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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~
心苦しいお姫様
しおりを挟むとりあえずミナミたちは王城での話題はライデンたちの前で避けることにした。
それはミナミも納得している。
ミナミだってホクトを守りたいし、オリオンの頑張りを労いたいのだ。
何が正しいのかわからないし、手を下したのはホクトだ。
ただ、なぜなのかがわかっていない。
しばらくすると、使用人がミナミたちを呼びに来た。
晩御飯の時間を伝えに来たのだ。
ついでにミナミの服も用意してくれた。
あとマルコム達の服も用意されている。
どうやら正装で来て欲しいらしい。
ということは晩餐は豪華なのかもしれない。
温かいご飯ではないと思うが、旅のご飯とはまた違ったものが食べられる。
ミナミはちょっと楽しみになった。
温かいご飯が美味しいことを知ったし、それを好ましいと思っても豪華なご飯は美味しいのだ。
ミナミは意外に美食家なのかもしれない。
マルコムに食べ物を欲張るのははしたないと言っておきながらも、やはり美味しいものを求めるのは大事だと思う。
そんな内心の言い訳をしていると、流されるようにミナミは浴室に連れていかれ磨かれ服を着せられた。
もちろん屋敷の女性の使用人にされたのだ。
そういえばマルコムが服を用意したと言っていた使用人にミナミの着替えや身支度の手伝いをお願いしていた。
ミナミは食事の事で頭が一杯だったのであまり気にしていなかった。
久しぶりに人に入れてもらうお風呂はとても楽ちんだった。
水浴びなどで過ごしてきたので、暖かいお風呂はありがたいものだ。
ただし、久しぶりに着るドレスは苦しかった。
ミナミは太ったかもしれない。
「苦しい…」
ミナミはドレスの前がギチギチと閉まらず呻いた。
その様子を見て使用人の女性は困ったように唸っている。
どうやらミツルのおさがりのドレスだとサイズが合わないようだ。
つまり、用意されたのはミツルのおさがりだ。
「ですが、奥様が着ていないものです。流石に一度着たものを王族の方にお貸しするわけにはいきません。」
使用人で一番偉そうな女性が困ったように言った。おそらく侍女頭のような人だろう。
しかし、ミナミは色々ショックなのだ。
ミツルは細身であるがミナミの方が身長が低い。それなのに、彼女よりも太いということだ。
「私太ったの?」
ミナミはショックに打ちひしがれていた。
確かに旅のご飯は美味しくいただいているが、食べている量はお城よりも少ないか?いや、変わらないか?
ミナミは自分の食事を思い返した。
そんなミナミに服を着せている使用人たちは針と糸を持ってきて、胸元に余裕ができるようにレースを縫い付け始めた。
閉まらない部分はそのままで布で余裕を持たせる方向らしい。
「太いのではなく、姫様のお胸が大きいのです。女性からは羨ましい限りですよ。」
なにやら侍女頭のような女性が気を遣うように言っているが、ミナミはショックから立ち直れなかった。
沈んだまま着替えを終えると、タイミングよく部屋がノックされた。
マルコム達がタイミングを見てやってきたのだ。
ノックをするなど礼儀正しい。
オリオンはノック無しで入ってくることが多かった。
そう考えるとオリオンはなかなかはしたない。
それに、自分の部屋には人を入れない癖に他人の着替えに入ってきて小言を言うのだ。
ミナミはオリオンと再会したら文句を言おうと思った。
しかし、その不満は部屋に入ってきたマルコム達を見て吹き飛んだ。
「二人とも正装したの似合っている!」
ミナミは少しテンションが上がった。
移動や戦いを考慮した服の二人しか見たことが無かったので、かっちりした服を着た二人は新鮮だった。
それに二人の様子を見て部屋にいる使用人の女性たちも色めいている。
マルコムはわかっていたが、正装をすると本当に貴公子だ。
貴族的な顔の端正さであり、一介の用心棒には見えない。ただ、細いシルエットの服は難しいらしく彼の逞しい腕や足の太さが目立つ。凄く強そうだ。
シューラはマルコムとは違い細身なので、逆にサイズの大きい服を着ると服に着られている感が出てしまう。
しかし、シューラ自体が白と赤という特異な配色の人間なので淡い色のジャケットと濃い色のシャツなど色のバランスを服で完結しても全然違和感が無いのだ。
あとはやはりシューラは武人であるのだろう。いつもの大きめの服やマントで目立たないが肩がしっかりしているのがわかる。ジャケットが良く似合う。
「マルコムかっこいいよ!シューラはとても可愛い!」
ミナミは渾身の褒め言葉を送った。
力強く言ったせいか、拳を握ったときに胸元の布がブチブチと言ってはじけ飛んだ。
ドレスはその場で直してもらったが、ミナミのショックは大きかった。
しばらく立ち直れそうにないが、それを表情に出すわけにはいかない。
ミナミたちだけならまだしも、ライデンやミツルもいる。
案内を受けて食堂に行くと、思った通りミツルたちがいた。
ミツルはミナミのドレスを見て一瞬考え込むように目を伏せたが、彼女の傍にミナミの着替えを手伝った使用人が駆け寄って何やら耳打ちをしている。
「私よりもやはり姫様は華がありますね。今度は姫様の衣装をいくつか仕立てさせてください。」
ミツルは微笑んで言った。
どうやらサイズが合っていないことを聞いたらしい。
そして胸の布が足されたことによって、ミツルの知っているドレスとちょっと違うように見えたのだろう。
ミナミは少しいたたまれない気持ちになったが微笑みだけで返した。
食卓にはミナミだけでなくマルコム達の席も用意されていた。
「二人の分も用意いただけてうれしいわ。ありがとう。」
ミナミは心からお礼を言った。
正直言うと、二人の分は用意してもらえないと思っていたのだ。
何せ、護衛はあくまで護衛だ。
ミツルはミナミが見ている限り、かなり貴族的な考えを持っている。
元々かなり地位があったのだろう。
そんな風にミナミは察している。
「いいえ。こちらは下心満載なので気に留めないでください。」
ミツルは自分の下心を隠さずに言った。
おそらくミナミたちに気を遣わせないためであるのと、同時にマルコムやシューラから利益を得たいのだろう。
確かにただの護衛、用心棒だが二人はかなり重要な人物だ。
「お茶の席のようにお互い普通に会話を楽しみましょう。」
ミツルは堅苦しいことを振り払うように言った。
「じゃあ、おすましなしでいくね。」
ミナミは言質を取ったので、肩を力を抜いた。
それから後ろにいるマルコムとシューラを見た。
二人はミナミとミツルのやり取りを見て少し驚いた顔をしているが、振り向いたミナミの顔を見るとちょっとしてから安心したような呆れたような顔をした。
「姫様のおすましの時は相変わらずドキリとさせられる…本当に同一人物かよ」
ミツルの隣にいるライデンが呆れたように呟いた。
「いくら幼いころからの知り合いとはいえ、少し無礼よ。」
ライデンをたしなめるようにミツルが言った。
確かにタイミングが悪かったら無礼だが、ミナミはおすまし無しと言ったので、特に気にしない。
ミナミは空気が読めるし、ライデンもその言葉を聞いたから軽口のような呟きをしたのだろう。
「じゃあ、マルコム達も気にせずに席についてお話をするね。」
ミナミは礼儀など気にせずにさっさと席に着いた。
ミツルとの会話で礼儀を気にしないとはいえ、ここで一番地位の高いミナミが行動を起こさないと場が動かないのだ。
あとお腹空いたのだ。
用意されたご飯はとても美味しそうだった。
「では、出会いと再会に…」
ミツルはグラスを掲げて軽く揺らし乾杯の音頭を取った。
これで食事を摂れる。ミナミは申し訳程度にグラスを傾けた。
「常識は無い癖に、こういうマナーや所作は完璧なんだね…」
マルコムは呆れたように言っている。
そう言う彼だって動きは品がある。
シューラも手慣れている。
「マルコムはともかくシューラもこういう席慣れているの?」
ミナミはふと思ったことを尋ねた。
「僕は毒見要員だったからね。豪勢な食卓は下手な貴族たちよりも経験しているし、周りがうるさかったが生きるために身に着ける必要があったんだよ。」
シューラは口を歪めて笑った。
ただ、彼は毒が効かないのに毒見の意味があるのか?
