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ロートス王国~レンダイ遺跡と英知の巨獣編~
和解する大人たち
しおりを挟むミナミたちはまだ時間もあるが、今日の滞在場所でゆっくり話したいということになったのでミツルの居る場所に戻る事にした。
諸島群は港町に人が集まり活気がある傾向が強い。この町は古く立派で伝統があるが交易は盛んではないので見る場所も少なかった。
また、見る場所や調べる場所を決めるにも情報が少なかった。
「もう少し商業施設を調べてから回ろう。空き家もあるし、もしかしたらそれも調べられるかもしれない。」
マルコムは石造りの町とお揃いの石造りの建物を顎で指して言った。
ミナミは全く気付かなかったので驚いた。
「窓を見ればわかるよ。くすみ方とカーテンの様子。あれ、虫食いもあるし、獣が入り込んだ様子もあるのに放置されている」
シューラは町の奥まったところにある家を指した。
四角い形の家だが、窓は丸く少しおしゃれなつくりに見える。
だが、シューラの言った通り丸いおしゃれな窓はくすんで汚れているし、
見えているカーテンは遠くからでも破れており、ほつれも目立つ。
獣が入り込んだ様子はわからないが、人間が住んでいる気配が薄いのはわかった。
「町は大きいし歴史もある。けど、思った以上に人が少なくて寂れつつあるんだね…」
マルコムは納得したように頷いていた。
「お姉さまがお嫁に行くハーティスは大きい港を持っているお家だから、苦労しないって聞いていたけど…」
ミナミはこの町もアズミの嫁ぎ先の領地であることにすこし心苦しくなった。
「この町に関しては、君のお姉さんの嫁ぎ先と言うよりも、それまでに管理してきたロートス王国側の手腕の問題だよ。」
マルコムは両手を広げて言った。
確かに、食事処の夫婦がアズミの夫がアズミをお嫁に貰うことによって得た領地だと言っていた。
アズミの夫が領地を授けられた経緯は推測に近いかもしれないが、この地の昔の領主一族が断絶していることや王家が一時的に預かっていたというのは事実だろう。
なにせ、この地の人間が言っているのだ。
ミツルの元に戻ると、遺跡の管理を任されている男と二人で何やら話し込んでいた。
どうやら言い争いは止まったようだ。
様子を見るに、二人は盛んに意見を交わしている。
「なんか仲良くなっている?」
マルコムが呆れたように言うと、ミツルと遺跡を管理している男は同時に振り向いた。
「仲良くなんて…もともと協力すべき間柄なのを理解したのよ。それに、新たな発見には色んな意見を取り入れるのが必要でしょう?」
ミツルは小首をかしげて微笑みながら言った。
「色んな情報を貰っただけだわい。もともと仲の良し悪しがある関係ではないだろう。」
遺跡の管理をしている男は、ボサボサの髪を揺らしながら言った。
伸ばしっぱなしに近い前髪で顔は見えないが、声や動き方を見るとそこまで年齢は重ねていないようだ。
「情報?」
「私の祖国の話に食いついてね。意外と私は歴史にも明るい方で、この彼は歴史とか色んな研究をしているらしいのよ。」
マルコムの問いにミツルは男を指して言った。
「特徴のある髪色だと思っていたが、まさかかの亡国に縁があるとは思わなかった。」
どうやら男はミツルの母国であるイルドラの話に興味を持ったようだ。
確かに話を聞く限りイルドラは歴史が深い。
「その様子を見ると、もしかして好きで遺跡の管理を任されている人なの?」
シューラは少し興味深そうに男を見て尋ねた。
「そうだ。そもそもそんな人材でないとこんな寂れた町に来ないわい。ハーティス公爵の領地でもあの港町との差が激しい。」
男は胸を張って言った。
おそらく自分が好きで遺跡の管理を任されていることを誇っているのだろうけど、町が寂れていることを当然のように言っている様子から、彼は少し無神経なようだ。
問題の滞在場所は、男の住居を一時的に間借りすることになった。
「他の滞在場所を提供してもいいかもしれないが、いかんせん空き家は管理が行き届いていない。御貴族様が滞在できるとは思えんからな。」
男はぶっきらぼうに言うと、自分の住んでいる屋敷にミナミたちを招いてくれた。
思った以上に面倒見がいいのか、それともミツルとの会話で興味深いものでもあったのかわからないが、ミツルが異を唱えていないので、彼の家に滞在は悪いことでは無いようだ。
ただ、一人暮らしの男の住居にミナミたちも滞在するとなるのは大丈夫だろうか?と思ったが、その心配は杞憂だった。
町を見てわかったが、町自体の箱は大きいのだ。家も大きい石造りのモノが多い。
中身の人が少ないだけで、滞在できる場所はあるのだ。
男の家もその例に漏れず大きな屋敷だった。
海側に見える元領主の屋敷には負けるが、それに次いで古い石造りの大きな屋敷である。
「玄関より中に入る前にそこで手と靴を洗え。」
男は玄関を開けた先にある水場を指してミナミたちに言った。
屋敷玄関に水場があるのは驚いたが、どうやら手と靴を洗ってから入るのが習慣らしい。
特に断る理由もないので、ミナミは従おうとした。
すぐにシューラとマルコムが前に出て水場を覗き込んだ。
「手を洗うなら、僕は水の魔力持ちだからそれで補っていい?
