302 / 326
ロートス王国~異種族と帝国騎士団と時々王族編~
集う術師
しおりを挟む
ごちゃごちゃしているので状況:
オリオンとエミール、ルーイがいる王城にプラミタの魔術師であるシルビオとビエナをライデンが連れてきて滞在を許した場面から
オリオンは目の前で険しい顔をしているライデンと、彼が連れてきた魔術師をどう扱おうかと迷っていた。
とりあえず客間への滞在を許し、話は聞いた。
頭の痛くなる話だった。
長耳族が関わってきている上に、隠れ村を魔獣の牧場にしようとしていた。
まるで実験場のような考えに怒りを覚えたが、情報が多すぎる。
それに、なにか隠されている気がする。
オリオンは目の前の三人を見てため息をついた。
「あの・・・やはり疲れの理由は魔力を流していることでしょうか?」
金髪の少年のビエナは相変わらず心配そうにオリオンを見てくる。
彼が言うには、オリオンは魔力を地面に流し続けているらしい。
だが、それをする理由がオリオンには無い。
「オリオン王子。」
シルビオがまっすぐオリオンを見た。
「俺たちは役に立ちますよ。貴方は副団長の言う通り利用すればいい。」
シルビオは目に怒りのような感情を見せている。
「長耳族に怒りか?」
「命を狙われたのですからね」
シルビオは怒りを誤魔化すようにため息交じりで言った。
「そうか」
オリオンはそれ以上答えずに、立ち上がった。
それと同時に部屋に慌てた様子の兵士が飛び込んできた。
ノックも無しにとても無礼だが、かなり息を切らせている。
「すみませんオリオン王子・・・」
彼は息を切らせながらも、早く伝えなければと必死な様子で話し始めた。
だが、動揺もあるようで、すぐに言えずさらに息切れが激しい。
「どうした?」
オリオンは少しゆっくりとした口調で尋ねた。
「・・・は・・・はあ・・・アズミ様の付き人であるクリスティーヌ様が」
兵士は呼吸を整えてゆっくりと話し始めた。
その言葉に反応したのはシルビオたちと並んでいたライデンだ。
「ロートス王国でクーデターが起きたと・・・」
兵士はやはり動揺している。
しかし、それは仕方ないことだ。
オリオン達も話を聞いて驚きと動揺が走ったt。
オリオンは急いで自身の執務室で話を聞くように動き出した。
クリスティーヌはアズミがロートス王国に連れて行った数少ないライラック王国の人間だ。
そして今、オリオンは執務室にクリスティーヌを招いた状態でいる。
もちろんオリオンの傍にはルーイとエミールがいる。
冷やかしに近いのか、ライデンが兵士たちに紛れている。
もちろん彼は魔術師の二人は置いてきたようだ。
流石に他国の人間をここまで無許可で連れてくることはしない。
「オリオン王子。このような形での対面をお許しください。」
クリスティーヌは跪き、恭しく頭を下げて言った。
「いや、それよりもアズミに何かがあったのか?クーデターということは貴族であるアズミも・・・」
「アズミ様はロートス王国の王位簒奪を目論んでいましたが、行動を起こす前にリア様が長耳族と手を組みことを起こしました。」
クリスティーヌはオリオンを見上げ、執務室に響く声で言った。
色々な情報が多い。
オリオンはめまいがした。
「アズミ様はロートス王国の王位継承権を持っています。そして、元老院からの覚えもめでたい。」
クリスティーヌは補足するように言った。
オリオンももちろんそれは知っている。
「また、ライラック王国に何度か長耳族が潜り込んできた際の手引きはロートス王国側の人間でした。
リア様が手を組んだのはその伝手です。」
オリオンは冷や水を浴びせられたような気持ちになった。
そして同時に怒りがこみ上げた。
「は?」
怒りを隠す事ない声をあげてしまったが、すぐに気づいた。
「おい…まさかアズミは復讐のために嫁いだのか?」
「そうです。」
オリオンの言葉にクリスティーヌは少し悲痛そうな顔をして答えた。
その様子から、父親は知っていたことを悟った。
「どうして父上は、そんなことを許したんだ」
オリオンはどう考えても幸せになれない結婚を許した父親が理解できなかった。
何せ、オリオンは父親は子ども思いであると思っている。
ホクトがどう思っているのかわからないが、オリオンから見ては間違いなくそうであった。