「君毒効かないでしょ。」
「味はわかるから、忠告はできるんだよ。中には信じないで死んだ奴もいたし、政敵を消す際は毒がある事を言わずにスルーしたこともあったよ。」
シューラは何でもないことのように言った。
中々壮絶なことをしている。
ミナミはシューラが少し心配になった。
「シューラ。沢山毒を取るのはきっと良くないから、これからは安全で美味しいものをたくさん食べようね。」
「ここで言及するのがシューラの過去じゃなくてこれからの彼の身体の事なのは、君のよくわからないところだよね。」
ミナミがシューラを心配して言ったことに、マルコムが呆れたように言った。
何故そんなことを言うのか不思議だった。
「うふふ。シューラ君本当に素敵ね。」
ミツルはシューラをキラキラした目で見ている。
どうやら彼女はシューラが気になるようだ。
もちろん気になるというのは色恋ごとではない。人材として気になるのだろう。
「毒が効かないって言うのは?」
ライデンは少し顔が引きつっているが、興味の方が勝っているのだろう。ミツルと同じような目を向けている。
やはり親子だ。そっくりだ。
「言葉遣いの無礼は赦してよ。」
「ええ。気にしないわ。」
シューラは片手を上げて、先に無礼をすることを述べたがミツルはそれよりもシューラの話が気になるのだろう。
急かすように食い気味に許可した。
「ミツルさんたちも調べて知っているだろうけど、僕は東の大陸の皇国出身なんだよね。帝国に滅ぼされたけど、皇国は医術や薬学の知識が豊富だった。
僕はその皇国の強みの際たる一族の生まれなんだよ。で、僕は癒し、草、水という医術や薬学に最適な魔力適性があったんだよ。
でも、この外見って迫害対象だったから普通の人間には耐えられない医術や薬学の修行をさせられたってわけ。まあ、人道的に難しい修行を強いられた上での皇国の最高傑作かな?
自分で言うのもアレだけど、僕はそう思っているよ。」
シューラは赤い瞳を怪しく光らせて言った。
ミナミは驚いた。
シューラが自分の手の内を晒すようなことを言ったからだ。
魔力の種類など、用心棒が明かすようなことではない。
あとはとても苦しい経験を経て得た力というのはミナミも初耳だった。
シューラはあっけらかんとしているが、かなり重い過去があってのものだった。
服がきついのもあるのかもしれないが、ちょっとミナミは胸が苦しくなった。
「…あら、じゃああなたが皇国を裏切ったのはしっかりとした理由があったからかしら?」
ミツルはシューラを推し量る様に見つめながら尋ねた。
彼女の目の光に気遣いが見えたので、これはシューラの人間性や目的ではなくて、どこまで踏み込んでいいのかを探っているのだろうとミナミは直感的に思った。
「僕にそれを強いたのは親や一族だったからね。その経験に対しては国自体に思うことはなかったよ。それに、僕にとってはとてつもない強みだし、一族も僕を下手に片付けられなくなったから。」
「なるほど。現実主義なのね。」
ミツルはシューラの言葉を聞いて頷いて言った。
「そうでもないよ。だって現に僕は言葉には言い表せない理由で国を裏切っているんだからね。」
シューラは目を細めてミツルに言った。
どうやら国を裏切った理由については話すつもりが無いのだろう。
ミナミにもわかったのでミツルにも伝わったのだろう。
彼女は困ったように微笑んで頷いた。
「じゃあ、毒見の経験について聞きたいわ。」
「悪趣味だね。でもたくさんあるから特殊な奴からでいい?」
ミツルは純粋な興味と言う視線を向けて尋ね、シューラは会話の流れが変わったことに感心したように頷いている。
シューラ曰く、無味無臭の毒はほとんどないらしい。
皇国自体が薬学での毒が多かったのもあるが、後味があるらしい。
ただ、後味がわかるころには死んでいるような毒が多いらしい。
ミツルは前のめりでシューラの話を聞いている。
ライデンも少し引きつりながらも興味深そうに聞いている。
後は食事ではなく容器や食器に毒を塗られていた話や揮発性の毒を使われたこと。
香辛料を利かせて誤魔化した料理であった話や、護衛対象の体質に合わない食材を用意されたこと。
「僕は東の大陸の植物、食物は網羅している。何せ僕には必要な知識だったからね。」
とシューラは話を締めくくった。
とんでもない経験談だが、確かに権力者側からするとシューラはとても貴重な人材だ。
立場を考えても生き残るためには自分の価値を高める必要があったのだろう。
それにシューラはとても強いし可愛い。
なにより、ミナミ“には”優しいのでミナミにとっては人材というよりも大切な存在だ。
しかし、用意されたご飯は美味しい。
