213 / 326
ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~
鼻の利く青年
しおりを挟む
※グロい描写があります。
__________________________________
コロの言った通り、シューラはすぐに帰ってきた。
ミナミでもわかるほど血の匂いがしたので、コロはとても不機嫌そうにシャーシャー言っている。
「村で多少話をするから二人とも来て。
あとコロは留守番かミナミの鞄に入って。」
シューラは小屋の中に入るわけでなく、入口から顔を出して言った。
「じゃあコロおいで!」
ミナミは自分の鞄を広げてコロに向けた。
コロは一瞬戸惑っているが、マルコムがコロを掴み鞄に突っ込んだ。
グニャア…とコロが呻いたが、尻尾がふわふわと動いていたので問題ないようだ。
ミナミはそのまま鞄を閉じて背負った。
鞄の中でコロがゴロゴロと動いているが、体勢を整えているのだろう。
一連の流れを見ていたシューラが
「君たちって似たレベルでガサツだよね…」
と顔を引きつらせて言っていた。
マルコムがガサツなのはなんとなくわかってきたが、ミナミは自分がガサツとは思ったことが無い。
ちょっと心外だった。
村に行くとしても石造りの倉庫にしか人はいない。
ミナミたちは石造りの倉庫に向かおうとした。
「建物の外に待ってもらっているよ。」
シューラは倉庫の中ではなく、倉庫の裏を指して言った。
「魔獣の死体を持って帰って来たから、建物の中に入れるわけにいかないでしょ?」
シューラは鼻をつまんで言った。
彼も臭いと思っているらしい。そういえばシューラは鼻が利くのだった。
「君は持ってないんだね。臭いから持っていると思っていた。」
「かなりの数を切り倒したから臭いが付いたんだ。村人たちに持って帰って貰った。僕は鼻が曲がるから無理。」
マルコムの言葉に対してシューラは鼻の上に皺を寄せて言った。
かなり臭いのだろう。
ミナミでさえ臭いがわかるのだから当然だ。
「血の匂いとかって魔獣がつられてきたりしないの?」
ミナミは獣は血の匂いに釣られて来る…と聞いたことがあったので、聞いてみた。
「海の魔獣はそうだよね。確かに魔獣も血の匂いに釣られてくるけどあくまで獲物の血の匂いだよ。
同族の血の匂いはむしろ警戒して寄ってこない…はずだけどね。」
シューラはちょっと濁して言った。
「ただ、生態が曖昧だから魔獣除けの薬草の粉末を村人にかけたから大丈夫だと思う。」
「なにそれ?俺初めて聞いたけど?」
マルコムは驚いた声を上げた。
そう言えば、魔獣寄せの薬草は扱ったが逆は無かった気がした。
それにしてもシューラは色々知っている。
「だって、僕ら必要なかったでしょ?」
「これからは必要だから後で詳しく」
マルコムはチラリとミナミを見てから言った。
確かに二人だけの旅なら必要ないかもしれない。
しかし、ミナミがいたら違うはずだ。
シューラはマルコムの言葉に納得したように頷いた。
「まあ、実はその魔獣除けは僕の実家の秘伝でもあるんだけど…今更いいか」
と諦めたように呟いた。
なんと、かなり貴重な物のようだ。
建物の裏には村長のレドがいた。
それにミナミたちに絡んできたゴロツキの髭面の男と太った男がいた。
それに何人かの男の村人が血まみれの物体をごちゃごちゃと扱っている。
あれがきっと魔獣の死体だろう。
ちょっと気持ち悪い。
「イシュ殿。話があるとお聞きしました。」
レドは礼儀正しくシューラに頭を下げて言った。
今更ながら、農村育ちにしては不自然なほど頭を綺麗に下げることに慣れている。
「ああ。えっとそこの太っている奴が他の村から来たやつだよね。」
シューラは太っている男を指して言った。
中々失礼だと思うが、気を遣わないのはシューラらしい。
「そうとう苛立っているね…何があったんだろうね?」
マルコムはシューラの様子を見て楽しそうに呟いた。
ミナミはその様子を見て、きっとシューラが苛立っている理由を知っているのだろうと察した。
マルコムはやはり性格に問題があるな…とつくづく思った。
失礼なシューラの物言いに文句を言わずに太った男は頷いた。
よくよく見ると後ろで魔獣の死体を扱っている村人たちは、シューラの様子をうかがうようにチラチラ見ている。
この中でシューラが強者なのがよくわかる。
「魔獣の発生地とか考えてみて、辿ってみたんだよね。おそらく魔獣のねぐらは他の廃村だと思う。
この魔獣たちの死体をよく見て欲しいけど…」
シューラは解体されている魔獣の死体を指して言った。
シューラの言葉を受けて、魔獣の死体を触っていた村人たちはいっせいに体をどかせた。
シューラは魔獣の死体に近寄ってレドを始めとする村人に見るように促した。
ミナミも促されるまま見ようとしたが、マルコムに目を塞がれた。
どうやらミナミにはまだ早いものらしい。
「これメスなんだよね。そしてほら、胎内に…繁殖するにしてもねぐらから離れた場所にメスがうろついているとは考えにくい。
そもそも餌場認定されているんだから近くにねぐらがあると思っていたから納得だよ。
あと、こいつの足の造りから短期間で大移動できない。ここの筋を解体したらわかっただろうけどすぐに切れたでしょ?
