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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

納得したお姫様

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 びしょ濡れになったミナミたちは小屋に戻って着替えることになった。
 村人たちは石造りの倉庫に入っていたので、外で激しく炎が上がったことと水が発生したことには気づかないだろう。

「俺は外で着替えるから、君は中で着替えて。
 あと、着替え終わったら声をかけてね。」
 マルコムは念を押すように言った。
 そしてミナミが背負っていたコロが入った鞄を持って外に出た。
 どうやらコロも一緒に外で着替えるらしい。

 しかし、コロは何も着ていない。
 もしかしたら外でプルプルとするのかもしれない。
 よくワンちゃんがやっている行動を思い出した。
 コロがやるのかわからないが、きっとそうだろう。

 ミナミは勝手に納得した。

 服は移動をしないので、着替えが楽なワンピースを渡された。
 これはマルコムが裁断してミナミが縫った服だ。

 意外とミナミはこれが気に入っている。
 着やすいし自分で作ったものだ。

 ワンピースを見てほっこりした気分になりながらミナミは着替えた。

 着替えたと外に伝えると、マルコムが着替えた服とコロを抱えて入ってきた。
「鞄は外に干したから。あと、濡れた服はシューラが戻ってきたら洗おう。
 ついでに君は水の魔法での洗い方を教えてもらうといいよ。」
 マルコムは桶に濡れた服を投げ入れながら言った。

 桶は小屋に元々あったものらしい。

「うん。わかった。」

「あと、君も気になっていたと思うけど、さっき取り出した魔獣の魔石についてね…」
 マルコムは小さい石をつまんでミナミに見せた。

 魔獣の心臓から取り出した時と同じく、その魔石はミナミの親指くらいの大きさだった。
 ただ、あの時は血まみれだったのでわからなかったが魔石は透明だ。

「基本的にこれを中心に魔獣は群れをつくる。
 俺よりもシューラの方が詳しいと思うけど、一つの群れにこれが一つっていうのが基本だよ。」

「じゃあ、魔石の魔獣が倒された群れは?」

「時間がかかるけど、魔獣の魔石が生まれるか、離散して別の群れに合流する。」
 マルコムはまだ濡れている頭を拭きながら言った。

 水が滴って、彼の端正な顔が際立っている。
 ミナミは場違いなことを考えた。

 魔獣の群れは魔石を中心に作られる。
 魔石が大きいほど群れが大きく数が多い。

 だから魔獣の魔石は、魔獣の群れの規模を判断する重要な材料なのだ。

『おおむね言う通りだ。例外は巨獣であるがな。
 クズどもに捕まる前は、我も魔石の気配で魔獣を捕まえて食べていた。』
 コロは床の置いてある布に体を擦り付けながら言った。
 どうやらその布はマルコムがコロのために置いたらしい。

「じゃあ、巨獣が魔力に敏いのって理にかなっているだね。
 餌確保のために伸びた能力なら納得だ。」

『褒めるがいい』
 マルコムの言葉にコロは仰向けに転がったまま、フンフンと偉そうに言った。
 身体が濡れているため、今はお腹の毛はふわふわしていない。

「そのくせシューラよりも察するのが遅れるんだね。」

『稀におるのだ!ご主人様の様に鋭いものが!
 それに流石ご主人様と言うべき場面であろう!我が貶されることではない!』
 コロはフシャーっと唸りながら言った。

「ちなみに魔石は売れるから、旅の金策としてはいい候補だよね。
 ただ、諸島群は家畜くらいしか魔獣がいないから…」
 確かにマルコムの言う通り、ライラック王国周辺は魔獣が少ない。
 と言うよりも家畜かそれに毛が生えた程度のものしかいない。
 とても平和なのだ。

「たまに野生化した家畜とかペットが凶暴化することがあるよ。」
 ミナミは、たまに兵士たちがほくほくとした顔で兵士たちが駆り出される時があるのを思い出した。

 野生化した家畜の場合、人を襲う前なら退治した兵士たちが肉をもらっていいのだ。
 普通の家畜からは味は落ちるかもしれないが、香辛料を付けたりお酒にとてもある食材となるらしくとても人気らしい。

 ミナミは食べたことが無いので、今度食べてみたいと思っている。
 ただし、人間を食べていない魔獣に限るが。

「その程度なら魔石は出ないね。とりあえず、魔石を持った魔獣を中心に群れが形成されることと、魔石の大きさで群れの規模が想定できる。
 そして魔石はお金になるって覚えておけば大丈夫だよ。
 シューラならもっと色々知っているかもしれないから後で聞いてみよう。」
 マルコムは手の上で魔石をもてあそびながら言った。

「マルコムは騎士の時に魔獣の退治とかはしなかったの?」
 ミナミはふと思った。
 帝国騎士もライラック王国兵士と同じような役割を持っているはずだ。
 そして帝国のある東の大陸にはこの辺りよりも魔獣が多いはず。ならば、魔獣対策に駆り出されることが多いのでは?と。

