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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~
常識を超えるお姫様
しおりを挟むダウスト村はずれの水辺に生えた大木と、その根元にある土壁と申し訳程度の屋根。
周りは雑多に様々な種類の植物が生え、干し草やつるされた果実など人の生活の気配がある。
「この村のここで生活してわかったことは、ここまでの拠点を君たちがいれば作れるってことだよ。」
マルコムはミナミとシューラを見て言った。
確かに、シューラとミナミでこのあたりの植物を育てた。
あの大木は実もなるし、ちょっとした風よけにもなる。
あと、植物は少し暖かいみたいで、少し防寒の役割もある気がする。
マルコムの土の壁もあるが、彼の言う通りこの拠点は数日かけて作った。
「外での生活の予行練習になったし、起こった事件は良くないけど収穫はあった。」
マルコムは頷きながら言った。
魔力を使ったにかかわらず、内部のダメージの様子は見られないのでマルコムの体調はだいぶ戻っているようだ。
朝起きるとマルコムもシューラも身支度を終えていた。
あとは干した果実などをまとめ、ミナミの準備をするだけだ。
「本当に出発するんだね…」
ミナミは少しだけ寂しくなったので、誤魔化すように呟いた。
「出発しないといけないって言ったらいいかな?
予定よりも遅くなったおかげでアロウさんの手紙も見れたから悪いことだけじゃないのはマルコムの言う通りだけど、限度があるからね。」
シューラは腰に差した刀に手を添えながら言った。
そういえば、朝起きたらシューラは素振りをしていた。
つくづく彼は鍛錬に熱心だ。
マルコムは片腕で木に登っていた。
彼はシューラと違って病み上がりだから、熱心というよりも少しおかしいとミナミは思うことにしている。
朝ご飯を食べて口を洗っていると、シューラとマルコムは干した果実などを取り込み荷物の最終的な準備を始めた。
そして二人で天気の話などをし、地図を見ながら相談をしている。
ミナミは自分がいても話はわからないので、口を水でぶくぶくしながら二人の様子を見ていた。
思い返すと、辛い中始まった逃亡生活とダウスト村での日々は、そこまで苦しいものではなかった。
毎日旅の支度と鍛錬だが、飽きることなど全くなかった。
最初数日で村の建物が壊滅状態になったのもあるが、毎日が新鮮だったのだ。
そもそも逃亡生活なので、落ち着くことなど無い。
ミナミも水の玉は拳一つ分まで小さく出すことができるようになったし、植物も腰までの高さで止めることができるようになった。
そういえば、布や刺繍の道具を持ったのでどこかのタイミングで刺繍をしてあげたいと思った。
シューラには葉っぱの刺繍をしたが、マルコムにはしてない。
だが、シューラにはまた改めて綺麗な刺繍をしてあげたいと思う。
次の機会に二人一緒に色鮮やかなお花でも縫ってあげようと思う。
もちろんお揃いにするつもりだ。
どうせならミナミもお揃いにするのもいいかもしれない。
しかし、コロにも何か上げたいが、とても大きいので難しいのだ。
何か身に付けるものを作るにしても布が大きくなる。
ミナミは離れた位置でこちらの様子をうかがっているコロに目を向けた。
「そういえば、コロってどうするのかな?」
ミナミは思ったのだ。
コロは大きい。
世間知らずのミナミでもわかる。
凄く目立つ。
「そういえば、夜にコロと話していたよね。」
シューラはマルコムを見て言った。
それを聞いてマルコムは顔を歪めた。
「起きていたのかよ。」
「大事な話みたいだったし、邪魔しちゃ悪いかなって思ってね。」
なるほど。
どうやら夜にマルコムとコロがその話をしていてシューラは寝たふりをして聞いていたみたいだ。
ミナミはもちろんぐっすり眠っていた。
「解決策は無いから町の中に入れないとか隠れてもらうしかないって結論になった。」
『我は納得しておらん!』
マルコムの言葉に被せるようにコロが言った。
どうやらコロは町までしっかりとついてくるつもりのようだ。
「うーん。逃亡中だから下手に目立つと困るもんね。大きな猫ちゃん連れていると目立つから…小さくなれないの?」
ミナミはコロが大きいから目立つのがわかる。
何せお城でも身長が高かったりふくよか過ぎる人物は目立っていた。
「目立つだけじゃなくて、普通に恐怖の対象だからね。」
シューラはミナミの発言に呆れたように言った。
『我は幼子故、体を変化させる術はない!』
コロは胸を張って言った。
「大人は持っているってわけね…つくづく役に立たないね」
マルコムはコロの様子を見て呆れていた。
『有事の際に役に立てばよかろう!』
「その有事を避けたいんだよ」
『ご主人殿!この男いじめてくる!』
「うるさいな。お前のご主人様いじめるぞ」
「なんで僕に飛び火するの!?」
『卑怯な!貴様絶対に性格悪いだろ!』