「それは陛下もアズミ様と同じくらいロートス王国を恨んでいるからでしょう。」
クリスティーヌは淡々と言うとゆっくり立ち上がり、オリオンを見た。
「恨んで」
オリオンは思い出せる父親の表情からは思い浮かばない感情に驚き、繰り返すように呟いた。
「オリオン王子の母上であるアルテ様は陛下にとって唯一の愛する人でした。
そして、アズミ様たちの母上であるレナード様は陛下にとって理解者で支えでした。
その二人を奪った存在を許せるとでも?」
クリスティーヌは諭すように淡々と言いながらも、その目はオリオンに何かを訴えるようだった。
「同じくらい恨んでいる故に娘の行動を止めることができなかった…父はそう言っていました。」
クリスティーヌはゆっくりと視線を下に向けて言った。
「父?」
「私の養父はアロウと言う男です。知っておりますよね。」
クリスティーヌは顔を上げて凛とした表情で言った。
その様子は何かを誇っている様子だ。
「知っている。彼は父上の親友だ。」
オリオンは妹を助けてくれた一人の男を思い出した。
決して忘れてはいけない存在だ。
「その様子では、父は貴方達のために逝ったようですね。
良き最期を迎えたようで安心しました。」
クリスティーヌはオリオンの顔を見て安心したように笑った。
死を嘆いているのではなく、アロウが本懐を遂げたと思って安心している。
「死を嘆くことは」
「陛下が亡くなった時点で、父もすぐに後を追うと分かっていました。
その命の使い方が自殺ではないのが救いです。」
オリオンの言葉にクリスティーヌは当然のように答えた。
つまり、アロウは死にたがっていたということだ。
そんな片鱗をオリオンは見ていない。
「光と影。父は陛下のために生きているような人でした。」
クリスティーヌは困ったように笑いながら言った。
「養父と言うことは血の繋がりが無いということか…
しかし、どういう経緯でアロウの養子になった?」
オリオンは目の前の女性、クリスティーヌの外見の様子から出自を考えた。
王族の女性の付き人になっても問題ないレベルの容姿。
目の色や髪の色も特徴的だ。
俗にいう貴族的な外見である。
「自分は西の大陸の出身です。それこそ、そこのライデン・イル・ボルダー殿の母上がアロウと会ったきっかけが縁です。」
クリスティーヌはチラリと兵士に紛れているライデンに目を向けて言った。
「母上と…っは」
ライデンは話を聞いた少し考え込むと、呆れたように笑った。
「オリオン王子、自分が一つ発言してもいいでしょうか?」
ライデンは不敵に笑いながら手を挙げて尋ねてきた。
表情は無礼だが、口調は丁寧だ。
この男の器用なところだが、ライデンは何か心当たりあるようだ。
「かまわない。」
オリオンが答えるとライデンは兵士たちの間を縫って前に出て来た。
彼はクリスティーヌを見つめて納得したように頷いた。
「オリオン王子。彼女は呪術師です。おそらくライラック王国に必要な人材です。」
ライデンは何かを保証するように言った。
クリスティーヌは驚いたように目を丸くしたが、すぐに頷いた。
「そして・・・おそらくアズミ様の協力者に母上がいます。」
「お前の母親というと・・・」
オリオンは記憶を探った。
「王都での取り調べの時に真っ先に領主の夫を切り捨てた賢い御夫人ですね。」
エミールは感心したように頷いている。
そう言えば、彼は領主の取り調べを自ら嬉々として行っていた。
その過程でライデンの父は妻に不正の罪を擦り付けようとしていたらしい。
それをきっぱりと夫ごと切り捨てたということだ。
ライデンとエミールがその母親の話をしていたのは記憶に新しい。
「ああ。
なるほど。ミナミ姫は貴方達と接触もしているのですね。ということは今はロートス王国にいる。」
エミールはオリオンやライデン、クリスティーヌを順に見て頷きながら言った。
オリオンはドキリとした。
味方に付いているが、帝国側はとりあえずミナミの身柄を追っている立場だ。
それに、彼女の傍にいるマルコムとシューラとは少なからず因縁がある。
「馬鹿にしないでいただきたいですね。
こう見えて貴方達よりも有象無象との騙し合いをしていますし年を食っています。」
エミールはオリオンの顔を見て困ったように笑って言った。
しかし、有象無象相手は雑魚ではないか?
