213 / 326
ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~
鼻の利く青年
しおりを挟む
※グロい描写があります。
__________________________________
コロの言った通り、シューラはすぐに帰ってきた。
ミナミでもわかるほど血の匂いがしたので、コロはとても不機嫌そうにシャーシャー言っている。
「村で多少話をするから二人とも来て。
あとコロは留守番かミナミの鞄に入って。」
シューラは小屋の中に入るわけでなく、入口から顔を出して言った。
「じゃあコロおいで!」
ミナミは自分の鞄を広げてコロに向けた。
コロは一瞬戸惑っているが、マルコムがコロを掴み鞄に突っ込んだ。
グニャア…とコロが呻いたが、尻尾がふわふわと動いていたので問題ないようだ。
ミナミはそのまま鞄を閉じて背負った。
鞄の中でコロがゴロゴロと動いているが、体勢を整えているのだろう。
一連の流れを見ていたシューラが
「君たちって似たレベルでガサツだよね…」
と顔を引きつらせて言っていた。
マルコムがガサツなのはなんとなくわかってきたが、ミナミは自分がガサツとは思ったことが無い。
ちょっと心外だった。
村に行くとしても石造りの倉庫にしか人はいない。
ミナミたちは石造りの倉庫に向かおうとした。
「建物の外に待ってもらっているよ。」
シューラは倉庫の中ではなく、倉庫の裏を指して言った。
「魔獣の死体を持って帰って来たから、建物の中に入れるわけにいかないでしょ?」
シューラは鼻をつまんで言った。
彼も臭いと思っているらしい。そういえばシューラは鼻が利くのだった。
「君は持ってないんだね。臭いから持っていると思っていた。」
「かなりの数を切り倒したから臭いが付いたんだ。村人たちに持って帰って貰った。僕は鼻が曲がるから無理。」
マルコムの言葉に対してシューラは鼻の上に皺を寄せて言った。
かなり臭いのだろう。
ミナミでさえ臭いがわかるのだから当然だ。
「血の匂いとかって魔獣がつられてきたりしないの?」
ミナミは獣は血の匂いに釣られて来る…と聞いたことがあったので、聞いてみた。
「海の魔獣はそうだよね。確かに魔獣も血の匂いに釣られてくるけどあくまで獲物の血の匂いだよ。
同族の血の匂いはむしろ警戒して寄ってこない…はずだけどね。」
シューラはちょっと濁して言った。
「ただ、生態が曖昧だから魔獣除けの薬草の粉末を村人にかけたから大丈夫だと思う。」
「なにそれ?俺初めて聞いたけど?」
マルコムは驚いた声を上げた。
そう言えば、魔獣寄せの薬草は扱ったが逆は無かった気がした。
それにしてもシューラは色々知っている。
「だって、僕ら必要なかったでしょ?」
「これからは必要だから後で詳しく」
マルコムはチラリとミナミを見てから言った。
確かに二人だけの旅なら必要ないかもしれない。
しかし、ミナミがいたら違うはずだ。
シューラはマルコムの言葉に納得したように頷いた。
「まあ、実はその魔獣除けは僕の実家の秘伝でもあるんだけど…今更いいか」
と諦めたように呟いた。
なんと、かなり貴重な物のようだ。
建物の裏には村長のレドがいた。
それにミナミたちに絡んできたゴロツキの髭面の男と太った男がいた。
それに何人かの男の村人が血まみれの物体をごちゃごちゃと扱っている。
あれがきっと魔獣の死体だろう。
ちょっと気持ち悪い。
「イシュ殿。話があるとお聞きしました。」
レドは礼儀正しくシューラに頭を下げて言った。
今更ながら、農村育ちにしては不自然なほど頭を綺麗に下げることに慣れている。
「ああ。えっとそこの太っている奴が他の村から来たやつだよね。」
シューラは太っている男を指して言った。
中々失礼だと思うが、気を遣わないのはシューラらしい。
「そうとう苛立っているね…何があったんだろうね?」
マルコムはシューラの様子を見て楽しそうに呟いた。
ミナミはその様子を見て、きっとシューラが苛立っている理由を知っているのだろうと察した。
マルコムはやはり性格に問題があるな…とつくづく思った。
失礼なシューラの物言いに文句を言わずに太った男は頷いた。
よくよく見ると後ろで魔獣の死体を扱っている村人たちは、シューラの様子をうかがうようにチラチラ見ている。
この中でシューラが強者なのがよくわかる。
「魔獣の発生地とか考えてみて、辿ってみたんだよね。おそらく魔獣のねぐらは他の廃村だと思う。
この魔獣たちの死体をよく見て欲しいけど…」
シューラは解体されている魔獣の死体を指して言った。
シューラの言葉を受けて、魔獣の死体を触っていた村人たちはいっせいに体をどかせた。
シューラは魔獣の死体に近寄ってレドを始めとする村人に見るように促した。
ミナミも促されるまま見ようとしたが、マルコムに目を塞がれた。
どうやらミナミにはまだ早いものらしい。
「これメスなんだよね。そしてほら、胎内に…繁殖するにしてもねぐらから離れた場所にメスがうろついているとは考えにくい。
そもそも餌場認定されているんだから近くにねぐらがあると思っていたから納得だよ。
あと、こいつの足の造りから短期間で大移動できない。ここの筋を解体したらわかっただろうけどすぐに切れたでしょ?
