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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~
つつくお姫様
しおりを挟むライデンの屋敷の庭は立派である。
シューラも見たことが無い植物があって興奮している。
ミナミたちに用意された部屋は、庭が見渡せる大きな窓の部屋とその隣に小さい部屋だ。
大きな部屋には大きなベッドがあるが、小さい部屋には控えめなベッドが二つある。
ミナミはよくわからないので、小さい部屋のベッドにボフンと座った。
「この待遇は妥当だね。そして君が大きい部屋だよ。」
マルコムはミナミが座った横に荷物を置きながら言った。
「え?だって一緒の方が護衛しやすいんじゃないの?」
ミナミは不思議に思った。
護衛はぴったりと一緒のはずだ。
「確かにミナミは逃げてからずっと護衛が一緒だったね」
シューラは思い出したように頷いた。
そうなのだ。
ミナミはお城か出てからずっと護衛が傍にいたのだ。
アロウの宿ではずっとルーイが一緒であったし、それ以降はマルコムかシューラのどちらかが一緒だった。
「ここは比較的安全だよ。それに守りやすいように俺たちに隣の部屋が用意されている。
これはかなりの気遣いと譲歩だよ。」
マルコムは少し含みがあるような言い方だが、ライデンやミツルの対応はかなりいいらしい。
「でも、君も“比較的”安全だなんて…結構言うね。」
シューラはマルコムの言葉に愉快そうに笑っていた。
どうやらミナミが感じたマルコムの含みは、本当にあったらしい。
ミナミは二人の感性がわかってきて嬉しい。
「実際は安全だろうけど、かなり偏った話だったからね。まあ、あの僕ちゃんは元から北の大陸の話だけしか話さない方向だったけど…」
マルコムは荷物を挟んでミナミの隣に座った。
彼が座ったことでベッドが揺れる。
マルコムは小柄だが体ががっしりしているので、重いのだ。
あと、あの僕ちゃんとはライデンのことだろう。マルコムとライデンは年齢が変わらないと思うのだが、それを僕ちゃんと呼ぶのはライデンが未熟だからだろうか?
と、考えてみたが、ミナミはマルコムとシューラの年齢を知らない。
「ミツルさんのライラック王国の情報は確かにありがたいし、アロウさんがそれを見越していただけのことはある。
ただ、それ以外に関しては、言っていることは事実だろうけど、レドさんたちは神聖国アトマニ憎しが強すぎる。もらえる情報が全部アトマニに悪意があるしあちら側の過失もわかるけどさ…
三人ともね…もしかしたらそれだけの背景があるのかもしれないけど、無関係な立場から嫌悪全開の情報は情緒にも良くないからね。」
マルコムはため息をついていた。
どうやらレドだけでなくミツルやライデンも神聖国アトマニが憎いようだ。
なんとなく敵意はありそうだと思ったが、二人がそういうなら相当憎いのだろう。
「北の大陸の話は大事だけど、直接的な異種族の脅威がある西の大陸の話が聞きたかったんだけど、俺の忍耐が持たない。
正直、あそこまで無関係な嫌悪の情報は疲れるよ。失言までしてしまうし…」
マルコムは苛立たし気に呟くとそのままベッドに寝転んだ。
相当疲れているようだ。ミツルにお茶を勧められるほどであったし、確かに巨獣の存在の言及は失言だったのだろう。今思うと、レドにミナミたちが巨獣からの情報収集を目論んでいると察せられただろう。
疲れた上に失言が悔しいのか、マルコムの眉間に皺が寄っている。
ミナミはマルコムの綺麗な顔に皺がつくのはいたたまれないので、眉間の皺を伸ばすように人差し指でさすった。
マルコムはミナミの行動に眉をピクリと吊り上げた。
どうやらよろしくない行動だったらしい。
「だって、マルコムの眉間に皺の癖がついちゃうよ。せっかく数少ない長所の顔なのに…」
ミナミはマルコムの事を思ってした行動だと主張した。
マルコムは性格があまり良くない。ただ、顔はとてもいい。
つまり、マルコムの長所は顔なのだ。
「君失礼だよね。」
