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ロートス王国~レンダイ遺跡と英知の巨獣編~

傲慢で苦労性な青年

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 打ち合わせが終わり、お手洗いなどの準備が終わったのでミナミたちは馬車に乗り込んだ。
 ミツルはいつものブラウスとパンツのスタイルだが、ジャンパーでなくしっかりとしたコートを羽織っており、外出の格好と言うのがよくわかった。
 ミナミは質素だが頑丈な服を着ている。
 おそらくミツルの侍女か付き人に見えるようにしているのだろう。頭にスカーフが巻かれて金髪が目立たないようにされたのできっとそうだろう。
 ミナミたち三人とミツルは一緒の馬車に乗った。
 ミナミたちの乗る馬車の御者と荷物用の馬車の御者だけが新たな同行者なので、思ったよりも追加の人数は少ない。
 一貴族の外出にしては珍しい。

 とはいえ、人数が少ない方がミナミたちは気楽なので気を遣ってもらったのだろう。

 窓からのぞくとなんとも言えない顔をしたライデンとニコニコ笑っているレドがいた。
 どうやら見送りに来たようだ。

 ミナミは窓の外に向かって手を振った。
 ライデンが顔を顰めた。よくわからない。

 馬車は国境の橋を超えてロートス王国に入る。
 王国側は橋の先は門と兵士の詰め所があるだけで町があるわけでは無いので、手続きが終わったらしばらく移動だと聞いた。
 今回の馬車は椅子がフカフカなので、安心して座っていられる。

 両脇にはシューラとマルコムがいるのでもっと安心だ。
 コロは、シューラが背負った鞄にいる。
 どうやら彼がごねたようで、シューラが背負うことになったらしい。
 これでコロはシューラをペロペロし放題だ。

「では、あまり感傷的に挨拶をする必要は無いでしょうから行きましょう。」
 ミツルはさっぱりとした顔で言った。
 確かにその通りだ。
 考えてみればライデンとはまた会えると思うし、少しでも早くアズミと接触したい。
 そうしてホクトの真意を少しでも知りたいのだ。

 馬車はガタガタと動き出し、ミナミたちが先日みた大きな橋へ向かった。
 橋の門とは話がついているらしく、止められることなく橋に入れた。
 床板は下手したら町の道よりもしっかりしており、馬車の揺れも少ない。

 窓から景色を覗くと、大きな川の上を通っているのだが、ミナミの場所からだと崖の岩肌しか見えずちょっと怖い。
 おそらく歩道から橋を覗き込んで下の川が見えるのだろう。
 そう考えると崖も深いし、川も大きいし、橋も大きいのだな。
 急にミナミは自分の身体の大きさがとてつもなく小さい気がして少し怖くなった。

「そういえば、レドさんに最初町に行くと間違いなく不快な思いをするって言われていたんだけど、とんとん拍子で進んだね。」
 シューラは思い出したように呟いた。
 そんな会話がレドとシューラの間であったらしい。
 とはいえ、レドはここにはいないので、なぜ不快な思いをすると思ったのかわからない。

「ああ。それは、レドがルーカスのクズが兵を出していると知らなかったからよ。今はライデン寄りの兵が大半だけど、ルーカスにゴマをすっている輩も多いから、そいつらが相手をした場合の話よ。」
 ミツルは苦笑しながら言った。
「そのルーカスって」
「ライデンの異母弟よ。私から見て、間違いなく領主の器じゃないわ。クズ夫をもっとダメにしたような奴よ。」
 マルコムの問いのミツルは口を嫌悪で歪ませて答えた。
 確かに噂や話を聞く限り、彼女の夫や愛人たちはひどいと思える。
 ただ、ミツルがやられっぱなしで済ませるわけがないと思うので、彼女も中々やり返したりしている気がする。

「何でそんなアホな夫と結婚したの?ミツルさんならもっといい人がいたんじゃないの?」
 シューラは不思議そうに首を傾げて言った。

「だって、レドがいるのはこの領地だもの。ここに根付いた彼と交流を持つにはあのクソが一番いい相手だったのよ。」
 ミツルは当然のことのように答えた。
 どうやら彼女が嫁いだ決め手はレドだったらしい。