コロとマルコムとシューラは楽しそうにお話をしている。
きっと三人は気が合うのだろう。
そういえば、コロは結構攻撃気質な気がする。
マルコムもシューラも攻撃的だから気が合うのだろう。
ミナミは納得した。
しかし、コロは大人になれば体を変化させることができるのか。
とはいえ、大人になるまで待つことはできない。
「コロがこのくらいの大きさなら私も抱っこできるのに…」
ミナミは王城で使っていた枕くらいの大きさを想像し、抱えていることを想像しながら両手を広げた。
腕に抱えられるふわふわの毛の小さいコロ…。
考えるだけで幸せな気持ちになってくる。
しかし、大人になればできるということは潜在的にその能力があるわけだ。
「コロ!頑張ってみよう!」
ミナミは言い争いをするマルコム達とコロの間に飛び出して言った。
「にゃ?」
魔力の声で鳴く、コロ自身の声で鳴いた。
どうやら急なことで驚いているようだ。
「だって大人になればできるってことは、潜在的にできる能力があるってことだから!」
ミナミは自分の考えを言って、拳を握ってコロを見た。
コロは目を丸くしている。
とても可愛い。
ミナミは再び、腕で抱えられる大きさのコロを想像した。
大きいコロに抱き着くのもいいが、自分が抱え込めるのもいい。
「私も手伝うから!」
ミナミは根拠はないが、コロなら小さくなれると確信していた。
本当に根拠はない。
「どうやって?」
マルコムは興味深そうに聞いてきた。
そういえば、先ほどまで仲良く言い争いをしていたマルコムとシューラは、今はミナミとコロの様子を観察している。
確かにマルコムの言う通り、どうやって協力するのかわからない。
ミナミはそこで自分が無責任な発言をしていたと気づいた。
「ごめん!コロ!私よくわかっていない!」
ミナミは慌てて謝ったが、コロは別に咎める様子は無い。
「でも、ミナミの言うことは一理ある。持っている能力が大人にならないと開花しない理由っていうのは熟練度のはず。
もしくは親から習う…といってもコロは自力で意思疎通の手段を得たんだよね。」
マルコムは頷きながらコロを見つめて言った。
話の流れからマルコムはコロを連れまわすことに否定的なのかと思ったが、しっかりとコロを連れまわすことを考えてくれている。
意外と彼は優しい。
ミナミはニコニコして、体をくねくねさせながらシューラにもたれかかり
「マルコムは優しいね。」
と呟いた。
「どこが?」
シューラは驚いた様子で言った。
ミナミはどうしてそんな顔で言うのかわからず、目を丸くしてしまった。
『あの娘、鋭いのかズレているのかわからぬな』
「その評価で合っているよ。」
マルコムとコロがコソコソと何やら話している。
ちょっとミナミにとったら不満に思える内容が聞こえたが、二人が仲が良さそうなので気にしないことにした。
「ミナミが刺繍の色を変えたみたく簡単にできればいいのにね」
シューラはもたれかかってきたミナミに軽く体重を預けながら言った。
ミナミはこのもたれ合う感じに信頼感を感じて、なんかいい…と思った。
しかし、すぐにシューラの言葉でひらめいた。
「そうだよ!シューラ!」
ミナミはシューラの言う通りだと思ったのだ。
ミナミはコロを見た。
刺繍で好きな色の糸にするときは何を考えているのか思い出した。
直感的にえいっと色を変えているが、実は糸の状況でちょっと違うはずだ。
上手く発色できない時がある。
お城の先生からこの世のものは全て魔力を持っていると聞いたことがある。
そうだ。
それをちょっと書き換えたのだ。
ミナミはコロを見た。
「できる!」
ミナミは確信してコロに手を向けた。
えいっとやればいいのだ。
「にゃ?」
「えい!」
驚くコロに構わずミナミは、糸の色を変える要領でコロに魔力を放った。
ミナミの魔力を受けたコロは何やら光を纏ったが、じわじわと縮んでいる。
そして呻き声が聞こえる。
ミナミはもしかしてかなり苦しい思いをさせているのか?
と思ってしまった。
そういえば、コロの安全を考えずに魔力を放ってしまった。
ミナミは意外にうっかりさんなのだ。
そして、コロと話していたマルコムは気が付いたらミナミたちの後ろにいる。
彼はちゃっかりしている。
コロが纏う光が弱くなると徐々にコロ本体が見えてきた。
ミナミの希望通りの大きさになっている。
『は?嘘だろ!?』
重々しい口調ではなく、コロは少し荒々しい口調で言った。
かなり驚いているようだ。
しかし、苦しんでいる様子も無いし痛みも無いみたいだ。
「できた!」
ミナミはシューラの手を掴んで飛び跳ねた。
シューラはミナミ手を掴まれてなされるがままに腕を振っている。
喜びを分かち合いたいのにシューラは反応が薄い。
ミナミはシューラを見上げた。
なにやら口元がひくひくとしている。
何を考えているのかよくわからない。
ミナミは、次はマルコムを見た。
マルコムは無表情だった。
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