幸い泳ぐ能力もなさそうだからすぐに国境を超えることは難しいだろうね。
対策としては籠城戦で逃げながら戦って餌になるものを遠ざけるのが一番だね。
だから、この村でこの建物に引きこもったのは正解だよ。」
シューラは何やら死体をグニグニ動かしながら言っている。
ミナミはシューラの声と死体がグニグニってされていることしかわからない。
ただ、村人たちがおーっとか納得している声が聞こえるので、いい報告なようだ。
「で、結論は?」
マルコムがミナミの後で言った。
急に言ったからびっくりしたが、マルコムはミナミの目を塞いでいるので傍にいて当然なのだ。
視界が無いと驚くことが多い。
「君の言った通り、町へ状況を訴えて包囲して潰すのが一番だよ。
あと、辛いだろうけど魔獣の餌になったと思われる人数も把握してほしい。
どの程度まで増えるか…っていう目安がわかるからね。」
「だから他の村の人が必要か…」
マルコムは納得しように言った。
なんとなく周りの空気が変わったので、村人たちも方向性を定めたのだろう。
ミナミはマルコムに目を塞がれたままだったが、人が動く気配と音がしたので状況が動き始めているらしい。
「じゃあ、僕は村長さんと町に行くから君たちは籠城の準備を…」
と言ってシューラは村長のレドと町に向かったようだ。
ミナミはまだマルコムに目を塞がれたままだ。
「マ…モニエル。あの、もう見ても大丈夫?」
ミナミはまだ見てはいけないものがあるのか…とドキドキしてマルコムに聞いた。
「あ、忘れていた。」
マルコムはそう言うと手を外した。
なるほど。マルコムはミナミの目を塞いでいるのを忘れていたようだ。
意外にうっかりさんなところがあるらしい。
ミナミは少しマルコムに親近感を持った。
手を離されてから周りを見ると、もうすでに魔獣の死体は処理されていた。
綺麗に分類されており、赤い塊と毛皮が分かれている。
そして村人たちはチラチラとマルコムをうかがうように見ている。
「ちょっとこの赤い部分貰っていい?
あと、見たいから毛皮は持って行っていいよ。」
マルコムは特に使えなさそうな赤い塊を欲しがったのだ。
それには村人も驚いた顔をしたが、たぶん処分するつもりだったのだろう。
頷いて彼らは毛皮を桶に入れて持って行った。
あれをきっと洗うのだろう。
石造りの倉庫に裏にはミナミと鞄に入ったコロとマルコムだけになった。
村人たちは魔獣の残骸である赤い塊を避けるようにしてそそくさといなくなった。
確かに忌避するものであるし、ミナミたちにとっては人目が無くなるのは話やすいので好都合だ。
「魔獣の肉と言っても、人間を食べているのは確実だから食用にするのも気が引けるでしょ。」
マルコムは赤い塊になった魔獣の残骸を見下ろして言った。
確かに人間を食べていた魔獣の肉は食べたくない。
まして、村人たちは家族を食べられたかもしれないのだ。
「でもどうしてこっちを見るの?」
ミナミは先ほどは視界を塞がれたが、今は塞がれていないのに不思議に思いながら尋ねた。
「さっきシューラが確認するように目配せをしていた。
あと、君が見ない方がいいものは除けたから大丈夫だと思うけど、気分が悪くなったら見なくていいよ。」
マルコムはチラリとミナミを見て言った。
なるほど。気を遣ってくれているようだ。
「大丈夫だよ。」
ミナミは何を避けたのかわからなかったが、気遣いが嬉しかった。
それに赤い塊は気持ち悪いが、ここで見ないことを選択したらだめな気がする。
ちなみにミナミは知らないが、マルコムが目を隠した理由は魔獣の体内から人間の身体の一部がはっきりとわかる形で出て来たからである。
魔獣の内臓程度はミナミは平気だろうが、人間はちょっと厳しいだろうと思ったのだ。
外で解体していた村人たちも魔獣が人間を食べていたのを知っているのに加え、それを見たからこそ赤い塊の処分を検討していたのだ。
『流石ご主人様だ…我よりも早く気付いていたとは…』
背中の鞄の中のコロがフニャフニャと鼻息荒く言った。
ミナミもマルコムもコロの発言の意味がわからない。
なので、二人で首を傾げてから鞄を見た。