マルコムは不満そうに目を細めて言った。だが、否定の意が見えないので肯定されているのだろう。
ミナミは正しいことを言ったらしい。
「ふ…うぐ…数少ない長所って…」
シューラがお腹を抱えて震えている。
「俺は頭もいい方だし、強い。外見だけが長所なわけじゃないよ。」
マルコムはミナミにさすられた眉間に触れながら不満そうに言った。
「まあ、たしかに俺は顔はいいよ。」
マルコムは自分の頬の傷を指で撫でながら呟いた。
しかし、言われてみれば、たしかにマルコムの言う通りだ。
ミナミはマルコムの性格だけしか考えていなかった。
「ごめん。性格のことしか考えていなかった。」
ミナミは視野が狭かったことを素直に謝った。
「君本当に失礼だよね。」
マルコムは不満そうに言った。
「…き…キリがないからこれ終わりにしない?」
シューラは声を震わせながら言った。
どうやらキリがない話のようだ。
ミナミはマルコムの性格が悪いことはキリがないことだと学習した。
「絶対に変なこと考えている。」
マルコムは眉間に皺を寄せてミナミを見ている。
先ほど指摘したのに、また眉間に皺を寄せている。
ミナミはまたマルコムの眉間を指でつついた。
「でも、目的地がはっきりしたと思わない?」
マルコムは腕を組んでミナミ、シューラを順に見て言った。
ミナミはよくわからないので、とりあえず首を傾げた。
「ロートス王国に行く。アズミ姫に会う。カプラに接触する。ついでにライラック王国の王族について調べる…
となると、アズミ姫のいるハーティスに行くことになるね。
さっきのレドさんの話から、ハーティス近くにカプラが出没することがあるらしいし、ハーティスはアズミ姫がいる。
それに彼女の傍には、アロウさんの娘さんがいるらしいから。」
マルコムはミナミに説明するようにゆっくりとした口調で言った。
ミナミは納得した。
ミナミは無意識にロートス王国の王都へ向かうつもりでいたのだ。うっかりだ。
「そういえば、ミナミのお母さんはロートス王国の王族だったらしいけど、君は接点あるの?」
シューラはミナミの表情を見て何か思ったのか、尋ねてきた。
「うん。何度か王族の人たちから結婚しないか?って言われたけど、血が近いから嫌だってお父様が言っていたの。
あと、叔母さまがお兄様と結婚したがっていたの。」
ミナミはロートス王国の人たちとの関りを思い出した。
アズミもだが、ミナミは他国の王族にとってとても利益があるらしい。
ロートス王国の王族がミナミに結構跪いていた。
しかし、父親が断っているのでライラック王国の利益ではない。
あと、今考えるとオリオンが人を寄せ付けなくなったのは叔母の行動のせいな気がしてきた。
叔母はオリオンとは血は繋がっていないので、結婚は問題ない。しかし、他が問題あるらしい。ミナミは詳しくはわからないが、オリオンがブチ切れしていたのでよく覚えている。
「うん。色々情報が多い。ちょっとかみ砕こう」
マルコムは少し顔を引きつらせて言った。
どうやら少し問題のある内容のようだ。
「えっと。私については、いとこがロートス王国の王族だけなんだけど、その男の子たちが小さい頃が結婚しようって言っていただけなの。
お父様が断っていたし、私も嫌いだからとくに問題ない話だと思うよ。」
ミナミは顔もおぼろげないとこたちを思い出しながら言った。
「君が嫌うってよっぽどだね。」
マルコムは驚いた顔をしている。
どうやらミナミは人を嫌いにならないと思われているかもしれない。
ミナミだってきちんと好き嫌いはある。なぜなら人間だからだ。
「だって、オリオンお兄様だけでなくてホクトお兄様も馬鹿にしていたし、いつもお布団の話ばかりして話が通じないの。
私はおバカだからかもしれないけど、お話が通じない人とは接したくないと思うよ」
ミナミはオリオンやホクトを見下していたいとこたちを思い出し少しイラっとした。
「じゃあ、もしかして君の兄姉ってロートス王国の王族が嫌いなの?」
「うん。オリオンお兄様が叔母さまに迫られたときはみんなで撃退したくらい嫌いだよ。」
ミナミはオリオンが徹底的に人を寄せ付けなくなった事件を思い出していた。