前菜のお野菜にかかっているソースの香りもいい。
おそらくこれは北の大陸のものもあるのだろう。
「そういえば、姫様は私にかなり気を遣ってくださっている気がしますね。
お茶の席のような感じで食堂に来られると思っていたのに、少し驚きました。」
ミツルはシューラとの会話がひと段落するとミナミを見て困ったように言った。
どうやら彼女はお茶の時のような気楽な感じで来ると思っていたらしい。
確かにあのお茶の席は気楽だった。
「だって、服を用意してくれた晩餐だったからおすまし必要かと思ったの。」
ミナミは服を用意されたのでおすましだと思っていたのだ。
それにミナミだけでなくマルコムやシューラにも用意されている。
「私はあまり賢い方ではないけど、おすましは武器だから使えるようにしないといけないのに、最近ちょっとおすまししていなかったら丁度いいなって思ったの。
何か変な意図や気遣いがあったわけじゃないの。」
ミナミに武力は無いが、おすましはいわゆる戦闘モードに近いのだ。
マルコムやシューラが武器を構えているような感じだろう。
それに、服を変えたことで二人も動きにくくなっている。
「姫様は可愛いのに、恐ろしいですね。」
「ありがとう。」
ミナミは可愛いと言われたのでとりあえずお礼を言った。褒められたので当然のことだ。
「あと、ミツルさんは元王族か何かに連なる身分でしょ?無礼は控えた方がいいかなって、勝手に思っていたの。」
ミナミは付け加えるように言うと、新たに運ばれてきた魚料理に手を伸ばした。
この料理にも馴染みのない香辛料が使われている。
魚の生臭さがいい感じに抑えられて香辛料の香りが際立つ。とても美味しい。
ふと周りが静かになったと思ったので前を見ると、ミツルの顔が引きつっている。
何故だろう?
わからないのでとりあえず首を傾げた。
「姫様は髪色などの知識があるのですか?」
ミツルはミナミが咀嚼し終わるのを待ってから尋ねた。気が利くしとても話しやすい。
「え?緑の髪色がその証なの?それなら私、ライデンで気付いているかな?」
しかし、髪色の話は知らなかった。
そもそもミツルの髪色で気付くならライデンの髪色でミナミはわかるはずだ。
ミナミはライデンがどこかの王族に連なるとは思っていなかった。
では、ミツルやライデンの髪色は王族に連なる証なのだろう。
知らなかったことなので勉強になった。
「…失礼。」
ミツルは今の質問が慌てたものであったのに気づいたらしい。
しかし、その様子を見るとミツルが王族関係というのは事実のようだ。
なるほど、アトマニを恨んでいるわけだ。
彼女のアトマニへの嫌悪の理由がわかりストンと腑に落ちた。
「じゃあ、ミツルさんはイルドラの…ああ、名前に入っていますね。」
マルコムは納得したように頷いている。
「あ。本当だ。」
ミナミもそこで気付いた。彼女もライデンも結構な主張をしていた。
それに気づいていないのはうっかりだ。
ミツルはともかくライデンは付き合いがそれなりに長いのに申し訳ない。
「…そうですね。差し支えなければ、なぜ気付いたのか教えていただいても?」
ミツルは見たことないような動揺した顔をしていたが、すぐに取り繕ったように真剣な顔になった。
ただ見たことないといっても、ミナミはミツルに今日会ったばかりだ。
「最初は気づかなったんだけど、豪胆に見えるけど細やかな気遣いの仕方、考え方や構え方が普通の令嬢とは違うかな?って思ったの。
武人みたいだから武人の家系とも考えられるかもしれないけど、それにしては駆け引きに慣れすぎだし地位が高い気がしたの。
後はマルコムが感心するような妥協点でのお部屋の用意。ただ、私にはどうしてもミツルさんが侍女になっているイメージが無いからそれを見る立場や施される立場だったのだろうと推測したの。」
ミナミは言語ができる理由を述べた。もちろん言葉に表せない直感もあるので全てではない。
「俺もわからなかったよ。けど、その視点は勉強になるね。」
マルコムはミナミの話を感心したように聞いている。
「お前は昔から訳の分からない審美眼はあるよな…」
ライデンは呆れている。
「いいものばかり見て来たからね。」
ミナミは褒められたと思ったので否定はしなかった。
「私も勉強になるわ…確かに王族視点だと違いますね。」
ミツルはため息交じりで言った。
「この話は今度どこかでしましょう。私のルーツが発覚した状態で何も明かさないのは少し心苦しいので…すぐにではないですが、機会を見て必ずお話します…」
ミツルは険しい顔で言った。
しかし、彼女はなかなか豪胆だ。今の発言はルーツにミナミが気づかなかったら彼女は隠したままで構わないと思っていたと言っているも同然だ。
