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ライラック王国~プラミタの魔術師と長耳族編~

使える魔術師

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 ミナミは子どもをじっと観察した。



 年齢は10歳前後だろうか?

 ほっぺにはまだ丸みがあり、幼さがある。

 しかし表情はしっかり者のようで自立を思わせるものがある。

 その年頃のミナミは父親と姉たちに甘えつくしていた記憶がある。



 青みがかかった銀色の髪と漆黒の瞳が神秘的で、銀色の眉毛の形は凛々しく結構精悍な顔つきをしている。

 将来は結構なイケメンに育つと思う。



 マルコムとは違った方面のイケメンになると思う。

 そういえば、精悍な顔というのはミナミの周りだとルーイくらいしかいない。



 マルコムは端正というイメージが強い。シューラは可愛い中性的な顔だ。



 オリオンは典型的な美男子で派手で華がある。

 顔だけ満点と侍女に言われているほどだ。



 今は家族想いなのもわかって、内面も悪くないと言われているだろう。



 そういえば、オリオンの幼いころは病的に可愛かったらしい。

 姉であるアズミが熱弁していた。

 もちろん今もその面影があると言っていることはオリオンは知らない。

 知ったら激怒するだろう。



 ミナミの視線に気づいた子どもは少し頬を染めて恥ずかしそうに俯いた。

 シャイなのか。

 ミナミは恥ずかしがり屋の子どもの頭を撫でて笑いかけた。



「お嬢さんは服を着て…イシュ。見張りお願い。」

 マルコムはミナミの様子を見て何やら不機嫌そうに言った。



 どうやらこの子どもに対しては偽名でいくようだ。



 ミナミは頷いて、マルコムの指示に従うことにした。



 シューラはフード付きの上着をはぎ取られたせいか、日陰にいる。

 ミナミはそこに向かった。



 なんとシューラはミナミの着替えを持って日陰にいたのだ。用意がいい。



「ごめん。ありがとうイシュ」

 ミナミは小声でお礼を言った。



「あのガキに気付かなかったこっちの落ち度だから気にしないで。

 モニエルもそれがわかっているから普段以上に不機嫌なんだよ。」

 シューラは少し呆れた様子で言った。

 彼はマルコムの態度というよりも落ち度を気にしていることに対して呆れているようだ。

 ただ、落ち度を気にするのはいいことだと思うが、シューラは何をそんなに呆れているのだろう?



「彼も、もっと自分に甘くなればいいのにね」

 シューラはポツリと呟いた。



 ミナミは、それがどういうことかわからなかったが、とりあえずマルコムは自分自身に甘くないということがわかった。









 着替えて土の壁の向こうに出ると、イトとマルコムそして子どもがなにやら話していた。



 マルコムに睨まれてたので委縮していないか心配になったが、子どもは思ったよりも精神が強いようだ。



 ミナミは安心した。



 もはや手を繋ぐのが当たり前となったシューラに手を引かれてミナミは三人の元に向かった。



 最初は三人で話しているのかと思ったが、主にマルコムと子どもが話しているようだ。

 これも意外だ。



 イトとマルコムはミナミが来たことに気付いて一瞬目を向けた。

 マルコムは子どもとの会話にすぐに戻ったが、イトは少し目を丸くしてミナミを見ている。



 そういえば、髪は濡れたままだ。



 ミナミもシューラも風の魔力は無い。



 髪を拭くタオルも無いので仕方ない。

 ミナミは自然乾燥でいいと思っている。

 軽く絞ったので水が滴る事は無いはずだ。



「イト。お前乾かしてあげて。」

 マルコムはイトに言った。

 どうやらイトは風の魔力を持っているようだ。



 イトは一瞬目を丸くしたが、すぐに諦めて頷いてミナミの元に向かった。



「まったく人使いが荒い…」

 イトは少し愚痴を呟くと、ミナミを笑顔で見た。



「えっと、お願いしていい?」

 ミナミはとりあえずイトに尋ねた。



「頼まれたし、役得だからいいよ。」

 イトは笑顔でいうとミナミに優しい風の魔力を送り始めた。

 なるほど、これなら綺麗に乾きそうだ。



 ミナミは優しい風にニコニコした。



「モニエルは絶対に出来ない芸当だね。お嬢さんごと吹き飛ばしかねない…」

 シューラが小さく呟いた。



 そういえば、マルコムはガサツで大雑把と言っていた。

 彼も風の魔力を持っているはずだが、自分がしないというのはこういう細やかなことが苦手なのだろうか?



 というよりもシューラの様子からできないのだろう。

 ミナミは未だにマルコムがガサツで大雑把という印象が薄いので、やはり意外に思ってしまう。







 銀髪の子どもは髪を乾かしたミナミたちが来たら、姿勢を正して座り直した。

 礼儀正しい子だ。



 ミナミは思わず微笑んだ。



 基本的にミナミは笑顔なので笑みを深くした感じだ。



「助けてくれてありがとうございます。あと…その覗く気は無くてえっと…」

 銀髪の子どもは、ミナミとシューラにきちんと頭を下げた。

 どうやら助けてくれたのはシューラでもあることを知っているようだ。



 そして水浴びの場にいたことに対しての弁明が入った。

 別にミナミ気にしていない。

 危害も無かったのだ。



「いいよ。終わったことだし、今度から何も言わずに来るのはだめだよ。」

 ミナミは子どもに笑いかけて、この話はここまでとすることにした。

 伸ばしても何もなさそうだし、彼がかわいそうだからだ。



 まあ、今度から許可制にしたらマルコム達の気苦労も減るだろう。



「それよりも、モニエルと何を話していたの?」

 ミナミはマルコムと話し込んでいるのを見て気になっていたのだ。

 シューラもだが、先ほどあれだけ睨んでいたのにマルコムはなにをこの少年と話していたのか。



「まず、自分は魔術大国プラミタ所属の第10位魔術師のシルビといいます。

 気軽にシルビとお呼びください。ミナミ様とイシュ様。」

 子どもはそう名乗ると、頭を再び下げた。



「プラミタの魔術師にしては腰が低いし、第10位魔術師というのも気になって話を聞いていたんだ。

 …ここからはシルビ師に話してもらった方がいいから」

 マルコムはそう言うと、シルビに目を向けた。



 ミナミは驚いた。

 プラミタに対していい感情を持ってなさそうなマルコムがシルビを尊重するような様子を見せている。

 表面だけかもしれないが、先ほど睨んでいた状況を知っているので意外だ。



 それはシューラも同じだったようだ。



「先ほどは、うちのエラが失礼しました。

 彼女はその…第一位魔術師の娘ですので、少し他を軽んじるような態度をしてしまうことがあるのです。」

 シルビは先ほどのエラの態度に対して謝った。



 ミナミは別に気にしていないが、その態度の中には他を軽んじるようなものもあったらしい。

 知らなかった。



「起きて聞いていたんだね。」

 シューラは目を細めてシルビを見ていた。



 シューラの視線を受けてシルビはビクリとした。

「はい…その謝りたくて、エラがまた寝静まるのを待ってから来ました。

 その…村を探すと目立ってしまうので森側から探していたら…水浴びの所に…」

 シルビはどうやらミナミたちを村側ではなく森側から探して向かっていたようだ。



 そして見つけたと思ったらミナミが水浴びをしている場面だったらしい。



「モニエル様の言う通り、自分は“惑わし”の魔力を持っていますし、先ほど隠れていたのもそれと闇の魔力を併用していました。」

 シルビはそう言うとまた申し訳なさそうに頭を下げた。



「“惑わし”ね…癒しと同じくらい貴重だな。闇と併用されたら厄介だ。」

 イトは他人事のように言った。

 その発言を受けてマルコムはイトを軽く睨んだ。



「エラは自分の面倒を見てくれているのですが…自分は彼女に見張られていると感じてしまって…」

 シルビはどうやらエラとの間に何かあるようだ。



「そっか。じゃあ惑わしを使ってまで謝りに来てくれたんだね。ありがとう」

 ただ、エラとシルビの間のことはミナミは別に関係ないし気にしないので、とりあえず彼の厚意にお礼を言った。



「…いえ」

 何も気にしない様子のミナミにシルビは目を丸くしたが、すぐに照れくさそうに笑った。



「…で、モニエルとはどんな話を?」

 ミナミは黙っているマルコムやシューラの様子から自分が話を進めるんだな…と思ったのでシルビにとりあえず質問した。



「モニエル様とは魔力の講義の様なもの話していました。

 実は自分はこの様に子どもですが講師のような真似事もしているので…基礎知識などは教えることができます。

 西の大陸の巨獣のことや、魔力と巨獣の関係なども…

 エラには一蹴されましたが、帝国が巨獣を手なずけたのは魔力の強さがあるという話もしました。」

 シルビは最初は遠慮気味にだが、話していくうちにスラスラとしっかりと話し始めた。



 どうやら彼は見た目以上に考えが大人なようだ。



「プラミタが認めたくないわけだよ。巨獣の手なずけ方が魔力の強さによるものでプラミタができないのに帝国ができたということは特にね」

 マルコムは口を歪め、眉を顰めて笑ながら言った。



 なるほど。



 ミナミは何となくわかってきた。



「エラさんがああやって過剰な自信を見せていたのって、帝国に上回られているという焦りがあったからなんだね。」

 ミナミは納得した。

 確かに彼女は自身の立場や役割にプライドを持っているように話していた。



 おそらくその中にマルコムやシューラたちにとって鼻につく態度があったのだろう。

 しかし、それはある意味虚勢に近いものだと。



「君さ、察しがいいのか悪いかわからないね」

 マルコムはミナミが納得した様子を見て呆れていた。



 彼がなぜ呆れているのかわからないが、ミナミの納得は正しいものだとわかったのでミナミは気にしないことにした。



「ミナミ様は賢いのですね…」

 シルビはミナミに尊敬のまなざしを向けている。



 それにミナミは照れくさくなって、ニマニマしてちょっと隣のシューラに肩をぐいぐいと寄せながら体をよじってしまった。

 照れくさいと、どうもくねくね動いてしまうのだ。



「落ち着きがないよ。お嬢さん。お行儀よくね。」

 マルコムがそんなミナミの様子を見て呆れている。



「ごめんなさい。お上品にがんばる!」

 ミナミは照れくささを感じるのではなく、ドンっと誉め言葉を受け取める気持ちで胸を張った。



 たゆんと胸が揺れているがミナミは気にしない。



「その姿勢もどうかと思うよ。大人しくしよう」

 マルコムは諦めたようだ。

 ミナミは彼が何を諦めたのかわからないが、話は先に進む様なので気持ちを切り替えた。



「それで、洞窟入口の惑わしについてのお話もしていました。

 自分たちは洞窟からではなく農地の開けた道から入ってきたので、洞窟内部の惑わしの魔力については知りませんが

 その…非常に言いにくいのですがアレを解いたのは我々です。」

 シルビは言いにくそうに言った。



 ミナミは一瞬何を言っているのかわからなかったが、シューラは納得した様子だった。



「お嬢さん。この前モニエルが洞窟の入口に違和感があるって言っていたでしょ?わかりやすすぎるって」

 シューラの言葉でミナミはわかった。



 あのわかりやすすぎる洞窟の入口にはもともと惑わしがかかっていたのだ。



 内部の惑わしについては確かイトが方向感覚がわからなくなる程度かかっていると言っていたし、ミナミたちもそれはわからなくなっている。

 実際、マルコムはこの町の川がロートス王国に向いていることを把握できていなかった。



「どうして解いたの?だって、村を守るためのものでしょ?」

 ミナミは不思議に思った。



 洞窟内部の惑わしに加えて洞窟の入口の惑わしも二重でかけることで村を守っていると思うのだ。

 それを何故解いてしまったのか。



「それは…取り引き相手が来なくて村を散策したときに…その、洞窟の入口を把握できないものがいて

 ちょっとプラミタの魔術師としていかがなものかと思う行いがありまして…」

 シルビは気まずそうに目を逸らしながら言った。



 ミナミはあまりに濁すので意味がわからず首を傾げた。



「要は、惑わしのかかった洞窟の入口がわからなかったことに逆切れして無理やり解いたってことでしょ?魔術師としてというよりも普通にマナー違反だよ。」

 マルコムは辛らつに言った。



 ミナミは驚いた。

 何故外部の人間が村の防衛機能を無理やり解くのかと…



「本当はすぐにかけなおすつもりだったのですが、その前に盗賊に襲われて…ということに」

 シルビは弁明するように言った。



 確かに話を聞く限り、シルビが解いたとは思えない。

 そもそも、シルビは惑わしを持っているからかからないのでは?