あまり経験にならなそうな発言だが、エミールが年を食っているのは事実だ。
「有象無象はそこまで大変そうではないと思いますが?」
ライデンは警戒しながらもエミールを探るように見て言った。
彼はエミールには敬語を使うようだ。
だが、軽口でエミールの人間性を把握しようとしているのはわかった。
「厄介すぎると自分は手が出るので、リラン殿にも団長にも相手をするのを止められるのですよ。」
エミールは困ったように笑いながら言った。
表情は相変わらず穏やかそうな顔に苦笑を浮かべるという、いかにも善人な様子だが、言っていることが物騒なことをこの上ない。
ここにいる者のほとんどはエミールの噂も知っている。
一気に室内の温度が下がった気がする。
「しかし、どうしてライデンは母親が絡んでいるとわかった?」
オリオンはすぐにライデンに話を振った。
空気が凍り過ぎているので、ここで自分が話を進めないといけないと思ったからだ。
「・・・母も呪術師ですが、彼女が言うには不正の貴族は締め出され管理をされているが、不正をしていない者こそ怪しいと
このタイミングに母が言っていたことを探るのに最適な人材が来たこと。あと、今母はロートス王国にいるはずです。」
ライデンは一呼吸を置いてからオリオンの意図をくみ取ったか、表情を引き締めて言った。
「それが呪術師とどう関係が?」
「呪術師は人の感情に敏感です。負の感情ほど特に。」
答えたのはクリスティーヌだ。
彼女はチラリとライデンを見て頷いた。
「残されたモノを探る手段はありませんが、本人がどんな感情を隠しているかはとても敏感です。
例えば・・・」
クリスティーヌはエミールに視線を向けた。
それにエミールは驚いたように目を丸くした。
「貴方が何故か私に対してわずかな動揺を持った・・・など」
クリスティーヌは探るようにエミールを見つめながら言った。
クリスティーヌの言葉にオリオンは驚いたが、すぐに心当たりが浮かんだ。
何せ、アロウを手にかけたのはエミールである。
シューラを庇った形だが、間違いなくエミールの剣で死んでいる。
「なるほど・・・」
エミールは納得したように頷いた。
ただ、彼の表情は変わらない。
「理由をうかがっても?」
クリスティーヌは事情を知らないようだ。
聞かない方がいいと思うが、オリオンが止める間もなくエミールはすぐに答えた。
「それは自分があなたの養父を手にかけたからですね。」
エミールは当然のように答えた。
また空気が固まる。
「自分はシューラ・エカを殺すつもりでした。しかし、彼はその命を持って守った。
要はミナミ姫のために必要な人材を守るために殺されたのですよ。」
エミールは当時の状況を思い出しているのか、顔を歪めながら言っている。
クリスティーヌはその話を聞いてやはり安心したような顔をした。
「じゃあ、父の判断は正解ですね。」
と誇らしげに言った。
その様子はエミールを挑発しているように見える。
「ほう・・・」
エミールは穏やかな表情が良く似合う純朴な顔から表情を無くし、クリスティーヌの言葉に反応した。
「あと、オリオン王子。そこの帝国騎士は私に持った動揺は罪悪感や後ろめたさではありませんよ。」
クリスティーヌはエミールから視線を外してオリオンを見て言った。
「え?」
オリオンはエミールがアロウを殺したことに対しての感情を推し量っていたつもりだった。
だが、クリスティーヌは違うと言っている。
では、どんな感情なのか。
「この騎士の動揺は、悔しさや不快感が元となっている。
彼は私の父を手にかけたことに対して、後悔も罪悪感もありませんよ。」
クリスティーヌは断定するように言った。
「後悔はしていますよ。」
エミールはすぐさま否定し
「自分があそこで軽率にシューラ・エカを狙いに行ったせいで、取り逃がしたのですからね。」
と続けて言った。
「あとは、ライデン様が言っていたことが事実だったのが悔しくもありましたからね。」