『お主ら二人は魔力の味の通り繊細さの欠片もないようだな。
無骨者はそこの赤い塊の中にある心の臓を開くとわかるだろう。
娘は動くな。我はこれ以上臭いものに近づきたくな…』
コロがマルコムに指示を出したので、ミナミはマルコムの作業を見るためにコロが話し終わる前に覗き込んだ。
背中でコロがシャーっと言っている気がするが、気になるので仕方ないのだ。
マルコムは小さいナイフを取り出して、赤い塊で一番大きい丸い塊に刺した。
なるほど、あれが心臓なのか。
ミナミは勉強になった。
カツンとナイフの刃が何かに当たる男が聞こえた。
石でもあるのだろうか?
「…なるほど。流石シューラだね。」
マルコムは察したようで頷いて言った。
口元に笑みを浮かべているので、心の底からシューラを称賛しているのだろう。
「シューラはこれを倒したから村に戻って来たんだ。
群れの中心の証、魔獣の魔石持ちだよ。」
マルコムはためらいなくナイフを入れた心臓に手を突っ込んで中から何かを取り出した。
ミナミの背中の鞄から
『きっちゃない』
とコロの呟きが聞こえた。
マルコムが取り出したのは、ミナミの親指ほどの大きさのキラキラした石だった。
どうやらそれが魔獣の魔石らしい。
__________________________________
コロの言った通り、シューラはすぐに帰ってきた。
ミナミでもわかるほど血の匂いがしたので、コロはとても不機嫌そうにシャーシャー言っている。
「村で多少話をするから二人とも来て。
あとコロは留守番かミナミの鞄に入って。」
シューラは小屋の中に入るわけでなく、入口から顔を出して言った。
「じゃあコロおいで!」
ミナミは自分の鞄を広げてコロに向けた。
コロは一瞬戸惑っているが、マルコムがコロを掴み鞄に突っ込んだ。
グニャア…とコロが呻いたが、尻尾がふわふわと動いていたので問題ないようだ。
ミナミはそのまま鞄を閉じて背負った。
鞄の中でコロがゴロゴロと動いているが、体勢を整えているのだろう。
一連の流れを見ていたシューラが
「君たちって似たレベルでガサツだよね…」
と顔を引きつらせて言っていた。
マルコムがガサツなのはなんとなくわかってきたが、ミナミは自分がガサツとは思ったことが無い。
ちょっと心外だった。
村に行くとしても石造りの倉庫にしか人はいない。
ミナミたちは石造りの倉庫に向かおうとした。
「建物の外に待ってもらっているよ。」
シューラは倉庫の中ではなく、倉庫の裏を指して言った。
「魔獣の死体を持って帰って来たから、建物の中に入れるわけにいかないでしょ?」
シューラは鼻をつまんで言った。
彼も臭いと思っているらしい。そういえばシューラは鼻が利くのだった。
「君は持ってないんだね。臭いから持っていると思っていた。」
「かなりの数を切り倒したから臭いが付いたんだ。村人たちに持って帰って貰った。僕は鼻が曲がるから無理。」
マルコムの言葉に対してシューラは鼻の上に皺を寄せて言った。
かなり臭いのだろう。
ミナミでさえ臭いがわかるのだから当然だ。
「血の匂いとかって魔獣がつられてきたりしないの?」
ミナミは獣は血の匂いに釣られて来る…と聞いたことがあったので、聞いてみた。
「海の魔獣はそうだよね。確かに魔獣も血の匂いに釣られてくるけどあくまで獲物の血の匂いだよ。
同族の血の匂いはむしろ警戒して寄ってこない…はずだけどね。」
シューラはちょっと濁して言った。
「ただ、生態が曖昧だから魔獣除けの薬草の粉末を村人にかけたから大丈夫だと思う。」
「なにそれ?俺初めて聞いたけど?」
マルコムは驚いた声を上げた。
そう言えば、魔獣寄せの薬草は扱ったが逆は無かった気がした。
それにしてもシューラは色々知っている。
「だって、僕ら必要なかったでしょ?」
「これからは必要だから後で詳しく」
マルコムはチラリとミナミを見てから言った。
確かに二人だけの旅なら必要ないかもしれない。
しかし、ミナミがいたら違うはずだ。
シューラはマルコムの言葉に納得したように頷いた。
「まあ、実はその魔獣除けは僕の実家の秘伝でもあるんだけど…今更いいか」
と諦めたように呟いた。
なんと、かなり貴重な物のようだ。
建物の裏には村長のレドがいた。
それにミナミたちに絡んできたゴロツキの髭面の男と太った男がいた。
それに何人かの男の村人が血まみれの物体をごちゃごちゃと扱っている。
あれがきっと魔獣の死体だろう。
ちょっと気持ち悪い。
「イシュ殿。話があるとお聞きしました。」
レドは礼儀正しくシューラに頭を下げて言った。
今更ながら、農村育ちにしては不自然なほど頭を綺麗に下げることに慣れている。
「ああ。えっとそこの太っている奴が他の村から来たやつだよね。」
シューラは太っている男を指して言った。
中々失礼だと思うが、気を遣わないのはシューラらしい。
「そうとう苛立っているね…何があったんだろうね?」
マルコムはシューラの様子を見て楽しそうに呟いた。
ミナミはその様子を見て、きっとシューラが苛立っている理由を知っているのだろうと察した。
マルコムはやはり性格に問題があるな…とつくづく思った。
失礼なシューラの物言いに文句を言わずに太った男は頷いた。
よくよく見ると後ろで魔獣の死体を扱っている村人たちは、シューラの様子をうかがうようにチラチラ見ている。
この中でシューラが強者なのがよくわかる。
「魔獣の発生地とか考えてみて、辿ってみたんだよね。おそらく魔獣のねぐらは他の廃村だと思う。
この魔獣たちの死体をよく見て欲しいけど…」
シューラは解体されている魔獣の死体を指して言った。
シューラの言葉を受けて、魔獣の死体を触っていた村人たちはいっせいに体をどかせた。
シューラは魔獣の死体に近寄ってレドを始めとする村人に見るように促した。
ミナミも促されるまま見ようとしたが、マルコムに目を塞がれた。
どうやらミナミにはまだ早いものらしい。
「これメスなんだよね。そしてほら、胎内に…繁殖するにしてもねぐらから離れた場所にメスがうろついているとは考えにくい。
そもそも餌場認定されているんだから近くにねぐらがあると思っていたから納得だよ。
あと、こいつの足の造りから短期間で大移動できない。ここの筋を解体したらわかっただろうけどすぐに切れたでしょ?
幸い泳ぐ能力もなさそうだからすぐに国境を超えることは難しいだろうね。
対策としては籠城戦で逃げながら戦って餌になるものを遠ざけるのが一番だね。
だから、この村でこの建物に引きこもったのは正解だよ。」
シューラは何やら死体をグニグニ動かしながら言っている。
ミナミはシューラの声と死体がグニグニってされていることしかわからない。
ただ、村人たちがおーっとか納得している声が聞こえるので、いい報告なようだ。
「で、結論は?」
マルコムがミナミの後で言った。
急に言ったからびっくりしたが、マルコムはミナミの目を塞いでいるので傍にいて当然なのだ。
視界が無いと驚くことが多い。
「君の言った通り、町へ状況を訴えて包囲して潰すのが一番だよ。
あと、辛いだろうけど魔獣の餌になったと思われる人数も把握してほしい。
どの程度まで増えるか…っていう目安がわかるからね。」
「だから他の村の人が必要か…」
マルコムは納得しように言った。
なんとなく周りの空気が変わったので、村人たちも方向性を定めたのだろう。
ミナミはマルコムに目を塞がれたままだったが、人が動く気配と音がしたので状況が動き始めているらしい。
「じゃあ、僕は村長さんと町に行くから君たちは籠城の準備を…」
と言ってシューラは村長のレドと町に向かったようだ。
ミナミはまだマルコムに目を塞がれたままだ。
「マ…モニエル。あの、もう見ても大丈夫?」
ミナミはまだ見てはいけないものがあるのか…とドキドキしてマルコムに聞いた。
「あ、忘れていた。」
マルコムはそう言うと手を外した。
なるほど。マルコムはミナミの目を塞いでいるのを忘れていたようだ。
意外にうっかりさんなところがあるらしい。
ミナミは少しマルコムに親近感を持った。
手を離されてから周りを見ると、もうすでに魔獣の死体は処理されていた。
綺麗に分類されており、赤い塊と毛皮が分かれている。
そして村人たちはチラチラとマルコムをうかがうように見ている。
「ちょっとこの赤い部分貰っていい?
