世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記

吉世大海(キッセイヒロミ)

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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

鼻の利く青年

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 ※グロい描写があります。

__________________________________
 

 コロの言った通り、シューラはすぐに帰ってきた。

 ミナミでもわかるほど血の匂いがしたので、コロはとても不機嫌そうにシャーシャー言っている。



「村で多少話をするから二人とも来て。

 あとコロは留守番かミナミの鞄に入って。」

 シューラは小屋の中に入るわけでなく、入口から顔を出して言った。



「じゃあコロおいで!」

 ミナミは自分の鞄を広げてコロに向けた。

 コロは一瞬戸惑っているが、マルコムがコロを掴み鞄に突っ込んだ。

 グニャア…とコロが呻いたが、尻尾がふわふわと動いていたので問題ないようだ。



 ミナミはそのまま鞄を閉じて背負った。

 鞄の中でコロがゴロゴロと動いているが、体勢を整えているのだろう。



 一連の流れを見ていたシューラが

「君たちって似たレベルでガサツだよね…」

 と顔を引きつらせて言っていた。



 マルコムがガサツなのはなんとなくわかってきたが、ミナミは自分がガサツとは思ったことが無い。

 ちょっと心外だった。





 村に行くとしても石造りの倉庫にしか人はいない。

 ミナミたちは石造りの倉庫に向かおうとした。



「建物の外に待ってもらっているよ。」

 シューラは倉庫の中ではなく、倉庫の裏を指して言った。



「魔獣の死体を持って帰って来たから、建物の中に入れるわけにいかないでしょ?」

 シューラは鼻をつまんで言った。

 彼も臭いと思っているらしい。そういえばシューラは鼻が利くのだった。



「君は持ってないんだね。臭いから持っていると思っていた。」



「かなりの数を切り倒したから臭いが付いたんだ。村人たちに持って帰って貰った。僕は鼻が曲がるから無理。」

 マルコムの言葉に対してシューラは鼻の上に皺を寄せて言った。

 かなり臭いのだろう。

 ミナミでさえ臭いがわかるのだから当然だ。



「血の匂いとかって魔獣がつられてきたりしないの?」

 ミナミは獣は血の匂いに釣られて来る…と聞いたことがあったので、聞いてみた。



「海の魔獣はそうだよね。確かに魔獣も血の匂いに釣られてくるけどあくまで獲物の血の匂いだよ。

 同族の血の匂いはむしろ警戒して寄ってこない…はずだけどね。」

 シューラはちょっと濁して言った。



「ただ、生態が曖昧だから魔獣除けの薬草の粉末を村人にかけたから大丈夫だと思う。」



「なにそれ?俺初めて聞いたけど?」

 マルコムは驚いた声を上げた。

 そう言えば、魔獣寄せの薬草は扱ったが逆は無かった気がした。

 それにしてもシューラは色々知っている。



「だって、僕ら必要なかったでしょ?」



「これからは必要だから後で詳しく」

 マルコムはチラリとミナミを見てから言った。

 確かに二人だけの旅なら必要ないかもしれない。

 しかし、ミナミがいたら違うはずだ。



 シューラはマルコムの言葉に納得したように頷いた。

「まあ、実はその魔獣除けは僕の実家の秘伝でもあるんだけど…今更いいか」

 と諦めたように呟いた。



 なんと、かなり貴重な物のようだ。



 建物の裏には村長のレドがいた。

 それにミナミたちに絡んできたゴロツキの髭面の男と太った男がいた。



 それに何人かの男の村人が血まみれの物体をごちゃごちゃと扱っている。

 あれがきっと魔獣の死体だろう。

 ちょっと気持ち悪い。



「イシュ殿。話があるとお聞きしました。」

 レドは礼儀正しくシューラに頭を下げて言った。

 今更ながら、農村育ちにしては不自然なほど頭を綺麗に下げることに慣れている。



「ああ。えっとそこの太っている奴が他の村から来たやつだよね。」

 シューラは太っている男を指して言った。

 中々失礼だと思うが、気を遣わないのはシューラらしい。



「そうとう苛立っているね…何があったんだろうね?」

 マルコムはシューラの様子を見て楽しそうに呟いた。

 ミナミはその様子を見て、きっとシューラが苛立っている理由を知っているのだろうと察した。



 マルコムはやはり性格に問題があるな…とつくづく思った。



 失礼なシューラの物言いに文句を言わずに太った男は頷いた。

 よくよく見ると後ろで魔獣の死体を扱っている村人たちは、シューラの様子をうかがうようにチラチラ見ている。



 この中でシューラが強者なのがよくわかる。



「魔獣の発生地とか考えてみて、辿ってみたんだよね。おそらく魔獣のねぐらは他の廃村だと思う。

 この魔獣たちの死体をよく見て欲しいけど…」

 シューラは解体されている魔獣の死体を指して言った。



 シューラの言葉を受けて、魔獣の死体を触っていた村人たちはいっせいに体をどかせた。

 シューラは魔獣の死体に近寄ってレドを始めとする村人に見るように促した。



 ミナミも促されるまま見ようとしたが、マルコムに目を塞がれた。

 どうやらミナミにはまだ早いものらしい。



「これメスなんだよね。そしてほら、胎内に…繁殖するにしてもねぐらから離れた場所にメスがうろついているとは考えにくい。

 そもそも餌場認定されているんだから近くにねぐらがあると思っていたから納得だよ。

 あと、こいつの足の造りから短期間で大移動できない。ここの筋を解体したらわかっただろうけどすぐに切れたでしょ?