エミールは困ったように笑って
「厄介な敵は不正をしないものなんですよね。」
と続けて言った。
「意外と不正の膿を出すのは簡単なんですよ。
ですが、不正をしなくても成り立つ敵と言うのが一番厄介なんです。」
エミールはオリオンをまっすぐ見て言った。
「まあ、だから武力が一番なんですけどね」
とエミールは小さく呟いたが、オリオンは聞かなかったことにした。
おそらくライデンたちも聞こえているが、聞こえていない振りをしている。
「貴方達も察していると思いますが、自分は他人の感情にとても疎いです。
憎まれるのが当然ですからそんな敏感にはなってられません。」
エミールは前置きをしたうえでクリスティーヌを見た。
確かにエミールは他人の感情に疎いと思える。
空気を察することもしない。
「なので、不正を出し切った今のタイミングなら、彼女らのいう呪術師の目で不穏分子を片付けられるかもしれませんね。」
エミールは今度はクリスティーヌを挑発するように言った。
エミールの言葉にクリスティーヌは顔を顰めた。
「猶予はありませんよ。
何せ、長耳族の手はロートス王国側からだけではないですから。」
エミールはチラリとライデンを見た。
「貴方の義弟が長耳族の捨て駒としてリラン殿の邪魔をしましたからね。これからリラン殿と楽しく船旅をしながら帰ってきますから、お土産話期待してあげてくださいね。」
エミールは不敵に笑いながら言った。
決して楽しくなさそうな船旅と、胃の痛くなりそうなお土産話だ。
オリオンとエミール、ルーイがいる王城にプラミタの魔術師であるシルビオとビエナをライデンが連れてきて滞在を許した場面から
オリオンは目の前で険しい顔をしているライデンと、彼が連れてきた魔術師をどう扱おうかと迷っていた。
とりあえず客間への滞在を許し、話は聞いた。
頭の痛くなる話だった。
長耳族が関わってきている上に、隠れ村を魔獣の牧場にしようとしていた。
まるで実験場のような考えに怒りを覚えたが、情報が多すぎる。
それに、なにか隠されている気がする。
オリオンは目の前の三人を見てため息をついた。
「あの・・・やはり疲れの理由は魔力を流していることでしょうか?」
金髪の少年のビエナは相変わらず心配そうにオリオンを見てくる。
彼が言うには、オリオンは魔力を地面に流し続けているらしい。
だが、それをする理由がオリオンには無い。
「オリオン王子。」
シルビオがまっすぐオリオンを見た。
「俺たちは役に立ちますよ。貴方は副団長の言う通り利用すればいい。」
シルビオは目に怒りのような感情を見せている。
「長耳族に怒りか?」
「命を狙われたのですからね」
シルビオは怒りを誤魔化すようにため息交じりで言った。
「そうか」
オリオンはそれ以上答えずに、立ち上がった。
それと同時に部屋に慌てた様子の兵士が飛び込んできた。
ノックも無しにとても無礼だが、かなり息を切らせている。
「すみませんオリオン王子・・・」
彼は息を切らせながらも、早く伝えなければと必死な様子で話し始めた。
だが、動揺もあるようで、すぐに言えずさらに息切れが激しい。
「どうした?」
オリオンは少しゆっくりとした口調で尋ねた。
「・・・は・・・はあ・・・アズミ様の付き人であるクリスティーヌ様が」
兵士は呼吸を整えてゆっくりと話し始めた。
その言葉に反応したのはシルビオたちと並んでいたライデンだ。
「ロートス王国でクーデターが起きたと・・・」
兵士はやはり動揺している。
しかし、それは仕方ないことだ。
オリオン達も話を聞いて驚きと動揺が走ったt。
オリオンは急いで自身の執務室で話を聞くように動き出した。
クリスティーヌはアズミがロートス王国に連れて行った数少ないライラック王国の人間だ。
そして今、オリオンは執務室にクリスティーヌを招いた状態でいる。
もちろんオリオンの傍にはルーイとエミールがいる。
