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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

傲慢な長耳族

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 ガレリウスとメンダの会話からわかったことは、彼らはあまり面識がないこととメンダが人間を見下していることだ。



 これ以上二人の会話を聞いても何もつかめないと思ったので、シューラは後ろのイトを突き飛ばし、わざとらしく足音を立てて地下牢に向かった。

 突き飛ばされたイトは転んだ様子は無かったので、シューラの行動を見越していたみたいだ。

 少し腹立たしい。



「仲が良さそうだね。君たち」

 シューラは努めて優しく言った。



 その方が、残忍さが際立つからだ。



「白髪野郎…」



「こんな下等な人間ごときと一緒にするな!」



「僕からしたら二人とも同類。

 種族関係なく家畜以下の人間と家畜以下の長耳族だから黙ってくれる?」

 シューラは喚きだしたガレリウスとメンダに冷たく言い放つと、わざとらしく音を立てて地下牢の前に椅子を出して座った。



「どっちがいい?



 毒か刀か」

 シューラは腰に差した刀を抜いて翳しながら尋ねた。



「は?」



「尋問だよ。

 こう見えて僕は毒にすごく詳しいんだよね…」

 シューラは八重歯を牙のように光らせてにやりと笑った。



 赤い瞳は獰猛な獣を思わせるような光があるだろう。



「もちろん。僕は刀の腕もいいし、繊細な扱いがうまい。

 皮一枚で腕を繋げたままとかもできるから安心して」



 シューラの言葉にガレリウスは青くなっている。

 メンダはガレリウスの反応を見てから青くなった。



 シューラは尋問の時に安心材料として自身の生い立ちを話しながらする。

 それは相手をリラックスさせるためなど思いやりがある理由ではなく、手を抜くことはないという脅しのためである。



「僕ってね、祖国はもう無くなったんだけど、毒や薬がすごく有名な国でね

 そこで英才教育を受けていたんだよ。

 だから、安心してね」

 シューラは目だけ細めて言った。





 シューラの祖国は帝国と同じ大陸にあった皇国と呼ばれていた国だった。



 薬や毒、医術に秀でた国で隣国である帝国とよく戦争を起こしていた。



 シューラが皇国の兵士でいたときはまさに帝国との対立関係が深刻な時であった。



 その時にシューラは敵同士として帝国騎士団の現在の死神であるリランとフロレンス公爵、そしてマルコムと出会った。

 彼らは強くて好印象だった。



 そして、皇国の策略で帝国を壊滅寸前に追い詰めたが、皇国の内部からの裏切りで今度は皇国が壊滅寸前になり、そのまま弱体化し帝国に吸収されていった。



 祖国ながら呆気ない終わりだった。

 まあ、シューラが国を出てから吸収されたので思い入れもない。



 なにせ、皇国を壊滅寸前にした内部の裏切りとはシューラのことだからだ。

 策略の中でマルコムと出会い、奇跡的なタイミングで武器を交えわかり合った。



 そして、お互い逃げ出すために心残りを失くすために暴れた。



 その時の殺戮の規模が大きいため悪魔と呼ばれることになったし、自分のせいで国が滅んだといっても過言ではない。

 だが、そんなことで感傷的になるシューラではない。



 そもそも、シューラは祖国を裏切ったとは思っていないのだ。



 なぜなら、頭のおかしい為政者がいたせいで色々あり、最終的に皇国が誇っていた毒や薬、医術を全て持っているのはシューラだけになったからだ。

 つまり、皇国のアイデンティティはシューラが去る事で消える。



 そして、シューラが存在し続ける限り皇国は残るということだ。



 そこまでの気負いはないが、自分の存在価値を高く見積もっても罰は当たらないだろう。



 帝国も皇国の誇った技術を持っているのがお尋ね者の悪魔だとは掴んでいないはずだ。

 もう滅んだと思っているはずだ。





 シューラはガレリウスとメンダに自分が毒に詳しいことや、どれだけ人を殺したかを語った。

 持っている技術については話さないが、知っている者ならシューラの正体がわかるはずだ。



 名前は出さないが、理解者に会ったこと。

 そして祖国や過去から逃げるために暴れたことも話した。



 ガレリウスの顔色がさらに悪くなる。

 メンダも真っ青になっている。



 二人とも大陸の悪魔の話は知っているみたいだ。



 これで尋問はスムーズに進む。



「そうだ。」

 シューラはふと思い出した。



「腰抜けの巨獣じゃなくてもっと戦いやすい奴って連れてきていないの?」

 シューラはガレリウスを見つめて尋ねた。



 ガレリウスはシューラがビャクシンを降伏させたことを知っている。

 だからだろう。

 彼は急に震え出した。



「猫の癖に犬みたいに腹を見せるやつじゃなくて、最後まで血が滾る戦いができる巨獣って

 いないのかな?」

 シューラは心の底から思ったことなので、大事な質問のように問いかけた。



 傍から見ると質問というよりも脅しだ。



「あ…あとさ

 長耳族ってもしかしてライラック王国の王族さんとお近づきになりたい感じかな?

 彼らって閉鎖的だもんね」

 シューラは長耳族の男を探るように見た。



 シューラの視線を受けて長耳族の男はビクリと体を震わせ、脅えを隠せずにいた。



「ち…近づくも何も、ライラック王国の王族は同族だ!」

 メンダという男は虚勢を張るように叫んだ。



 どうやらこの男は結構口と頭が軽いようだ。



 しかし、同族とはどういうことだ?



 ミナミは人間だ。

 オリオンにしてもそうだったはずだ。

 魔力が特殊だから同族とかなのか?



「次期国王のオリオン王子は

 哀れな外れ者の姫だったとはいえ長耳族を母に持つのだ!



 あの女も子を残したことでやっと役に立ったというのに、恩知らずな王子め…



 我々を仇だと言うように忌避するなど…」

 メンダは途中から恨み言に変わり、ブツブツと独り言のように呟いた。



 シューラは後ろにいるイトを見た。

 イトも驚いた顔をしている。



 彼も知らなかったことだ。



 ミナミが長耳族とライラック王国の王族の関りを濁した理由がわかった。

 オリオンの母親ということはミナミは直接知らないだろう。



 それにミナミの話ではなくオリオンの話だ。



 意外とあのお姫様は話すことのわきまえは付けている。

 深く知らないというのも事実だろうが、オリオンの母親の種族は知っていたのだろう。



 それぐらいあの濁し方は不自然だった。



 鈍感なくせに変なところで気が回る。



 ミナミに感心したり呆れている場合ではない。

 思ったよりも根深い問題が見えた。



 メンダの様子から、長耳族はライラック王国の王族の血を欲しがっている。

 おそらくオリオン王子に対してかなり無茶苦茶な要求や接触を望んだのだろう。



 もしかすると、ライラック王国の王族が狙われた理由や帝国と手を結ぼうとした理由は種族間の問題もあったかもしれない。





 そして、ミナミの母親の話も長耳族が絡んでいることがあるのでは?

 シューラはふと思った。



 アロウに確認することはできないがアズミは何か知っている。

 シューラはそう直感で思った。



 ますますロートス王国にいるアズミと接触しなくてはならない。

 そして、オリオン王子にも長耳族のことを伝えないといけない。



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