ただ、それを気にするミナミではないので
「もし、お茶会ならお菓子楽しみだわ。」
とちょっとおすましで微笑んだ。
ミツルの顔が少し引きつった気がしたが、もしかしたらミナミの言葉で失言に気付いたのかもしれない。
彼女も意外にうっかりさんだ。
ミナミは少し親近感が湧いた。
「じゃあ、マルコム・トリ・デ・ブロックに聞きたいが」
ライデンは会話を切り替えるように話題をマルコムに向けた。
「フルネームは面倒だからマルコムでいいよ。俺だって君の事は影でライデンって呼んでいるから。」
「じゃあマルコム。影じゃなくて普通に呼んでくれて構わない。俺は貴族とはいえ一介の子息だ。」
「わかった。…で、何が聞きたいの?ライデンは?」
マルコムとライデンの会話は呼び方の許可から始まって質問に入った。
ライデンはかなり改まった質問の向け方をしていたからもしかしたらかなり重い話なのかもしれない。
ミナミの思った通り、ライデンは慎重な表情をしている。
「…お前は元帝国騎士団と聞いたが、赤い死神や黒い死神、狂信者たちをよく知っているのか?」
ライデンは意を決したように口を開き、かなり探るようにマルコムを見ている。
確かに、マルコムは帝国を脅威に思う立場からすると貴重な情報源だろう。
慎重に、丁寧になるのもわかる。
「狂信者のエミールさんはあまり詳しくないけど、リランとサンズさんは…フロレンス親子はよく知っているよ。」
マルコムは何でもないことのように答えた。
特に重い質問とは思っていないようだ。
「そういえば、副団長の王都での行動に驚いていたもんね。僕も知らなかったけど。」
シューラは納得したように頷いている。
「じゃあ、フロレンス親子…死神たちとは?」
ライデンはマルコムが思った以上にあっさりと答えたので、先ほどよりも質問の口調を軽くして尋ねた。
「二人とは同じ隊に所属していたんだよ。もう半分以上死んだけど、帝国騎士団の精鋭だけを集めた部隊があったんだ。俺とリランとサンズさんはそこの所属だったんだ。」
「実力者と言うのは事実なのだな。」
ライデンは確認するようにマルコムに尋ねた。
しかし、ミナミはマルコム達が同じ隊というのは知らなかった。騎士団の中の関係だと思っていたので思ったよりもずっと密接だった。
「こう見えて俺の方がリランよりも先輩だから、昔は何度もぶっ飛ばしていたんだよ。今は彼はトンデモ魔力使いになっているし強くなっているけど、いい勝負はできるんじゃないかな?
実際、彼から逃げきっているしね。」
マルコムは口を歪めて笑った。
「赤い死神の名にお前の家の名前が入っているのは関係があるのか?」
「そりゃああるだろうね。彼は元平民だから貴族になる時に入れたんだろうね。
なによりも俺の実家の領地は、少し時間をかけたけどリランが治めるような形になったらしいから、その当てつけもあるかもしれない。
俺が言うのもアレだけど、リランは昔からかなりいい性格とふてぶてしい根性をしている。」
「お前の実家って…領地を治める血族は?」
ライデンは領主一族であるため、マルコムの実家の領地がリランに渡った理由が気になるのだろう。
「兄がいたけど、彼らは俺が帝国騎士団にいたときに殺し合いで死んだし、父はそれこそリランが殺したからね。誰もいなくなったんだよ。」
「は?」
「ああ、それに関しては俺は彼を恨んだりしていないし、妥当な判断だと思っているから。」
絶句するライデンに対して、マルコムは付け加えるように言った。
マルコムの兄弟が死んだのは知っていたが、父親の話は知らなかった。
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「まあ、ここから先の深い話になるとリランの個人的な事情に言及してしまうから、昔の先輩のよしみでここからは先は言わないでおくよ。」
マルコムは首を傾げて笑ながら言った。
昔の先輩のよしみとは言っても、おそらくマルコムはリランたちのことをまだ身内のように感じているのかもしれない。
ライデンやミツルはわからないだろうが、ミナミにはわかった。
出会った当初は全然思わなかったが、マルコムは甘い。
逃げながらも彼は帝国騎士団を案じているし、彼らの動きに心を揺らしている。
とても優しいのだ。
彼のこの優しさが、帝国騎士団もわかればいいと思ってしまうが、詳細を知らないミナミはただ思うことだけで口に出すことは出来ない。
ちょっとだけもどかしかった。
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