冷やかしに近いのか、ライデンが兵士たちに紛れている。
もちろん彼は魔術師の二人は置いてきたようだ。
流石に他国の人間をここまで無許可で連れてくることはしない。
「オリオン王子。このような形での対面をお許しください。」
クリスティーヌは跪き、恭しく頭を下げて言った。
「いや、それよりもアズミに何かがあったのか?クーデターということは貴族であるアズミも・・・」
「アズミ様はロートス王国の王位簒奪を目論んでいましたが、行動を起こす前にリア様が長耳族と手を組みことを起こしました。」
クリスティーヌはオリオンを見上げ、執務室に響く声で言った。
色々な情報が多い。
オリオンはめまいがした。
「アズミ様はロートス王国の王位継承権を持っています。そして、元老院からの覚えもめでたい。」
クリスティーヌは補足するように言った。
オリオンももちろんそれは知っている。
「また、ライラック王国に何度か長耳族が潜り込んできた際の手引きはロートス王国側の人間でした。
リア様が手を組んだのはその伝手です。」
オリオンは冷や水を浴びせられたような気持ちになった。
そして同時に怒りがこみ上げた。
「は?」
怒りを隠す事ない声をあげてしまったが、すぐに気づいた。
「おい…まさかアズミは復讐のために嫁いだのか?」
「そうです。」
オリオンの言葉にクリスティーヌは少し悲痛そうな顔をして答えた。
その様子から、父親は知っていたことを悟った。
「どうして父上は、そんなことを許したんだ」
オリオンはどう考えても幸せになれない結婚を許した父親が理解できなかった。
何せ、オリオンは父親は子ども思いであると思っている。
ホクトがどう思っているのかわからないが、オリオンから見ては間違いなくそうであった。
「それは陛下もアズミ様と同じくらいロートス王国を恨んでいるからでしょう。」
クリスティーヌは淡々と言うとゆっくり立ち上がり、オリオンを見た。
「恨んで」
オリオンは思い出せる父親の表情からは思い浮かばない感情に驚き、繰り返すように呟いた。
「オリオン王子の母上であるアルテ様は陛下にとって唯一の愛する人でした。
そして、アズミ様たちの母上であるレナード様は陛下にとって理解者で支えでした。
その二人を奪った存在を許せるとでも?」
クリスティーヌは諭すように淡々と言いながらも、その目はオリオンに何かを訴えるようだった。
「同じくらい恨んでいる故に娘の行動を止めることができなかった…父はそう言っていました。」
クリスティーヌはゆっくりと視線を下に向けて言った。
「父?」
「私の養父はアロウと言う男です。知っておりますよね。」
クリスティーヌは顔を上げて凛とした表情で言った。
その様子は何かを誇っている様子だ。
「知っている。彼は父上の親友だ。」
オリオンは妹を助けてくれた一人の男を思い出した。
決して忘れてはいけない存在だ。
「その様子では、父は貴方達のために逝ったようですね。
良き最期を迎えたようで安心しました。」
クリスティーヌはオリオンの顔を見て安心したように笑った。
死を嘆いているのではなく、アロウが本懐を遂げたと思って安心している。
「死を嘆くことは」
「陛下が亡くなった時点で、父もすぐに後を追うと分かっていました。
その命の使い方が自殺ではないのが救いです。」
オリオンの言葉にクリスティーヌは当然のように答えた。
つまり、アロウは死にたがっていたということだ。
そんな片鱗をオリオンは見ていない。
「光と影。父は陛下のために生きているような人でした。」
クリスティーヌは困ったように笑いながら言った。
「養父と言うことは血の繋がりが無いということか…
しかし、どういう経緯でアロウの養子になった?」
オリオンは目の前の女性、クリスティーヌの外見の様子から出自を考えた。
王族の女性の付き人になっても問題ないレベルの容姿。
