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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~
探り合う青年
しおりを挟むミナミはだいぶ水の玉を綺麗に作れるようになった。
「ミナミさんは魔力の扱いの飲み込みが早いですね」
シルビはミナミの水の玉を見て感心したように言った。
「そうかな?だってもっと上手な人は多いと思うし
イシュは凄く綺麗に作るよ」
ミナミは飲み込みが早いというのはピンと来なかった。
シューラが繊細に扱うのを近くで見ているのもあるが、自分が魔力をあまり考えて使っていなかったかを知っているからだ。
「だって、扱い始めたのが最近ですよね。見ていればわかりますよ。」
シルビはどうやらミナミが最近魔力の鍛錬を始めたと察しているらしい。
流石魔術師である。
「魔力の固定に慣れがありませんから学び始めだとわかりますよ。
その固定が無いのに水の玉を作れるのは飲み込みが早いということですよ。」
シルビはよくわからないが、ミナミを褒めてくれている。
「固定?」
マルコムは聞き覚えの無い表現だったようで、シルビに聞き返した。
「ええ。魔力はある程度扱うと固定されるんです。例えるなら、土を踏み均して道を作るのと同じです。
要はどこから魔力を発するかの癖がそのまま固定されるのです。
イシュさんは手首から指先に綺麗に魔力の固定がされていますがミナミさんはまだないです。
なので、発生させる魔力が手だけでなく頭や肩などあちこちから出ています。」
シルビは身振り手振りと説明してくれた。
道を踏み均すという表現はわかりやすい。
ミナミは固定の概念がわかってすっきりした。
そしてシルビは凄いなと改めて思った。
マルコムも感心している。
「モニエルさんは肩から放出することが多いみたいですね。
腕に関しても手のひらというよりかは腕周り…武器を持って戦うから無意識でしょうかね」
シルビは思い出しながら言っている。
ミナミは知らないがマルコムはどうやらシルビの前で魔力を使っていたらしい。
「わかるものなの?」
「正直言うならこれは私の秀でた能力の一部です。
魔力の残滓が何となくわかるんです。
モニエルさんが魔力を使っているところはあまり拝見していませんが、腕周りや肩回りに多く固まっているのがわかります。」
シルビは自身の目を指さしながら言った。
「それって遺伝的な能力なの?」
マルコムはシルビの言葉を聞きて自分の手のひらを見ていたが、興味深そうにシルビの黒色の瞳を見て尋ねた。
「いえ。感覚的なものですね。私は一度大きな事故で魔力を視認したのがきっかけです。
視覚として一度捉えると敏感になるようです。
皆さんが無意識に見ていても、視認をしたことが無いから見えないというものです。」
シルビは困ったように笑いながら言った。
「ふーん」
マルコムは先ほどよりも警戒した表情をシルビに向けている。
「ちなみにこれはあの長耳族たちは知りません。
知っていたら私は殺される対象にならなかったでしょうね」
シルビは口を歪ませて笑っていた。
「大きな事故…ね。」
マルコムは小さく呟くとまた、自分の手のひらを見つめた。
その彼の手のひらには大きな切り傷がある。
あれも何か大きな事故で負った傷なのだろうか?
ミナミはよくわからないが、そんな想像をした。
「そういえば、二人ともプラミタから帝国へ移動しているから船旅をしているんだよね。」
マルコムは思い出した様子で言った。
会話が変わったが、ミナミはマルコムが何を聞きたいのかわかった。
おそらく海の巨獣に結び付く話を聞き出そうとしている。
ミナミは聞き漏らさないように身構えた。
何せアロウが遺した情報に関連するものだからだ。
「ええ。プラミタからライラック王国の港を経由して行きましたね。
見ての通り私たちは体力があるわけじゃないので、ある程度いい船を使わせてもらいました。
なので、結構お金もかかりました。」
シルビは自身とビエナを差して言った。
いい船というのはグレードが高いものだろう。
「なるほど。じゃあ海の魔獣とかには遭っていないだね。」
「小魚程度なら何度か返り討ちにされているのを見ましたが、安定した海路を選んだので…
魔獣に興味があるんですか?」
シルビはマルコムの質問から何を聞きたいのか探るようにマルコムを見つめて質問をした。
その様子からはマルコムが質問通り魔獣の情報を求めているだけではないと思っているのがわかる。
「魔獣もだけど、船旅をするつもりだから海にいる巨獣も気になるんだよね」
マルコムは隠す様子は無いと示すように、考える素振りも見せずに言った。
「巨獣ですか…海で遭うのは魚タイプか鳥の巨獣のどちらかですが
…船旅なら魚が多いですからカプラですね。」
「シルビ師って子どもじゃないよね」
マルコムはシルビの答えではなく、シルビの様子を見て話を変えた。
あれ?
マルコムはアロウが遺してくれた海の巨獣の情報を探りたかったのではないのか?
ミナミはあっさりと話を変えたマルコムに疑問を感じた。
「こう見えて色々な場面を潜り抜けていますから」
シルビはマルコムの質問に対して、曖昧に笑いながら答えた。
そのシルビの横ではビエナは不安そうに目を揺らしている。
「そう。俺としても君とは接しやすいからありがたい限りだよ」
マルコムは深く追求せずに片眉を歪めて目を細めて笑った。
ミナミは二人の会話から得られたものが何なのかわからず首を傾げたが、これが雑談力なのか?とふと思った。
それからマルコムとシルビは二人で笑い合いながら船旅の話をしていたが、魔獣に掠ることもなくグレードの高い船の様子や船酔いの話題で留まった。
ミナミは二人の会話が雑談なのか情報収集なのか見極めようと唸っていたが、ふとビエナがなんともいえない顔をしていたのが目に入ったのでそちらが気になった。
ビエナはシルビとマルコムを見比べて何かを危惧しているような顔をしている。
途中でビエナと目があったが、少し気まずかったのでミナミは濁すようにニコリと笑って誤魔化した。
傍から見ると楽しそうに会話をしていたが、シルビは船旅の話を終えると名残惜しさも見せずにビエナを伴って村の方に戻って行った。
ミナミはマルコムがシルビとの会話で何を得たのかわからない。
なので、マルコムをじっと見つめた。
とはいえ、聞いていいことなのかわからないので、マルコムが言ってくれないのならわからなくていい。
ミナミは、知らなくていいことは知らなくていいと思う質なのだ。
マルコムはミナミが抱いている疑問をわかっているはずだ。
「シルビ師は子どもじゃないね。場数を踏んだと言っていたけどそれだけじゃないね。
ビエナ君はそれを知っているようだし、なかなかつつき甲斐があるね。」
マルコムは意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「てっきり海の巨獣について聞くのかと思っていた。」
ミナミはマルコムがシルビではなくビエナの様子を見ていたと分かって、気を張って会話を聞いていたこともあり、拍子抜けした。
「どう考えてもグレードの高い船旅しかしなさそうなやつに巨獣の情報は求めないよ。
それなら港で質の悪い船に乗っている輩に聞いた方がいい。
聞けたらラッキーくらいの会話だよ。」
あわよくば一石二鳥を狙った会話だったらしい。
ミナミは話術として、今後使えそうだと思ったのでどこかで使おうと思った。
どこで使うかわからないが。
「君から見てビエナ君はどうだった?」
マルコムはじっとミナミを見つめて尋ねてきた。
ミナミはじっと見つめられて一瞬ドキリとした。
何せマルコムは顔がいいからだ。
しかし、すぐにミナミは先ほどまでのビエナの様子を思い浮かべた。
ビエナは明らかに何かを危惧していた。
マルコムとシルビの会話にハラハラしていた。
「ビエナ君は二人の会話にハラハラしていたから、何か話された困る事がある様子だったよ。私と何度か目が合ったけどマルコム達の様子を見て不安そうにしていた。」
ビエナは結構わかりやすい表情の変化をしていたので、ミナミも違和感を覚えれたのだ。
「彼は年相応の子ども…でも、シルビ師は俺たちとビエナ君の接触は少なくするだろうね。
姫様はそうじゃないと思うけど俺は警戒されたし…」
マルコムはシルビを探っているみたいだ。
確かに彼は子どもの容姿なのに違和感がある。
しかし、知らなくても大丈夫なことなのではないか?
ミナミは見て見ぬふりではないが、暴かなくていいことは暴かない性格だ。
「どうせ、向こうは俺たちの素性を掴むだろうし…繋がりは続くと思うからね」
マルコムはプラミタの魔術師というくくりではなくシルビとの関係が続くと思っているらしい。
何を根拠に思っているのかわからないが、マルコムが言うならそうなのだろう。
ミナミ自体は、シルビは意外に頼りになると思っているので、関係が続くのは嬉しいことだと思っている。
そして意外にも、これはライラック王国の王族としての考えである。
プラミタの魔術師との繋がりというのは貴重だ。
伝手はあって困るものではない。
オリオンやライラック王国のためにも、きっと必要なことだ。
ミナミは使命感を覚えて鼻息荒く、一人で頷いた。
「…シューラが情報収集終わったら、出発するからね。」
マルコムはそんなミナミの様子を見て不思議そうに首を傾げたが、考えるのを諦めたような顔でミナミの頭を軽くなでながら言った。
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