上 下
168 / 257
ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

吐き出す青年

しおりを挟む
 ※女性への暴力の描写があります。自衛お願いします。(性的ではないです)




 エラという女はプライドが高そうだが実力は大したことが無いと評価していた。

 実際そうだと思う。





 ただ、彼女が惑わしを持っていたのは予想外だった。

 何せ、村の洞窟の入口にある、惑わしに気付かなかったはずだからだ。



 いや、もしかして彼女ではなくもうビエナの方だったのか?



 マルコムはいら立ちを隠さずに舌打ちをしながら考えた。



「ちょっとあなた何よ!舌打ちなんて失礼でしょ!」

 エラはマルコムの様子に気付いてすぐに咎めるように言った。



「うるさい。片付けるからそこで黙っていて」

 マルコムは、今はエラを気にせず、長耳族の青年を片付けようと思った。



 彼女はそれから処理すればいい。



 殺すのは後々面倒なので、どうにか言いくるめて村に縛りつけて時間稼ぎでもしようと思う。



「ダメよ!」

 エラは慌てた様子でマルコムの前に走り出した。



 そして青年を庇うように立ちはだかった。



「は?」

 マルコムはいら立ちを隠さず威圧的に言った。



「…貴方、長耳族だったのね」

 エラはマルコムではなく、長耳族の男に言うと、ゆっくりと彼の方を見た。



 長耳族の青年はエラの視線を受けて黙って頷いた。



「どうして私に隠してたの?

 まさかお父様のことがあるから?」

 エラは縋るように青年を見て言った。



「エラお嬢様。」



「いえ…答えが欲しいというわけじゃないの…

 ただ、一緒に旅をしてきて私に言った言葉は嘘だったの?

 私と一緒に生きていきたい、お父様の事があっても私と…」

 エラは切なそうに目を細めながら言った。



 世間一般的にはその様子は健気で美しいだろう。



 しかし、マルコムにはそう感じる情緒は無い。



 答え求めてるじゃねーか



 マルコムは内心思ったが、ここで言ったら面倒だと思うので何も言わず、げんなりとした。



 マルコムは、彼女の演劇めいた青年との話には全く興味が無い。



 大方、恋仲のようになっていたのだろう。



 ただ、どう考えても長耳族の青年はエラを利用していた。



 色々と面倒なことがありそうだが、とりあえず青年を片付けてからエラを黙らせることにした。



「俺、お前らの乳繰り合いに全く興味ないし後で死体と仲良くやってよ。」

 マルコムは情緒も思いやりも無いので、二人の間に流れる空気をぶった切るように言った。



 それを聞いてエラは顔を真っ赤にして怒りを露わにした。



「お前利用されていたんだよ。彼らはお前を含めて3人とも片付けるつもりでこの村を指定し盗賊に襲わせたんだ。わからない?」

 マルコムはエラに前をどけるように顎を動かし、彼女の後ろにいる長耳族の青年を見た。



 マルコムの言葉に長耳族の青年は驚いたように目を見開いていたが、諦めるように笑った。



「噓よね…アルベール」

 エラは縋るように青年を見て言った。



 どうやら長耳族の青年の名前はアルベールというらしい。

 偽名かもしれないが。



「…エラお嬢様。彼と俺、どちらを信じますか?」

 長耳族の青年、アルベールは悲しそうに目を細めてエラに言った。



 その言葉を聞いてエラは息をのんだ。



 なるほど効率的だ。

 マルコムはエラが自分に攻撃をしてくるだろうと判断した。



 なので、強制的にエラに黙ってもらうことにした。



「邪魔。」

 マルコムは攻撃される前にエラを蹴り飛ばし、どかした。



 エラは3メートルくらい吹っ飛び、地面に転がった。

 彼女は魔石を取り出そうとしていたようで、それも一緒に転がっていた。



 彼女を蹴飛ばして正解だ。



 マルコムの行動にアルベールは目を丸くしていた。

 マルコムの外見だけで判断し、女性を大切に扱うと思ったのだろう。



 しかし、そんなことはない。

 マルコムは昔、邪魔をした同僚の女性の顔面を殴り飛ばしたことがある。



 今回は顔面を殴らなかっただけかなり抑えた方だ。





「い…った…」

 エラは地面に転がり痛みに呻いている。



 加減はしたが、戦い慣れていない魔術師のエラにはかなりのダメージだろう。



「さて、邪魔者は消えた。お前には消えてもらうよ。」

 マルコムはとっととアルベールを片付けて事態を治めることにした。



 彼がいる限りエラはうるさいと思うから仕方ないのだ。



 マルコムはアルベールを消せばエラが黙ると思っている。



 戦い方としては、少し距離を置くべきだ。

 なにせ、先ほど距離を詰めると暴発するような雷の魔力を扱うのを見た。



 まだ足がビリビリするし火傷もじんじんしてきた。



 マルコムは慣れないが魔力を使って片付けることにした。

 持っている魔力は火、風、土、光。

 光は攻撃能力が無いので除外。

 数日前村が燃えたことから火は避けたい。

 マルコムの技量では風はただの強風にしかならないので除外。

 となると、土だ。



 地面を盛り上げて貫く。



 そう決めると、マルコムは槍の刃先に魔力を込めて地面に差した。



 アルベールの足元の地面を盛り上げ貫こうとしたとき。



「逃げて!アルベール!」

 エラが叫ぶと同時にマルコムは体の力が抜けた。



 よろめきながらも槍で体を支えて体勢を整えようとした。



 何事かと思うと、込めたはずの魔力が消えているのに気づいた。

「は?」

 驚きの声を上げると同時に体の内部に痛みが生じた。



 喉の奥から引きつるような痛みと息苦しさ。



「エラお嬢様ありがとう!」

 アルベールはそう叫ぶと走り出した。



 マルコムはそのアルベールを追いかけようと走り出そうとしたが、息を吐くと共に鉄くさい液体が込みあがってきた。

 胃液ではない。これは血だ。



 覚えのある味を察知すると同時に、抑えきれずに血を吐き出した。



 マルコムはエラを見た。



 彼女の手には、ガレリウスが持っていたものと似た宝玉がある。



「お前…それ…

 お前もグルだったのか?」

 マルコムはエラを睨みつけ、血を吐き出しながら怒鳴った。

 ダメージを食らったので苛立ちと共に怒りもある。



「ち…違う。でもあなたは彼を殺すつもりだったでしょ!?」

 エラは怒りを隠さないマルコムにたじろぎながらも強気に返した。



 彼女の持つ宝玉は黄土色に輝いている。

 おそらくマルコムの土の魔力だろう。



「返せ」

 マルコムは血を吐きながらエラに近づき、宝玉を奪った。



「ダメよ!これはプラミタの上位魔術師の…」

「人の魔力を奪うか…お前、帝国を敵に回しているな」

 マルコムは喚くエラに冷たく言うと、宝玉を地面に叩きつけた。



 叩きつけられた宝玉は砕け散り、その破片は色を失くしていった。



 どういう仕組みなのかわからないが、マルコムはリランに何があったのか少しだけわかった。



「貴方馬鹿なの!?」

 エラが驚き喚く声が聞こえる。



 とことんうるさくてマルコムは顔を歪めたが、すぐに彼女の言ったことが正しいことに気付いた。



 マルコムの吐血は、魔力が急激に奪われたことによる内部のダメージだ。

 そして急激に奪われたことに対して、急激に戻ってくるような行動をしたのだ。



 頭に血が上ったのもあるが、内部のダメージでそこまで考えが及ばなかったのだ。



「イシュ!」

 マルコムは急いでミナミの傍に待機しているシューラを呼ぶように叫んだ。



 魔力が戻ってくる前に叫んで正解だった。

 少しするとマルコムに魔力が戻ってきて、先ほどの吐血の時以上に喉が引きつり切り裂かれるような感覚がした。



 血も吐き出すというよりもとめどなく体の内部から流れるような感覚になった。



 久しぶりの重い痛みだと思ったが、この情報とエラの行動でシルビからまた何か情報が取れないか?とも考えを巡らせていた。



 あと、地面に転がっている長耳族の初老の男、メンダはどうしようか?

 とも考えなくてはいけない。



 シューラが処置をすれば死ぬことは無いだろう。



 そんなことを考えていると、慌てて走ってくる足音が響き、シューラがやってきた。



「どうし…って」

 シューラは状況を見て目を丸くした後、マルコムとエラを交互に見た。



「何があったの?」

 シューラはマルコムに尋ねたが、マルコムは答えられない。



 内部のダメージが大きくてしゃべれないのだ。

 ただ、すぐに死ぬケガではない。



 なので、マルコムは先に転がるメンダの処置を頼むように彼の方を指さした。



 シューラはすぐに察してメンダに癒しを施し始めた。

 おそらく骨は別として危ない傷は塞がるだろう。



 その様子を見て安心したのか、そこで目の前が真っ暗になった。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕はただの妖精だから執着しないで

BL / 連載中 24h.ポイント:2,225pt お気に入り:562

勇者パーティーの仲間に魔王が混ざっているらしい。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,401pt お気に入り:63

兄と一緒に異世界に来ましたが、僕はゆっくり絵を描きたい。

BL / 連載中 24h.ポイント:682pt お気に入り:23

正反対の双子と、彼らに恋した兄弟

BL / 連載中 24h.ポイント:988pt お気に入り:17

魔術師の卵は憧れの騎士に告白したい

BL / 完結 24h.ポイント:10,848pt お気に入り:236

龍刻のメサイア

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:1

不運な花嫁は強運な砂漠の王に愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:1,520pt お気に入り:247

転生皇子の新生活 高等部編

BL / 連載中 24h.ポイント:519pt お気に入り:91

新人悪魔と作る『人類殲滅計画書』

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:0

God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:18

処理中です...