世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記

吉世大海(キッセイヒロミ)

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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

情報に揺れるお姫様

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「まず、俺は北の大陸に留学に行ったとはいえ、訳あって神聖国アトマニには近づいていない。
 母方の祖父母がいる山岳都市シュゲダッドの学園に数年留学した。」
 ライデンはそう前置きをした。
 どうやら神聖国アトマニの情報はそこまで持っていないと言いたかったようだ。

 山岳都市国家と呼ばれるシュゲダッドは、国家と呼ばれながらも国としての機関は曖昧だ。
 ただ、神聖国アトマニが支配したがるほどうまみもなく、険しい地形と元から住む厳格な住人たちのお陰で修行の地として人が来るのだ。
 学園などと言ったら、支配下の置くうまみがありそうに思えるが、シュゲダッドはあまりにもいる者たちが雑多すぎるのだ。
 また、学びに来るだけなら何も無いのだが、内部の奥深くは閉鎖的でアトマニを毛嫌いしている者が多いとも言われている。

「まあ、色々言われているけど、行ってみればわかるが、本当に険しい地形で秘境みたいなんだ。支配するとしたらかなり骨が折れると思う。
 それに、アトマニはそれどころじゃないからな。」
 ライデンは険しい顔をしながらも、アトマニを冷やかすようなことを言っている。

 本当にシュゲダッドは険しい地形にあるようだ。
 山岳都市というのもいまいちわからないが、今度機会があったら行ってみたいものだとミナミは思った。

「で、最近の話はさっき母上やレドさんの予想通りで
 アトマニはなりふり構わずに動き出しているって話題になっている。
 かなり昔の話まで持ち出して調べ出しているんだ。」
 ライデンは腕を組んで言った。
 どうやら記憶を探っているようだ。
 その様子からまた聞きに近い情報なのだろう。

「もう数百年前になるんだが、イルドラからアトマニが分裂するときにアトマニは一つの一族を滅ぼしているんだ。
 太古の記録を残す役割を持った一族をな。
 滅ぼした理由は簡単だ。アトマニが分裂するときに付いてこなかったからだ。
 ただ、持っている知識や情報は膨大だったようだ。
 まあ、今の状況は自業自得に近いな。」
 ライデンは冷ややかに言った。

 なんというか、アトマニは本当にどうして北の大陸の勢力を集めてイルドラを滅ぼせたのかわからなくなるような情報だった。

「で、アトマニはその一族の跡地を浚いまくっているが、何も出て来なかった。
 だから巨獣の情報に鞍替えしたんだろうな。」
 ライデンはそう言うと、両手を挙げた。
 どうやら話せるのはそこまでのようだ。

「アトマニはイルドラを侵略しているから、北の大陸の西側の港を持っているんだ。
 だから、西の大陸と交流がある。
 最近はプラミタとの交流が盛んになっているって話題だった。
 あとは俺が学んだ細かい勉学だから、お前たちの役に立つかわからない。」
 ライデンは首を振って言った。
 留学していたというのだから、情報収集よりも勉学だったのだろう。
 ミナミはライデンは真面目だな…と思った。

「まあ、ミツルさんとレドさんからの情報が膨大過ぎたから、君には期待していなかったよ。」
 マルコムは納得したように頷いた。

「…とんでもなく失礼だな。」
 ライデンはマルコムを軽く睨んでいた。

「ミツルさん。このライラック王国の古い記録はどこにあるかわかりますか?」
 マルコムはライデンを無視してミツルに尋ねた。
 どうやら真剣なことのようだ。

 ミツルはマルコムがライデンを無視したことを気に留めず、口に手を当てて考え始めた。
 彼女の表情が真剣だったので、とても大事なことのようだ。

「王城に何かあるかもしれないわね。あとは、ライラック王国じゃなくて諸島群という捉え方ならロートス王国よ。」
 ミツルは片手を上げて言った。
「私はロートス王国に探りを入れていたのよ。あそこのハーティスの海岸近くに変な遺跡があるから、それも含めてね。」
 どうやらミツルはきちんと古い記録を探っていたようだ。
 ただ、国を越えるものだったので時間がかかっているらしい。

「ハーティスって…」
 マルコムはミナミをちらりと見た。
 ミナミもわかっている。

「お姉さまがお嫁に行ったところだ。」
 ミナミは、幾度も不穏な時に出てくる姉の影に心配になった。
 何となく不穏で緊張感のある空気が漂い始めた。

「ああ。ハーティスのあたりなら、たまにカプラも来ますからの。」
 その空気をうち破るように、レドはカラカラ笑いながら言った。

「あら、そういえばそうね」
 ミツルは思い出したように頷いた。

「そうだ…カプラなら何か知っているかもしれない…」
 マルコムは海に出なくてもカプラと接触できるかもしれないことでちょっと安心したようだ。
 確かに、早いうちに情報が欲しかったのだ。

「帝国はズンドラと共存して知識という利益を得たと噂があるかもしれぬがのう…
 そもそも、カプラを始めとした巨獣から情報を得ようなどと普通は考えないからのう。」
 レドは変わらずカラカラ笑いながら言った。

 ただ、さっきの今のマルコムの発言は失言だったらしく、レドの言葉で小さく舌打ちをした。

 その舌打ちを聞きながら、ミナミは確かに…と納得した。
 今となったらコロと意思疎通ができるので、巨獣から古い知識を得ることが当然のように思えるが、そもそも意思疎通ができるか不安だったのだ。
 ズンドラと交流のある帝国は別として、他の者たちがどうして巨獣から知識を得るのが当然だと思っているのだろう?

 ミナミたちはアロウにカプラと接触するように伝えられているのもあるが、コロが魔力に詳しいというのも知っているので不自然に思わなかった。
 ただ、可笑しくないのか?
 ミナミは常識が無いので、これは後でマルコムとシューラに確認しようと思った。

「そういえば、レドさんはハーティスに流れ着いたって言っていたよね。」
 シューラは身を乗り出してレドを見た。

「そうじゃ。実は儂は海に投げ出されて、死ぬかと思ったところで運よくカプラの背に乗ったようでな。
 ただ、意思疎通ができるようなモノではなかったのう。」
 レドは目を閉じて、記憶を思い起こすように頷きながら言った。

「海の地図よりもその情報が先に欲しかったよ。」
「ハーティスに辿り着いたと前に話したからのう。昔話でうっかりしておったわ。」
 シューラは鼻の上に皺を寄せて不満そうに言ったが、レドはカラカラ笑っている。

「ミナミどうしたの?」
 マルコムがミナミをじっと見て言った。
 それで気付いたのだが、ミナミは考え込んで険しい顔をしていたようだ。
 シューラやレドの話は聞いていたが、顔が良くなかったらしい。

「うーん…考えることがいっぱいだなって…」
 ミナミは言葉にするのが難しかったので、ざっくりと言った。

「では、今日の情報交換はこのくらいにしましょう。
 まだまだ私たちの話はありそうですけど、皆さんは落ち着いた方が良さそうですから。」
 ミツルはミナミを見て微笑み、気遣うように言った。

 彼女はおそらくミナミたちがミツルたちに伝えられない情報があるのも知っており、それを仲間内だけで相談したがっているのを察しているのだろう。
 気遣いとともに、触れないでおくという保身も見えてミツルはわきまえている貴族であるのだな…とミナミは感じた。

 ただ、ライデンはその逆らしくマルコムを睨んでいる。
 そういえば、ルーイもシューラよりもマルコムを睨んでいた。
 ライデンはルーイとも仲が良くて交流があったので、帰ってきたのを伝えると喜ぶと思う。

「そういえば、ライデンはルーイに帰ってきたことを伝えたの?」
 ミナミは何となく思ったことを尋ねた。

「は?何で俺があの平民兵士に?
 確かに今はオリオン王子の傍についているらしいけど」
 ライデンはミナミの質問の意味がわからないようで、首を傾げた。

「え?だってライデンってルーイと仲良くなかった?」
「どうしてだ?あいつが勝手に何か言ってきているだけだぞ。」
「え?」
 ミナミは驚いた。
 だって、ミナミはライデンとルーイが仲良しだと思っていたのだ。

「それより、何であいつがオリオン王子の傍についているんだ?」
 ライデンは首を傾げていた。
 どうやら彼はルーイがオリオンの傍にいる状況がわからないようだ。

 そういえば、ミナミが逃げたときの話をしていなかった。
 父親が殺されたときの話だ。
 どこから話そうか…と思ったがミナミはそこで思考が止まった。

「あれ?」
 ミナミは自分の手が震えているのに気づいた。
 冷静な頭の一部では、まだ父親が殺されたときのショックがあるのだろうと分かった。
 ただ、それをうまく飲み込むほどミナミはお利口さんじゃない。

 手の震えもあるが、話そうとしても上手く話せる気がしない。
 どうしようか…と回らない頭で考えているとミナミの手に固い何かが覆い被さった。

「ミナミ。難しいことは考えるんじゃない。」
 マルコムが諭すように言った。
 ミナミの手に被さったのはマルコムのカチコチの手で、震えているのに気づいた彼が沈めるためにした行動のようだ。

 反対方向を見ると、シューラが心配そうに見ている。
 彼もミナミの状況に気付いてくれたようだ。
 心配に揺れる赤い瞳がとても綺麗だ。

 やはり二人はミナミにとって、いい人たちだ。
 二人の優しさにミナミはほっこりした。

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