「レドさんの事大好きなんだね。」
 ミナミは少し微笑ましくなった。
「ええ。彼は私の初恋でしたからね。幼心ながら、彼が軍を率いている姿に心惹かれていましたから。とても勇猛で頼りになる姿でした。」
 ミツルははにかみながら頬に手を当てて言った。ちょっと可愛らしい。

「初恋。」
 ミナミはその響きにちょっとキュンとした。
 そして羨ましいな…と思った。

「あとは純粋に彼を尊敬していましたから。」
 ミツルは照れを隠すように付け加えるように言った。
 それがまた微笑ましくてミナミはキュンキュンした。

「いいな。初恋…か。マルコムとシューラはある?」
 ミナミはもう少しこのキュンとした気持ちを味わいたくて両脇の二人に聞いた。

「ないよ。というよりもあると思った?」
 シューラはちょっと引いた顔をしている。何故そんな顔をしているのが解せぬ。

「俺が誰かに恋心を抱くような人間に見える?」
 マルコムは呆れたような顔で言った。
 以前似たようなことを聞いた気がするが、確かに納得だ。

「でも憧れとかは君は強い方でしょ。」
 シューラは少し嘲るような顔をして言った。
 どうやらマルコムの過去に何かあったような口調だ。

「ああ…まあね。」
 マルコムは投げやりに答えた。
 なんとなく触れてはいけない話題なような気がしたので話を逸らすことにした。

 そんなちょっと気まずくなったところで、馬車は橋を渡り終えて対岸に付いたらしい。
 いったん止まって御者が国境の兵士に何か伝えている。
 この先は兵士の詰め所がメインの国境の門となっており町があるわけでは無いので、しばらく走りっぱなしになると聞いている。
 どんな道なのかわからないのでミナミはお尻が心配になった。





 何も名残惜しさを感じていない様子で出発した馬車が遠ざかるのを見て、ライデンはため息をついた。

「可愛らしい姫様ですな。そして思った以上に胆が据わっている。」
 レドは愉快そうに笑いながら言った。

「胆の据わった王族の姫が多すぎるんだよ。」
 ライデンは愚痴のように呟いた。
 とはいえ、王族のように地位にいるのだから、胆は据わっていて欲しい。
 気弱な王族は頼りないので、胆が据わっているのはいいことなのだろう。

「それで、ライデン様はいつ王都に向かうのですか?できれば儂の村のことの目途がついてからがいいのですが」
「だいたい目途がついているだろう。個人的にはお前の所の村とダウスト村の繋がりを作ろうと思っている。」
 ライデンは犠牲者が多く出て人が少なくなった村と、建物が消失した村を急に領地に抱えることになって最初は頭を悩ませた。

「意外と遠いのう…人間はそんなパズルのように動ぬぞ。」
「俺が期待してるのは、ダウスト村を裏の村のまま存続させることだ。真っ当に表に生きたい奴はお前の村に行けばいい。」
 ライデンは吐き捨てるように言った。
 ミツルやアロウ、またダウスト村の代表であるガイオという男はまた違う考えなのかもしれない。
 荒くれ者が元となり作った村だが、いつか真っ当に表に出て生きたいと思っているかもしれない。
 しかし、そう思っているのならばライデンはそれを潰そうと思っている。
 逃げ道や裏は必要だ。ダウスト村には裏の存在のままでいてもらいたい。

 その真っ当に生きたいと思うものの受け皿として、レドたちの村を置こうと思っている。

「その地に思い入れがある者がおるかもしれぬというのに…」
「俺は為政者だ。どんなに下っ端で兵士たちを束ねていても結局は一人一人を考えていられないんだよ。」
 ライデンはレドの言葉に皮肉気に笑った。
 レドはライデンの言葉に対して呆れたようにため息をついた。

 ライデンは言った通りの考えを心からしている人間だ。それを恥じたりはしない。
 なにせ一人一人を見ているとキリがないし物事を進められない。
 効率というものと役割というものを重視した後についてくるのが人間性だ。
 皮肉なことに、その考えに至ったのは現場で下っ端と接している時である。

