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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

大きな橋とお姫様たち

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 ミナミたちは、兵士たちが引いてくれている荷車に乗り込み国境の町に来た。
 町へはそのまま荷車に乗って入り、兵士たちの詰め所のようなところで下ろしてもらった。
 ただ、荷物はそのまま荷車に乗せている。

 何せシューラはともかくマルコムは槍を二つ持っており、それを町で持ち歩いて欲しくないらしい。
「預けるのはかまわないし、俺は武器が無くてもこの町を壊滅させるだけの力はあるから。」
 マルコムは荷車に預けたままになるがいいか?と聞かれたときに笑顔で言っていた。
 やっぱりマルコムは自分の力に誇りを持っている。
 それに、自信があるのはいいことだ。

 ライデンは顔を引きつらせていたが、隣のレドは楽しそうに笑っていたのでここは微笑ましい場面なのかもしれない。
 ミナミもレドと一緒に微笑んだ。

 荷車から降りて見える国境の町は、王都よりも色合いが地味で、石造りの建物が多い無骨な印象がある。

「町に来たら、一番見るべきものがあるだろう。」
 ライデンはミナミたちを見て何やら自慢するように言った。
 よくわからないが、この町の名所があるらしい。

「それにお前らは見た方がいい。来い。」
 ライデンは人目の無い細い道をミナミたちを先導するように歩き出した。

 ミナミたちが歩くのは、町の塀と建物の間だ。
 大きな道じゃないので、人も少ない。というよりも、どう考えても隠れ通路だ。
 人目に付かずにライデンが案内したのは、国境の橋を見下ろせる高台だった。

 ロートス王国との国境は、河口部から伸びる川であり、国を繋ぐのは頑丈な石造りの橋だ。
 立地関係で言うと、諸島群の西側がロートス王国、東がライラック王国という関係であり諸島群で一番大きい島を分かつように流れる大きい川を国境としている。
 つまり、陸を歩いて国境を超えるには、国境の町から橋を渡るしか無いのだ。

「立派な橋だね」
 マルコムは目の前の大きな橋に感心している。
 こころなしか目が輝いている気がするが、もしかしてマルコムは大きな建物が好きなのだろうか?
 シューラも少し楽しそうに跳ねている。とても可愛い。
 ついでにシューラに背負われた鞄も楽しそうに揺れている。

 ミナミも国境の橋は初めて見たので、二人と同じように興奮している。
 なぜならとても大きいのだ。

 大きく巨大な塔が門の様に並びその間に床板があり、歩行者用の部分と荷車や馬車用の道が往復それぞれ確保できるほど幅員がある。
 外側が歩行者用の道になっており、歩きながら国を分かつ川を見下ろすことができる。
 橋の欄干は立派で高く、格子のようになっているので相当頑張らないと落ちれないので安心だ。

 橋の色はライラック王国の象徴的なアクアブルーの石がところどころに使われているが、下の方は灰色の重くて頑丈そうな石がたくさん積まれている。

「国境は今は渡れねーぞ。手続きが必要だから普通はこの橋よりも船を使って国を超えることが多いんだ。」
 興奮するミナミたちの後ろでライデンが忠告するように言った。
 そういえば、あの門のようになっている塔には恐い顔をした兵士たちがいる。
 それに、鎧も少し豪華でとてもゴツゴツしてぶつかったら痛そうだ。
 町の兵士とは少し違う。

「国境の町と橋はまた管轄が違う。あの橋の兵士たちはライラック王国の王家の命令にしか動けない。町の兵は俺の命令で動くけどな。」
 ライデンは橋の兵士と町の方を交互に指しながら言った。
「緊急事態はどうするの?」
 マルコムは興味深そうに橋の兵士たちを見つめながら尋ねた。

