世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記

吉世大海(キッセイヒロミ)

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ロートス王国~異種族と帝国騎士団と時々王族編~

力を持つ者

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 ライデンと共に来たプラミタの魔術師は、オリオンと同い年くらいの銀髪で黒い瞳をした青年と、10歳くらいの赤みがかった金髪で紫色の瞳をした少年の二人だった。
 銀髪の方がシルビオと名乗り、金髪の少年の付き人だと言った。
 どうやら金髪の少年の方が魔術師としての地位が高いと示したいようだ。

 少年の方はビエナと名乗り、どこか気が弱そうでビクビクしている。
 ビエナは名乗ると、すぐにシルビオに目を向けて状況説明を丸投げする様子を見せた。
 ただ、オリオンに対して何やら心配そうな目も向けている。
 その向けられる目の、瞳の不思議な紫の虹彩が宝石のようでどこかで見たことがある気がする。

 オリオンがビエナに目を向けていると気づいたのか、シルビオはすっとビエナとオリオンの間に入った。
 それから何やら二人で頷き合いながら意思疎通をしている。

「オリオン王子。私からお話します。」
 シルビオはビエナとの意思疎通を終えると、オリオンに向かって姿勢を正して言った。
 その立ち姿が様になっているので、シルビオは地位の高いものと交流する機会が多いのだとうかがえた。

 確かに地位が高いとはいえ、ビエナは子どもだ。
 大人であるシルビオがオリオンとの話をさせた方いい。

 シルビオはライデンとエミールに視線を向けてから説明を始めた。

 まず、彼らは諸島群に来る前に帝国の偵察に行っていたということ。
 そして、ライラック王国内の村に魔獣の密輸をして指名手配を受けたものがおり、その魔獣の密輸の被害で一つの村が大打撃を受けたこと。
 さらに魔獣の密輸は長耳族の企みの一部であること。
 なによりも、プラミタ内部に長耳族が入り込み、ビエナとシルビオに対して暗殺未遂のような行動を取っていること。

 その説明を受けてオリオンはさらに頭が痛くなった。

「ライデン様には、オリオン王子への報告のために連れてきてもらいました。
 状況が状況の為、私の口からの報告がいいと思いまして。」
 シルビオは恭しく頭を下げて言った。

 確かにプラミタ内部の話題になるので、ライデンへ伝言を頼むよりもシルビオが直接伝えた方がいいだろう。
 これはオリオンやライデンの立場の問題ではなく、シルビオの立場で頼むとしたらという観点からだ。

 話を聞く限り、シルビオたちは周りを信用できない状況に思える。
 ライデンに伝言を頼むにしても、立場的に疑心暗鬼になっていてもおかしくない。
 オリオンに行く前に情報を握り潰すかもしれないし、安心して伝言を任せられる関係性を築く、または保障を持てる状況ではないのだ。

 ライデンが疲れた顔をしている理由がよくわかった。

「それで、自分はここで聞いていてもいい内容ですかね?」
 エミールはシルビオを見て尋ねた。
 彼はまったくビエナを見ない。

「…帝国騎士団が入り込んでいるのは承知ですし、隠せることではないので、貴方が気を遣う必要はありませんよ。」
 シルビオは一瞬眉を顰めたが、柔和な笑みを浮かべながら言った。

「なるほど。気を遣わないでいいのですね。」
 エミールは頷きながら言うと、シルビオに一歩近づいた。
 シルビオは一歩下がった。

 エミールはまるで詰問する時の様な顔をしている。
 シルビオはそれを察したのか、ひるんだような様子を見せている。

 応接室に緊張が走った。
 確かにシルビオたちプラミタの魔術師の行動は帝国側からしたら不快かもしれない。
 だからと言って、ここでエミールがシルビオたちの辿った行動を責めるとは思えない。

「では、白煙殿。
 貴方はプラミタ内部でも長耳族とは対立の立場なのですね。」
 エミールは感心したように頷きながら言った。

 その言葉を聞いた途端、シルビオとビエナが固まった。

 オリオンは状況が掴めないが、シルビオたちは白煙という呼び名に驚いているようだ。
 少し遅れてライデンが険しい顔をした。彼も白煙という呼び名には覚えがあるようだ。

「…プラミタ第二位魔術師か」
 ポツリと呟くと、ライデンはシルビオを睨んだ。

「第二位?」

「ええ。諸島群には馴染みが無いかもしれませんが、プラミタは上位魔術師には順位があります。
 そもそも上位の立場はかなり高く、ライラック王国内なら国政の中枢に携わる貴族と同じ地位になります。」
 ライデンは目を細めて非難するような視線をシルビオに向けている。