「気になる情報が点在しているけど、その君の叔母さんがオリオン王子に迫ったの?」
「うん。オリオン兄さまと叔母さまは血が繋がっていないからって、侍女に扮して寝所に入ったの。
未遂だってオリオン兄さまは言っていたけど、あと少しで危なかったらしいの。」
ミナミはよくわからなかったが、オリオンが害されたのでアズミとホクトと力を合わせて叔母を追い払ったのだ。
そのためにオリオンの部屋に忍び込んで待機するという行動に出て、後でオリオンに三人とも怒られたおまけもついている。
「あー…うん。確かにオリオン王子は美形だもんね。」
マルコムは何かを悟ったような顔をしている。それに何となく流すような口調になっているのは、彼なりに何か結論が出た時なのだ。それは最近わかったことだ。
「それにしても、君たち兄妹は仲が良かったんだね。苦しいかもしれないけど、何でホクト王子は父親を殺す方向へ行ったのか気になるね。」
シューラはミナミたち兄妹の微笑ましい思い出話で、ホクトの暴挙に至った理由が気になったようだ。
それはミナミも気になっている。
今も思い出すと苦しい。
ホクトは家族を大事にする兄だったはずだ。ミナミにも優しい兄だ。
アズミはホクトが潔癖だと言っていたが、それでも彼は家族や兄妹を大事にしていた。
「私も信じられないよ…確かにここ数年、ホクトお兄様はオリオンお兄様やお父様と距離を取っていたのは確かだし、お姉さまが言う通り潔癖で危ういというのは事実だと思う。
けど、ホクトお兄様は私にとってもいいお兄様だったし、アズミお姉さまのことも大事にしていたの。
それに、お姉さまがお嫁に行くと言って一番喜んでいたのはホクトお兄様だったと思うの。」
ミナミは思い出した。
アズミの結婚が決まったときにホクトがとても喜んでいたことを。
オリオンや父は何とも言えない顔をしていたが、ホクトだけは違った。
「私はホクトお兄様の喜んでいる様子を見て、アズミお姉様の結婚が幸せなのだと思ったの。」
ミナミはホクトの喜びが純粋なものであると信じたい。
なので、彼が父親を殺しオリオンを押しのけて王位に就こうとした現実がわかっていながらも、ホクトを優しい兄だと思いたいのだ。
「…噂や君の話を聞く限り、アズミ姫はかなりの曲者だと思う。
オリオン王子に王位が決まっているのに覆そうとするホクト王子にとったら邪魔に思えるかもしれない。」
マルコムは慎重な口調で言った。
もっと汚い言葉で言うことも出来た内容なのだから、言葉を選んでいる様子が見えるのはミナミに対する気遣いだろう。
ミナミだってわかっている。ホクトがアズミを厄介払い出来たと考えている可能性が一番高いことを。
「…でも、ちょっと違うかもしれない…」
シューラは何か考え込むように目を伏せてからチラリとマルコムを見た。
「僕はミナミの人を見る目を信用している。
ホクト王子が潔癖で純粋だったとしても、兄妹を害すとは思えない…」
シューラはミナミを気遣ってではなく、ミナミを信用して言ってくれているようだ。
優しさとはまた違った思いかもしれないが、ミナミはたとえ事実と違ってもシューラの発言が嬉しかった。
「…タレス国王が慌てて昔の記録を探したきっかけ
王族が少ない理由、愛人の子でも王族の力を持っていなければ別の道を選べる…」
マルコムは呟いている。
ミツルとの話で発覚した情報の断片だ。
「別にライラック王国はアトマニの王族みたいに“一糸の系譜”みたいなものはないんだよね。」
「うん。たぶん。だって、それだとアロウさんが王族の力を持っていた可能性がある情報なんて出て来ないもんね。」
それにミナミとオリオン共に王族の力があるのだ。
もしかしたら髪の色や瞳の色が関係しているのかもしれない。ミナミはふと思った。
「君ってさ、何でところどころ変に鋭い発言するの?」
マルコムは考え込むミナミを見て、呆れたというよりも何やら疑いに近い視線を向けている。
ミナミの発言に変なところがあったのかもしれないが、ミナミには心当たりが無いので首を傾げておいた。
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