目の色や髪の色も特徴的だ。
俗にいう貴族的な外見である。
「自分は西の大陸の出身です。それこそ、そこのライデン・イル・ボルダー殿の母上がアロウと会ったきっかけが縁です。」
クリスティーヌはチラリと兵士に紛れているライデンに目を向けて言った。
「母上と…っは」
ライデンは話を聞いた少し考え込むと、呆れたように笑った。
「オリオン王子、自分が一つ発言してもいいでしょうか?」
ライデンは不敵に笑いながら手を挙げて尋ねてきた。
表情は無礼だが、口調は丁寧だ。
この男の器用なところだが、ライデンは何か心当たりあるようだ。
「かまわない。」
オリオンが答えるとライデンは兵士たちの間を縫って前に出て来た。
彼はクリスティーヌを見つめて納得したように頷いた。
「オリオン王子。彼女は呪術師です。おそらくライラック王国に必要な人材です。」
ライデンは何かを保証するように言った。
クリスティーヌは驚いたように目を丸くしたが、すぐに頷いた。
「そして・・・おそらくアズミ様の協力者に母上がいます。」
「お前の母親というと・・・」
オリオンは記憶を探った。
「王都での取り調べの時に真っ先に領主の夫を切り捨てた賢い御夫人ですね。」
エミールは感心したように頷いている。
そう言えば、彼は領主の取り調べを自ら嬉々として行っていた。
その過程でライデンの父は妻に不正の罪を擦り付けようとしていたらしい。
それをきっぱりと夫ごと切り捨てたということだ。
ライデンとエミールがその母親の話をしていたのは記憶に新しい。
「ああ。
なるほど。ミナミ姫は貴方達と接触もしているのですね。ということは今はロートス王国にいる。」
エミールはオリオンやライデン、クリスティーヌを順に見て頷きながら言った。
オリオンはドキリとした。
味方に付いているが、帝国側はとりあえずミナミの身柄を追っている立場だ。
それに、彼女の傍にいるマルコムとシューラとは少なからず因縁がある。
「馬鹿にしないでいただきたいですね。
こう見えて貴方達よりも有象無象との騙し合いをしていますし年を食っています。」
エミールはオリオンの顔を見て困ったように笑って言った。
しかし、有象無象相手は雑魚ではないか?
あまり経験にならなそうな発言だが、エミールが年を食っているのは事実だ。
「有象無象はそこまで大変そうではないと思いますが?」
ライデンは警戒しながらもエミールを探るように見て言った。
彼はエミールには敬語を使うようだ。
だが、軽口でエミールの人間性を把握しようとしているのはわかった。
「厄介すぎると自分は手が出るので、リラン殿にも団長にも相手をするのを止められるのですよ。」
エミールは困ったように笑いながら言った。
表情は相変わらず穏やかそうな顔に苦笑を浮かべるという、いかにも善人な様子だが、言っていることが物騒なことをこの上ない。
ここにいる者のほとんどはエミールの噂も知っている。
一気に室内の温度が下がった気がする。
「しかし、どうしてライデンは母親が絡んでいるとわかった?」
オリオンはすぐにライデンに話を振った。
空気が凍り過ぎているので、ここで自分が話を進めないといけないと思ったからだ。
「・・・母も呪術師ですが、彼女が言うには不正の貴族は締め出され管理をされているが、不正をしていない者こそ怪しいと
このタイミングに母が言っていたことを探るのに最適な人材が来たこと。あと、今母はロートス王国にいるはずです。」
ライデンは一呼吸を置いてからオリオンの意図をくみ取ったか、表情を引き締めて言った。
「それが呪術師とどう関係が?」
「呪術師は人の感情に敏感です。負の感情ほど特に。」
答えたのはクリスティーヌだ。
彼女はチラリとライデンを見て頷いた。
「残されたモノを探る手段はありませんが、本人がどんな感情を隠しているかはとても敏感です。
例えば・・・」
クリスティーヌはエミールに視線を向けた。