「…それは」
 オリオンは思わずビエナを見た。
 白煙という呼び名よりもこの少年がそんな立ち位置にいることになんとも言えない気持ちになった。
 高い地位の魔術師というだけで分かりやすく国政に携わる立ち位置に関連づけることができなかったのもある。

 そもそも、魔術師に馴染みが無いのも大きい。

「常識的な優しさを見せているところに水を差すようで悪いですが、子どもよりもそこの白煙殿とはしっかりとお話をした方がいいと思いますよ。」
 ライデンはチラリとオリオンに目を向けて、少し皮肉のような口調で言った。
 ただ、その表情には隠しきれていないシルビオに対する不信感、警戒心だけでなく何とも言えない敵意が見えていた。

 それほどまでに第二位魔術師の肩書を隠していたのは大きいことなのか?
 オリオンはライデンの様子に内心驚きながらも、改めてシルビオに目を向けた。

「わかっている。」
 オリオンは内心でひと息をついた。
 第二位魔術師であろうと、この場で一番地位が高いのはオリオンだ。

 シルビオへの不信感、警戒心となんとも言えない不穏な空気が漂い、それを感じ取っているのかビエナはオロオロしている。
 ただ、彼は相変わらずオリオンを心配そうに見ている。

 シルビオ本人はエミールではなく敵意を向けてきたライデンを横目でチラチラ観察しながらオリオンを見ている。

 そんな中
「ああ。別に“今は”敵ではないと聞いていますので、オリオン王子は利用すればいいだけですよ。」
 エミールはあっけらかんとした声で言った。

「…」
 シルビオは、今度はエミールに目を向けた。
 というよりも彼の情報源を警戒しているようだ。

「彼は報告をしようとしているだけです。それをどう扱うか、警戒すべきは聞いてからで彼の思惑に振り回される必要は無いです。
 貴方は差し出された情報をただ受け取ればいい。
 受け取ったからと言って、彼らの要望に応える必要は無いのです。」
 エミールは呆れたような顔でオリオンを見ている。

「ここで貴方が彼らに振り回されるのは無駄なことです。」
 エミールはくぎを刺すように強調して言った。

 その“彼ら”にはシルビオたちではなくライデンも含まれているようで、エミールはチラリとライデンにも目を向けて言った。
 どうやらエミールもライデンがシルビオが第二位魔術師と聞いて向けた敵意を感じているらしい。

 今の状況でエミールの無神経さは助かる。

「力量的にも彼らは自分よりも弱いですから、何かあれば片付けられますよ。」
 エミールは当然の事のように言うと、自身の腰に差している剣に手を添えて言った。

「なので、オリオン王子は安心して彼らを見極めてください。
 自分たちは今は協力関係なのですから、存分に利用してください。」
 エミールは申し訳程度の笑みを浮かべて当然のように言った。
 言っていることは合っているが、いかんせんエミールはかなり物騒な噂をもっている。
 しかも事実だ。

 それに、エミールはオリオンに対しても“今は”と限定している。

 ライデンとシルビオが硬直したのがわかった。
 ここで空気を支配したのはエミールだったようだ。
 一番力があるのだから当然のことだが、白煙と呼ばれるシルビオは戦いに秀でた魔術師ではないのかもしれない。

 変な緊張はあるが、オリオンは少し力が抜けてきた。
 無神経なエミールのお陰かもしれない。

 ただ、疲れているせいか頭があまり回らない。

「…あの」
 ビエナがオロオロしながらゆっくりと手上げた。

 全員がビエナの方を見たせいか、ビエナは一瞬ビクリとしたが彼は決心したようにオリオンを見た。

 紫の宝石のような瞳がじっとオリオンをとらえた。
 彼はずっとオリオンを心配そうに見ている。

「…オリオン王子はどうしてさっきからずっと魔力を地面に流しているのですか?」
 ビエナは変わらず心配そうな目を向けて尋ねた。

「え?」
 オリオンはわけがわからず、少し間抜けな声を上げてしまった。

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