 現場や下、平民を知るほどライデンは一人一人への思いやりは薄くなる。
 別に思いやりが無いわけでは無い。
 共に過ごした兵たちは大切であるし、彼らのために何がやりたいと思って身を粉にするのも悪くない。

「だから一人でも多く快適に過ごしてもらうためには、俺みたいに割り切るのが大事だろ?」
 つまりライデンは多数決をしているということだ。

「考えは否定しませんがのう…ただ、その考えの先の提案に独りよがりがあるのは否めないですのう」
 ライデンの言葉にレドはやはり呆れたようにため息をついた。

「今回のケースはうまくいくと思いますが、ライデン様のその考えがいつか足元を掬う時が来ないことを祈りますぞ。」
 レドは呆れを見せながらも、ライデンを気遣う様子を見せて呟いた。
 その言葉にライデンは困ったように笑っているが、何か思うところがあるのだろう。
 流せずに目が泳いでいる。

「ライデン様!」
 国境の橋の前にいるライデンを見つけて、町の方から兵士が走ってきた。
 どうやら何かあったようだ。

 レドは今隣にいるし、魔獣関係の問題ならば一旦落ち着いているはずだ。
「どうした?」
 ライデンは先ほどまでレドと話していた傲慢な為政者の卵の顔ではなく、現場の兵士たちを仕切る苦労人の青年の顔で兵士に尋ねた。

「その、ダウスト村というところから人が」
「なるほど。ガイオという男だな。話は聞いている。」
 ライデンはマルコム達やミツルから聞いていたダウスト村の代表がこのタイミングで来たのかと思った。
 ただ、想定内のことだ。

 ライデンが王都に行く際に、村を見たいと思っていたが、村の代表がいるなら話が早い。
 王都への渡りを出してうまく提案すれば、先ほどレドと話したダウスト村の受け皿としてレド達の村を置くことがスムーズになるかもしれない。
 そんな風に考えていたが、兵士の後ろから来た人物でその考えが甘いことがわかった。

 兵士の後ろにいるのは、いかつい後ろ暗い過去がありそうな大男と一人の青年と一人の子どもだ。
 大男がガイオだろう。話に聞いていたような容貌をしている。
 ただ、あとの二人が別だ。

 青年の方は見事な銀髪と精悍な顔立ちに黒い瞳をしている。
 なんとなく平民兵士であるルーイに似ているが、目の前の青年の方が華がある。
 体格は兵士や騎士、軍人ではないと思える。
 鍛えてはいるが、それは嗜みのようなものだろう。

 その隣の子どもは赤みのがかった金髪をし、珍しい虹彩をした紫色の瞳をした青年だ。さらに特徴なのは褐色の肌だろう。
 顔立ちから、どこかの貴族の息子に見える。
 ただ、まだ幼く銀髪の青年の服の裾を掴んで不安そうにライデンを見ている。

「…その鮮やかな髪…」
 銀髪の青年がライデンの髪を見て何やら反応を。
 髪色に警戒を示すというのは、北の大陸の事情を知っているということだ。

「ミツル様は?」
 ガイオと思われる大男はライデンとレドを見比べてから、辺りを見渡した。

「母上は、わけあってロートス王国に行った。」
「失礼を承知で尋ねますが、ミツル殿のご子息のライデン様ですね。」
「ああ。そっちはダウスト村の代表のガイオでいいか?」
「はい。…こちらの二人は」
 ガイオは後ろにいる青年と子どもに目を向けてから、困ったようにライデンを見た。

「失礼した。私はプラミタで魔術師をしています。こちらの第八位魔術師であるビエナの保護者であるシルビオと言います。」
 銀髪の青年がその場に膝をついて言った。
 とてもわざとらしく、自分が金髪の子どもの配下であると示すようにしている。
「あ…えっと、ビエナです。」
 金髪の青年は銀髪の青年のシルビオの行動に驚いたが、すぐに名乗った。

 何か嫌な感じがする。
 ライデンは直感的に思ったが、それはこの先王都に向かうことに関してなのかわからなかった。
 ただ、わかるのは、プラミタの魔術師の相手をしなければならないということだ。
 あまり魔術師は好きじゃないのだけどな…
 ライデンは内心呟いた。

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