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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

先を見据える青年たち

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 食事を終えたあと、鍋に顔を突っ込みそうになっていたミナミを、どうにか口を洗わせてから寝かした。



 そのミナミの横に、暖を逃がさないためにくっついているシューラは片手の上に水の玉を出して鍛錬をしている。



 どうやら今日シルビから聞いた対の魔力が無くてもどの程度水を操れるか確認しているようだ。



 刀に纏わせて斬撃を飛ばすことしかやっていなかったので、水の魔力だけでどこまでやれるか挑戦しているのだろう。



 シルビが出したのが水の刃だったから対抗心でも沸いたのだろうか。



 しかし、どこまでやっても水の玉以上に鋭くなることは無い。

 シューラは口を尖らせて発生させた水を川に放り投げていた。



 マルコムは色々なものを見てきたが、魔力の制御がシューラほどうまい人を見たことが無い。

 そんな彼でさえ刃を作る事が出来ないのだから対の魔力を魔石を使ってでも扱うことの優位性はわかる。



 シルビには辛らつに言ったが、プラミタは効率が良く理にかなった魔石の使い方をしているわけだ。



 まあ、魔力全般を魔石に頼るようになったのは延長線上での堕落だろう。



 マルコムは自分も魔石を扱って戦うことを検討すべきかと思った。

 魔力量は自信があるが、自分の技量では魔力での攻撃の手札が少なかったのがネックだと思っていたのだ。





 しかし、シューラは魔力を使いきってから寝るつもりなようで、ばんばん水の魔力を使っている。



 彼の魔力の鍛錬は見ていてマルコムの勉強にもなるし楽しい。



 それに、彼は強くあるために常に考えている。

 この前の立ち回りも色々思うところがあったようで、赤い実を落とすときに色々試行錯誤している。



 マルコムにとって非常に好ましい限りだ。



 しかし、今はその鍛錬を眺めている場合じゃない。





「何をアズミ姫に聞くつもりなの?」

 マルコムはシューラが何を明確な目的を持っているのかわからないのだ。



 おそらくマルコムと共有していないことで何かがあったのだろう。



 シューラは水の玉を浮かせたままマルコムを見た。



「僕の推測が混ざったことだけど、今日のシルビ師の話も合わせると…納得できるんだよね。」

 シューラはふわふわと器用に水の玉を空中で漂わせながら言った。



 言葉は推測と曖昧な表現を使っているが、シューラは何か確信しているみたいだ。



「何が?」



「彼が言っていた幻の“無の魔力”こそが、ライラック王国の王族が持っている特殊な魔力ってことだよ。

 強い癒しに隠れているけど、それが王族の本当の特殊な魔力だと思う。」

 シューラはやはり確信しているようだ。



 だが、無の魔力を確信した理由がわからない。



「ガイオさんの家の火…ミナミと僕が消したって話したでしょ?」



「うん。」



「僕が家に入ったところで全部消えたんだよ。

 水じゃなくて、ミナミが発する魔力の光で…」



「光?」



「ガイオさんの怪我もおそらくミナミが治した。

 そして死神君の火の魔力で発生した火もミナミが消した。」

 シューラは水の玉を川に落とした。



 ビチャンと水が跳ねる音が響く。



「あの時、ミナミは見たことが無いほど怒っていた。

 父親を亡くしてアロウさんも死んで色々あったけど、僕は彼女が起こったところを見たことが無かった。」



「怒り…激情で制御ができるか…というものなのか」



「ここからは完全な推測だけど、国王がミナミに魔力を使わせないようにしていたのは

 かつて怒って魔力を使ったことで何かを起こしたからじゃないか?と思ったんだ。



 そして、もしオリオン王子が知らないことでアズミ姫が知っているとしたら



 ミナミの母親に関する話だと思う」

 シューラはやはり確信しているようだ。



 マルコムもシューラの話を聞いて納得した。

 ただ、現場を見てないマルコムはどの程度の力の大きさなのかわからない。



「母親関連の話が出るとは俺も思ったよ。ただ、無の魔力に関連するとは思わなかったよ。」

 マルコムもアズミが知っている話はミナミの母親関連のものだと思っていた。



 だいたいこの国の王族は異質すぎるのだ。



 貴族の子息として育ったマルコムは、未だに婚姻どころか婚約者の影の無いオリオンやホクト、そしてミナミが不思議でならないのだ。

 跡取りでないからと除外するとしても、20歳を越えたオリオンが何もないのも不思議であるし、女であるミナミになにも無いのも不思議なのだ。



 ライラック王国の王族を重要視するなら子孫繁栄は必要だ。



「俺、アズミ姫がただ普通にお嫁に行っただけのようには思えないんだよね。」

 根本的にマルコムは引っ掛かっていた。



 帝国の目を盗みミナミを城下に逃がしてくれたアズミ。

 ミナミの口から話されるアズミの人物像。

 国王の裏を支えるアロウと面識を持っていたアズミ。



 そんな彼女が、ホクトの様な不安定な兄を置いて嫁ぐのか?…と。



 彼女は絶対にホクト王子の不安定さや潔癖さ、危うさをわかっているはずだ。

 まして、母親の違うオリオンとは違ってホクトは同じ母親の兄だ。



「俺、アズミ姫は食えない奴だと思っているよ。

 姫様やオリオン王子、ホクト王子よりもずっと強かで厄介。」

 マルコムは個人的にミナミの姉であるアズミは厄介だと思っていた。



 ミナミの口から語られる姉の姿は愛情深くて家族想いだが、アロウと面識を持っているというのが一番引っ掛かるのだ。



「僕も同意見だよ。彼女はミナミの異常さも知っているはずだよ。何せ一緒に刺繍をやっていた仲だからね。」

 マルコムの見解とシューラも同じようだ。

 ただ、ミナミに対して悪意を持っていることは無いはずだ。



「姫様はロートス王国に引き渡してしばらくしてお別れだと思っているけど

 俺はそう思わないんだよね…」

 ミナミはマルコムたちとの別れが近いと思っているが、マルコムは違った。



 まだまだ旅は終わりそうにないと思っているのだ。



 特殊な王族、帝国と手を結ぼうとした国王、密輸された巨獣、魔力を吸い取る宝玉、無の魔力、魔術大国プラミタ、中立国ロートス王国



 オリオン王子は本当に時間稼ぎのためにマルコム達にミナミを託した。

 だが、アロウとは違うはずだ。



 彼はこの先にある何かを想定してマルコムとシューラに託したはずだ。



 意外とマルコムの直感は当たる。



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