262 / 326
ロートス王国~レンダイ遺跡と英知の巨獣編~
厭な勘が働く青年
しおりを挟む手紙の中身からすると、断絶の時の領主であるだろう。
マルコムは嫌な汗が背を伝うのがわかった。
手紙の内容とこれまで得た情報が嫌に重なるのがわかる。
別の方角から得た情報が、パズルのようにはまってくる気がするのだ。
ちらりとシューラを見ると彼も同じらしい。
白い顔をさらに白くさせている。
ミナミは何も気づいていないが、気づくのは時間の問題だと思われる。
ただ、パズルを合わせるにはまだまだ情報が足りない。
間に決定的に足りない情報がある。
考え過ぎであればいい。
マルコムはそう思った。
厭な、嫌な予感がする。
マルコム達が得た情報は
ミナミの父親が何らかの理由があって慌てて王族の歴史を探っていた。
タレス国王と異母兄弟であるアロウが、力を持たなかったおかげで別の道を選べたこと。
ライラック王国の王族が他人の犠牲の上に生きている自覚。
地下の突き当りの部屋は、ライラック王国の王城にある愛人の宮の部屋の扉と似ている。
この地にあるレンダイ遺跡は、何かを封じている。
である。
そして手紙の内容から
手紙を書いたのはこの地の断絶した代の領主。
領主はどこかの王族で望まれない子ども。
力を持って生まれてしまったために兄弟や血族を送っており、送るというのはおそらく殺すことと同義。
自分やこの国の人間が送った兄弟たちの犠牲の上で成り立っていること。
地下の突き当りの部屋と領主が授かった場所は同じような役割があり、どこかへの入口である。
遺跡も同じようにどこかへの入口であり、その先に災害のような脅威がある。
情報を書きだした時、対となり答えとなりそうな気がする。
だが、偶然でこじつけとも考えられる。
遺跡の事に関しては、ノリスが持っていた遺物からの情報なので間違いないと思う。
だが、ライラック王国の王族に結び付けるのは早まっている。
マルコムはそう自分に言い聞かせて落ち着くことにした。
手紙の魔力残滓を見ることを優先していたノリスが今手紙を読んでいるがしきりに首を傾げている。
彼はマルコム達と違ってこの地でしか情報収集をしていないのでわからないだろう。
ただ、遺跡の事はわかったようで険しい顔で古い金属の塊を撫でている。
手紙から地下の行き止まりの部屋に入る事は難しいことがわかった。
なので、マルコム達は居間でお茶をすることになった。
シューラはこの屋敷のお茶が古いのが気になっていたようで、自分が処理した薬草をお茶にしてくれることになった。
それはマワリ草も混ざっているので、彼はマルコムの内部損傷を気にしているらしい。
ミナミの傍で過ごしているおかげか、大分経過もいいので小さい魔力なら問題なく使える。
ただ、この先小さい魔力だけで済ませられるかわからないという予感もあるのかもしれない。
「…重なる情報が多いけど、まずは領主の屋敷を調べよう。」
淹れてもらったお茶が入ったカップを見つめてマルコムが呟くと、ミナミが羨ましそうな目を向けてきた。
そんな目を向けてきても連れて行くわけにはいかない。
探検が好きなのはわかるが、誰が潜んでいてもおかしくない廃墟に連れて行けない。
それに、連れて行くにしても下見が必要だ。
必要に駆られて見に行くにしても、下見ができるならするに越したことはない。
意地悪で連れて行かないわけでは無い。
「連れて行くにしても、下見は必要だから。それにノリスも探っているでしょ?」
ミナミの視線に気づいたシューラが、拗ねたように尖らせられたミナミの唇をつつきながら言った。
ミナミはハッとして慌てて平静な顔をした。
あまりにも不自然なすまし顔で思わず呆れ笑いをしてしまう。
「おおう。領主の屋敷は見ておるぞ。玄関が荘厳で趣味が悪い。
秘密主義でプライドが高かったらしいのう。」
ノリスは腕を組んで胸を張って言った。
「行く前に知りたいから何か気になったところとかある?」
マルコムはノリスが見ているのなら、少ない手間で済むのではと思った。
何せ、彼は残滓魔力とその感情がわかる。
マルコムの質問にノリスはわかりやすく動揺をした。
目が泳いで口がもごもごしている。
「あー。えっとお、気になったところはあるにはあるがのうー」
何を言おうかと考えながら話しているようだ。
とても既視感がある動揺の仕方だ。
最近あんな動揺の仕方を見た。
のほほんとした世間知らずはあんな動揺の仕方をする決まりでもあるのか?
マルコムはノリスの様子を見てクスクスと笑っているミナミをちらりと見た。
「別に責めたりしないよ。見てないならそう言えばいいし」
マルコムはノリスが屋敷を調べていないと察した。
おおかた、体力が足りなくて屋敷の玄関だけしか見ていないのだろう。
この地下と同じく、労力を西の大陸から得てから見るつもりだったのだろう。
「いや、見たのは見たのだがちょっと客間で胃もたれしてしまってな…」
ノリスは気まずそうに言った。
「もたれた?」
シューラは不思議そうに首を傾げている。
「客間で何があったの?」
探検に行きたいミナミは目がキラキラしている。
ノリスがつまらないものを気に留めるとは思えないのだろう。
マルコムも疑問に思うが、何やら嫌な予感がする。
「いや、深くは聞かな」
「最後の領主が男色であったのは事実だった」
マルコムが止める前にノリスは腕を組んで唸るように言った。
どうでもいい情報だ。
「雄蕊の」
ミナミはまだ男色の意味を分かりきっていないので不思議そうに首を傾げている。
「客間には寝具があってのう…モガ」
ノリスは続けて言おうとしたが、マルコムはすかさずノリスの口を手で塞いだ。
心底どうでもいい情報だと思えるし、ミナミの情操教育に悪影響しか及ぼさない情報だ。
マルコムはそう判断した。
ミナミはマルコムの行動に目を丸くしている。
シューラは何かを察したようで肩を震わせている。
「雄蕊って、まさかお花でも使って教えたの?」
心底からかうような口調でシューラは笑いながら言った。
どうやらマルコムがミナミに男色の説明をどうやったのかを笑っているらしい。
そしてお花を持って雄蕊の説明をしたとその通りだった。しかし肯定するのも腹が立つ。
マルコムはノリスの口を塞いだままシューラを睨みつけた。
「男色は雄蕊だけで種が出来ないことって教えてもらったの。」
ミナミが胸を張って言った。
シューラが噴出した。
ノリスはわけがわからないようで、口を塞がれたまま混乱した目でマルコムを見ている。
3
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる