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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

寂しくなるお姫様

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 ミナミとシューラによって育った大木は今日もまたプリプリと赤い実をつけている。



 シューラは赤い実めがけて水の魔力の斬撃を飛ばし鍛錬をしている。



 もちろんミナミも鍛錬をしている。



 シルビたちがいなくなってから、マルコムは村の方に復興の手伝いに行った。



 それからミナミはしばらく水の玉を作る練習をしていた。



 しかし日が落ちる前にマルコムがいくつか資材と衣類を持ってやってきた。



 どうやら復興の手伝いついでに旅の道具をもらったようだ。



 そして、旅支度と鍛錬を兼ねてミナミは水の玉を突く練習ではなく、植物のを育てる作業に移った。



 まずはマルコムに言われた通りの植物をにょきにょきと育てる。

 それをマルコムが育ちすぎる前に剣で刈り取って、またミナミが育てる。



 決まった動きの作業だが、なかなか集中力を使う。

 それに魔力の動きというのが何となくわかってきた。



 しかし、マルコムは剣も扱えるのか。

 槍を振り回しているところしか見たことが無かったので新鮮だ。



 ぱっと動きを見ても、ライラック王国の兵士に敵う者はいない気がする。



 夜になると、ミナミが育て植物の中にあった根菜が入った料理と川で捕ったお魚の鍋が出て来た。

 昨日と同じく二人が毒見してからミナミが食べる。



 根菜に甘みがあって美味しい。

 昨日のも美味しかったが、今日のお鍋はお野菜の味がしっかりと感じられる。



 なによりも暖かいごはんは美味しい。



「水気がだいぶ飛んだね」

「うん。俺の制御の鍛錬にちょうどいいから使わせてもらっているんだ。」

 マルコムとシューラはカーテンのようにつるした赤い実を見て話していた。



 どうやらマルコムの風の魔力の制御に赤い実を使っているようだ。



 確かに彼は制御が必要だと思う。

 ミナミは人の事が言えないが、マルコムの強風を受けたので納得した。



 マルコムの風の魔力の鍛錬もできるし赤い実は干して保存食にすることができる。

 いいこと尽くしだ。



「そういえば、今日シルビさんが言っていた対の魔力についてだけど…

 風の魔力と雷の魔力…フロレンスさん持っていなかったかな…?」

 ミナミはシルビの講義で引っ掛かったことを聞いてみた。



 おそらくシルビやイトがいないところで聞いた方がいい話だ。



 なんとなくマルコムは赤い死神であるリランに多少の気遣いがあるように見える。

 かつての仲間と聞いているし、近しい間柄だったのも察せる。たぶん、彼なりに絆を感じているのかもしれない。



「そうだよ。でも彼が異常なだけだから、普通は無い…と思う。

 対の魔力についてしっかりと教わったのは初めてだけど、今まで見てきた人を見てもリランは異常だとわかっている。



 だから、フロレンス公爵はリランをプラミタと接触させたくないはず。」

 マルコムは何やら確信を持っているようだ。



「確かに、死神同士は仲良しだからね。」



「本来ならプラミタはリランが対応してもいいものだったけど、本調子でないことと魔力の面からライラック王国に回したんだと思う。

 ただ、それがライラック王国にとっては幸運なのか不運なのかわからないけど、フロレンス公爵ならホクト王子の命は無かったから幸運かな?



 あの人は優しいけど、対象外にはどこまでも冷酷になれる人だからね。



 オリオン王子にはリラン以上に気を遣って接するだろうけど、父親に手を下したホクト王子は問答無用で切り捨てるはずだ。」

 マルコムは懐かしそうに目を細めながらも、少し憐れむ様な声色で言った。



 皮肉を言っているように見えないから、マルコムはフロレンス公爵の優しさと冷酷さを少し悲しんでいるように見える。



「じゃあ、プラミタの影がある状況だと死神君はライラック王国を離れない感じかな?

 結構時間に余裕があるね。」

 シューラはマルコムの様子に何か思うところがある様子も見せずに、いつもと変わらない様子で言った。



「そうだね。だから鍛錬をしながらロートス王国に行く余裕もある。」



「じゃあ、ロートス王国にミナミを届けたら終わりって感じかな?」



「それはわからないけど、姫様がまとまって鍛錬の時間を取れる余裕があるのは今だけってことだよ。」



「なるほど。どのみちライラック王国王族として他国から狙われる生活はあるんだもんね」

 二人は何ともない様子で話していた。



 だが、ミナミはここで気付いたのだ。



 もちろん王城に戻って以前の生活をしたいと思うし、それがベストなのだろう。

 しかし、それができるのか?



 それにマルコムとシューラと別れるとなると寂しいと思ったのだ。



 二人は罪人だ。

 ライラック王国にいたら帝国に追われる。



 オリオンだって落ち着くまでミナミを安全な場所に置くという時間稼ぎとして二人の託したのだ。



 馴染みのある王城に戻りたい気持ちもあるが、二人と別れるのはとても寂しい。



 別れをなんともない様子で話している二人を見て、ミナミは疎外感を覚えた。



「ロートス王国は中立だし、帝国に対して罪人受け渡しはしないはず。

 僕たちも少しは落ち着いて滞在できるよ。」

 シューラは横目でミナミを見ながら言った。



 どうやらミナミは目に見える様子でしょげていたようだ。

 実際、無意識に口を尖らせていた。



 それをシューラにつつかれた。



「思ったよりも規模の大きい話になっているから、どうなるかわからないのが事実だよ。

 姫様も周りのことじゃなくて自分の事として考えるべきだよ。」

 マルコムは腕を組んで呆れたように言った。



 ミナミはつくづくマルコムに呆れられているな…と思う苦笑いをした。



「思ったけど、姫様は喜怒哀楽があるといっても

 自分を後回しにしていない?周りに自分を託している。」

 マルコムはミナミを計るように見ている。



 マルコムの言葉はミナミにとって疑問だったが、確かに世間知らずの温室育ちと言われてきたが

 わがままと言われたことは無い。



「それも含めて君お姉さんに会うのは必要だね。」

 シューラは何かわかっていることや思っていることがあるのか、明確な目的がある様子で言った。



「そうだね。ライラック王国の王族事情も含めて疑問をなくすのは大賛成だよ。

 何も知らないより知っている方が対策もできる。



 俺は未だに姫様の魔力を父親がなるべく使わせないようにしていた理由がわからないんだ。

 使った方が制御も出来るし、狙われる立場なら自己防衛のために必要だと思う。



 …けど、何も理由なしに力を使わないようにさせていたとは思えないから

 今わかっているものだけ鍛錬をして、ロートス王国で君の姉に会って聞けばいいじゃないかい?」

 マルコムはシューラを計るように見ていた。

 どうやらシューラが明確な目的がある理由がわからないようだ。



 二人の間でこのことは共有されていないみたいだ。



 しかし、マルコムはミナミの父親にいい評価を持っているようだ。

 それはちょっと嬉しい。



 確かにミナミも父親が魔力の扱いから自分を遠ざけていた理由を知りたい。



 ただ、オリオンよりもアズミの方が知っていそうと思ってしまうのはどうしてだろうか?



 同性の姉妹だからなのか、それとも理由を分かっているのに気づいていないからか?



 まあ、疑問は置いておき、マルコムやシューラが姉のアズミに会うつもりがあるのは嬉しかった。



 リスクがあるからと無感動な引き渡しになって、そのまま別の大陸に行かれるのは寂しいのだ。





「どうも帝国が来た理由が厄介な気がする。」

 シューラは口を尖らせて疑問と不安を示した顔をしている。



 シューラもよく口を尖らせるのだ。

 ミナミに指摘したくせに

 と思ったので、ミナミもシューラと同じく彼が尖らせた口をつついて指摘した。



「一番手っ取り早いのはリランに聞いてしまうとかだけどね」

 マルコムは何でもないことのように言った。



 ミナミはその発言に驚いた。

「どうやって?」



「ロートス王国で君のお姉さんとお兄さんの協力があれば可能だよ。

 それに、西の大陸に行くのもいいけどもっと気になる情報も聞いたからね」

 マルコムは腕を組んで、姿勢を改めていた。



 どうやら別の重大な話をするようだ。



 ミナミもマルコムの方を向いて話を聞く姿勢を整えた。



「俺とシューラが“浄罪”に行けば、国際的に罪人ではなくなる。」



 マルコムの言っていることがミナミはわからなかったので首を傾げた。



「詳細はわからないけど、帝国以外の王族の許可を持って浄罪に行けば

 国際的に罪人では無くなるらしい。

 ただ、これは帝国の勢力が伸びきっていない今しかできないと思っていい。」

 マルコムは「でも帝国には追われるけどね」と小さく付け加えた。



「まあ、今ならオリオン王子と接触できれば許可貰えそうだよね…」

 シューラは納得した様子で頷きながら言った。

 だが何か険しい顔をしている。



「といっても、この情報をくれたのはイトだから慎重に見ないといけないけどね。」



「ああ。なるほど…僕はあまり好きじゃないけど、帝国の死神に対抗する手段として

 僕とマルコムに目を付けているんだろうね。

 だから敵にあえて回るような情報はくれないと思うよ。」



「別に帝国と敵対したいわけじゃないけど、今後そんな輩が出てくるかもしれないね…」

 マルコムはシューラの言葉に頷きながらも何かを危惧するように眉を顰めた。



「とにかく、ロートス王国でお姉さまに会ってから全て動くのね!」

 ミナミは話が難しい方向に行きそうな気がしたので、自分の把握するべきことを尋ねる意を込めて聞いてみた。



「そうだよ。君とシューラがいれば食事には困らないから旅支度の仕方と魔力の制御を練習しながら数日後には出るよ。」

 マルコムの口調や様子から、旅の道具はもう揃ったようだ。



 ダウスト村からどう動くはまた明日以降考えることになりそうだ。



 二人はわからないが、ミナミは今日1日頭を使ったし鍛錬もしたから眠くなってきたのだ。



 こんな心地よい疲労感は初めてなので、今日は穏やかに寝れそうだ。



 ご飯を食べたら口を洗わないといけないのに、ミナミはウトウトしてきた。



 そうだ。ガイオさんたちの様子も気になるので明日、村に行けたらいいな



 ミナミはそんな風に思いながら船をこいでいた。
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