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ロートス王国~レンダイ遺跡と英知の巨獣編~

潜むお姫様

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 クリスティーヌは話し終えるとすぐにライラック王国へ向かった。
 本当にミナミたちを待っていただけのようだ。

 そして夜ご飯の前にミツルが戻ってきた。
 今日の彼女の用事は終わったようだ。
 しかし、外での用事が疲れたのかミツルは自分が滞在する部屋に戻って休んでしまった。

「ミツルさんは外の用事で食べてきたみたいだから、晩御飯は四人分だけだから。」
 マルコムはそう言いながら食事の支度をしている。

 しかしミナミは昨日と同じように居間の机の前で待機だ。
 まだミナミはご飯の準備をさせてもらえない。

 もう少し色々できるようになりたいものだ。
 同じように役立たず認定をされているノリスと待機だ。

「そういえば、今日出してくれた紫色のお菓子って有名なの?」
 ミナミはノリスがお茶の時に出してくれた紫色の砂糖の塊を思い出した。
 クリスティーヌは懐かしそうに食べていた。
 西の大陸では標準的なお菓子なのかもしれない。

「ああ。あれは学園菓子と俺らは呼んでいるものでな、呪術師の学園で試験時によく食べられていたからそう呼んでいるのだ。
 学園での消費が多い故の名前だのう。」
 ノリスは懐かしそうに目を細めて言った。

「そうなんだ。じゃあ、呪国家ならではのものなんだね。」

「そうだのう。日持ちがいいのもあって俺は持ち歩くことが多いのう。
 なにせ道に迷ったときに手軽に栄養が取れる。一かけらで二日は持つともいわれているからのう。」
 ノリスは胸を張って言った。

「なるほど。」
 ミナミは学園菓子と呼ばれる所以に納得した。
 あとは旅のお供にいいかもしれないとも思った。

「それもあって、呪国家オームに訪れた商人や旅人は学園菓子を買い求めることが多いとも聞くのう。
 別に他の国で同じようなものがあると思うが、特別感があるのだろう。」

「色も綺麗だもんね。」

「先ほど出したのは紫だったが、色は他にもあるぞ。
 むしろ色んな色があるのも売りだのう。」
 ノリスは腕を組んで頷きながら言った。

 紫は毒々しい色だったが、食べ物として見なければ綺麗な色だ。
 そう考えると色物ように思えるが、確かに綺麗だからという理由で買う人は多そうだ。

 ご飯は暖かくて美味しかった。
 ノリスが持っている調味料を使ったらしいが、甘辛くて美味しかった。

 学園菓子とこの調味料しか知らないが、西の大陸は甘いものが好きな人が多いのかもしれない。

 ちなみにこの屋敷の水回りはきちんとしており、お手洗いもお風呂もしっかりとしていた。
 玄関に入る時に靴と手を洗わせたりしているので、ノリスは綺麗好きなのだろう。

 ミナミは一人でゆっくりと湯舟に浸かってそんなことを考えていた。
 もちろんノリスやこの屋敷のことを考えたのは現実逃避だ。
 ミナミはもっと考えるべきことがある。

 今日得た情報だけでミナミはパンクしそうだった。
 アズミの目的や、父親の日記の存在。

 全てが明らかになるわけではないが、明日は遺跡に行ってみることになった。
 そこで父親が遺した日記を回収して、あわよくばカプラと接触を図る。

「お父様は何を考えていたのかしら…」
 ミナミはお湯を両手で掬い、零れ落ちるのを見つめながら呟いた。
 最近、優しかった父の姿があやふやになっている。
 ミナミはとても寂しかった。

 ゆらゆらと手に救ったお湯が揺れた。
 それだけでない。ミナミが浸かっている湯舟のお湯も揺れている。
 ミナミが入っているとはいえ、不自然な揺れ方だ。

 浴室の外が騒がしくなってきた。
 ミナミたちの滞在している部屋には浴室とお手洗いという水回りがあるので、浴室の外にはマルコムとシューラだけがいる。
 その二人が騒がしくなるのはおかしい。

 何があったのかわからないが、ミナミはさっと湯舟から上がって、用意してあるタオルで体を素早く拭いた。
 水気を拭かないと、何かあったときに転んでしまう。

 体を拭き終わったら、一番水気のある頭にタオルを巻きつけた。
 本当なら別のタオルにするべきだが、今はこれしかないから仕方ない。

 ミナミが頭にタオルを巻きつけたと同時に浴室の扉が開いた。
「ミナミ。少し隠れてて。」
 槍ではなく剣を腰に差したマルコムが険しい顔で入ってきた。

「何があったの?お外がおかしいよ。」
 ミナミは状況がわからないので、とりあえずマルコムに質問をした。
 それに隠れるとしても、浴室でじっとしていろということだろうか?