何せよくわからない水は危険だからね」
シューラは男を挑発するように言った。
「洗ってくれるなら構わん。だが、魔力に明るいのは羨ましいな。」
男はシューラの挑発に反応せずに、ただシューラが魔力を扱えることに反応した。
「あまり使えないのかしら?偏見だけど、西の大陸の出身者だから達者だと思っていたわ。」
ミツルは意外そうに男を見て言った。
どうやら男は西の大陸の出身らしい。
軽い身の上話まで済ませているのは驚きだが、ミツルが自分の出身国の話をしていたので、そんなに意外ではないのかもしれない。
「魔力はあっても、魔力使用の適性が低くて残りかすみたいなものしか出せないのだ。」
男は自嘲するように言った。
魔力使用の適性とは初めて聞いたが、どうやらそれが低いと魔力の扱いが難しいようだ。
シューラとマルコムの目がキラリと光っていたので、二人も知らないことらしい。
手と靴を洗い終えてから玄関から入ると、外の石造りの冷たい印象どおりの広間が広がっていた。
柱や壁の飾り、ぶら下がる照明に申し訳程度におしゃれ心が見えるが、それが無かったら地下牢のような印象を受ける。
それにしても、その申し訳程度のおしゃれ心の違和感が凄い。
取ってつけたように見える。
そこまで考えたとき、ミナミはシューラに手を握られてはっと気づいた。
どうやら壁の飾りの方に歩み寄っていたようだ。
気を抜くと、すぐに気になる所に寄ってしまう。
ミナミは反省した。
ただ、近くに寄ってもわかるが、壁の飾りは本当に後で付けたようなもののようだ。
冷たい石の壁に、金色の精巧な金具と宝石が散りばめられた花を模した飾りは少し無理がある。
「飾りとかおしゃれに見せようとしているのがわかるし…とても頑丈そうで、閉じ込められたら逃げられなさそうだね。」
ミナミはどうにか褒めようと思ったが、うまい言葉が出て来なかったので頑丈そうというのを強調した。
「多分その認識で正しいよ。」
シューラはミナミの言葉にうなずくとマルコムを見た。
マルコムも頷いている。
「こっちの趣味じゃないわい。元から悪趣味な飾りはついていた。」
男は少し不満そうに言った。
どうやらおしゃれ心は男の趣味ではないらしい。
別にミナミは飾りが悪趣味だとは思っていない。
ただ、この空間の温度に合わないと思っただけだ。
「そっちの趣味だと思っているわけじゃないよ。ここ、もともと牢屋かそれに似たような施設でしょ。」
マルコムはちょっとお行儀が悪いが、床を足でトントンと叩きながら言った。
「よくわかったな。といっても、幽閉施設として使っていたのはかなり昔だ。最後の領主の時はここを誰かとの密会に使っていたと言われている。」
男は感心した様子を見せたが、彼がさらっと最後の言った領主の話は少し興味がある。
「あら、それって男色って噂の?」
ミツルは驚いたように言った。
男色。
ミナミもさっき聞いた言葉だ。
子どもが残せない要員になりつつある危険なことらしいが、詳しくはわからない。
ミナミはマルコムを見た。
マルコムは目を合わせてくれない。気付いているくせに意地悪だ。
「ああ。領主の屋敷よりもここの方が何か残っていそうだと思ったから使わせてもらっている。」
どうやら彼は、この地の領主についても色々調べているらしい。
ただ、その理由はわからないし、遺跡に興味を持っているのもよくわからない。
ミナミはわからないことが多いな~と思いながらも、情報が繋がりそうな変な予感がモヤモヤと浮かんできた。
ただ、もどかしくてちょっと気持ち悪い。
ミナミは誤魔化すようにシューラと繋いでいる手をプラプラと振った。
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