幸い泳ぐ能力もなさそうだからすぐに国境を超えることは難しいだろうね。
対策としては籠城戦で逃げながら戦って餌になるものを遠ざけるのが一番だね。
だから、この村でこの建物に引きこもったのは正解だよ。」
シューラは何やら死体をグニグニ動かしながら言っている。
ミナミはシューラの声と死体がグニグニってされていることしかわからない。
ただ、村人たちがおーっとか納得している声が聞こえるので、いい報告なようだ。
「で、結論は?」
マルコムがミナミの後で言った。
急に言ったからびっくりしたが、マルコムはミナミの目を塞いでいるので傍にいて当然なのだ。
視界が無いと驚くことが多い。
「君の言った通り、町へ状況を訴えて包囲して潰すのが一番だよ。
あと、辛いだろうけど魔獣の餌になったと思われる人数も把握してほしい。
どの程度まで増えるか…っていう目安がわかるからね。」
「だから他の村の人が必要か…」
マルコムは納得しように言った。
なんとなく周りの空気が変わったので、村人たちも方向性を定めたのだろう。
ミナミはマルコムに目を塞がれたままだったが、人が動く気配と音がしたので状況が動き始めているらしい。
「じゃあ、僕は村長さんと町に行くから君たちは籠城の準備を…」
と言ってシューラは村長のレドと町に向かったようだ。
ミナミはまだマルコムに目を塞がれたままだ。
「マ…モニエル。あの、もう見ても大丈夫?」
ミナミはまだ見てはいけないものがあるのか…とドキドキしてマルコムに聞いた。
「あ、忘れていた。」
マルコムはそう言うと手を外した。
なるほど。マルコムはミナミの目を塞いでいるのを忘れていたようだ。
意外にうっかりさんなところがあるらしい。
ミナミは少しマルコムに親近感を持った。
手を離されてから周りを見ると、もうすでに魔獣の死体は処理されていた。
綺麗に分類されており、赤い塊と毛皮が分かれている。
そして村人たちはチラチラとマルコムをうかがうように見ている。
「ちょっとこの赤い部分貰っていい?
あと、見たいから毛皮は持って行っていいよ。」
マルコムは特に使えなさそうな赤い塊を欲しがったのだ。
それには村人も驚いた顔をしたが、たぶん処分するつもりだったのだろう。
頷いて彼らは毛皮を桶に入れて持って行った。
あれをきっと洗うのだろう。
石造りの倉庫に裏にはミナミと鞄に入ったコロとマルコムだけになった。
村人たちは魔獣の残骸である赤い塊を避けるようにしてそそくさといなくなった。
確かに忌避するものであるし、ミナミたちにとっては人目が無くなるのは話やすいので好都合だ。
「魔獣の肉と言っても、人間を食べているのは確実だから食用にするのも気が引けるでしょ。」
マルコムは赤い塊になった魔獣の残骸を見下ろして言った。
確かに人間を食べていた魔獣の肉は食べたくない。
まして、村人たちは家族を食べられたかもしれないのだ。
「でもどうしてこっちを見るの?」
ミナミは先ほどは視界を塞がれたが、今は塞がれていないのに不思議に思いながら尋ねた。
「さっきシューラが確認するように目配せをしていた。
あと、君が見ない方がいいものは除けたから大丈夫だと思うけど、気分が悪くなったら見なくていいよ。」
マルコムはチラリとミナミを見て言った。
なるほど。気を遣ってくれているようだ。
「大丈夫だよ。」
ミナミは何を避けたのかわからなかったが、気遣いが嬉しかった。
それに赤い塊は気持ち悪いが、ここで見ないことを選択したらだめな気がする。
ちなみにミナミは知らないが、マルコムが目を隠した理由は魔獣の体内から人間の身体の一部がはっきりとわかる形で出て来たからである。
魔獣の内臓程度はミナミは平気だろうが、人間はちょっと厳しいだろうと思ったのだ。
外で解体していた村人たちも魔獣が人間を食べていたのを知っているのに加え、それを見たからこそ赤い塊の処分を検討していたのだ。
『流石ご主人様だ…我よりも早く気付いていたとは…』
背中の鞄の中のコロがフニャフニャと鼻息荒く言った。
ミナミもマルコムもコロの発言の意味がわからない。
なので、二人で首を傾げてから鞄を見た。
