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ロートス王国~レンダイ遺跡と英知の巨獣編~
心強い用心棒
しおりを挟む遺跡から出るのは簡単だった。出ようと出口にミナミが向かえば出られた。
あの様子から、遺跡内部の地下が王族以外に使われていたのは確実だとわかった。
なにせ、王族に反応して開くので、それ以外の者を閉じ込めるのに最適なのだ。
ただ、ミナミはそれどころじゃない。
マルコムやシューラ、ノリスもなんとなく気まずそうにしている気がする。
三人共、ライラック王国の王族が担ってきた役割を察した。
わかったから解決ではなく、わかったうえでさらにこれから大変なことが起こることがわかった。
ミナミは殺された父や手を下した兄のホクトの事を少しでもいい状況に持っていきたかったので、過去を調べた。
だが、それによってこれから先に起こる大変なことが発覚した。
解決策を持っているわけでもないミナミはうだうだ考えることしか出来ない、
だまってただ歩いていると、あっという間に屋敷に戻った。
それだけ考えがグルグルと巡っていたのだ。
手と靴を洗い屋敷の居間に入ると、ミナミはすぐに椅子に座らせられた。
机の上には、アズミからの置き土産である革袋が置かれている。
その中には、父親の日記が入っている。
ミナミは見るのが怖かった。
だが、ミナミは逃げていい立場ではない。
これは、一つの国の王族の歴史である。
アズミが何か企んでいるだけならミナミは見ないという選択肢を取っても大丈夫だった。
ただ、ホクトが父親を殺した時点で、ミナミはこの問題から目を逸らすのは許されない。
他の人がどう思うかわからないが、ミナミはそう思っている。
だって、ミナミは彼らと家族であり、王族であるのだからだ。
だからだろう。
無意識にでも震える手で革袋に手を伸ばした。
そのミナミの手をシューラが掴んで止めた。
「いったんお茶を飲んで落ち着こう。」
シューラはミナミを宥めるように言った。
シューラが淹れてくれるお茶は美味しい。
更に、ノリスが町で木の実の素揚げを買ってきてくれた。
美味しいお茶請けも用意してもらってミナミは嬉しい。
父親の日記が入っている革袋は未だに机の上に置かれているが、お茶を飲んで落ち着いたことでミナミは少し冷静になった。
とはいえ、まだ見るのが恐い。
見たくない現実があるのかもしれない。
ミナミが思っているほど、父親は“良くない”人だったかもしれない。
少しためらいを見せながらもミナミは日記が入った革袋に手を伸ばした。
「ミナミは家族が大事なんだよね。」
ミナミが革袋から日記を取り出すのを見て、マルコムは確かめるように聞いてきた。
「うん。」
「なら、それを守るために必要なことを考えよう。」
マルコムは指で机をトンと叩いて言った。
「日記の内容で、君の父親がどういう人間だったかわかるけど、君の守りたい家族は死んだ父親だけではないでしょ?」
マルコムの言葉でミナミはハッとした。
とても視野が狭くなっていた。
そもそも、ミナミはホクトの状態が少しでも良くてなって欲しくて父親の殺害に至った理由が知りたかった。
そしてアズミが心配であり、兄のオリオンの負担を軽くしたい。
ミナミはここでうだうだしている場合ではない。
もちろん、出来ることも少ないが、少なくとも日記を見るのが恐いと言ってノロノロしている場合ではないのだ。
ミナミは表情を引き締めた。
それを見てマルコムは安心したように笑った。
こう見ると、マルコムは本当に顔がいい。思わずドキっとした。
そしてその隣のシューラも同じように安心したような顔をしている。
シューラは可愛い。ミナミはキュンとした。
その肩に乗るコロはミナミに興味が無いようにずっとシューラの首もとに顔を摺り寄せている。コロも可愛い。
ミナミはほんわかした。
「君が改めて自分の中の優先順位わかれば、日記の内容はどんなにひどいものであっても大丈夫でしょ?
俺から見ても君はとても図太くて強いからね。」
なんと、マルコムはミナミを褒めてくれた。
彼の中でミナミは強い女のようだ。
「ありがとう。」
褒められたのでミナミはお礼を言った。
「…俺は君の父親が酷い人間だとは思えないから、君の変な心配は杞憂だと思うよ。」
お礼を言ったミナミを呆れた顔で見ながらもマルコムは付け加えるように言った。
どうやら、彼なりに気を遣っているらしい。
ノリスはその隣で学園菓子をポリポリと齧っている。
彼はこの状況ではなく、日記に書かれた情報が気になっているようだ。
野次馬精神ではなく、純粋に歴史関連の知識もあるかもしれないと思っているのだろう。
ミナミは自分に喝を入れるようにほっぺをパチンと叩いた。
「ふんす!」
掛け声も自然と出る。
気合も十分に入ったので、ミナミは日記を持ちあげた。
日記自体は重いが、もう手が震えることはない。
ただ、ミナミの手の力では両手でしっかりと支えないと開けない。
机の上に広げて見ることにした。
父親には悪いが、ミナミ一人で見るよりもマルコムとシューラにも見てもらった方がいい。
ちょっぴり一人で見るのが寂しいのもあるが、用心棒に必要な情報があるかもしれない。
「二人も一緒に読んで欲しいの。
だって、これから私の身に降りかかる脅威に関係する情報があるかもしれないから。」
ミナミは遠慮してるマルコムとシューラを見て言った。
彼らはミナミの安全を優先する立場であるし、ミナミの要望である。
二人は少し気まずそうな顔をしたが、頷いてミナミの後ろに回った。
日記を三人で覗き込む様な格好だ。
後ろに心強い味方がいる。
ミナミはそんな気持ちで父親の日記を開いた。
『恋をした。
どうしよう。胸が高まる。
ドキュンドキュンして仕方ない。
あんなに綺麗な人は初めて見た。
忘れられない。
彼女のうなじ、から…』
読んでいる途中でマルコムが勢いよく日記を閉じた。
ミナミは急なことで驚いた。
「…新しい箇所から読もうか」
マルコムはこめかみに手を当てて眉間に皺を寄せて言った。
マルコムは読むのが早い。流石だ。
ミナミは途中までしか読めていないが、なにやら悩ましいことがあったらしい。
こめかみがピクピクしているし眉間には皺が寄っている。
とりあえずミナミはマルコムの眉間をつついた。
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