
 机に腰かけていた少年は足を床から浮かせてふらつかせていた。

「行儀が悪いな。」
 ロッド中佐は少年の背中を押して机から降ろした。

「どうするもない。ただ構えとけばいい。」
 ロッド中佐は両手を広げて余裕そうに言った。

「だよな。」
「ああ。」









 思った以上にシェルターが重いのか、ドールの動きが遅かった。
 だが、動けないことは無いからコウヤはそのままずかずか歩いていた。
『それ持って出撃口から入らないでください。』


 急に厳しい声の通信が入った。さっき操舵室にいて追い返された副艦長だろう。
「じゃあどこから入れば!!」

『別の出入り口を開けます。場所はモニターに表示されるようにしました。全くもう。艦長もハンプス少佐も・・・・』
 向こうは明らかに苛立っていた。

 コウヤは結構な無理な行動をしているのを自覚しているため何も言えなかった。
『中に人がいるのだから、丁寧に扱いなさい。』
 補足するように言われた。

「わかってます!!」
 コウヤはシェルターの揺れが最小限で済むように手に力を入れた。




 脂汗をかきながらなんとかフィーネに戻ることのできたコウヤは、接続のコードを乱暴に外し、急いでコックピットから出ようとした。

『無理すんな。』
 コウヤを止めるようにキースから通信が入った。

 外を見るとキースが戻ってきた。

『初めての接続だ。体がしばらく言うことがきかないことが多い。動き出すときはゆっくりしろ。』
 そう言うキースは素早くサブドールから飛び出した。

 言う通りに片足ずつゆっくり動き出した。
 確かに力が入りにくかった。飛び出したらそのまま転げ落ちかねない。

 ゆっくりドールから降りて、コウヤはシェルターに歩み寄り、扉を開こうとしていた。すると後ろから

「こんなもの連れてきて・・・・・全くもう」とリリーが歩いてきた。
「君は・・・・」

「私はリリー。この船の船員よ。ちなみに階級は軍曹・・・じゃなくて曹長よ。」
 彼女はフンと胸を張った。

「戦闘員じゃなくても高い階級貰えるんですか?」
 コウヤは明らかに若い少女と名乗った階級が合わなくて首を傾げた。

「戦艦を出撃させるためにルールがあるんだ。一定の階級の人物をある程度乗せるってな。ってわけで、戦艦乗りは年齢経験関係なく階級があるやつが結構多いんだ。」

 後ろから補足説明をキースがしてくれた。

「へー・・・・めんどくさいですね。」

「だろ?・・・それより、その扉はロックを入力して開けるタイプじゃないか?」
 とキースはシェルターの扉の鍵を指差した。

 リリーは覗き込んで困った顔をした。
「番号探らないといけないのね・・・・ちょっと待ってね。」
 と何かの機械を取り出すとそれを鍵に付けた。

「なにするんだ?」
 コウヤはリリーの様子を興味津々で見た。

「これで番号を探るのよ・・・・・」とリリーは慣れない手つきで機械を操作し始めた。

「えっと・・・・・こうだから・・・」としていると、後ろから

「ちょっと貸して。見てられない。」とコウヤがリリーを退かせた。

「ちょっと何すんのよ。」と文句を言うと後ろから轟音が響いた。

「艦長!!お帰りなさい」と急に態度が変わった。
 するとドールが綺麗に止まり中からハクトが出てきた。


「どうしたリリー?」
 とハクトが訊くとここぞと言わんばかり

「聞いてください!!この人が持ってきたシェルターの鍵を開ける機械を持ってきたんですけど、この人、私の扱い方を見てらんないって横から取り上げて・・・」
 とコウヤの方を指さして言った。

 その方向をハクトがみるとさっきぶつかったであろう少年が屈んで機械をいじっていた。
「ハンプス少佐・・・何で一般人を乗せたんですか?」
 と呆れながら訊いた。

「そんなのお前だってなんとなく理由はわかっているだろう。」

「軍法会議ものですよ。」

「特例があるだろ?緊急事態だ。お前と俺の許可があれば一般人も乗せれる。ってことで・・・・おいおいコウヤ君その機械はちょっと君には・・・・」
 とコウヤに近づいたところで


 ガチャ

 と音がした。

「開いたよ。ほら・・・ってキースさん。どうもありがとうございます。おかげで友達を助けられました。」
 とキースに向かってお礼を言っていると開いた扉から十数人の人と共に


