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ロートス王国~レンダイ遺跡と英知の巨獣編~
白銀のポンコツ呪術師
しおりを挟む「で、名前は?」
シューラはお茶を飲み干したのか、空になったカップを手で弄びながら男に尋ねた。
確かに名前を知らないと面倒だ。
ミナミは深く関わるつもりはないが、ただこの銀髪の男の名前を知らないままなのは不便だと思った。
シューラの言葉を受けて、レンダイ遺跡の管理を任されている銀髪の男は少し考えこんでから意を決したように頷いた。
どうやらそれなりに名乗るのに勇気がいるらしい。
「俺はノリス・レイ・オーム。西の大陸の出身で、名前で分かると思うが、呪国家オームにゆかりのある人間だ。」
男は自分の銀色の髪をつまみながら言った。
そしてその下には精悍で鋭い形の目に浮かぶ理知的な光を持った黒い瞳があった。
顔立ちは凛々しいように見え、猫背でなければ女性にモテそうだ。
それにミナミは何やら既視感があった。
それを感じたと同時に、マルコムが警戒をするのがわかった。
素直に名乗ったのに睨みが強くなっている。
「あら?貴方が“あの”呪術師ノリスだったのね。
じゃあ、銀髪はオームの直系の縁なのね。」
ミツルは納得したように頷いた。
どうやらノリスの名前は聞き覚えがあるらしい。
それに、事情は知らないが、呪国家オームは銀髪が直系に多いらしい。
なるほど。
ある程度地位があるから名乗るのに勇気が必要だったらしい。
そういえば伝手とかコネとか言っていたので、それなりに地位があるのはうかがえた。
更にごねたと言っていたので、それなりにわがままを言える立場と言うことだ。
ただ、ミナミは他の大陸に疎いのでノリスの名前を聞いてピンとはすぐ来なかった。
しかしミツルの言葉でミナミは納得した。
だが、隣のマルコムは変わらずノリスを睨んでいる。
とても怖いが、ミナミが睨まれているわけでは無いので気にしないことにした。
「素直に名乗ったのに何で警戒するのだよ。」
ノリスはマルコムの睨みを受けて慌てている。
「気にしないで。彼は警戒するのが仕事だから。あと、銀髪嫌いみたいだよ。」
シューラは素直に名乗ったノリスに取り繕ったように言った。
彼もマルコムが警戒をしている理由がわかっているようだ。
ミナミもわかっている。
何せ、ノリスは髪の色で既視感のあったプラミタの魔術師であるシルビオと名前が一緒だからだ。
シルビオ・レイ・オームと彼は名乗っていた。
そして、ノリス・レイ・オームと彼は名乗っている。
それに偶然にしては出来過ぎなほど髪の色も瞳の色も同じだ。
心なしか顔も似ている気がする。ノリスの方が情けない顔だが。
そういえば、マルコムは同じ飛び蹴りでもイトと比較してシルビオのあばら骨を砕いている。
彼の好き嫌いだと思ったが、どうやらシューラの言う通り銀髪が嫌いらしい。
シルビオはまだ筋肉が見えていたが、ノリスはヒョロヒョロだ。
マルコムの飛び蹴りを食らったらあばらじゃなくて体全部が粉砕しそうだ。
「大丈夫だよ。銀髪でも彼は危害を加えようとしなければあばら骨を砕かれることは無いから。」
ミナミはとりあえずノリスに変な行動をしないようにくぎを刺すことにした。
マルコムは怒らせるとミナミやシューラにも止められないのだ。
と考えてみたが、ミナミはマルコムを止めたことが無い。
それに、ミナミはマルコムの選択にあまり疑問を持っていない。
なにせ、マルコムはしっかりと考えてミナミのために動いている。
ちょっとうっかりさんで凶暴だが、信頼できる。
ミナミはそこまで考えてマルコムへの信頼を改めて感じた。
だが、ノリスはそれどころじゃないようで、ミナミの言葉に顔を真っ青にしたまま固まっている。
「無礼でふてぶてしい銀髪がいたからね。それにしても、君のような銀髪は呪国家オームに多いの?」
マルコムは睨むのをやめてため息をつきながらノリスに尋ねた。
どうやら探りを入れているようだ。
ミナミだってわかる。
なにせノリスとシルビオは似ている。血縁である可能性が高い。
「ああ。俺の一族は銀髪が多いらしいし、俺の身近だと弟がそうだのう。」
「弟がいるんだ。」
「ああ。ただ、ふらふらしていてどこにいるかわからないな。シルビオっていうんだけどの、結構面倒な性格をしているんだ。」
思った以上にあっさりとわかった。
ミナミはちょっと拍子抜けした。
確かめようがないので確実とは言えないが、ノリスの髪色と瞳の色、顔立ちから彼が言っている弟のシルビオはプラミタの魔術師であるシルビオと同一人物である可能性が高い。
「フラフラしているのはそっちじゃないの?」
マルコムも同じように拍子抜けしたらしく、呆れた様子を見せていた。
「そうか?まあ、便りが無いのは元気の証拠というし、お互いガキじゃないから大丈夫だろうけどのう。」
ノリスはそこで一人で勝手に納得して頷いている。
そのシルビオはこの前マルコムに飛び蹴りを食らってあばら骨を粉砕されていたが、シューラの治療は受けたので今は元気だろう。
「君の弟は君と同じ呪術師なの?」
「いや。確かに呪術を齧ったけど、あいつは魔力適性があったからプラミタで魔術師をやっているはずだ。」
何気なく確認を質問をしたマルコムに、ノリスは警戒することなく答えた。
そして、その回答はノリスの弟のシルビオがダウスト村で会った魔術師であるとさらに確信を持てる情報だった。
「そういえば、残滓魔力を読み取れるって言っていたけど、それは人間も?」
シューラは何やら探るようにノリスを見た。
それでミナミは思い出した。
シルビオはミナミやマルコムが魔力を発した残滓を察せられた。
ノリスの言った遺物の魔力の残滓がわかるというのが人間にも適用される可能性があるということだ。
その言葉にノリスは顔が引きつった。
ミナミは図星なんだと思った。
そして、それは意図的にミナミたちに隠していた
「噂と本人を見て断言するけど、この人が呪術師ノリスなら、本当に人畜無害だわ。」
ミツルは呆れた様子で言った。
どうやらそれなりにノリスは有名らしい。
「攻撃の手段を持たないが好奇心だけで動くポンコツ呪術師って有名だもの。私でさえ噂を聞いたことがあるわ。」
ミツルはため息交じりに言った。
ミナミは今日会ったばかりだが、不思議なことにミツルの言葉に納得してしまった。
それはマルコムとシューラも同じようで、納得したような顔でああ…と呟いている。
どうやら二人と同じような感性で判断できたようだ。
「それでさ、ミツルさんとノリスが納得しているけど、俺たちって呪術が何なのかわかっていないんだ。」
マルコムは仕切り直すように警戒を解くと、軽くお茶を口に含んでからノリスとミツルを見て質問をした。
そうだ。
ミナミも呪術は知らない。魔術とどういう違いがあるのかもわからないし、魔術に関してもそこまで詳しくない。
ミナミは魔力をぽーんっと何も考えずに発しているだけだし、マルコムも同じだろう。なにせマルコムはガサツだからだ。
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