 幸い泳ぐ能力もなさそうだからすぐに国境を超えることは難しいだろうね。

 対策としては籠城戦で逃げながら戦って餌になるものを遠ざけるのが一番だね。

 だから、この村でこの建物に引きこもったのは正解だよ。」

 シューラは何やら死体をグニグニ動かしながら言っている。

 ミナミはシューラの声と死体がグニグニってされていることしかわからない。



 ただ、村人たちがおーっとか納得している声が聞こえるので、いい報告なようだ。



「で、結論は?」

 マルコムがミナミの後で言った。

 急に言ったからびっくりしたが、マルコムはミナミの目を塞いでいるので傍にいて当然なのだ。

 視界が無いと驚くことが多い。



「君の言った通り、町へ状況を訴えて包囲して潰すのが一番だよ。

 あと、辛いだろうけど魔獣の餌になったと思われる人数も把握してほしい。

 どの程度まで増えるか…っていう目安がわかるからね。」



「だから他の村の人が必要か…」

 マルコムは納得しように言った。

 なんとなく周りの空気が変わったので、村人たちも方向性を定めたのだろう。



 ミナミはマルコムに目を塞がれたままだったが、人が動く気配と音がしたので状況が動き始めているらしい。



「じゃあ、僕は村長さんと町に行くから君たちは籠城の準備を…」

 と言ってシューラは村長のレドと町に向かったようだ。



 ミナミはまだマルコムに目を塞がれたままだ。



「マ…モニエル。あの、もう見ても大丈夫?」

 ミナミはまだ見てはいけないものがあるのか…とドキドキしてマルコムに聞いた。



「あ、忘れていた。」

 マルコムはそう言うと手を外した。

 なるほど。マルコムはミナミの目を塞いでいるのを忘れていたようだ。



 意外にうっかりさんなところがあるらしい。

 ミナミは少しマルコムに親近感を持った。



 手を離されてから周りを見ると、もうすでに魔獣の死体は処理されていた。

 綺麗に分類されており、赤い塊と毛皮が分かれている。



 そして村人たちはチラチラとマルコムをうかがうように見ている。



「ちょっとこの赤い部分貰っていい?

 あと、見たいから毛皮は持って行っていいよ。」

 マルコムは特に使えなさそうな赤い塊を欲しがったのだ。



 それには村人も驚いた顔をしたが、たぶん処分するつもりだったのだろう。

 頷いて彼らは毛皮を桶に入れて持って行った。

 あれをきっと洗うのだろう。



 石造りの倉庫に裏にはミナミと鞄に入ったコロとマルコムだけになった。

 村人たちは魔獣の残骸である赤い塊を避けるようにしてそそくさといなくなった。

 確かに忌避するものであるし、ミナミたちにとっては人目が無くなるのは話やすいので好都合だ。



「魔獣の肉と言っても、人間を食べているのは確実だから食用にするのも気が引けるでしょ。」

 マルコムは赤い塊になった魔獣の残骸を見下ろして言った。



 確かに人間を食べていた魔獣の肉は食べたくない。

 まして、村人たちは家族を食べられたかもしれないのだ。



「でもどうしてこっちを見るの?」

 ミナミは先ほどは視界を塞がれたが、今は塞がれていないのに不思議に思いながら尋ねた。



「さっきシューラが確認するように目配せをしていた。

 あと、君が見ない方がいいものは除けたから大丈夫だと思うけど、気分が悪くなったら見なくていいよ。」

 マルコムはチラリとミナミを見て言った。

 なるほど。気を遣ってくれているようだ。



「大丈夫だよ。」

 ミナミは何を避けたのかわからなかったが、気遣いが嬉しかった。

 それに赤い塊は気持ち悪いが、ここで見ないことを選択したらだめな気がする。



 ちなみにミナミは知らないが、マルコムが目を隠した理由は魔獣の体内から人間の身体の一部がはっきりとわかる形で出て来たからである。

 魔獣の内臓程度はミナミは平気だろうが、人間はちょっと厳しいだろうと思ったのだ。



 外で解体していた村人たちも魔獣が人間を食べていたのを知っているのに加え、それを見たからこそ赤い塊の処分を検討していたのだ。



『流石ご主人様だ…我よりも早く気付いていたとは…』

 背中の鞄の中のコロがフニャフニャと鼻息荒く言った。



 ミナミもマルコムもコロの発言の意味がわからない。

 なので、二人で首を傾げてから鞄を見た。



『お主ら二人は魔力の味の通り繊細さの欠片もないようだな。

 無骨者はそこの赤い塊の中にある心の臓を開くとわかるだろう。

 娘は動くな。我はこれ以上臭いものに近づきたくな…』

 コロがマルコムに指示を出したので、ミナミはマルコムの作業を見るためにコロが話し終わる前に覗き込んだ。



 背中でコロがシャーっと言っている気がするが、気になるので仕方ないのだ。



 マルコムは小さいナイフを取り出して、赤い塊で一番大きい丸い塊に刺した。

 なるほど、あれが心臓なのか。

 ミナミは勉強になった。



 カツンとナイフの刃が何かに当たる男が聞こえた。

 石でもあるのだろうか?



「…なるほど。流石シューラだね。」

 マルコムは察したようで頷いて言った。

 口元に笑みを浮かべているので、心の底からシューラを称賛しているのだろう。



「シューラはこれを倒したから村に戻って来たんだ。

 群れの中心の証、魔獣の魔石持ちだよ。」

 マルコムはためらいなくナイフを入れた心臓に手を突っ込んで中から何かを取り出した。



 ミナミの背中の鞄から

『きっちゃない』

 とコロの呟きが聞こえた。



 マルコムが取り出したのは、ミナミの親指ほどの大きさのキラキラした石だった。

 どうやらそれが魔獣の魔石らしい。

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