あと、見たいから毛皮は持って行っていいよ。」
マルコムは特に使えなさそうな赤い塊を欲しがったのだ。
それには村人も驚いた顔をしたが、たぶん処分するつもりだったのだろう。
頷いて彼らは毛皮を桶に入れて持って行った。
あれをきっと洗うのだろう。
石造りの倉庫に裏にはミナミと鞄に入ったコロとマルコムだけになった。
村人たちは魔獣の残骸である赤い塊を避けるようにしてそそくさといなくなった。
確かに忌避するものであるし、ミナミたちにとっては人目が無くなるのは話やすいので好都合だ。
「魔獣の肉と言っても、人間を食べているのは確実だから食用にするのも気が引けるでしょ。」
マルコムは赤い塊になった魔獣の残骸を見下ろして言った。
確かに人間を食べていた魔獣の肉は食べたくない。
まして、村人たちは家族を食べられたかもしれないのだ。
「でもどうしてこっちを見るの?」
ミナミは先ほどは視界を塞がれたが、今は塞がれていないのに不思議に思いながら尋ねた。
「さっきシューラが確認するように目配せをしていた。
あと、君が見ない方がいいものは除けたから大丈夫だと思うけど、気分が悪くなったら見なくていいよ。」
マルコムはチラリとミナミを見て言った。
なるほど。気を遣ってくれているようだ。
「大丈夫だよ。」
ミナミは何を避けたのかわからなかったが、気遣いが嬉しかった。
それに赤い塊は気持ち悪いが、ここで見ないことを選択したらだめな気がする。
ちなみにミナミは知らないが、マルコムが目を隠した理由は魔獣の体内から人間の身体の一部がはっきりとわかる形で出て来たからである。
魔獣の内臓程度はミナミは平気だろうが、人間はちょっと厳しいだろうと思ったのだ。
外で解体していた村人たちも魔獣が人間を食べていたのを知っているのに加え、それを見たからこそ赤い塊の処分を検討していたのだ。
『流石ご主人様だ…我よりも早く気付いていたとは…』
背中の鞄の中のコロがフニャフニャと鼻息荒く言った。
ミナミもマルコムもコロの発言の意味がわからない。
なので、二人で首を傾げてから鞄を見た。
『お主ら二人は魔力の味の通り繊細さの欠片もないようだな。
無骨者はそこの赤い塊の中にある心の臓を開くとわかるだろう。
娘は動くな。我はこれ以上臭いものに近づきたくな…』
コロがマルコムに指示を出したので、ミナミはマルコムの作業を見るためにコロが話し終わる前に覗き込んだ。
背中でコロがシャーっと言っている気がするが、気になるので仕方ないのだ。
マルコムは小さいナイフを取り出して、赤い塊で一番大きい丸い塊に刺した。
なるほど、あれが心臓なのか。
ミナミは勉強になった。
カツンとナイフの刃が何かに当たる男が聞こえた。
石でもあるのだろうか?
「…なるほど。流石シューラだね。」
マルコムは察したようで頷いて言った。
口元に笑みを浮かべているので、心の底からシューラを称賛しているのだろう。
「シューラはこれを倒したから村に戻って来たんだ。
群れの中心の証、魔獣の魔石持ちだよ。」
マルコムはためらいなくナイフを入れた心臓に手を突っ込んで中から何かを取り出した。
ミナミの背中の鞄から
『きっちゃない』
とコロの呟きが聞こえた。
マルコムが取り出したのは、ミナミの親指ほどの大きさのキラキラした石だった。
どうやらそれが魔獣の魔石らしい。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。
※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。
そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。
だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!!
しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。
ーーそれは《竜族語》
レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。
それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。
一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた……
これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。
※30話程で完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる