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ロートス王国~レンダイ遺跡と英知の巨獣編~
確認する青年
しおりを挟むシューラの目の前には、今ノリスの黒い瞳がある。
というのも、シューラは今、ノリスに観察されているのだ。
どうやらシューラの外見が珍しいらしく、観察させてくれと頼まれたのだ。
完全にシューラの身体的特徴とそれに付随するであろう魔力に興味があってであったので、気にせず了承した。
奇異の目であっても完全に興味や好奇心、探求心の目だ。
「瞳が赤いのか…たまに白子が生まれた話を聞くが、魔力を扱えるほど持つものが居ないから貴重だな」
ノリスは何やらノートを取り出してガサガサと書き込んでいる。
シューラも、自分と同じ身体的特徴を持って生まれたものの情報を知りたかったので丁度良かったのだ。
何せ、シューラの故郷ではシューラのように体に色が少ないものは迫害され、記録に残るとしても死体の数としてしか残らない。
また、人物としての観察などされない。
「遺物が言うには、魔力に癖が無いからとても美味しいらしいのう。俺は味がわからないが、大昔には巨獣の生贄としても扱われていたらしいぞ。」
ノリスはシューラの髪や肌を観察しながら言った。
とても心当たりのある情報だ。
「最近は無いの?そんな情報があったら試しそうじゃない?」
シューラはコロの例もあるので、西の大陸でそれを試したのか気になった。
それに、そんな情報があったのならプラミタよりも長耳族が試しそうだ。
「そんな危険なことをするはずないだろう。
なにせ、生贄に捧げられた白子が逆切れして巨獣を遣えて復讐しに来た伝説がいくつも残っておるのだ。それゆえに一時期は白子を神のように崇めた時代もある。」
ノリスはシューラの口の中を覗き込みながら言った。
その回答には納得だ。
おそらく同じことをされたらシューラも同じことをするだろう。
それに、巨獣が魔力を欲しいなら生贄を食べるのではなく共存を選ぶ。
また、コロのように魔力を食べさせる故の主従関係が出来上がりそうだ。
コロに関してはシューラが武力で下したが。
「とはいっても、癖のある魔力を好む巨獣もおるからな。全部が全部操れるわけじゃない。
なあ、これ牙か?」
ノリスはシューラの八重歯をつつきながら尋ねた。
「八重歯だよ」
「普通の人間なのだな」
「正直、色や魔力特性以外は普通の人間だよ。」
シューラは面倒になってきたので、腰に差した刀をさっと抜いて軽く手の甲に傷をつけた。
血の色も変わらず傷ができることを見せたかったのだが、ノリスは悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。
どうやら武器を手に持たれてビビったらしい。
「…いや、だから血も出るって」
シューラは流石にノリスが哀れに思えてきて、ちょっと気を遣った物言いになってしまった。
「は…はあ。驚かせるではないぞえ」
声が震え、語尾も変になっているがノリスは好奇心に負けられずシューラの手の甲を観察した。
「変わらないのう…痛いか?」
「痛覚もあるよ」
「その割にはあっさりと傷をつけたが」
「慣れだよ。こう見えて戦いに身を置いていたからね。」
「物騒だのう…」
ノリスと気の抜けるようなやりとりをし、彼が満足した様子を見せたのでシューラはさっと自分の怪我を治した。
「な!?癒しを持っておるのか?激レアではないか!」
ノリスはシューラが癒しを使ったことに興奮している。
「そりゃあ白子で癒しを持っていればうまいに違いないからのう!癒しの魔力はうまいと聞いたことがある!」
ノリスは納得したように頷き、さらにまた遺物である金属の塊を取り出して撫で始めた。
行動に意味がわからないが、彼の中で納得して感動したのだろう。
「だが、癒しを持っていると呪術は使いにくいと聞く。」
ノリスはひとしきり喜びつくしてから椅子に座って言った。
「そうなの?」
「ああ。癒し自体が魔力が変異した影響を及ぼしている作用であるからな。
使えないことは無いが、手間が非常にかかるのだ。」
ノリスはそう言うと、指先で机を叩いた。
「呪術は癒しの魔力の使い方とはまた違ったものであるらしく、癒しで魔力を多用しているものは感覚を掴むのが難しいと聞く。
これは癒しを使っている者にしかわからないものだろうから、俺から言えることは少ないのう。
それもあって呪術師には癒し持ちが少ないのだ。まあ、癒し持ちが少ないのもあるがのう…」
ノリスは指先をゆらゆら動かしながら言った。
「ちなみに惑わしは?」
「惑わしはむしろ向いているぞ。惑わしの魔力を持つものが変質させた呪術が索敵になるとも言われているしのう…
俺は違うが」
「もしかして変質させる魔力の種類によって変わるの?」
「そうではない。そもそも魔力自体は変質させるも何も属性が無い状態のものを扱う。つまりお前であるなら水か癒しになる前のモノを使うということだ」
「…だから癒しは難しいのか」
シューラは納得した。
別に何か考えて魔力を放っているわけでは無い。
水の魔力、草の魔力と考えていたが癒しだけは癒すことを考えて使っている。
魔力だけ放つとしたら、この前マルコムを悶絶させた方法になる。
ただ、それでさえもすでに変異させたあとなのだろう。
二度手間というのも理解できた。
「何が正しいのかわからないが、そもそもオームとプラミタでは魔力の認識が違う。
ただ、この認識で呪術を使うことが“使いやすい”からこの認識にしているだけだ。」
ノリスは片手をふらふら振りながら言った。
どうやら説明をするときに手をふらふら動かすのが彼の癖なのだろう。
「または、魔力の発生の仕方など人によって違う可能性がある。
プラミタの認識もオームの認識も両方正しくて両方間違いという可能性もある。」
「かなり柔軟な考え方をしているんだね。」
シューラは感心したように目の前で片手をふらふら動かしているノリスを見た。
「そうでなければ研究者などできないぞ。
最初は遺物の声を聞いて飛び上がったが、それに納得すると何事も驚かなくなったわい」
ノリスはフンっと胸を張って言った。
確かに言われてみれば、急に遺物と話せるようになったら驚くし、常識がひっくり返る。
「そういえば、君は僕たちについた残滓魔力を見て驚いていたけど」
「ああ。俺たちはわけあって残滓魔力が察せるようになったが呪術を扱っていた弊害か、俺は人の意思に過敏になっているらしいからのう。」
ノリスは困ったように眉を寄せて言った。
“俺たち”…か。
シューラはノリスの無意識の呟きで、察せるようになったきっかけはシルビオも一緒だと思った。
「まず、お前はそうとう人を殺したのだな。
もちろん噂の東の大陸の悪魔に相応しいほどの魔力残滓だ。」
「殺された者の無念っていうやつ?」
「それに近いものだろうな。少なからず、人と言うのは痕跡を遺すものだからの。
そして今際に残す思いこそが、呪術の魔力の使い方に近いからのう。だからより一層俺の目につくのだろう。」
ノリスは自分の目を指して言った。
「その口調だと、手を下した人に付くってこと?」
「まあ、謀殺とかもあるだろうが、基本的には手を下した奴につくからのう。」
「ご先祖の恨みで魔力残滓がつくことは?」
「あるはずない。あくまで個として発生することだ。血縁で受け継がれることはない。」
ノリスは断言した。
シューラが確認したことがわかった。
シューラはミナミについていると言った魔力残滓について知りたかったのだ。
ミナミにも人殺しの魔力残滓があると言われていたが、謀殺か先祖の恨みかと思っていた。
謀殺にしても、ミナミに向ける意味がわからない。そこまでの謀ができると周りに思われているはずがない。
一瞬父親が死んだときに目撃していたと聞いたからそれかとも思ったが、手を下した人に付くのが多いとなると可能性は低い。
一番の有力だったご先祖の恨みは完全否定された。
「あの姫さんに付いている魔力残滓の確認か?」
ノリスはシューラの様子を見て納得したように頷いた。
どうやらわかりやすかったらしい。
「まあね。僕やマルコムはまだしも、ミナミはそんな人間に見えないからね。」
シューラは別にノリスに隠していることではないので言った。
そもそも、ノリスが察したから確認しているのだ。
「まあ、俺も驚いたが魔力残滓は嘘をつかない故に、間違いないだろうな」
「近くに偶然いたとかの可能性は?」
「少なくとも10人ほどの残滓があるのに難しい考えだな」
ノリスの答えにさらにぎょっとした。
「事故である可能性もあるかもしれぬが、そんな事故に王族の姫が巻き込まれた話など聞いたことが無い。
そもそも、噂ではライラック王国の末っ子は滅多に外に出されない姫であろう?」
ノリスはミナミが人を殺したことがあると確信している様子だった。
「何より恐いのは、本人に自覚が無いことだからのう。もしかしたら、かなり厄介かもしれんのう」
ノリスはシューラたちが一番考えていることを言った。
そうなのだ。
ミナミにまったく自覚が無いことをシューラたちは問題視している。
いや、見当違いな自覚はしているかもしれない。
だが、シューラたちにはどうしてもミナミが人に手を下すような人間には見えないのだ。
「このことはミナミにはあまり言わないで欲しい」
「言われなくてもそうするわい。」
ノリスは自分がした発言がきっかけだというのに、当然のことのように言った。
「もしかして、僕たちが人殺しの残滓があるって言ったのは探るためなの?」
シューラはふと思った。
まさかノリスがシューラたちに人殺しの残滓があると言ったのは、反応を探るためだったのでは?と。
「そんな小難しいこと考えてない!事実だから言ったまでだ!
それに、お前らの反応よりも姫の反応に内心俺はビビっているわい!」
ノリスはシューラに警戒の目を向けられたせいなのか、少し脅えながら言った。
確かに小細工しようと思うやつではない。
「まあ、だから厄介なんだけどね」
シューラはため息交じりに呟いた。
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