「魔獣相手といっても大物が多かったのと、俺ってこう見えて貴族だったから要人警護が主だったんだよね。
 王族とかの傍に付いていたんだよ。君だって心当たりあるだろうけど、王族の護衛って貴族が大半でしょ?」
 マルコムは皮肉気に笑いながら言った。
 どうやら彼はあまり自分の地位に頓着していないようだ。
 考えてみれば、彼は地位も全て捨ててシューラといるのだから当然だ。

「あとは、隣国との争いが激しくて魔獣なんかに構っていられなかったって言った方がいいね。」
 なるほど。
 確かに魔獣よりも敵意を持った人間の方が恐い。
 それは納得だ。

「まあ、その隣国ってのがシューラの母国の皇国なんだけどね。
 結局お互いどちらかが滅ぼすまで戦い続けて帝国が勝ったって感じだね」
 マルコムは少し遠い目をして言った。

 そういえば、前にマルコムは帝国騎士団は皇国を憎んでいると言っていた。
 不穏分子が残る可能性も、皇国の上層部が復権し祀り上げられる事態になり事も許さないほどに憎んでいると言っていた。
 踏みにじり地に落とし、跡形もなく消し去ろうとしていたと聞いた。

「帝国騎士団の人はシューラを赦せないのかな?」
 ミナミはふと思った。
 別に共存する道を想像したりしたわけでないし、そこまでおめでたいことを考えるほどミナミは夢想家ではない。
 ただ、帝国騎士団と相いれないシューラという図を想像したら少し悲しくなったのだ。

「憎み切れない…だろうね。なにせ、皇国が帝国に滅ぼされた崩壊の原因はシューラの裏切りだったからね。」

「裏切り?」

「そう。帝国騎士団が進攻しているどさくさで、俺とシューラが砦と補給部隊のせん滅をしてから、大暴れしたんだ。」
 マルコムは片頬を歪め歯をギリっと噛みしめて物騒な笑みを浮かべていた。
 ただ、痛ましいというよりも何か吹っ切れているような笑みだ。

 そして、ミナミは付き合いは短いがマルコム達の事をわかってきたので、彼がおびただしい犠牲を出したのは確信した。

「…正直、俺とシューラを帝国騎士団が追っているのは無理があるんだよな。」
 マルコムはさっきの表情とは打って変わって、少し悲しそうに笑った。

「それはマルコム達のお陰で皇国が滅んだから?」

「それもあるかもしれないけど、帝国騎士団は完全にサンズさんとリランの感情に左右される集団ってことだよ。
 あの二人の取り戻せないものを取り戻そうとするあがきに付き合わされているんだよ。
 騎士団も俺もシューラも…ね。」
 マルコムの言っていることの詳しい内容はわからないが、帝国騎士団とはあの形になるまでに多くを失ったらしい。
 もしかしたら、その失った中にマルコムの友人でミナミに似ている女性もいたのかもしれない。

 しかし、ミナミは引っ掛かった。

「帝国騎士団の目的って…マルコム達を追う理由と同じなのかな?」
 ミナミは事情をよく知らない。
 だが、マルコムとシューラが追われている事実と、帝国騎士団の動きがフロレンス親子を良く知るマルコムが彼等の性質からかけ離れたものであると思っていることを知っている。

 今のマルコムの話を聞くと、マルコムは追われる理由をわかっているようだ。
 もちろんマルコムが思っている理由以外もあるかもしれないし、その取り戻せないものが何かもわからない。

 もし、マルコムの言う通り二人を帝国騎士団が追うのがフロレンス親子のあがきだとしたら、傍から見たら二人は追われる理由が不自然なのかもしれない。
 それと、マルコム達が言っていた帝国騎士団の動きの不気味さだ。つまりフロレンス親子の意志で動くが二人を知っているマルコム達からすると不自然に思える動き。

「私、詳しくないけど不自然が二つあったら同じように考えちゃうかもしれない…というよりも二つも理由が…」
 ミナミは複数のことを一気に考えることが苦手で、ゆっくりと考える方の人間だ。
 それを主張しようとマルコムを見たら、マルコムが目を見開いて顔を青くしていたので言葉を止めてしまった。

「マルコム…?」

「…いや、君の言う通りかもしれない…
 でも、それなら彼らは俺に何を望んでいるんだ?」
 マルコムは顔を青くしたまま、首を振って舌打ちをした。

 ただ、その様子からマルコムは、ミナミの言った通り帝国騎士団が二人を追う目的と帝国騎士団の動きの目的が重なるものだと確信したようだ。

 事情を知らないミナミは、帝国騎士団の目的もマルコム達が追われる本当の理由もわからない。
 しかし、マルコムの様子から考えるといいことではないようだ。

「この話は一旦おいておこう。重いし、不確定なことばかりだから。」
 マルコムは少し考えた様子を見せてから、何かを振り払うように首を振って言った。
 もちろんミナミはこの話を置いておくのに賛成だ。

 むしろ、ミナミの呟きからここまで深い話に発展してしまって、申し訳なく思っている。
 疑問があっても、もう少し考えてから発言するようにしよう。

 マルコムとシューラに対して遠慮が無くなっているのかもしれない。
 ミナミは気安いというよりも、礼儀知らずになっているかもしれないと反省した。

「君が何を考えているのかわからないけど、今の話は俺にとって多分大事な気づきだったから、そんなしょげた顔しない。」
 マルコムはミナミを見て呆れた顔をしている。

 その言葉を聞いてミナミは自分が無意識に口を尖らせていたことに気付いた。
 癖になっているので、気を付けないといけない。

 それにマルコムの気遣いも嬉しい。
 やはりマルコムは性格に問題があるが、優しい。

「ありがとうマルコム。」
 ミナミは嬉しかったのでお礼を言った。

 会話に夢中になって忘れていたが、ミナミたちはびしょ濡れになって戻って来たので、拭いたとはいっても体はまだ濡れている。
 マルコムは小屋の中心で火を起こして暖を取れるようにいた。

 この小屋は、壁と屋根だけある状態で床が土なのだ。
 なので、床が燃えることは無い。
 ただ、換気は気を付けた方がいいらしく、マルコムは小屋の扉を軽く開いていた。

 ミナミも火を見ていると、体が冷えていたことに気付いたので、焚火の傍に座った。

「じゃあ、目の前の話をするけど、シューラたちが町に行った目的を話すね。」
 焚火を挟んで向かいに座るマルコムはミナミを見て言った。

 まず、魔獣の問題を訴えた功績を作る事が大事だ。
 以前に行ったことがあるらしいが、取り合ってもらえなかったということから記録に残っていない場合がある。

「上が知らなかったからどうしようもなかった…っていう逃げをなくすためだよ。
 情報を押し付ける必要があるんだよ。たとえ情報を見てなくても、見れる位置にあったという事実が必要だ。」
 マルコムは既成事実を作るってことだよ…と付け加えた。

 それに加え、ミナミが言っていた通りこのあたりの領主がホクトと仲が良いのなら、帝国側やオリオンは無力化したいだろう。
 まして、国境を任せるのは不安しかない。

 つまり、領主のさらに上の者たちは少しでも非があると、それを引き上げて対策してくれる可能性が高いのだ。
 そうなったとき、領主を始めとする役人たちは村人や末端の兵士に原因を押し付ける可能性が高い。というよりもほぼそうすると思われる。

「だから、彼等には存分に保身に走って貰って、責任は全て領主たちに受けてもらうんだよ。
 それで魔獣対策は国の手に渡る。下手な位置ならうやむやにできるけどここは国境だよ。
 他国に魔獣が渡ったら責任問題にもなるかもしれない。」
 マルコムはあくどい笑みを浮かべている。
 その様子から、彼は本当にこのあたりの領主にいい感情を持っていないようだ。
 会ったことが無くても、この状況は思うところがあるのだろう。

「なるほど!
 確かに、今だったら帝国騎士団の方が王国の貴族よりも評判が良くなっているし、凶暴な魔獣を放置した実績があれば兵士たちや村人、もしかしたら町の人も大手を振るって領主さん達を非難できるもんね!」
 そういえば、ダウスト村で盗賊対策の際に村人へ勧告をする必要性について話していたのを思い出した。

 勧告、報告することが盗賊に協力したら攻撃するという宣戦布告にもなっていた。
 ちょっとそれに似ている。

「じゃあ、マルコムが言っていた既成事実は、私たちやここの村人にとって武器になるものでなくて、国とか領主の下にいる人たちが攻撃するための武器になるんだね。」

「そうだよ。思ったよりも物分かりがいいね。」
 マルコムは感心したように頷いていた。

 多分褒められたと思うので、ミナミは嬉しくてニコニコした。

『人間とは面倒なものだ…深く考えずに強きものが上に立てばよいものを…』
 コロはマルコムのひざ元で唸りながら言った。

「獣は小物ほど力に従順だけど、人間は小物は部をわきまえないものが多いから難しいよ。」
 マルコムは辛らつに言った。
 彼の言っていることはよくわからないが、とりあえずマルコムは部をわきまえない人が嫌いなのはわかった。

 ふと、彼がエラを嫌っていた理由がわかった。

「だからマルコムはエラさん嫌いだったんだね!」
 ミナミはどういう経路で納得したのかは言わずに、ただ納得したことを言った。

「君って変なところで敏いけど、やっぱり失礼だよね」
 マルコムは何とも言えない表情でミナミを見ていた。
 その彼の足元ではコロも同じような顔をしていた。
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