『お主ら二人は魔力の味の通り繊細さの欠片もないようだな。
無骨者はそこの赤い塊の中にある心の臓を開くとわかるだろう。
娘は動くな。我はこれ以上臭いものに近づきたくな…』
コロがマルコムに指示を出したので、ミナミはマルコムの作業を見るためにコロが話し終わる前に覗き込んだ。
背中でコロがシャーっと言っている気がするが、気になるので仕方ないのだ。
マルコムは小さいナイフを取り出して、赤い塊で一番大きい丸い塊に刺した。
なるほど、あれが心臓なのか。
ミナミは勉強になった。
カツンとナイフの刃が何かに当たる男が聞こえた。
石でもあるのだろうか?
「…なるほど。流石シューラだね。」
マルコムは察したようで頷いて言った。
口元に笑みを浮かべているので、心の底からシューラを称賛しているのだろう。
「シューラはこれを倒したから村に戻って来たんだ。
群れの中心の証、魔獣の魔石持ちだよ。」
マルコムはためらいなくナイフを入れた心臓に手を突っ込んで中から何かを取り出した。
ミナミの背中の鞄から
『きっちゃない』
とコロの呟きが聞こえた。
マルコムが取り出したのは、ミナミの親指ほどの大きさのキラキラした石だった。
どうやらそれが魔獣の魔石らしい。
__________________________________
コロの言った通り、シューラはすぐに帰ってきた。
ミナミでもわかるほど血の匂いがしたので、コロはとても不機嫌そうにシャーシャー言っている。
「村で多少話をするから二人とも来て。
あとコロは留守番かミナミの鞄に入って。」
シューラは小屋の中に入るわけでなく、入口から顔を出して言った。
「じゃあコロおいで!」
ミナミは自分の鞄を広げてコロに向けた。
コロは一瞬戸惑っているが、マルコムがコロを掴み鞄に突っ込んだ。
グニャア…とコロが呻いたが、尻尾がふわふわと動いていたので問題ないようだ。
ミナミはそのまま鞄を閉じて背負った。
鞄の中でコロがゴロゴロと動いているが、体勢を整えているのだろう。
一連の流れを見ていたシューラが
「君たちって似たレベルでガサツだよね…」
と顔を引きつらせて言っていた。
マルコムがガサツなのはなんとなくわかってきたが、ミナミは自分がガサツとは思ったことが無い。
ちょっと心外だった。
村に行くとしても石造りの倉庫にしか人はいない。
ミナミたちは石造りの倉庫に向かおうとした。
「建物の外に待ってもらっているよ。」
シューラは倉庫の中ではなく、倉庫の裏を指して言った。
「魔獣の死体を持って帰って来たから、建物の中に入れるわけにいかないでしょ?」
シューラは鼻をつまんで言った。
彼も臭いと思っているらしい。そういえばシューラは鼻が利くのだった。
「君は持ってないんだね。臭いから持っていると思っていた。」
「かなりの数を切り倒したから臭いが付いたんだ。村人たちに持って帰って貰った。僕は鼻が曲がるから無理。」
マルコムの言葉に対してシューラは鼻の上に皺を寄せて言った。
かなり臭いのだろう。
ミナミでさえ臭いがわかるのだから当然だ。
「血の匂いとかって魔獣がつられてきたりしないの?」
ミナミは獣は血の匂いに釣られて来る…と聞いたことがあったので、聞いてみた。
「海の魔獣はそうだよね。確かに魔獣も血の匂いに釣られてくるけどあくまで獲物の血の匂いだよ。
同族の血の匂いはむしろ警戒して寄ってこない…はずだけどね。」
シューラはちょっと濁して言った。
「ただ、生態が曖昧だから魔獣除けの薬草の粉末を村人にかけたから大丈夫だと思う。」
「なにそれ?俺初めて聞いたけど?」
マルコムは驚いた声を上げた。
そう言えば、魔獣寄せの薬草は扱ったが逆は無かった気がした。
それにしてもシューラは色々知っている。
「だって、僕ら必要なかったでしょ?」
「これからは必要だから後で詳しく」
マルコムはチラリとミナミを見てから言った。
確かに二人だけの旅なら必要ないかもしれない。
しかし、ミナミがいたら違うはずだ。
シューラはマルコムの言葉に納得したように頷いた。
「まあ、実はその魔獣除けは僕の実家の秘伝でもあるんだけど…今更いいか」
と諦めたように呟いた。
なんと、かなり貴重な物のようだ。
建物の裏には村長のレドがいた。
それにミナミたちに絡んできたゴロツキの髭面の男と太った男がいた。
それに何人かの男の村人が血まみれの物体をごちゃごちゃと扱っている。
あれがきっと魔獣の死体だろう。
ちょっと気持ち悪い。
「イシュ殿。話があるとお聞きしました。」
レドは礼儀正しくシューラに頭を下げて言った。
今更ながら、農村育ちにしては不自然なほど頭を綺麗に下げることに慣れている。
「ああ。えっとそこの太っている奴が他の村から来たやつだよね。」
シューラは太っている男を指して言った。
中々失礼だと思うが、気を遣わないのはシューラらしい。
「そうとう苛立っているね…何があったんだろうね?」
マルコムはシューラの様子を見て楽しそうに呟いた。
ミナミはその様子を見て、きっとシューラが苛立っている理由を知っているのだろうと察した。
マルコムはやはり性格に問題があるな…とつくづく思った。
失礼なシューラの物言いに文句を言わずに太った男は頷いた。
よくよく見ると後ろで魔獣の死体を扱っている村人たちは、シューラの様子をうかがうようにチラチラ見ている。
この中でシューラが強者なのがよくわかる。
「魔獣の発生地とか考えてみて、辿ってみたんだよね。おそらく魔獣のねぐらは他の廃村だと思う。
この魔獣たちの死体をよく見て欲しいけど…」
シューラは解体されている魔獣の死体を指して言った。
シューラの言葉を受けて、魔獣の死体を触っていた村人たちはいっせいに体をどかせた。
シューラは魔獣の死体に近寄ってレドを始めとする村人に見るように促した。
ミナミも促されるまま見ようとしたが、マルコムに目を塞がれた。
どうやらミナミにはまだ早いものらしい。
「これメスなんだよね。そしてほら、胎内に…繁殖するにしてもねぐらから離れた場所にメスがうろついているとは考えにくい。
そもそも餌場認定されているんだから近くにねぐらがあると思っていたから納得だよ。
あと、こいつの足の造りから短期間で大移動できない。ここの筋を解体したらわかっただろうけどすぐに切れたでしょ?
幸い泳ぐ能力もなさそうだからすぐに国境を超えることは難しいだろうね。
対策としては籠城戦で逃げながら戦って餌になるものを遠ざけるのが一番だね。
だから、この村でこの建物に引きこもったのは正解だよ。」
シューラは何やら死体をグニグニ動かしながら言っている。
ミナミはシューラの声と死体がグニグニってされていることしかわからない。
ただ、村人たちがおーっとか納得している声が聞こえるので、いい報告なようだ。
「で、結論は?」
マルコムがミナミの後で言った。
急に言ったからびっくりしたが、マルコムはミナミの目を塞いでいるので傍にいて当然なのだ。
視界が無いと驚くことが多い。
「君の言った通り、町へ状況を訴えて包囲して潰すのが一番だよ。
あと、辛いだろうけど魔獣の餌になったと思われる人数も把握してほしい。
どの程度まで増えるか…っていう目安がわかるからね。」
「だから他の村の人が必要か…」
マルコムは納得しように言った。
なんとなく周りの空気が変わったので、村人たちも方向性を定めたのだろう。
ミナミはマルコムに目を塞がれたままだったが、人が動く気配と音がしたので状況が動き始めているらしい。
「じゃあ、僕は村長さんと町に行くから君たちは籠城の準備を…」
と言ってシューラは村長のレドと町に向かったようだ。
ミナミはまだマルコムに目を塞がれたままだ。
「マ…モニエル。あの、もう見ても大丈夫?」
ミナミはまだ見てはいけないものがあるのか…とドキドキしてマルコムに聞いた。
「あ、忘れていた。」
マルコムはそう言うと手を外した。
なるほど。マルコムはミナミの目を塞いでいるのを忘れていたようだ。
意外にうっかりさんなところがあるらしい。
ミナミは少しマルコムに親近感を持った。
手を離されてから周りを見ると、もうすでに魔獣の死体は処理されていた。
綺麗に分類されており、赤い塊と毛皮が分かれている。
そして村人たちはチラチラとマルコムをうかがうように見ている。
「ちょっとこの赤い部分貰っていい?
あと、見たいから毛皮は持って行っていいよ。」
マルコムは特に使えなさそうな赤い塊を欲しがったのだ。
それには村人も驚いた顔をしたが、たぶん処分するつもりだったのだろう。
頷いて彼らは毛皮を桶に入れて持って行った。
あれをきっと洗うのだろう。
石造りの倉庫に裏にはミナミと鞄に入ったコロとマルコムだけになった。
村人たちは魔獣の残骸である赤い塊を避けるようにしてそそくさといなくなった。
確かに忌避するものであるし、ミナミたちにとっては人目が無くなるのは話やすいので好都合だ。
「魔獣の肉と言っても、人間を食べているのは確実だから食用にするのも気が引けるでしょ。」
マルコムは赤い塊になった魔獣の残骸を見下ろして言った。
確かに人間を食べていた魔獣の肉は食べたくない。
まして、村人たちは家族を食べられたかもしれないのだ。
「でもどうしてこっちを見るの?」
ミナミは先ほどは視界を塞がれたが、今は塞がれていないのに不思議に思いながら尋ねた。
「さっきシューラが確認するように目配せをしていた。
あと、君が見ない方がいいものは除けたから大丈夫だと思うけど、気分が悪くなったら見なくていいよ。」
マルコムはチラリとミナミを見て言った。
なるほど。気を遣ってくれているようだ。
「大丈夫だよ。」
ミナミは何を避けたのかわからなかったが、気遣いが嬉しかった。
それに赤い塊は気持ち悪いが、ここで見ないことを選択したらだめな気がする。
ちなみにミナミは知らないが、マルコムが目を隠した理由は魔獣の体内から人間の身体の一部がはっきりとわかる形で出て来たからである。
魔獣の内臓程度はミナミは平気だろうが、人間はちょっと厳しいだろうと思ったのだ。
外で解体していた村人たちも魔獣が人間を食べていたのを知っているのに加え、それを見たからこそ赤い塊の処分を検討していたのだ。
『流石ご主人様だ…我よりも早く気付いていたとは…』
背中の鞄の中のコロがフニャフニャと鼻息荒く言った。
ミナミもマルコムもコロの発言の意味がわからない。
なので、二人で首を傾げてから鞄を見た。
『お主ら二人は魔力の味の通り繊細さの欠片もないようだな。
無骨者はそこの赤い塊の中にある心の臓を開くとわかるだろう。
娘は動くな。我はこれ以上臭いものに近づきたくな…』
コロがマルコムに指示を出したので、ミナミはマルコムの作業を見るためにコロが話し終わる前に覗き込んだ。
背中でコロがシャーっと言っている気がするが、気になるので仕方ないのだ。
マルコムは小さいナイフを取り出して、赤い塊で一番大きい丸い塊に刺した。
なるほど、あれが心臓なのか。
ミナミは勉強になった。
カツンとナイフの刃が何かに当たる男が聞こえた。
石でもあるのだろうか?
「…なるほど。流石シューラだね。」
マルコムは察したようで頷いて言った。
口元に笑みを浮かべているので、心の底からシューラを称賛しているのだろう。
「シューラはこれを倒したから村に戻って来たんだ。
群れの中心の証、魔獣の魔石持ちだよ。」
マルコムはためらいなくナイフを入れた心臓に手を突っ込んで中から何かを取り出した。
ミナミの背中の鞄から
『きっちゃない』
とコロの呟きが聞こえた。
マルコムが取り出したのは、ミナミの親指ほどの大きさのキラキラした石だった。
どうやらそれが魔獣の魔石らしい。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる