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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

治療を施す青年

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 ミナミは寒さに目が覚めた。

 さっきまで隣にあったぬくもりが消えたからだ。



 辺りを見渡すと、だれもいない。



 シューラもマルコムもいない。

 何かミナミに言えない相談でもしているのか?



 ミナミはそう納得させるように思ったが、不思議な胸騒ぎがした。



 立ち上がって辺りを見渡すと、寝床の近くにコロがうずくまっている。

 なんとなくだが、ミナミのことを見守っている気がする。



 シューラに頼まれたのかもしれない。



「ねえコロ。」

 ミナミの声にコロは耳をピクリと立てた。

「なんか胸騒ぎがするの…だから一緒にお散歩行かない?」

 ミナミは一人で勝手に出歩くと怒られると分かっているのでコロと一緒に出歩こうと思うのだ。



 コロはミナミの言葉にあくびをした。

 どうやら誘いに乗ってくれる様子は無い。



 普段はミナミの言うことを聞いてくれるのだが、不思議だ。



 ミナミは無意識に口を尖らせてコロの元に向かった。

 だが、コロは何かに気付いたのか、慌てて立ち上がり木の陰に向かって走り出した。



 ミナミはコロを追いかけようとしたが、コロが何に気付いたのかわかった。



 それは、村の方から誰かが走ってくるような慌ただしい足音が聞こえたからだ。



 しばらくすると月明かりに照らされ二人の小さい影が見えた。



 そして月明かりに照らされ光る銀色と金色。

 シルビとビエナだ。



「ミナミさん!」

 シルビは慌てた様子だった。



「どうしたの?」

 ミナミは素足のまま地面に飛び降り、二人に駆け寄った。



 二人はミナミが素足なのにぎょっと驚いた様子を見せたが、すぐに真剣な顔をした。



「申し訳ございません!こちらの事情に巻き込んでしまって!」

 シルビが勢いよく頭を下げた。

 それに倣うようにビエナも頭を下げた。



 ミナミは二人の行動の理由がわからなかったが、しばらくして見えた村からの人影でわかった。



 その村から見える影は、一つだがどうも歩みが遅い。

 それに、人影というには歪に見える。

 頭の位置がおかしい。



 しかし、それは月明かりに照らさせてわかった。



 マルコムを背負うシューラだ。



 逆は想像できるが、マルコムが背負われるのは考えたことが無かった。



 ミナミは素足のまま二人に駆け寄った。



「シュ…イシュ!どうしたの!?」

 ミナミは自分よりも明らかに重いマルコムを背負うシューラに尋ねた。

 そしてミナミはマルコムにも事情を聞こうと思い彼を見た。



「え?」

 ミナミは血の気が引いた。



 マルコムは目を閉じたまま口から絶え間なく血を流している。



 今のミナミの頭の中で、一番死と遠いのはマルコムだろう。

 彼は頑丈で強くて頼りになると思っているのだ。



 しかし、目の前のマルコムは全然違う。



 月明かりに照らされた顔は青白く、よく皮肉気に歪められる形のいい眉は、今は苦悶の表情を刻んでいる。



 ミナミは足元から崩れ落ちそうなほど体ががくがくと震えるのがわかった。



「何が…」

 声も震えた。

「死なないから安心して。」

 ミナミが尋ねる前にシューラが安心させるように言った。

 彼はミナミに気を遣って言っているのだが、その言葉には確信があった。



「話を聞く限り、彼のへまもあるしプラミタの方の厄介に巻き込まれたのもある。」

 シューラは恨めしそうにシルビとビエナに目を向けて言った。



 シューラの視線を受けて二人は縮こまった。

 シルビはともかくビエナは気の毒だと普段は思うが、マルコムが心配でミナミはそれどころじゃなかった。



「お嬢さんちょっと寝床を占領するけどいい?」

 シューラは先ほどまでミナミが寝ていた寝床を差して尋ねた。

 もちろん断る理由も無いし、むしろしっかりと治療をしてほしい。



 ミナミは頷くとマルコムを支えるシューラを助けるようにマルコムが背負っている槍を持った。

 これでいくらか背負うのが楽になるはずだ。



 マルコムの槍は思った以上に重く、これをあんなに簡単に振り回しているのは凄いと改めて思った。

 ミナミは持つのがやっとだ。



 その行動に、シューラかるく頭を下げて礼を言い、先ほどまでミナミが寝ていた寝床に向かった。

 寝床にマルコムを寝かすと、床におろした衝撃なのかせき込み、血を吐き出した。



 それを見てミナミはまた震えてしまった。

 カタカタと手が震える。



 どうにか震えを止めようとしても、止まらない。



「思った以上に内部のダメージが大きいな。

 どんだけ魔力の変化があったのか…

 魔力が多いのも考え物だね」

 シューラは困ったように言いながらマルコムの口周りについた血を拭った。



「あと、足にも怪我があるけどこれは軽いね。やっぱり内部だな…」

 シューラは考え込むように言いながらもマルコムの手を掴み癒しを施している。



 それでもマルコムの口からは血が流れている。

 顎を伝ってポタポタと血が滴り、マルコムの服や寝床に落ちている。



「何か手伝えることはありますか!?」

 申し訳なさに我慢ができなくなったのか、ビエナが寝床に上がりこんで尋ねてきた。



 ミナミはマルコムが何に巻き込まれてこうなったのかわからないのでビエナが必死な理由もわからなかった。



「布持ってきて。寝床汚れたからさ。」

 シューラは短く言うと、マルコムの口周りを改めて拭いて顎を持ち上げた。



 何か薬でも飲ませるのかとミナミは思った。

 しかし、シューラは何も持っていない。

 何をするのだろうとミナミが考えてシューラを見ていると



 彼はそのままマルコムに顔を近づけて、彼の口と自分の口を重ねた。



「え?」

 ミナミは行動の理由がわからず固まった。

 シルビとビエナも固まっている。



 どう見ても二人の口が重なっている。

 息が苦しいのかマルコムは苦悶の表情を浮かべたままだ。



 ゴフっとマルコムが軽くせき込んでもシューラは口を重ねたままだった。



 二人の口の間からマルコムの血が滴り落ちている。

 ミナミたちはその様子を何分見たのかわからなかった。数秒だったのかもしれない。



「う…」

 マルコムの呻き声が聞こえると、シューラはゆっくりと口を離した。

 その口はマルコムの血で真っ赤だった。





 そして、月明かりに照らされ色の白さが際立っているが、それを引き立てるように口が真っ赤で、顎からは血が滴っている。

 まるで物語に出てくる血を食らう存在のようだ。

 その姿にミナミはドキリとした。



 それくらい今のシューラは現実味の無い姿をしており、先ほどまでマルコムが心配だったのに今はシューラの姿から目が離せない。





「内部のダメージには口から癒しを流し込むのが一番効くんだ。」

 シューラはなんてことない様子で言うと、自身の口を袖で拭った。



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