 だがマルコムはミナミの質問に答えるわけでなく、ミナミから素早く目を逸らした。
「君の優先順位どうなっているの?」
 こめかみをピクピクさせて何やら質問をしてきた。

 よくわからないが、ミナミは状況を知りたい。
「え?ここにいればいいの?」
 しかし、状況を教えてもらえないならミナミの取るべき行動を教えて欲しい。
 本当なら自分で考えて行動すべきなのかもしれないが、状況が掴めていないのと用心棒であるマルコム達の判断が一番頼りになるのだ。

「君はとりあえずこれを体に巻いて。」
 マルコムの後ろから素早く出てきて、シューラが大きいタオルでミナミの身体を巻いた。
 どうやら体が冷えることを心配してくれたみたいだ。

「ありがとう。シューラ。」
 ミナミは気を遣ってもらったのでお礼を言った。

 シューラは浴室のドアを閉め、ミナミとマルコムに奥に入るように顎で示した。
 ミナミはそれに従い壁にくっついた。

 そして何があったのか知りたいので、マルコムとシューラを交互に見た。

「…おそらくクリスティーヌの追っ手が来たみたいだ。
 さらに言うなら、追っ手はクリスティーヌとアズミ姫が一緒にいると思っているみたいだ。」
 マルコムは腰に差した剣に手をかけて言った。

「でもお姉さまは王都にいるって…」

「クリスティーヌ含めて陽動ってことだよ。話の内容的に、追っ手は夫である領主側の人間だろうね。」
 シューラは浴室のドアに耳を当てながら言った。

 ドアに耳を当てなくても、浴室の外が騒がしくなってきたのがわかった。
 シューラは舌打ちをして、自分の服を脱ぎ始め、半端に服を着たような状態になった。

 大きいサイズの長袖の服を着ているので普段はわからないが、シューラも逞しい肩回りと腕をしている。
 ただ、肌が眩しいほどに白くて綺麗だ。
 よくよく考えるとシューラはミナミが持つのも精一杯の刀を振り回しているうえに、元々兵士である。

 そんなことを考えていると、ミナミは腕を引かれて浴室のドアの後ろに連れていかれた。
 浴室のドアはうち開きであるので、開かれたときにドアの陰に隠れられるのだ。

 マルコムと二人息を顰める手はずのようだ。
 ここで無駄に波風を立てたくないのだろう。
 ミナミはシューラたちの意図を察したので、ドアの陰からはみ出ないようにマルコムにくっついて息をひそめた。
「君は光らないように」
 マルコムが小さく呟いたので、ミナミはハッとして気を張った。
 しかし、マルコムの顔がミナミの肩近くにあったので驚いた。
 あと、マルコムはミナミの頭に巻かれて膨らんでいるタオルを鬱陶しそうにしている。

 ミナミたちが黙ったのを見てからシューラは勢いよくドアを開いた。
 開いたドアがマルコムにぶつかったのがとても痛そうだった。
 もちろんミナミには当たっていない。
 シューラはミナミに気を遣ってくれている。

「うるさいんだけど?」
 シューラは苛立った口調で言った。

 ドアの先からは複数の人の気配がある。
 シューラを見て驚いているようだ。

「お前は」
 知らない男の声が聞こえた。
 声色的に、人前に立つことに慣れていそうだ。
 あとは貴族っぽい。

「聞いていない?管理人から。
 僕西の大陸から来たんだけど…」
 シューラはため息交じりで言った。
 どうやらシューラはノリスが西の大陸から呼んだ人間と通すつもりのようだ。

「お前の名は?」
 貴族っぽい男が尊大な様子で尋ねてきた。

「下手に身元を明かせないよ。訳アリで誓いを立てているからさ」
 シューラの言っている誓いとは、今日クリスティーヌに教えてもらった“思いへの誓い”を指しているのだろう。

「チっ…呪術師か」
 貴族っぽい男は吐き捨てるように言った。

「言っただろ?野郎ばっかりだと」
 後ろの方からノリスの声が聞こえる。

「何?女性を探していたの?」
 ノリスの声を受けてシューラは冷やかすような口調で言った。

「無礼者。俺を誰だと思っている?」
 貴族っぽい男はシューラを咎めるように言った。
 なかなか尊大だ。

「僕この国の人間じゃないからね。」

「これだから呪術師は」
 男は舌打ち混じりで言った。
 ミナミは、彼はお行儀が悪いと思った。

「別で休んでいるミツルサマに聞けばいいだろう?
 女性の部屋にこんな人数で入るのは無礼だと思うけどのう」
 ノリスは気楽そうな声をしている。

「亡国とはいえ、元王族で伝手もあるから、あの女は下手な扱いが出来ない。
 それに、アズミは彼女と相性が悪い」
 男は舌打ち混じりで言った。
 先ほどからこの男は舌打ちばかりしている。

 そして何やら訳の分からない言葉を吐いて、去って行った。
 見えなくても、何やら色々引き連れた人間の足音が去っていくのでわかった。

「ああ、土足で」
 ノリスが苛立ったような声で言った。

 きっと彼らはノリスの手と靴を洗って欲しいという要望は応えていないのだろう。
 やはり無礼でお行儀が悪い。

 それにミナミはわかった。
 アズミを呼び捨てにしているので、きっと彼がアズミの夫だ。

 ミナミはアズミの離婚に賛成だ。
 心からそう思った。
 ミナミは拳を強く握った。

「どうしたの?」
 鼻息を荒く拳を握っているミナミを見てマルコムが不思議そうに尋ねた。

「お姉さま、離婚すればいいと思ったの。」
 別に隠す事でないので、ミナミは思ったことを正直に答えた。
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