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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

お姫様のお話

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 三人と一匹、小さい掘っ立て小屋で向き合う。

 ミナミは嬉しい気持ちになっていた。



 なぜなら、連絡事項などを伝え合うことはあってもこのように相談するような姿勢はなかった。

 もしかしたら今までと変わらず情報共有だけかもしれないが、三人が向き合って話すのは嬉しい。



 つまり、ミナミはシューラとマルコムの間に入れた気がするのだ。

 コロもだが。



「情報整理と目的を明確にしよう。まずはミナミ。」

 マルコムは真剣な顔でミナミを見た。



 その表情を受けてミナミはしゃきっとした。

 ニコニコしている場合ではない。

 ミナミは意外に空気を読むのだ。意外に。



「君の知っている王族の話をしてほしい。

 君の知っている範囲のことでかまわないから、君たち兄妹のことも含めてお願いしたい。

 知りたいことがあればその都度質問するから答えてほしい。」



「うん。わかった。」

 ミナミはマルコムを信頼しているので情報を渡すのにためらいはない。



「ライラック王国の王族は亡くなったお父様とオリオンお兄様とホクトお兄様と私。そしてお嫁に行ったアズミお姉さまの5人だったと思うの。」



 ライラック王国の王族、というよりも血族はミナミの父であり殺された国王のタレス、次期国王と言われる第一王子のオリオン、父を手にかけて失脚した第二王子のホクト、隣国へ嫁いだ第一姫のアズミ、そしてミナミの5人だ。



 そのうちオリオンだけ母親が違い、彼の母は異種族である長耳族であった。ただ、詳細はミナミも知らず、彼が長耳族を嫌っていることだけ知っている。

 そして、オリオンの母親は体が弱かったせいで早くに亡くなった。



 王子がいるといえど、長耳族の血を引いていることから他に子どもを作る必要があると思った父親は二年ほど間をあけてから妃を娶った。それがミナミの母親でもある。

 ホクト以降は後妻と言われる立ち位置の女性の子どもだが、彼女はオリオンも平等に愛情を注いでいたらしい。

 曖昧だが、ミナミの記憶にもオリオンが懐いていた様子がある。



 だが、その母親も亡くなった。

 父親はそれ以降周りに言われても妃どころか愛人も取らなかった。



 そこまで説明したところでシューラが手を上げた。



「ねえ、疑問に思ったけど…王族の血族が少なすぎじゃない?」

 彼は首を傾げている。

 隣のマルコムも同じような顔をしていることから、その疑問は自然なようだ。



「それはわかる。帝国だけじゃなくても公爵とかは王家の傍系にあたる事が多いんだ。でもライラック王国って領主や管理する貴族はあってもと王族の気配がする貴族っていない気がする。」

 マルコムはシューラの疑問に同意するように頷きながら言った。



「え?そうなの?

 確かにお父様は昔は姉弟がたくさんいたって言っていたな…。お祖父さまは妃を早く亡くしてから愛人を囲ったって言っていたな…」

 ミナミはふと思い出した。



 父は昔は姉弟がいたと言っていた。

 今は使われていない愛人用の離宮がある。

 その管理が大変だと侍女が言っていた。



「…いた…ね。片付けられたのか…思った以上にタレス国王もやり手だね。」

 マルコムは納得したように頷いていた。

 だが、一瞬何かに気付いたように顔を歪めた。



「…どうしたの?」

 ミナミは首を傾げてマルコムを見た。



「いや…不謹慎なことを考えた。続けて。」

 マルコムは首を振って言った。



 聞いても答えてくれなさそうなのでミナミは続きを話すことにした。

 ただ、少し話してくれないことが寂しかった。



 殺された父親は早くからオリオンを次期国王にすると明言していた。

 侍女たちの噂だが、オリオンは人嫌いで妃を娶れるかわからない。そのため、オリオンの次の国王はホクトかミナミ、アズミの子どもにするつもりだったらしい。

 当時は噂だと思っていたが、今考えると長耳族が出張ってくる可能性があるためオリオンが妻を娶るつもりが無い可能性が高い。



 しかし、それならホクトを国王にすればいいと思うかもしれないがそれは彼とオリオンは圧倒的に魔力が違うのだ。



 ミナミも強い癒しを持っているが、一番強いのはオリオンだ。

 それに、ライラック王国の王族の特殊性も強く出ているらしい。



 四兄妹それぞれ癒しは持っているが、オリオン、ミナミ、ホクト、アズミの順番の強さであり、オリオンが抜けているのだ。

 また、オリオンの次に王族の特殊性があるのはミナミらしい。



 だが、ミナミは王族の特殊性はわからないのだ。

 強いて言うなら、ミナミとオリオンが父親と同じ瞳と髪の色を受け継いでいることだろう。



 確かにミナミやオリオンのほうが癒しの力は強い。

 しかし、それが他と何が違うのかわからないのだ。



「君の母親の出自は聞いて大丈夫?」

 マルコムは少し気を遣う様子を見ながら言った。

 彼の質問は意外ではなかったが、気を遣う様子があったのに驚いた。



「うん大丈夫だよ。お母さまの話ね。」

 ミナミは自分の知っている母親を思い出した。



 彼女はライラック王国ではなくロートス王国の王族だった。

 アズミの嫁入りもロートス王国に決まったのもその伝手だ。



 ただ、政略結婚ではなく父親が望んだ結婚だった。

 どうやら妻を亡くした父親は、色々あってロートス王国の王族である母と知り合ったらしい。



 その色々はぼかされたが、きっと息子がいるのにかかわらず自棄になったことを恥じているのだろう…と誰かが言っていた。



「君って正真正銘お姫様なんだね」

 ミナミの話を聞いてシューラは感心しように言っていた。



 正真正銘と言われても、ミナミはれっきとした姫であるので何とも言えない。

 ただ、シューラが遠い存在のように思っているのなら少し寂しい。



「じゃあ、君の話に加えて王族について俺たちが確信していることを言うね。」

 マルコムはちらりとシューラを見てからミナミを見て言った。



 どうやら二人はミナミたち王族について何かわかったことがあるらしい。

 それはきっとミナミの知らないことだ。



 ミナミは緊張して手をぎゅっと握った。



「ライラック王国の特殊な力は、白煙が言っていた無の魔力だよ。

 詳細はわからないけど、それを使っているのをシューラ、イト、ガレリウス、ガイオさんが視認しているはずだ。」

 マルコムは断言していた。



 ミナミは身に覚えがないことなので驚いた。

 無の魔力など知らない。



「盗賊の騒動のとき、ミナミはイトと一緒にガレリウスが襲ってきたでしょ?

 彼はリランの火の魔力をまき散らしていた。ガイオさんの家が燃えていたでしょ?あれだよ。」

 シューラの言葉はミナミも覚えがある。



 それに今思い出しても腹がたってくる。

 彼はつまらないことのために叔父であるガイオさんを殺そうとしたのだ。



「君の発した魔力の光で火が消えた。そしてガイオさんの傷も治っていた。」

 シューラは断言していた。



 ミナミは初耳だった。

 確かに怒って光った気がするが、火を消した覚えはない。それにガイオを治した覚えもない。



「ミナミ。これは君のお姉さんと接触してから話そうとしたけど、僕としては君に悪いけど君のお姉さんを完全に信用できないんだ。」

 シューラはミナミを見て言った。



 シューラの言葉にミナミは驚いた。

 確かにシューラはアズミを知らないので信用できないのは仕方ない。

 だが、彼女は頼れるミナミの姉だ。



「今の話を聞いて、なおさら俺は今共有すべきだと思った。

 ミナミ、アズミ姫はアロウさんが悲しむ様なことをしようとしている。

 それはわかっているよね。」

 マルコムはミナミをじっと見て言った。



 彼らの言いたいことはミナミはわかっている。それはミナミも思ったことだ。



 アズミが嫁いだ理由だ。

 好きな人がいたから嫁いだわけでは無いというのは確実だ。



「だから、君のお姉さんに対して俺たちが無礼に思えるほど警戒しても怒らないで。

 確かに君に不利になる事はしないと思う。けど、彼女はダウスト村での長耳族の行動やプラミタの不穏な動きを知らないと思う。

 だから彼女の行動で君が危険に陥る可能性もある。」

 マルコムはじっとミナミを見て言った。



 その目が凄く真剣だったのもあるが、彼の言葉に納得しているミナミがいた。



「もちろんアロウさんからの手紙にあるとおり、彼女を助けたいと思うけど僕たちの一番の護衛対象は君だ。」

 シューラも真剣な顔をしていた。



 護衛対象と壁を感じる言葉だが、それは当然のことだ。

 二人にミナミは守ってもらっているのだから。











 マルコムもシューラもミナミの話には驚きが多かった。

 そして思った以上にミナミは閉鎖的な世界しか知らない。



 そしてその世界の異常に気付いていない。

 ライラック王国の王族が少ない理由はきっと血なまぐさいことがあったのだろう。

 ただ、それをタレス国王は見せずにいる。



 いや、それを断ち切ろうとしたのかもしれない。



 ミナミの話で疑問に思ったことやわかったことで彼女に話せないことはいくつかある。

 まずは、オリオン王子が妻を娶らない理由は納得だったが、オリオンの次の国王はおそらくミナミの子どもと想定したのだろう。



 誰でもわかる事だが、ミナミは外に出す前提で育てられていない。

 ライラック王国内部にとどまる前提の常識なのだ。



 あとは彼女が言っていた王族の特殊さが出ているのがオリオンの次だということだ。

 それでタレス国王はミナミを外に出すつもりはなかったと確信した。



 それはシューラも確信している。



 あともう一つは、シューラは考えていないかもしれないが、アロウの立場だ。



 マルコムは、アロウはタレス国王の異母兄弟ではないかと思ったのだ。

 アロウはタレス国王との絆を血の繋がりよりも強い繋がりと強調していたし、それも納得した。

 だが、王族に詳しく裏を知っている。

 それを用心深いタレス国王が許す存在。



 生憎マルコムは友情…だけでそこまで共有することに現実味を感じていない。

 それは殺されたライラック王国の国王という情報だけでなく、ミナミが話した王族の情報でなおさら思うのだ。



 タレス国王は用心深い。

 ただ、偶然不用心にホクト王子に殺されたのは本当に予想外だったのだろう。



 いや、もしかしたら存在価値が自分にある事を知っているから命は奪われないと思っていたのかもしれない。



 そこまで考えて、マルコムはミナミも同じ思考があるかもしれないことがわかった。

 なので、後でそれはしっかりと話そうと思った。



 とりあえず、アロウのことは彼の血の繋がらない娘にちらっと聞くこともありだろう。

 それか、何も触れずにおくかだ。



 しかし、ライラック王国は妃が死にやすいのかもしれない。

 オリオンの母親やミナミの母親もそうだが、タレス国王の母親も早死にしていると聞くとそう思ってしまう。



 いや、マルコムは確信しているがミナミの母親は暗殺だ。

 あれだけ強い癒しを持つ王族の妃なのに、急死は違和感があるのだ。



 もちろん癒しで全ての病を治せたりしないのはわかっているが、ミナミは母親が急死したと言っている。

 そして、そのあたりの記憶が曖昧に見える。

 それはきっとショックが大きい出来事だったはずだ。



 それにしても、何か繋がりそうで引っ掛かる。

 マルコムは自分の中にある違和感が気になった。



 どこか知っている情報と繋がりそうな気がするのに、それがわからない。

 少しもどかしいが、情報を話しているうちにわかるだろう。

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