「あっちの方が立場が上で、領主や町の方が下で動くという命令形態になる。」
「じゃあ、あっちはなかなか経験豊富なわけなんだね。」
「なわけあるかよ。腐ってもライラック王国の兵士だ。平和ボケで実戦経験皆無だ。」
「まさに緊急事態で使えないじゃん。そんな奴の命令で動いて大丈夫なの?」
「幸いまだその緊急事態が来ていない。不幸中の幸いだ。」
 なかなかマルコムとライデンは会話が弾んでいるようだ。
 それに、マルコムはライデンの事が嫌いではないみたいだ。

 マルコムは人の好き嫌いが多いみたいだからそれは安心した。
 ライデンはいい人なので、仲良くなってくれて嬉しい。

 ミナミはニコニコして二人を見ていた。
「ミナミはたまに不可解な時に笑うよね。」
 シューラはミナミを不思議そうに見つめながら言った。



 橋を見える高台から、来た道とは逆方向に少し歩くと石畳で整備された道があった。
 気が付いたら整備された道にいて驚いた。
 ミナミは足元が変わったのに全く気付いていなかった。
 それはマルコム達も同じようで驚いている。

「防犯だ。町の裏道から入れるとはいえ、誰でもわかるようにはできないだろ?」
 ライデンはミナミたちが驚いている様子を察したのか呆れたように言った。

「何かの魔力なの?」
 シューラは警戒するように辺りを見渡している。
 おそらく何かを察知しようとしているのだろう。彼は魔力に敏感だとコロが言っていた。

「惑わしだ。下手に厳重な柵を設けるよりもずっとわかりやすい。それに解けたら惑わしを施した術者が察知できるらしいから、それこそ下手な防犯よりもいい。」
 ライデンは得意げに言った。
 ただ、その口調から術を施しているのはライデンではないようだ。

「術者…ってことは君は魔術師と伝手があるの?」
 マルコムは警戒するようにライデンを見ている。確かにプラミタ関連でミナミたちはちょっと大変な目に遭った。

「あとで話す。と言うよりもわかるはずだ。」
 ライデンは少し悩んだ様子を見せたが諦めたように言った。
 その様子から、マルコム達が知りたいことは後で発覚することらしい。

 そういえば、惑わしで防犯ということを最近聞いた覚えがある。
 ミナミはいつ聞いたのか思い出そうとしたがライデンは先導するように歩き出したので、後で思い出せるだろうと楽観的に捉えて考えるのを止めた。
 ライデンの後ろをマルコム、ミナミ、シューラの順番で並んで続く。

 しばらく歩くと、木のアーチが見えてきて庭園のような場所に出た。
 整備された木々や花、東屋はどこか避暑地の離宮を思わせる。

「もしかして君の家?」
 マルコムは辺りを見渡しながらライデンに尋ねた。

「そうだ。よくわかったな…といっても庭に入ったらわかるか。」
 ライデンは感心したが、庭に咲く花を見てため息をついた。

 どうやら橋の見える高台から来た道は、ライデンの屋敷に通じる道だったようだ。
「いい抜け道だね。でも、建物も道も比較的新しいよね。」
 シューラは石畳と庭の木々を見て言った。
「木だって移植して間もないものも多いし、僕の目から見て年輪を感じない庭だね。」
 シューラはやはり植物の様子を察するのに長けているようだ。流石草をモサモサしているだけある。

「よくわかったな。そうだ。母上が嫁いできた時にここに建てたらしい。王都付近に住む父と違い母上はこの地を好んでいる。強いて言うなら、あの橋が好きなようだ。」
 ライデンはシューラに感心している。
 そして、シューラの言う通り、この屋敷は新しいらしい。
 といってもミナミの年齢よりは年上だが。

「君の母親って北の大陸出身だっけ?」
 シューラは木の根元に何か見つけたのか、駆け寄ってしゃがみ込みで尋ねた。
 どうやら生えている草が気になっているらしい。
 シューラはそれをじっと眺めている。

「詳細は後で話してくれると思うが、少なくともライラック王国よりも争いの多い国の出身であるから国境の領主へ嫁ぐとなって張り切ったと言っていた。
 ふたを開けてみると拍子抜けしたとも言っていたが、俺にはこの国の貴族に慣れるなと小さいころから言い聞かせるくらい温度差がある。」
 ライデンはシューラが何をしているのかわかっていない様子だが、自分の話していることに集中しているのか、皮肉気に顔を歪めさせている。

 ミナミはシューラの行動が気になるので、ライデンを横目で見ながらシューラを見下ろした。
 彼は木の根元に生えた草を見ている。白いまつ毛の下の赤い瞳がキラキラしていてとても綺麗だ。

「見たことない草?」
 マルコムもシューラの行動が気になったようで、シューラを見下ろすミナミの後ろから尋ねた。
 ミナミは後ろから急に声をかけられたような気がしたのでびっくりした。

「うん。これ貰っていい?」
 シューラは木の根元に生えている草を指して尋ねた。

 ライデンは自分との会話が半ばついでのやり取りにされていたことに気付いて一瞬顔を歪めたが、シューラがあまりにもキラキラとした目で尋ねてくるので驚いていた。
「あ…ああ。どうせ雑草だ。」
 ライデンはシューラに気圧されるような形で頷いた。

「ありがと…ムグ」
 シューラはお礼を言うと根っこごと草を引き抜くとためらいなく口に入れた。
 土もついているのにミナミはびっくりした。
 ライデンはドン引きしている。

 だが、よくよく思い出してみると前にマルコムがシューラは見たことが無い草は一度口に含むと言っていた気がする。
 そして、口に含んで体を張って調べた草は生成可能になるというトンデモ体質なのだ。
 つまり、草を口に含むのは今後のために生きることだ。

「おいしい?」
 ミナミはとりあえず口に含んだ草の味が気になったのでシューラに尋ねた。

 その様子をライデンはさらに驚いた顔で見た。

 なんとも言えない空気が流れるが、シューラの特技などミナミが言うわけにいかない。
 おそらくこれは、ミナミの軽率な判断で言ってはいけないことだと思う。
 ミナミは意外に察せられるのだ。
 シューラは咀嚼し終わり飲み込んでから「苦いけど食べれないことは無い」と答えてくれた。
 とても律儀だ。

 ライデンは何かマルコムに答えを求めるような目を向けているがマルコムは答えない。
 ちょっと空気が停滞している気がする。

 そんな空気を断ち切るように、屋敷の方から足音が聞こえた。
 鋭く軽い、なんとなくシューラに足音に似ている。

「あら?裏口からやってきたのね。」
 足音の主は軽快な声で言った。
 賢そうで歯切れのいい女性の声だ。声も高くなくよく響き、人前で話すことに長けてそうなものだ。

 その声にライデンは一瞬顔をひきつらせたが、すぐに姿勢を正し、声の元を見た。

 ミナミも声の方を見た。マルコムとシューラは足音が聞こえた段階から見ていたらしく、警戒の体勢を取っている。
 何故それがわかるかというと、シューラは腰に差した刀に手をかけており、マルコムは腕の血管がちょっと出ている。マルコムの腕は骨が太く筋肉も弾力があるが全体的にがっしりしている。その浮き出ている血管は柔らかそうなので、後でちょっとだけぷにぷにしてみたいと思ってしまった。

 声の主はライデンと同じ髪色と瞳の色をしている。
 心なしか顔立ちも似ており、きりっとしたライデンの目つきは彼女譲りだとよくわかる。鈍いミナミでも彼女がライデンの血縁であるのはすぐにわかった。
 体つきもしっかりしており、女性なのに武人を思わせる佇まいだ。もしかしたらそれだからシューラと足音が似ていたのかもしれない。

「…少佐の言った通りのようね。」
 彼女は目を細めてマルコム、シューラ、ミナミと順番に視線を向けた。

「ご安心を、私は貴方の味方ですわ。姫様。」
 彼女はライデンに似ている切れ長な鋭い目を細めて優しく微笑んだ。
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