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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~
正体を現す青年
しおりを挟む西の大陸で一番大きな国と言ったら、魔術大国プラミタだろう。
魔術の最先端の地であり、プラミタに認められなければ魔術師と名乗れない。
権威ある国だ。
実際、魔術師が集まってくるので、技術もおのずと育つ。
そして、プラミタの特徴と言ったら魔術師の特権だろう。
さらに上位と呼ばれる位を持つ魔術師は尊敬の的だ。
その上位魔術師の中でもシルビオ・レイ・オームは、“幻影の白煙”と呼ばれる独自の魔術を繰り出す第二位魔術師だ。
彼は色々な姿に擬態ができる能力も持っているという噂で、白煙を発する魔術以外の特徴を知られていない。
それが、魔力について教えてくれたシルビの正体である。
ビエナは泣きながら必死に話してくれた。
そして、彼はシューラに縋るような目を向けている。
尋問などせずともビエナは話してくれた。
シルビに手当てが必要だとわかると、手当てができる人間が誰だかわかっている彼はためらいが無かった。
横たわるシルビは険しい顔をしているが、自身の怪我の具合がわかっているのだろう。何も反論はしていない。
ただ、ビエナの話で分かったのはシルビの正体だけだ。
ミナミに近づいた目的はわからない。
ミナミは知っているかもしれないが、この場で話を止める真似はしないので確認をするのは後回しだ。
マルコムはシューラを見た。
シューラはシルビをじっと見て、怪我の具合を考えているのだろう。
マルコムもシューラと同じくシルビを…いや、シルビオを見た。
今の彼の姿が本当の姿だろう。
子どもの姿の時と同じく銀色の髪と黒い瞳、そして顔立ちの面影がある。
銀色のまつ毛や眉毛は儚さを感じさせるが、精悍な顔立ちで凛々しい。
とりあえず女にモテそうだ。
そして腹立たしいが、彼の身長はマルコムよりも高い。だが、リランやオリオンと同じくらいだろう。
体格は標準よりも鍛えているのがわかるが、戦闘力に特化したものではない。
それは胴体を蹴り飛ばしたのでよくわかっている。
「姿を変えられるというけど、今回は体が子供になっていたって感じだったね。」
マルコムは思ったままの事を言った。
そうなのだ。
幻覚のような視覚を誤魔化して姿を変えるような技でなく、体自体を変形させていたように思えるのだ。
「長期…で姿を誤魔化す必要がある時は子どもの姿です。
プラミタでは老人であったり若い女性であったりと色々な姿をしていました。」
ビエナはチラチラとシルビオに目配せをしながら答えた。
そしてまた、シューラに縋るような目を向けてくる。
シルビオは険しい顔をしたままだ。
冷静に考えてあばら骨はイカレているだろうし、軽く見積もっても骨折以上の怪我は確実だ。
マルコムも自分の蹴りを食らったらシルビオのようにのたうち回る自信がある。
「治していいよ。ただ、これを使わせてもらうけどね」
マルコムは自身の荷物から、ガレリウスが持っていた宝玉を取り出して言った。
それを見た途端ビエナとシルビオは絶句した。
当然だ。
これはプラミタの上位の魔術師が持つものだからだ。
この宝玉の恐ろしさは実際に使われたマルコムはよくわかっている。
シルビオの魔力量はわからないが、マルコムより多いことは無いだろう。
ガレリウスがどういう伝手でこの宝玉を持っていたのかわからないが、この宝玉は脅しに使えるみたいだ。
それだけわかればいい。
しかし、この宝玉は一度しか使えないはずだ。
実際にこの宝玉には赤い魔力が入っていた。
それをマルコムはリランの火の魔力だと思っているし、ガレリウスの話から根拠を得ている。
つまり、一度この宝玉は使われているのだ。
どうして壊さずにまた使えるようになっているのかは、マルコムもシューラも理由は何となくわかっている。
ミナミは宝玉を見て目を丸くしている。
とはいえマルコムは使い方はわからない。
あとでエラらへんを叩いて聞いてみるか。
手当てを始めたシューラをミナミは興味深そうに見ている。
そういえば、シューラの手当てをしっかりと見るのは初めてなのかもしれない。
マルコムは今までの状況を思い浮かべて気付いた。
この前のマルコムの手当ては内部に癒しを流し込むので目に見えないし、襲われたプラミタ一行の手当についてはシューラは隠れてやっている。
想像に容易いが、ミナミはおそらく魔力量に物を言わせる癒ししかやっていなかったのだろう。
医学の盛んな国の名家に生まれて学び、人間を切り刻んできて人体を知り尽くしているシューラの癒しはミナミにとって勉強になるだろう。
シューラはシルビオのわき腹に手を添えて魔力を流しながら身体の音を聞いている。
彼は魔力が少ないわけではないが、無駄な魔力を使わずに癒しを施すためには怪我の範囲を知る必要があるのだろう。
その行動にミナミは興味津々だ。
相変わらずこのお姫様の興味の方向がわからない。
マルコムは政治的な知識に興味を向けないミナミが不思議でならないのだ。
マルコムは少しだけミナミとシルビオの会話を見ていた。
ミナミはシルビオの目的に全く興味が無かった。
父親の死を悲しみ、アロウの死を悲しんでいた彼女は間違いなく世間知らずの温室育ちの少女だ。
無力な恵まれた少女だった。
新たな知識に対して目を輝かせ、できることが増えると喜ぶ。
この村に来た時も盗賊に襲われた怪我人を助けたくてシューラやマルコムをけしかけている。
そしてその時に自分の無力さを知って打ちのめされている。
そう。彼女は無邪気で感受性豊かな年頃の少女なのだ。
素直で世間知らず。
だが、オリオン王子のような王族特有の気位もたまに見せる。
歪なのか、これが王族なのかわからない。
ただ、わかることは
自分を自覚すべきだということだろう。
マルコムはミナミの行動を見て思わずため息をついた。
彼女はシルビオの患部にこれでもかというほど顔を近づけている。
シューラの行動を観察していた流れでシルビオの患部に目を移したのだろう。
シルビオは大人の男で、患部はわき腹だ。
年頃の少女が成人男性のわき腹に顔を近づけるのはいかがなものだと思う。
シルビオとビエナは困惑している。
流石に二人が可哀そうだ。
「近すぎる。ミナミ、離れな」
マルコムは呆れを隠さない声色と表情で言った。
ミナミははっとして慌ててシルビオから離れた。
そして、離れてから何かに気付いたようにまたはっとした表情をし、なにやらニマニマしてマルコムを見てきた。
わけがわからない。
マルコムはミナミがニマニマする要素が思い浮かばない。
シルビオの手当が上手くいったからとかでミナミがニマニマするとは思えないのだ。
シューラの手当てが凄いからか?
マルコムはわけがわからないので、顔を顰めてミナミを見た。
「いや…名前を呼んだのって初めてだなって…」
ミナミは口をだらしなく緩めながら言った。
王族の気位はどうしたと思う表情だが、マルコムは思い返した。
「そうだっけ?」
心当たりはない。
どこかで呼んでいる気がするが、違うようだ。
「やっぱり名前を呼ばれるのっていいね。」
ミナミは嬉しそうに笑っている。
確かに、彼女はシューラに呼び捨てにされて喜んでいた。
マルコムにはわからない価値観だ。
まあ、彼女がご機嫌ならいいのではないか?
機嫌が悪いよりかはいい方がいいに決まっている。
マルコムはわけがわからないが、この状況でのん気に機嫌を良くしているミナミに呆れて笑った。
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