 ミナミは勝手な先入観で思った。しかし、惑わしを持っているから惑わしにかからないとは限らないのでは?とすぐに考えた。



「とりあず、お前が悪いね。イト」

 マルコムは誰を責めるのか面倒になったので、元凶のイトを睨んだ。



 そうだ。

 解いた人物も悪いが元凶となった待ち合わせに遅れた人物も悪い。

 イトは申し訳なさそうな顔をしていた。



 ミナミは彼が悪いから仕方ないと思っているので、イトに対して同情する気持ちは無かった。

 なのでミナミはイトを一瞥だけしてすぐにシルビに目を向けた。



「君って意外にドライなところあるよね」

 その様子を見ていたマルコムが不思議そうに首を傾げていた。



 彼が何を不思議に思っているのかわからないのでミナミも首を傾げた。









 シルビは少し話したのち、ミナミたちが滞在する間

 魔力などについて教えるという約束を取り付けて小屋に戻って貰った。



 後でイトからエラたちに話を通して正式にお願いするらしい。

 それに加えてイトは彼らにお詫びをしないといけない。



 考えてみると、ミナミたちはイトが元凶になっているようなことの尻ぬぐいをやっているのではないのか?



 思いつくと少しモヤモヤしてきた。



「ミナミ、口が尖っている。」

 シューラが無意識に尖っていたミナミの口をつついた。



 ミナミは慌てて口もとに笑みを浮かべた。

 オリオンに蛸のような口はやめろと何度も言われたことがあるのだ。



 ましてミナミは少し唇が厚いのでなおさら目立つ。



「お前は“惑わし”を持っているわけか。でも使いこなせていないみたいだね。」

 マルコムは横目でイトを見た。



 イトは驚いた顔を見せた。

 だが、すぐに諦めたように頷いた。



 なんと、イトは結構珍しい“惑わし”を持っているらしい。

 ちなみにミナミは“惑わし”の力について知らない。



 かくいうミナミも同じくらい珍しい癒しを持っている。



「気付いたのは流石だね」

「いや、お前が洞窟内部にかけられている“惑わし”を指摘した時点で思っていた。

 でも、俺たちの会話を盗み聞く時に闇の魔力しか使っていない様子で迷っていた。」

 マルコムはどうやら結構早い段階で思っていたようだ。

 そしてシューラもだろう。

 ミナミはなんとなく察した。



 更にその会話は二人の間で行われていたのに違いない。

 当たり前だがミナミは仲間外れだ。

 少し悲しいが仕方ない。



「惑わしは使うのがムズイんだよ。魔力について教えてもらえるなら俺もシルビ師から聞きたいね。彼とは繋がりを持っていたいと思える。」

 イトはエラに対してとは違い、シルビには好意的だった。



 まあ、彼はその前に謝ってきちんとお詫びをしないといけないが。



「それは同感だよ。いけすかないプラミタの連中と話すのは厄介だと思っていたけど思いがけない収穫だ。

 子どもだけど状況を把握しているし頭も悪くない。性格も少し腰が低すぎるけど悪くないね。

 あと、子どもだからこその迂闊さがありそうだから色々聞けそうだね。」

 マルコムはあくどい顔をして言った。



「丁度ミナミに引け目を感じているからなおさらだね」

 シューラもマルコムに同調していた。もちろん彼もあくどい顔をしている。



 この二人は意外と表情がリンクするのだ。

 ミナミもあくどい顔を練習しようと思った。



 ミナミはシルビが自分に何を引け目に感じているのか知らないが、とりあえず自分たちにとってシルビはいい人間であることがわかった。

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