「コウヤじゃない!!」
 と大きな声が聞えた。

「アリア!!シンタロウ!!よかった・・・ホントよかった。」
 と出てきた人をかき分けてコウヤは二人に近づいた。

「ここは?」

「うーん・・・詳しい話はあとでね」
 と3人で再会を喜んでいると

「コウヤ君・・・・ちょっとこっちに来て俺等とお話ししようか」
 とキースがコウヤを引っ張って行った。

「ちょっと・・・引っ張らなくても・・・・」
 とハクトの前まで引っ張られた。

「どうも・・・・艦長さん。」
 とコウヤは初めて艦長と向き合った。そして驚いた。

 なぜなら、艦長は自分と変わらないくらいの年齢の外見をしていたのだから。

 だがコウヤより驚いた顔をしていたのは艦長であるハクトであった。

「お前は・・・・・」
 と言葉を詰まらせていた。

「どうも・・・・コウヤ・ハヤセです。」
 と手を差し出すと。

「・・・・コウ・・・・・」
 と小さく呟いた。

「コウ・・・?」
 と聞き返すと

「いや・・・・すまない・・・・。昔の友人に似ていたから・・・つい」
 と慌てて手を握った。

 コウヤはユイという少女が自分のことをそう呼んだことを思い出した。
 そして、自分に言ったことも思い出した。
 そして何よりも気になったから

「へえ・・・本人ってことはないですかね・・」
 とコウヤが訊くと

 ハクトは寂しそうな表情をした。
「いや・・・・あいつはもう死んだんだ・・・」
 と言ってからまた普通の表情に戻った。

「気にしないでくれ・・・あとで正式な話し合いを設けるから少しこの船の中で休んでくれ。」
 とハクトは船の奥に消えて行った。







「希望」を出発して地球に降りた避難船の中、ハクトは皆で揃えた虹色のネックレスを握り締め、6人で撮った写真を眺めていた。


「ハクト。新しい場所でも友達は作りなさいよ。」
 母親がハクトの様子を見て困った顔をした。

「わかっているよ。けど、この5人は特別なんだ。」
 ハクトは写真に写る親友達と過ごした日々を思い出して微笑んだ。

「・・・・青春時代はかけがえのないものだ。ハクトは心配いらないよ。」
 父親が母親を窘めるように言った。

「そうね。・・・ハクト。体大丈夫?移動に時間がかかっているから。船のロビーで動いていらっしゃい。」
 母親はハクトの体調を気にしていた。それはそうだ。「希望」付近の情勢が悪化して避難船の出入りは限られている。しかし、避難船を必要とする人間は増えている。

 ギリギリまで避難船を動かした結果、限られた出入りに避難船の受け入れが追い付かず、空中待機が続出している。ハクトも避難船に乗って地球に降りれたのはいいが、そこから待機時間が長く、もう一週間になる。燃料の補給はされるため心配ないが、狭い避難船の中を長い時間過ごすのは苦痛だ。

「・・・・もうみんな避難しただろうか・・・・」
 ハクトは父親の方を見た。

「そうだな。みんな避難船に乗る予定は決まっていたから大丈夫だろう。コウヤ君も、もう出ただろう。早めにしてもらうように手回しをしたってアスールさんが言っていた。」

 ハクトを安心させるように父親は微笑んだ。
 ハクトはそれで間違いなく安心した。

「ちょっと、俺ロビー行ってくる。食べ物もらえるものあったら貰うよ。」
 ハクトは割り当てられた部屋から廊下に出ようとした。

「私も行くわ。あなたここに残ってもらってもいい?」
 母親がハクトに付き添うように動いた。父親は頷き二人を見送った。

 廊下に出てロビーに向かう途中、やけに騒がしいと感じた。

 母親も同じようで、騒がしいというよりかはうるさいに近く、顔を顰めていた。
 ロビーが音源らしかった。騒がしさの原因は人の声だった。

 叫び声だと思っていたのは、もちろん叫び声だったが、泣き声だった。

 異様な状況にハクトは母親と顔を見合わせて部屋に戻ろうとした。

 その時


『・・・見えますか・・・見えますか?「希望」近くの観測機からの映像です。先ほど入った情報寄りますと、月ドームの「希望」が崩壊したと。確認のために「希望」に連絡を取りましたが、繋がらない状況です。』

 ロビーにあるテレビからは「希望」というドームが崩壊したという映像とニュースが流れていた。


「え・・・・」
 ハクトは血の気が失せる気がした。足元から嫌な寒気が上ってきた。

『ええー・・・・「希望」に滞在していた人のリストが届きました。ご家族の方や連絡を取れた方や取れない方がいる人はこちらに連絡ください。』

 画面にはテロップのように人の名前が連なっていた。その下に問い合わせ先だろう。連絡番号が流れずに表示されていた。


「・・・・え?」

 コウヤ・ムラサメ



 そこに親友の名前があった。







 レイラは撤退の理由を上官に報告するのが嫌いだった。
 だから撤退はしたくなかった。

「でも・・・あれだと絶対に勝ち目はなかった。」
 と確信している。

 ドームの外に待機させている船の中、レイラはこのドームがこれからどうなるかを考えていた。
 彼女は納得していなかった。

 父親の決定でも彼女は納得できなった。

「もう・・・・あんな光景は見たくないのに・・・・」
 と呟いた。



 いつかテレビで見た風景だった。

 避難したドームで見たもの。

 その後に流れた滞在者リストを見て崩れ落ちた。


「・・・・・避難したって、聞いたのに・・・・・」
 一人、膝を抱えて駄々をこねるように呟いた。









「そんなことがあったの!?」
 とコウヤが経験したことを聞きアリアは驚嘆の声を上げた。

「でも・・・それって、やばくない?軍法会議とかにかけられるとか・・・・」
 とシンタロウが心配そうに言うと

「その心配はないよ。」
 とキースが話に入ってきた。

「キースさん」


「コウヤ君はもともと俺の外部の秘密部下ちゃんで、偶然居合わせちゃったって緊急事態だった・・・ってことにしているから。」

「はあ・・・・ってことは・・・」
 それを聞きコウヤは固まった。

 後ろから艦長も来て付け足すように

「まあ・・・・ハンプス少佐くらいになると外に諜報員を持っていてもおかしくない。緊急事態だから俺と少佐の許可さえあればドールに乗れる。ただし、後処理のために本部で話を付ける必要がある。この任務おわるまで連れて行くが。終わったら外部の諜報員に戻るという名目でやめることもできる。」
 と言った。

「・・・・よかったー・・・・ありがとうございます」
 とコウヤは安堵しながら言った。

「いえいえ・・・・まあ、本部のドームまで拘束するけど許してね。」
 とウインクしながらキースが言った途端に



 ドゴーーン

 ガーガン

 バーン


 という今までに感じたこと覚えのない轟音が聞えた。



「なんだ!?・・・この音は・・・・なんの攻撃だ?」

「えっ・・・・なんなのよ!?」

「おーいおーい・・・まさか反撃とか・・・・」

「そんなはずない・・・・奴らはドームの中にはいないはず・・・」

 廊下からはとざわめきが起きている。



 コウヤはわかった。なぜか知らないけどわかった。
「違う・・・・反撃じゃない。」コウヤは手が震えていた。

「じゃあなんなんだ!?」とハクトが問い詰めるように訊いた。

「この感覚は・・・・ドームを破壊しているんだよ。」
 とコウヤはなぜかわからないけど確信を持って大声で叫んだ。

「嘘・・・・じゃあ・・・」
 アリアとシンタロウの顔が蒼白になった。

 コウヤの叫びが聞こえたのか、周りはパニックになり、叫ぶもの、暴れるものも出始めた。

 艦長ことハクトはコウヤがなぜわかったのか突っ掛かっていた。

 それに・・・こいつの適合率は

「・・・・特殊・・・・なのか?」
 ハクトは一瞬何かに縋るような目をコウヤに向けて呟いた。



 だが、そんなことに浸る時間はない。パニック状態になっていることと、外に市民が居たら一大事だ。
 ハクトは飛び上がり、大急ぎで駆け出した。

「艦長は忙しいな。」
 キースはコウヤを観察するように見つめていた。







 レイラはドームを破壊する作戦には反対だった。
 なぜなら、「希望」の破壊で彼女はかけがえのない友を


「・・・・この光景はもう見たくなかったのに・・・」
 とレイラは涙を流して言った。


 窓に張り付き過ぎた日々を思い出していた。
「・・・・コウ・・・あんたが死ななければ私達は・・・・」
 と何かを悔やむように呟いた。

 テロップで名前が見た日から1週間後、生存者絶望というニュースが流れた。
 最初は遺体が見つかっていないならきっと生きていると信じた。だが、「希望」の残骸を見た時、その考えが吹き飛んだ。

 生身の人間が絶対に敵わないものを感じた。

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