それにエミールは驚いたように目を丸くした。
「貴方が何故か私に対してわずかな動揺を持った・・・など」
クリスティーヌは探るようにエミールを見つめながら言った。
クリスティーヌの言葉にオリオンは驚いたが、すぐに心当たりが浮かんだ。
何せ、アロウを手にかけたのはエミールである。
シューラを庇った形だが、間違いなくエミールの剣で死んでいる。
「なるほど・・・」
エミールは納得したように頷いた。
ただ、彼の表情は変わらない。
「理由をうかがっても?」
クリスティーヌは事情を知らないようだ。
聞かない方がいいと思うが、オリオンが止める間もなくエミールはすぐに答えた。
「それは自分があなたの養父を手にかけたからですね。」
エミールは当然のように答えた。
また空気が固まる。
「自分はシューラ・エカを殺すつもりでした。しかし、彼はその命を持って守った。
要はミナミ姫のために必要な人材を守るために殺されたのですよ。」
エミールは当時の状況を思い出しているのか、顔を歪めながら言っている。
クリスティーヌはその話を聞いてやはり安心したような顔をした。
「じゃあ、父の判断は正解ですね。」
と誇らしげに言った。
その様子はエミールを挑発しているように見える。
「ほう・・・」
エミールは穏やかな表情が良く似合う純朴な顔から表情を無くし、クリスティーヌの言葉に反応した。
「あと、オリオン王子。そこの帝国騎士は私に持った動揺は罪悪感や後ろめたさではありませんよ。」
クリスティーヌはエミールから視線を外してオリオンを見て言った。
「え?」
オリオンはエミールがアロウを殺したことに対しての感情を推し量っていたつもりだった。
だが、クリスティーヌは違うと言っている。
では、どんな感情なのか。
「この騎士の動揺は、悔しさや不快感が元となっている。
彼は私の父を手にかけたことに対して、後悔も罪悪感もありませんよ。」
クリスティーヌは断定するように言った。
「後悔はしていますよ。」
エミールはすぐさま否定し
「自分があそこで軽率にシューラ・エカを狙いに行ったせいで、取り逃がしたのですからね。」
と続けて言った。
「あとは、ライデン様が言っていたことが事実だったのが悔しくもありましたからね。」
エミールは困ったように笑って
「厄介な敵は不正をしないものなんですよね。」
と続けて言った。
「意外と不正の膿を出すのは簡単なんですよ。
ですが、不正をしなくても成り立つ敵と言うのが一番厄介なんです。」
エミールはオリオンをまっすぐ見て言った。
「まあ、だから武力が一番なんですけどね」
とエミールは小さく呟いたが、オリオンは聞かなかったことにした。
おそらくライデンたちも聞こえているが、聞こえていない振りをしている。
「貴方達も察していると思いますが、自分は他人の感情にとても疎いです。
憎まれるのが当然ですからそんな敏感にはなってられません。」
エミールは前置きをしたうえでクリスティーヌを見た。
確かにエミールは他人の感情に疎いと思える。
空気を察することもしない。
「なので、不正を出し切った今のタイミングなら、彼女らのいう呪術師の目で不穏分子を片付けられるかもしれませんね。」
エミールは今度はクリスティーヌを挑発するように言った。
エミールの言葉にクリスティーヌは顔を顰めた。
「猶予はありませんよ。
何せ、長耳族の手はロートス王国側からだけではないですから。」
エミールはチラリとライデンを見た。
「貴方の義弟が長耳族の捨て駒としてリラン殿の邪魔をしましたからね。これからリラン殿と楽しく船旅をしながら帰ってきますから、お土産話期待してあげてくださいね。」
エミールは不敵に笑いながら言った。
決して楽しくなさそうな船旅と、胃の痛くなりそうなお土産話だ。
7
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる