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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

歪んだ青年

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 ミナミはシューラに言われた薬草を草の魔力で育てていた。

 お手伝いできることは嬉しいが、張り切り過ぎて育てすぎたらいけないようだ。



 なんでも、育ち切る前に採りたいらしい。



 ちなみに薬草の苗はシューラがその辺の草をモサモサしてから作り出している。



「ねえシューラ。この草はここまででいいの?」



「うん。使うのはここの若い芽だけだから…残りは干しておこう。」

 シューラはミナミが育てた草を採り、柔らかい蕾のようなところを指して言った。



「干したら何になるの?」



「媚薬」



「ビヤク?なにそれ。」



「今度マルコムに聞いたらいいよ。」



「俺に押し付けるなよ。」

 ミナミたちの会話を後ろで草に風をかけながら聞いていたマルコムが不機嫌そうに答えた。



 彼は先ほどまで土の魔力で調理場所を作っていた。

 そして、シューラから渡される薬草を今風の魔力で軽く乾燥させているところだ。



 たまに勢いよく飛ばしてどっかにやってしまっているのを見ると、親近感を覚える。

 マルコムは魔力の扱いが上手じゃない。



 もちろんミナミも上手じゃない。



 ミナミは飛ばされた草を見ながら微笑んだ。



「君絶対に失礼なことを考えているよね。」

 マルコムはミナミの視線の先を見て、眉を顰めて言った。



 シューラもだが、彼らはミナミの考えていることがたまにわかるらしい。

 本当にすごいと思う。



 ミナミは目を丸くした。



「若い芽は人間にしたら軽い興奮剤みたいな作用があるけど、魔獣にとっては誘因作用のある香りなんだ。

 だから、もし嫌いな奴がいたらこのイザナイ草を混ぜた花束か粉末を持たせたらいいよ。

 魔獣が片付けてくれるかもしれないから。」

 シューラは草の茎を握って言った。



「粉末は悪意があるから花束がいいね。

 花束のサイドに可愛らしく添えれば、飾りとしての意図しかなかったように見えるから、

 “知らなかった”“そんなつもりなかった”で突き通すことが出来そうだね。」

 マルコムはシューラの握る茎を見つめて言った。



 なるほど。

 確かに悪意の在りかを曖昧にするのは大切だ。



 ミナミは勉強になった。



『ご主人様は物知りでありますな!

 それに無骨者もご主人様に負けないほど悪事に長けてそうであるな!』

 地面に寝っ転がっていたコロがシューラを見て言った。



 背中を地面に擦り付けながらお腹を出している。

 その様子が可愛いくてミナミはにやけてしまう。



「悪事じゃないよ。身を守る手段だよ。」

 マルコムは悪事と言われるのは心外だったようだ。

 確かに悪事と言われたら違う気がする。



「そういえば、町の有力者に何を求めるの?」

 シューラは薬草を水洗いしながらマルコムに聞いた。



 そうだった。

 マルコムは色っぽいが凄く悪い笑みを浮かべて言っていた。

 保身に走ってもらうとか言っていたがミナミはよくわからない。



「簡単なことだよ。この地の領主が失脚する手伝いをするんだよ。

 民の訴えを無視した実績作りだよ。今王国内は整理中だから、いい見せしめになる。

 たとえ兵の意志で行動を起こさなかったとはいえ、それが上の方針だったとすれば兵や町にいるものは責任を逃れられる。

 ホクト王子と交流があったということは失脚させたいとオリオン王子側もしくはリラン達は思うだろうしね。

 火の無いところじゃないから煙を立てやすいよ。」

 マルコムはにやりと、やはり色っぽいが悪い笑みを浮かべて言った。

 そして勢いよくいくつかの薬草を飛ばした。

 やはりマルコムは魔力の扱いが大胆だ。



「国境の在り方の前例ともなるから、王国にとってはいい機会でもある。

 情勢としても、今は変革期だから前例を作る絶好の機会だよ。」

 マルコムはチラリと飛ばした薬草に目を向けて続けた。



 難しいことはわからないが、マルコムはこの地を良くしようとしてくれているらしい。



『無骨者のくせに謀が好きなのか…

 お主絶対に性格悪いだろ』

 コロがお腹を上に向けたままマルコムを見て言った。

 お腹の毛がふわふわと揺れていてさわり心地が良さそうだ。



「貴族っていうのは性格が悪いものなんだよ。

 お人よしは損が多いからね。自分にとっても周りにとっても…ね」

 マルコムは開き直ったように言った。

 そしてまた薬草を飛ばした。













「王城を出ただと?」

 オリオンは思わず驚きの声を上げた。

 しかし、そのオリオンの声色を気にすることなく目の前の帝国騎士団副団長のエミールは頷いた。



 オリオンは今、後ろにルーイを引き連れて玉座の間に向かっていた。

 未だにオリオンは玉座に座らない。



 玉座の間での対応は立って行っている。

 なので、おのずと玉座の間の滞在時間は短い。



 来客がある時や、大きい報告を聞く時だけだ。



 しかし、このエミールの報告は大きい事柄だとオリオンは思った。

 実際、エミールも玉座の間で報告をしようとオリオンが来る時を見計らってきたようだ。

 ただ、途中でオリオンと遭遇し、オリオンから質問されたから報告することになったのだ。



「リラン殿は長耳族の調査や準備で王城にはしばらく戻りません。」

 エミールは繰り返し言った。



 オリオンはエミールが一人でいるのに気づいて尋ねたのだ。



 近い時期に出発するとは聞いていたが、いつになるのかも聞こうと思っていた。



「だが、港の船は出ていないはずだ。」



「久しぶりの実戦の指揮ですから、彼も準備があるのです。

 情報のすり合わせや戦略など、下準備が一番大事ですから。」

 エミールは当然のことのように答えた。

 彼の言葉には、歴戦の戦士の重みがある。



 それに、考えてみればリランは帝国騎士団の上に立つ存在だ。

 副団長であるエミールよりも指揮を執るのに慣れていた。

 肩書は副団長の方が上だが、やはりリランの方が権限が大きいようだ。



「ライラック王国の方は私がいれば大丈夫だと、リラン殿は言っていました。」

 エミールは姿勢を正して言った。



 リランがいる時はあまり思わなかったが、エミールはオリオンに対してしっかりと王族への態度を見せ尊重している。

 リランも尊重していると思うが、エミールはしっかりと立ててくれているというのがわかる。



 いや、エミールが普通なのだ。

 リランは少し馴れ馴れしい。



「リラン殿の見張りの仕事が無くなったので、私は今日から領地の情報を集めようと思います。」



「リランの見張り?」



「ええ。彼が無茶しないように見張るのが団長から言い渡された私の役目でした。」



「長耳族の調査は無茶では?」



「マルコムが絡んでいないので、無茶はほどほどだと思います。

 私は団長に“リランがマルコムを深追いしすぎないように”…と言い渡されていました。」

 エミールは淡々と言った。

 だが、その口調とは裏腹に彼の目には闘志がある。



 マルコムたちと共に帝国騎士団から逃げたときに、このエミールは逆上していたのはよく覚えている。

 リランと一緒に無茶をしそうな勢いであった。



 団長であるフロレンス公爵だって、それはわかっているはずでは?

 オリオンはふと思った。



「近くにいれば追いますよ。ですが、優先すべき事項がある。

 私はリランよりもマルコムに対する思いが強くない。

 とはいえ、彼に思うことはしっかりあるので。」

 エミールは念を押すように言った。



 それはわかっている。

 エミールがマルコムやシューラたちに思うことがあるのはわかっている。



 でないと、アロウを手にかける事態に陥らなかったはずだ。



 そこまで考えてオリオンは止めた。



 ただ、不思議な関係だと思った。

 リランはマルコムを追っている。



 罪人だからなのもあるが、元仲間であるのもある。

 仲が良かったのもわかる。

 マルコムからの手紙で見たことの無い拗ねた顔をしていた。

 無意識に甘えているほどの信頼関係が未だにある。



「リラン殿はマルコムの父親を殺したことを後悔していますから。」

 エミールはさらっと言った。



「え?」

 オリオンは初耳だった。



 後ろのルーイも驚いている。



 というよりも表に出ていない情報だろう。



 しかし、なおさら不思議だ。

 父親を殺したリランがマルコムを追っているという構図についてだ。

 普通なら逆に思える。



 父親を殺されたマルコムがリランを追うという構図が自然だ。



 それに、リランはマルコムの行動を咎める様子がある。

 自分は彼の父親を殺したというのにだ。



「マルコムとリラン殿の関係は複雑ですから。」

 エミールはオリオンの疑問がわかったようで、口を歪めて笑いながら言った。

 どうやら彼も二人の関係を掴みかねているのだろう。



 彼らと付き合いの長いエミールですら理解していないのだから、オリオンにわかるはずがない。

 そんな考えればわかる簡単な事である。



 しかし、弱みを見られているという不公平さを感じているせいか、オリオンはそれが不思議と不愉快だった。

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